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 「寝る子は育つっていうだろう。
苺佳は子供みたいに健康的で羨ましいよ、ふっ」



その返しは何なの? とは思ったけれど瑤ちゃんの表情と物言いが
やさしかったので、良しとしよう。





 私の欲しかった言葉じゃなかったけど。

 ・・って私は一体どんな言葉が欲しかったのだろう。




 いくら考えてみても自分でも分からないけれど、欲しかった言葉じゃない
と言うことだけは分かった。


 この後瑤ちゃんはやっぱり昨年のように背中を向けて眠るのかな?
寂しい。




 そう思っていたら瑤ちゃんから話し掛けられて、ちょっとそわそわして
しまった。

          ◇ ◇ ◇ ◇





 「苺佳、手、かしてみ」



 瑤ちゃんにそう言われて私は右側にいる彼女に左手を差し出した。


 差し出した手の平に瑤ちゃんが自分の手の平を合わせてきた。


 瑤ちゃんの右手はそっとソフトにぴったりと私の左手の手の平と
合わされた。




 その手は大きくてとっても長くてきれいな指が並んでいる。

 肌から伝わってくる熱に少しドキドキした。




 手の平を合わせただけで何も言わない瑤ちゃんに気付いた。



『えっ? これって何か意味があるから私たち手の平合わせてるのよね? 
どういうこと、教えて』

 心の中で❔マーク飛ばしてる私にゆっくりと手の平を離した
瑤ちゃんが言った。




「寝ようか・・」


『は、なにそれ』気持ちとは裏腹に私は素直に返事した。
「・・うん」


 そう言って「寝ようか・・」目を瞑った瑤ちゃんは仰向けの体勢に入り
目を閉じた。




 私は斜めの形で横向きになっていた体勢そのままに、しばらくの間、
どこもかしこも造形のきれいな瑤ちゃんの横顔を名残惜しいと思いながら
じっと見続けた。





 お泊りはこれが最後だから瑤ちゃんの寝姿を見られるチャンスは
二度とないのだと思うと、見つめるのに気合がはいった・・
つもりだったのに、すぐに意識を手放していたのだろう。




          ◇ ◇ ◇ ◇



 残念なことをしたと翌朝、そのことに気付いた。



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