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第十一話【たこ焼きくるくるパーティ】お客さまもやってくる?

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「大学生のころのれいちゃんって、今と違ったんですか?」

「友人としては変わらない。だが……」

「だが?」

小首を傾げて訊ねる美寧を一旦じっと見つめると、高柳は閉じていた口を再び開いた。

「恋人にべたべたするタイプではなかったな。少なくとも人前では」

「恋人にべたべた……」

高柳の台詞は、少なくとも過去、怜に付き合っていた相手がいたことを証明するものだ。
それに気付いた美寧が口を噤むと、横に座る怜が高柳に向かって言う。

「ナギ。余計なことをミネに言うな」

「俺は聞かれたことに答えただけだ」

「だからそれが余計だと――」

「いいの、れいちゃん。私が聞いたんだから」

高柳に反論しようとする怜の言葉を、美寧の声が割り込むように止める。

「ミネ……」

「ちゃんと分かってるよ?れいちゃんがモテること。ユズキ先生も言ってたもん」

「ユズキが?」

怜に嫌な予感が過る。

「ユズキ先生が前に言ってたよ?れいちゃんには『黙ってても女の子達が寄ってくる』って」

それはどうやら外れではなかったようだ。

友人医師の自分への言葉に眉をしかめ、目元をピクリと震わせた怜。それを見た高柳がくくっと小さくかみ殺すように笑う。けれどその高柳も、美寧の次の言葉にピタリと笑いを止めた。

「モテるのはナギさんも同じだって、ユズキ先生が」

「………あいつめ」

渋い顔で唸るように呟いた高柳。
苦いものを含んだような怜と高柳の顔に、美寧は小首を傾け不思議そうに訊ねた。

「れいちゃんもナギさんも褒められて嬉しくないの?モテるのは素敵な男性の証拠でしょう?」

「……そうとも限りません」

「そうなの?」

よく分からない、といった顔の美寧の隣で、怜がそっとため息をつこうとした時、高柳が口を開いた。

「まあ、確かにフジは昔から無駄にモテたが、見た目の通りクールで、恋人にも甘いところのない奴だと思っていた。――が、君にはずいぶん甘いということが、今日はよく分かった」

「っ、」

さっきのことを思い出して、美寧の顔にさっと朱が差す。

「だから自信を持っていいと思うぞ」

「………はい」

よく分からないがきっと励まされたのだ。美寧は素直に頷いた。

アヒージョを摘まみながら白ワインをどんどん空けていく男性陣を横目に、美寧はちびちびと紅茶を飲む。さっき勢いで飲んだ白ワインのせいで頭がふわふわする。
そんな彼女に怜がすぐに気が付いた。

「ミネ、大丈夫ですか?」

「ん……」

「さっき飲んだワインが回ってるんじゃないですか?」

「ん…だい、じょうぶ……」

ふわふわとした頭で答える。
美寧の白い肌はアルコールで薄桃色に染まり、大きな瞳をとろんと半分閉じた姿は、少女のようなあどけなさの中に匂い立つような色香を滲ませている。

「眠いなら先に寝てしまってもいいですよ?」

「……ん、でも」

『お客様がいらっしゃるのに』という言葉が美寧の頭の中に浮かんだ時、高柳の低い声が先に耳に入る。

「俺もそろそろ帰ることにする」

「そうか?」

「ああ。今日は転勤の引っ越しの前に、フジの顔を見に来ただけだからな」

「転勤?」

「言ってなかったか?来月から本社に戻るんだ」

「聞いてない。そうなのか?本社に……」

「ああ。とは言っても、ホールディングスのほうじゃなく、トーマビールの本社への出向だが」

「――そうか」

高柳が口にした言葉に、美寧は閉じかけていた目をパッと見開いた。

「トーマ…ビール……」

「ナギが勤めているのは【Tohmaグループホールディングス】という会社で、ビールをはじめとしたアルコールや飲料を作っている会社なのです。今日の手土産も【トーマビール】のものです」

「手前味噌な土産で悪いな」

斜め前で頷いている高柳を、美寧は食い入るように見つめた。

「ミネ?」

黙ったままの美寧を不思議そうに怜が覗き込んだ。

「わ、私…やっぱりちょっと酔ってるみたい!もう部屋で休むね!」

言いながら突然立ち上がった美寧に、怜が軽く目を見開いた。

「大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫……。ナギさん、ごめんなさい…あの、私のことは気にせず、ごゆっくり……」

軽い会釈をした美寧は、高柳が何か言う前にきびすを返し、あっという間に自分の部屋へ引き上げて行った。






【第十一話 了】
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