上 下
57 / 88
第八話【スパイシー☆スープカレー】失敗は成功のもと!?

[3]ー3

しおりを挟む
ホッとした途端、怜の袖を強く握っていたことに気付き、慌てて手を離した。握っていたところが皺になっているのが目に入る。

「ぅわっ、やだ、しわしわっ!ごめんなさ」

引っ込めようとした手を、すばやく捕まえられた。

「気になりましたか?」

「えっ?」

「俺が他の女性ひとに料理を作ったかどうか」

手を掴まれたまま低い声で問われ、コクンと頷く。

「どうしてですか?」

どうしてだろう。自分でも良く分からない。
怜の問いに返事が出来ずに美寧は口をつぐんだ。

この数日間、美寧は自分がいったい何にモヤモヤしていたのか、いまだに良く分かっていない。

(どうして私はあんなにユズキ先生の言葉が気になったんだろう……)

(れいちゃんが他の女性ひとにご飯を作ったことがあっても、別にいいんじゃないかな……)

「ミネ?」

眉間に皺を寄せて黙りこくってしまった美寧に、怜は微苦笑を浮かべた。

「困らせてしまったみたいですね」

怜の手が美寧の頭を軽く撫でる。それでも美寧の眉間は固く、思案顔のままだ。

ふわり、美寧の額に柔らかなものが触れた。
ハッとして顔を上げると、すぐ目の前に怜の顔があった。

「困った顔も可愛いけど、そんなに悩ませてしまってすみません」

「れいちゃん……」

「もしかしたらミネがヤキモチを妬いてくれたのかと、期待してしまいました」

「ヤキモチ……?」

「ええ。俺が他の女性に手料理を振る舞ったと思って、ヤキモチを妬いてくれたのかと」

(れいちゃんが、ほかのひとに手料理を作ったことに、ヤキモチを………)

怜の言ったことを頭の中で反芻する。
そうすることで最初は分からなかった怜の言葉の意味が、じわじわと美寧の中に浸透して来た。

「私…ヤキモチ妬いたの………?」

口に出した瞬間、突如としてものすごく恥ずかしくなった。カーッと体が発火したみたいに熱くなる。

「えっ、…ええっ!」

人生で初めての“ヤキモチ”に、驚きのあまり動揺する。

「ミネ?」

頭上から怜に呼ばれているが、その声も今のミネの頭の中には届かない。

(こ…これが“ヤキモチ”なの!?)

怜の手料理を他の女性に食べられたくないなんて、まるで母親を独り占めしたがる幼児のようだ。

(は…恥ずかしすぎるっ!こんなこと、誰にも思ったことないのに……)

とっくに成人を迎えた大人の女性のすることではない。
恥ずかしいやら情けないやらで、美寧は思わず両手で赤い顔を覆った。

「……えっと、ミネ?大丈夫ですか?」

何やら真っ赤になった顔を覆って俯いてしまった美寧に、怜は不思議そうに首を傾げている。

美寧は両手の平の中からおずおずと視線を上げた。

「れいちゃん……わたし、ヤキモチ妬いたみたい」

怜は涼しげな瞳を大きく見張った。

「私…れいちゃんが他の女性ひとにご飯を作るの、嫌みたい………ごめんなさい」

情けなさげにそう言った後、美寧は再び両手の平で顔を覆った。

シーンとした静けさが二人の間に横たわる。

(………呆れてるよね、れいちゃん)

怜の沈黙が、美寧にとっては自分の失態の証明のようだ。

ものの一分足らずの沈黙を破ったのは、怜の「は~~っ」という重い溜息だった。

「ああもうっ」

怜にしては乱暴な声に、美寧の肩がピクリと跳ねる。

(もしかしなくても怒ってる……?)

(もう一度謝ろう)、そう美寧が考えた時、美寧の体は強く抱きしめられた。

怜の大きな体が覆い被さるようにして、美寧を抱きすくめている。
美寧はその腕の中で丸く大きな瞳を、更に大きく見開いていた。

「君はいったい俺をどうしたいんだ……」

台詞と同時に、怜が「はぁっ」とついた溜め息が耳を掠める。

低く掠れた声は悩ましげで、美寧は咄嗟に「ごめんなさい」と口にしようとした。けれど怜の次の言葉に、美寧はその言葉を飲みこんだ。

「そんな可愛すぎることを言って、俺を喜ばせてどうするんだ……」

「え、」

「あぁミネ、もう一度教えて?俺が他の女性に料理を作るのは嫌?」

美寧の顔がまたしても赤くなる。
つい今しがた恥ずかしい“ヤキモチ”の中身を説明したばかりなのに、その内容を怜の口から聞かされるなんて、なんの辱めだろう。
けれど抱きしめる腕にギュッと力が込められて、怜の胸に顔を押し付けたまま、コクンと小さく頷いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

あまりさんののっぴきならない事情

菱沼あゆ
キャラ文芸
 強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。  充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。 「何故、こんなところに居る? 南条あまり」 「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」 「それ、俺だろ」  そーですね……。  カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。

極上の一夜で懐妊したらエリートパイロットの溺愛新婚生活がはじまりました

白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
恋愛
早瀬 果歩はごく普通のOL。 あるとき、元カレに酷く振られて、1人でハワイへ傷心旅行をすることに。 そこで逢見 翔というパイロットと知り合った。 翔は果歩に素敵な時間をくれて、やがて2人は一夜を過ごす。 しかし翌朝、翔は果歩の前から消えてしまって……。 ********** ●早瀬 果歩(はやせ かほ) 25歳、OL 元カレに酷く振られた傷心旅行先のハワイで、翔と運命的に出会う。 ●逢見 翔(おうみ しょう) 28歳、パイロット 世界を飛び回るエリートパイロット。 ハワイへのフライト後、果歩と出会い、一夜を過ごすがその後、消えてしまう。 翌朝いなくなってしまったことには、なにか理由があるようで……? ●航(わたる) 1歳半 果歩と翔の息子。飛行機が好き。 ※表記年齢は初登場です ********** webコンテンツ大賞【恋愛小説大賞】にエントリー中です! 完結しました!

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~

菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。 だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。 車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。 あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。

【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。

文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。 父王に一番愛される姫。 ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。 優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。 しかし、彼は居なくなった。 聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。 そして、二年後。 レティシアナは、大国の王の妻となっていた。 ※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。 小説家になろうにも投稿しています。 エールありがとうございます!

本日、訳あり軍人の彼と結婚します~ド貧乏な軍人伯爵さまと結婚したら、何故か甘く愛されています~

扇 レンナ
キャラ文芸
政略結婚でド貧乏な伯爵家、桐ケ谷《きりがや》家の当主である律哉《りつや》の元に嫁ぐことになった真白《ましろ》は大きな事業を展開している商家の四女。片方はお金を得るため。もう片方は華族という地位を得るため。ありきたりな政略結婚。だから、真白は律哉の邪魔にならない程度に存在していようと思った。どうせ愛されないのだから――と思っていたのに。どうしてか、律哉が真白を見る目には、徐々に甘さがこもっていく。 (雇う余裕はないので)使用人はゼロ。(時間がないので)邸宅は埃まみれ。 そんな場所で始まる新婚生活。苦労人の伯爵さま(軍人)と不遇な娘の政略結婚から始まるとろける和風ラブ。 ▼掲載先→エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう ※エブリスタさんにて先行公開しております。ある程度ストックはあります。

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

セカンドラブ ー30歳目前に初めての彼が7年ぶりに現れてあの時よりちゃんと抱いてやるって⁉ 【完結】

remo
恋愛
橘 あおい、30歳目前。 干からびた生活が長すぎて、化石になりそう。このまま一生1人で生きていくのかな。 と思っていたら、 初めての相手に再会した。 柚木 紘弥。 忘れられない、初めての1度だけの彼。 【完結】ありがとうございました‼

処理中です...