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第一話【ふわとろオムライス】ケッチャップで愛の言葉を!?
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キッチンに立った怜は、冷蔵庫の前に立ち三秒ほど間を置いてからその扉を開いた。
冷蔵庫、冷凍庫、野菜室、と上から順に開けながら必要な物を手早く取り出し、それら全てをキッチンに置いてある丸いテーブルの上に並べる。
「さて、作りますか」
黒いエプロンを付け、腕まくりをした手をしっかり洗うと調理開始だ。
調理を始めた怜の手つきに迷いは見られない。料理レシピなどのサイトの動画のようにスムーズだ。
包丁を持つ手も慣れたもので、早い上に大きさも揃っていて、それらの食材は鍋やフライパンの中で次々に料理へと変化し始める。
(怒ってはいない様子でしたね……)
動きを止めることなく料理をしながら、怜は美寧のことを考えていた。
玄関を開けて美寧の姿が見えなかったほんの少しの間、怜は彼女が美寧が自分のあるべきところに戻ってしまったのではないかと頭に過ぎった。
もしかしたら美寧自身にとってはその方がいいのかもしれない。出ていく彼女を引き留める権利は、今の怜にはない。
一緒に暮らし始めて、まだたったの一か月。それなのに、美寧は既に怜の生活の一部となってしまっている。
いつも美寧は怜の帰宅知ると、玄関まで飛んでやってきて嬉しそうに「おかえりなさい」言う。食事を出せばどんなものでも「美味しい」と言い、どんな小さなことにも「ありがとう」と口にする。そして必ず花がほころぶような笑顔を浮かべるのだ。
(最近のミネは、ずいぶん明るい顔をするようになりましたね)
ここに来た当初、彼女の表情は曇りがちで、怜にも遠慮があった。今のように屈託のない笑顔を見せるようになったのは、いつごろからだったろうか……。
その疑問に答えが出る前に、料理の方が先に出来上がっていた。
「うわ~っ!すっごいっ!!」
ほどなくしてエプロンを着けた怜がキッチンから運んで来たのは、大きなお皿に乗ったオムライス。鮮やかな黄色の玉子は見るからにふんわりとしていて、美寧はその触感を考えただけで口の中にじわっと唾液が出るのを感じた。
色素の薄い茶色の瞳が、大きく見開かれキラキラと輝くのを見て、怜は口角を上げる。
テーブルの上にオムライスの皿とオニオンスープの入った器が置かれる。オムライスの皿にはベビーリーフとミニトマトのサラダも付いていて、黄色と緑と赤のコントラストが目にも楽しい。
怜はカトラリーを並べた後、それぞれの前に飲み物の入ったグラスを置いた。
「あっ、梅サイダーだ!」
美寧の前に置かれたのは、庭で取れた梅の実を漬けて作ったシロップを、炭酸水で割った自家製梅サイダーだ。美寧はここで初めてこれを飲んでからすっかりこの飲み物が気に入ってしまった。
「ミネは俺と同じのはまだ飲めないでしょう?」
揶揄うように瞳を細めて怜が言う。怜のグラス入っている黄金色の麦のお酒は、成人して一年あまりしか経たない美寧には、苦いだけでとても美味しいとは思えない。
「そのうち飲めるようになるんだから」
子ども扱いが悔しくてむくれそうになるが、好物を前にその気持ちもすぐに消え失せる。
「私の好きな物ばっかり!!今日は何かのお祝いなの、れいちゃん?」
「ふふっ、これでお祝いとは、美寧はずいぶん安上がりですね」
「いいでしょ?好きなものに高いも安いもないもん」
「確かに美寧の言う通りです」
頬を膨らませている美寧に、怜は微笑みながら頷く。
「ミネは本当に玉子が大好きですね」
「“玉子”が、じゃなくて、“れいちゃんの作る”玉子料理が、好きなの!」
「ふふっ、そうですか?ありがとうございます」
くっきりとした二重の大きな瞳を、長く細めて嬉しそうにそう言った怜の笑顔に、美寧は釘付けになる。
キッチンに立った怜は、冷蔵庫の前に立ち三秒ほど間を置いてからその扉を開いた。
冷蔵庫、冷凍庫、野菜室、と上から順に開けながら必要な物を手早く取り出し、それら全てをキッチンに置いてある丸いテーブルの上に並べる。
「さて、作りますか」
黒いエプロンを付け、腕まくりをした手をしっかり洗うと調理開始だ。
調理を始めた怜の手つきに迷いは見られない。料理レシピなどのサイトの動画のようにスムーズだ。
包丁を持つ手も慣れたもので、早い上に大きさも揃っていて、それらの食材は鍋やフライパンの中で次々に料理へと変化し始める。
(怒ってはいない様子でしたね……)
動きを止めることなく料理をしながら、怜は美寧のことを考えていた。
玄関を開けて美寧の姿が見えなかったほんの少しの間、怜は彼女が美寧が自分のあるべきところに戻ってしまったのではないかと頭に過ぎった。
もしかしたら美寧自身にとってはその方がいいのかもしれない。出ていく彼女を引き留める権利は、今の怜にはない。
一緒に暮らし始めて、まだたったの一か月。それなのに、美寧は既に怜の生活の一部となってしまっている。
いつも美寧は怜の帰宅知ると、玄関まで飛んでやってきて嬉しそうに「おかえりなさい」言う。食事を出せばどんなものでも「美味しい」と言い、どんな小さなことにも「ありがとう」と口にする。そして必ず花がほころぶような笑顔を浮かべるのだ。
(最近のミネは、ずいぶん明るい顔をするようになりましたね)
ここに来た当初、彼女の表情は曇りがちで、怜にも遠慮があった。今のように屈託のない笑顔を見せるようになったのは、いつごろからだったろうか……。
その疑問に答えが出る前に、料理の方が先に出来上がっていた。
「うわ~っ!すっごいっ!!」
ほどなくしてエプロンを着けた怜がキッチンから運んで来たのは、大きなお皿に乗ったオムライス。鮮やかな黄色の玉子は見るからにふんわりとしていて、美寧はその触感を考えただけで口の中にじわっと唾液が出るのを感じた。
色素の薄い茶色の瞳が、大きく見開かれキラキラと輝くのを見て、怜は口角を上げる。
テーブルの上にオムライスの皿とオニオンスープの入った器が置かれる。オムライスの皿にはベビーリーフとミニトマトのサラダも付いていて、黄色と緑と赤のコントラストが目にも楽しい。
怜はカトラリーを並べた後、それぞれの前に飲み物の入ったグラスを置いた。
「あっ、梅サイダーだ!」
美寧の前に置かれたのは、庭で取れた梅の実を漬けて作ったシロップを、炭酸水で割った自家製梅サイダーだ。美寧はここで初めてこれを飲んでからすっかりこの飲み物が気に入ってしまった。
「ミネは俺と同じのはまだ飲めないでしょう?」
揶揄うように瞳を細めて怜が言う。怜のグラス入っている黄金色の麦のお酒は、成人して一年あまりしか経たない美寧には、苦いだけでとても美味しいとは思えない。
「そのうち飲めるようになるんだから」
子ども扱いが悔しくてむくれそうになるが、好物を前にその気持ちもすぐに消え失せる。
「私の好きな物ばっかり!!今日は何かのお祝いなの、れいちゃん?」
「ふふっ、これでお祝いとは、美寧はずいぶん安上がりですね」
「いいでしょ?好きなものに高いも安いもないもん」
「確かに美寧の言う通りです」
頬を膨らませている美寧に、怜は微笑みながら頷く。
「ミネは本当に玉子が大好きですね」
「“玉子”が、じゃなくて、“れいちゃんの作る”玉子料理が、好きなの!」
「ふふっ、そうですか?ありがとうございます」
くっきりとした二重の大きな瞳を、長く細めて嬉しそうにそう言った怜の笑顔に、美寧は釘付けになる。
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