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 しかしながら、それ以降、頭の片隅には芽生えた違和感を
確認してみたいという欲求が生まれ、木々の緑に夏の訪れを
感じられるようになった月の最後の週末に
また娘を誘ってみることにした。




 前回とは違い、週初めに誘ったのだが、やはり色よい返事は
返ってこなかった。




「折角時間が取れたのに残念だなぁ。
次はまたいつ一緒にお出掛けできるか分かんないぞ、眞奈」




「英介さん、折角誘ってくれたのにごめんなさい。

 あれから比奈ちゃんとは週末に遊ぶ約束になってて、今は結構
盛り上がってるからアレだけど飽きてきたら、また誘ってやって。

 今は親といる時間よりお友達と一緒に遊ぶのが楽しいらしいの」




「そっか、分かった。
じゃあ、友達との遊びが落ち着いたら苺佳、教えて。
また時間作るからさ」




「うん、分かった」



          ◇ ◇ ◇ ◇




 苺佳の話を聞き、眞奈も大きくなり父親とどこかへ出かけるよりも
友達のほうがいい年齢になったのかと感慨深いものがあった。



 それならそれで言い方は悪いが勿怪もっけの幸いではないか。



 苺佳も以前のように自分に依存してこないし、これで山波美羅と過ごす時間を
優先しても一切後ろめたさみたいなものを感じずに済むのだから。




 英介はそんな風にふたりと距離のできたことに寂しさを感じるでもなく、

少ない手持ちの自分の時間を自分だけの為に使えることに『助かるな』と

思うにとどまったのだった。
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