『 ゆりかご 』

『 揺り篭 Cradle 7 』

7.

　互いに寂しい時に出会い、心と身体を重ねてきたのだ。
　簡単に手を離せる相手ではない。

　また私は妻の申し出が全うなことであることは理解できたが
だからといって、この先すぐに、妻の私に対する気持ちが昔の
ように一途に私に向かって来るとは到底思えなかったのである。

　そうなるには時間が必要なはずだ。

　妻の謝罪の時の言葉、これまで夫として尊敬はしてきたと
いうのはたぶん信じていいのだろうと思う。

　だが数年に亘りレスをしてきた彼女が急に私をひとりの異性と
して以前のように簡単に好きになれるだろうか。


　不倫されたくないから努力してくれると解釈するのが
妥当なんだろうと思う。

　すでにエリカとの親密な関係を持つ自分に、そんな小手先の嘘で
塗り固められた妻との関係などに、何の魅力も感じられないことは
いわずもがな(のこと)であろう。


　私にとって妻からのお願いは、はいそうですかと了解できるような
そんな簡単なものではなかった。

　しかし、エリカにも夫と子供がおり私たちの関係がずっと続けて
いけるものではないことも判っていた。

　私はしばし自分のことを優先させることに決めた。　
　そしてその一方で妻には手を切ったと安心させることに。

　少しずつ時間をかけてエリカとの距離を開けていけばいい
そう思っていた。