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途方に暮れる橋の上

途方に暮れる橋の上3

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 どれくらいそうしていただろう。

 何時間もたったような気もするが、太陽はまだその姿をかろうじて地上に残している。きっとせいぜい数分ほど。けれど立ち上がる気力がわかない。

 あのスーツケースには貴重品こそ入っていなかったけれど、生活必需品や思い入れのあるものがたっぷり詰まっていた。
 愛用の目覚まし時計、肌質にあったコスパのよい化粧品。着替えもそのひとつ。あらたまった場面で着られるようなシンプルな紺色のワンピースが入っているので、どこかでそれに着替えようと思っていたのに――。

「完全に詰んだ……」

 よもや二十一にして、住所不定無職になるなんて。
 天国の父と母――いや、それよりも弟になんて言おう。たった一人の家族なのだ。

 生意気だけど姉思いなところもある弟がこのことを知ったら、大学の勉強もそこそこにアルバイトに励みだすに違いない。どうかしたら辞めると言いだすこともある。

 弟には大学をきちんと卒業してほしい。それを励みにこれまで頑張ってきたのだ。

 だからと言ってこれから自分がどうすべきなのかどうしたらいいのか、皆目見当もつかない。暮れ行く古都がじわじわと滲んでいく。

 泣いたってなにも変わらない。璃世はそのことをよく知っている。

 腕でゴシゴシと目元を拭い、立ち上がろうとしたそのとき。
 足にさわさわとなにかが触れる。見た瞬間、「あ!」と声を上げた。

「さっきの!」

 茶トラの子ネコが「ニャー」と鳴いた。『お腹がすいた』とでも言っているのだろうか。スリスリと擦りつけてくる子ネコの頭をなでてやる。

「ごめんね……あなたに食べさせるものはなにも持ってないのよ……」

 そう口にすると、子ネコがテテテと離れていった。

(わかってくれたのかな……)

 ほっとしたような寂しいような複雑な気持ちだ。けれどどうしようもない。明日から自分自身を養っていけるかすらあやしいのだから。

 少し申し訳なくなりながら、茶トラ柄のしっぽを見送っていると、子ネコがピタリと足を止めて振り返った。こちらをじいっと見つめてから再び「ニャー」と鳴く。

「え、なに? もしかして……ついて来いってこと?」

 まさかね――と思った瞬間、もう一度「ニャー」と、さっきより大きな声で“呼ばれた”。

 璃世は立ち上がり、思い切って子ネコの後を追いかけることにした。

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