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第八話【スパイシー☆スープカレー】失敗は成功のもと!?
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ホッとした途端、怜の袖を強く握っていたことに気付き、慌てて手を離した。握っていたところが皺になっているのが目に入る。
「ぅわっ、やだ、しわしわっ!ごめんなさ」
引っ込めようとした手を、すばやく捕まえられた。
「気になりましたか?」
「えっ?」
「俺が他の女性に料理を作ったかどうか」
手を掴まれたまま低い声で問われ、コクンと頷く。
「どうしてですか?」
どうしてだろう。自分でも良く分からない。
怜の問いに返事が出来ずに美寧は口をつぐんだ。
この数日間、美寧は自分がいったい何にモヤモヤしていたのか、いまだに良く分かっていない。
(どうして私はあんなにユズキ先生の言葉が気になったんだろう……)
(れいちゃんが他の女性にご飯を作ったことがあっても、別にいいんじゃないかな……)
「ミネ?」
眉間に皺を寄せて黙りこくってしまった美寧に、怜は微苦笑を浮かべた。
「困らせてしまったみたいですね」
怜の手が美寧の頭を軽く撫でる。それでも美寧の眉間は固く、思案顔のままだ。
ふわり、美寧の額に柔らかなものが触れた。
ハッとして顔を上げると、すぐ目の前に怜の顔があった。
「困った顔も可愛いけど、そんなに悩ませてしまってすみません」
「れいちゃん……」
「もしかしたらミネがヤキモチを妬いてくれたのかと、期待してしまいました」
「ヤキモチ……?」
「ええ。俺が他の女性に手料理を振る舞ったと思って、ヤキモチを妬いてくれたのかと」
(れいちゃんが、ほかのひとに手料理を作ったことに、ヤキモチを………)
怜の言ったことを頭の中で反芻する。
そうすることで最初は分からなかった怜の言葉の意味が、じわじわと美寧の中に浸透して来た。
「私…ヤキモチ妬いたの………?」
口に出した瞬間、突如としてものすごく恥ずかしくなった。カーッと体が発火したみたいに熱くなる。
「えっ、…ええっ!」
人生で初めての“ヤキモチ”に、驚きのあまり動揺する。
「ミネ?」
頭上から怜に呼ばれているが、その声も今のミネの頭の中には届かない。
(こ…これが“ヤキモチ”なの!?)
怜の手料理を他の女性に食べられたくないなんて、まるで母親を独り占めしたがる幼児のようだ。
(は…恥ずかしすぎるっ!こんなこと、誰にも思ったことないのに……)
とっくに成人を迎えた大人の女性のすることではない。
恥ずかしいやら情けないやらで、美寧は思わず両手で赤い顔を覆った。
「……えっと、ミネ?大丈夫ですか?」
何やら真っ赤になった顔を覆って俯いてしまった美寧に、怜は不思議そうに首を傾げている。
美寧は両手の平の中からおずおずと視線を上げた。
「れいちゃん……わたし、ヤキモチ妬いたみたい」
怜は涼しげな瞳を大きく見張った。
「私…れいちゃんが他の女性にご飯を作るの、嫌みたい………ごめんなさい」
情けなさげにそう言った後、美寧は再び両手の平で顔を覆った。
シーンとした静けさが二人の間に横たわる。
(………呆れてるよね、れいちゃん)
怜の沈黙が、美寧にとっては自分の失態の証明のようだ。
ものの一分足らずの沈黙を破ったのは、怜の「は~~っ」という重い溜息だった。
「ああもうっ」
怜にしては乱暴な声に、美寧の肩がピクリと跳ねる。
(もしかしなくても怒ってる……?)
(もう一度謝ろう)、そう美寧が考えた時、美寧の体は強く抱きしめられた。
怜の大きな体が覆い被さるようにして、美寧を抱きすくめている。
美寧はその腕の中で丸く大きな瞳を、更に大きく見開いていた。
「君はいったい俺をどうしたいんだ……」
台詞と同時に、怜が「はぁっ」とついた溜め息が耳を掠める。
低く掠れた声は悩ましげで、美寧は咄嗟に「ごめんなさい」と口にしようとした。けれど怜の次の言葉に、美寧はその言葉を飲みこんだ。
「そんな可愛すぎることを言って、俺を喜ばせてどうするんだ……」
「え、」
「あぁミネ、もう一度教えて?俺が他の女性に料理を作るのは嫌?」
美寧の顔がまたしても赤くなる。
つい今しがた恥ずかしい“ヤキモチ”の中身を説明したばかりなのに、その内容を怜の口から聞かされるなんて、なんの辱めだろう。
けれど抱きしめる腕にギュッと力が込められて、怜の胸に顔を押し付けたまま、コクンと小さく頷いた。
「ぅわっ、やだ、しわしわっ!ごめんなさ」
引っ込めようとした手を、すばやく捕まえられた。
「気になりましたか?」
「えっ?」
「俺が他の女性に料理を作ったかどうか」
手を掴まれたまま低い声で問われ、コクンと頷く。
「どうしてですか?」
どうしてだろう。自分でも良く分からない。
怜の問いに返事が出来ずに美寧は口をつぐんだ。
この数日間、美寧は自分がいったい何にモヤモヤしていたのか、いまだに良く分かっていない。
(どうして私はあんなにユズキ先生の言葉が気になったんだろう……)
(れいちゃんが他の女性にご飯を作ったことがあっても、別にいいんじゃないかな……)
「ミネ?」
眉間に皺を寄せて黙りこくってしまった美寧に、怜は微苦笑を浮かべた。
「困らせてしまったみたいですね」
怜の手が美寧の頭を軽く撫でる。それでも美寧の眉間は固く、思案顔のままだ。
ふわり、美寧の額に柔らかなものが触れた。
ハッとして顔を上げると、すぐ目の前に怜の顔があった。
「困った顔も可愛いけど、そんなに悩ませてしまってすみません」
「れいちゃん……」
「もしかしたらミネがヤキモチを妬いてくれたのかと、期待してしまいました」
「ヤキモチ……?」
「ええ。俺が他の女性に手料理を振る舞ったと思って、ヤキモチを妬いてくれたのかと」
(れいちゃんが、ほかのひとに手料理を作ったことに、ヤキモチを………)
怜の言ったことを頭の中で反芻する。
そうすることで最初は分からなかった怜の言葉の意味が、じわじわと美寧の中に浸透して来た。
「私…ヤキモチ妬いたの………?」
口に出した瞬間、突如としてものすごく恥ずかしくなった。カーッと体が発火したみたいに熱くなる。
「えっ、…ええっ!」
人生で初めての“ヤキモチ”に、驚きのあまり動揺する。
「ミネ?」
頭上から怜に呼ばれているが、その声も今のミネの頭の中には届かない。
(こ…これが“ヤキモチ”なの!?)
怜の手料理を他の女性に食べられたくないなんて、まるで母親を独り占めしたがる幼児のようだ。
(は…恥ずかしすぎるっ!こんなこと、誰にも思ったことないのに……)
とっくに成人を迎えた大人の女性のすることではない。
恥ずかしいやら情けないやらで、美寧は思わず両手で赤い顔を覆った。
「……えっと、ミネ?大丈夫ですか?」
何やら真っ赤になった顔を覆って俯いてしまった美寧に、怜は不思議そうに首を傾げている。
美寧は両手の平の中からおずおずと視線を上げた。
「れいちゃん……わたし、ヤキモチ妬いたみたい」
怜は涼しげな瞳を大きく見張った。
「私…れいちゃんが他の女性にご飯を作るの、嫌みたい………ごめんなさい」
情けなさげにそう言った後、美寧は再び両手の平で顔を覆った。
シーンとした静けさが二人の間に横たわる。
(………呆れてるよね、れいちゃん)
怜の沈黙が、美寧にとっては自分の失態の証明のようだ。
ものの一分足らずの沈黙を破ったのは、怜の「は~~っ」という重い溜息だった。
「ああもうっ」
怜にしては乱暴な声に、美寧の肩がピクリと跳ねる。
(もしかしなくても怒ってる……?)
(もう一度謝ろう)、そう美寧が考えた時、美寧の体は強く抱きしめられた。
怜の大きな体が覆い被さるようにして、美寧を抱きすくめている。
美寧はその腕の中で丸く大きな瞳を、更に大きく見開いていた。
「君はいったい俺をどうしたいんだ……」
台詞と同時に、怜が「はぁっ」とついた溜め息が耳を掠める。
低く掠れた声は悩ましげで、美寧は咄嗟に「ごめんなさい」と口にしようとした。けれど怜の次の言葉に、美寧はその言葉を飲みこんだ。
「そんな可愛すぎることを言って、俺を喜ばせてどうするんだ……」
「え、」
「あぁミネ、もう一度教えて?俺が他の女性に料理を作るのは嫌?」
美寧の顔がまたしても赤くなる。
つい今しがた恥ずかしい“ヤキモチ”の中身を説明したばかりなのに、その内容を怜の口から聞かされるなんて、なんの辱めだろう。
けれど抱きしめる腕にギュッと力が込められて、怜の胸に顔を押し付けたまま、コクンと小さく頷いた。
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