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序章
冷たい風
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春先のまだ少し冷たい風が頬を掠めていく。
春。出会いの季節。
小鳥がさえずり、花は咲き誇る。
よくわからない期待に胸を膨らませた人々が街中を闊歩し、新たな環境に溶け込もうと一生懸命だった。
そしてそんな様子を、俺ーー新倉理也は冷めきった目で見ていた。
期待なんてしても仕方がない。現に自分は、なにか期待できるようなことがなにもないくらい追い詰められていた。
「ーーなにがしたいのかわからない」
そう言い放った彼女の声色は、今まで聞いたことのないくらい冷たいものだった。
ーーこれ以上、私を苦しめないで。
明言はしていないが、俺にはそんな風に言っているようにしか聞こえなかった。
別に苦しめるようなことをした覚えはない。
ただ、納得いかないことを突き詰めてしまっただけだ。
それを彼女が受け止めきれなかった。
ただそれだけのこと。
今までの相手では現れなかった、冷静にことの瑣末を見守る自分がいることに気づいた瞬間、自分の中身が言いようもないくらい人というものに対して絶望しているように感じた。
彼女は踵を返す。話は終わった、と言わんばかりの無理矢理な幕切れだった。
彼女の語る夢を叶えることはできなかった。
そのくらい自分が将来に対して冷めた感情を持っている。
しかしそれに対して、俺は全く嫌悪感を抱いていなかった。むしろ、少しだけ誇らしくなっていた。
自分の中に生まれた新たな“芯”。
これが全ての始まりだったなんて、今の俺には知る由もなかった。
春。出会いの季節。
小鳥がさえずり、花は咲き誇る。
よくわからない期待に胸を膨らませた人々が街中を闊歩し、新たな環境に溶け込もうと一生懸命だった。
そしてそんな様子を、俺ーー新倉理也は冷めきった目で見ていた。
期待なんてしても仕方がない。現に自分は、なにか期待できるようなことがなにもないくらい追い詰められていた。
「ーーなにがしたいのかわからない」
そう言い放った彼女の声色は、今まで聞いたことのないくらい冷たいものだった。
ーーこれ以上、私を苦しめないで。
明言はしていないが、俺にはそんな風に言っているようにしか聞こえなかった。
別に苦しめるようなことをした覚えはない。
ただ、納得いかないことを突き詰めてしまっただけだ。
それを彼女が受け止めきれなかった。
ただそれだけのこと。
今までの相手では現れなかった、冷静にことの瑣末を見守る自分がいることに気づいた瞬間、自分の中身が言いようもないくらい人というものに対して絶望しているように感じた。
彼女は踵を返す。話は終わった、と言わんばかりの無理矢理な幕切れだった。
彼女の語る夢を叶えることはできなかった。
そのくらい自分が将来に対して冷めた感情を持っている。
しかしそれに対して、俺は全く嫌悪感を抱いていなかった。むしろ、少しだけ誇らしくなっていた。
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