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『愛が揺れるお嬢さん妻』11

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 自覚しているのか、いないのか、大林もまた、人から見て多大に
魅力的な容貌をしている人間のカテゴリに属していた。


 大林がその彼女の話題をちらっと小耳に挟んだのは、昼食に出た
院内の食堂で、だった。


 自分はいつものようにモニターを見たままで初診を終えていて、
彼女の顔などは記憶になかった。


 ただ初回の触診で彼女の脚を台の上に乗せてもらい患部を診ただけで。

 いろいろと形容の仕方はあろうが簡潔にいうと、プルルンっとした
美しい脚だった。

 患者を診るようになって初めてのことだった。
 それほどまでに美しい患部を診たのは。

 そして、だからといって顔も美しいに違いないなどという発想は
出てこなかった。


 ただ黒ずんだ色の患部が際立っていることを少し残念に思ったことは
記憶している。
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