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2.再会は異国の地で

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 部屋まで送ってくれるというお兄ちゃんに甘えて、ホテルの中を移動する。
 せっかくの再会なのに、きっかけがきっかけだっただけにやけに気まずい。うつむいて黙々と歩いていると、彼が「そういえば」と口にする。

「最後に会ったのっていつだっけ」
「私が高一のお正月」

 なんとなくぶっきらぼうな言い方になったけれど、彼は気にした様子もなく感心したように「よく覚えているなぁ」と言う。

 大きくなるにつれ会う回数は減って行ったが、それでも近所だから親からのお使いでお邪魔したときに顔を合わせることもあった。
 彼が大学進学で実家を出てからは一年に一度会えるか会えないかで、内心それを寂しく思っていたこともあり、会えた日のことをよく覚えているのだ。

「それにしても香ちゃんが外交官かぁ」

 感慨深げに言われて引っかかる。六歳差のせいか、小さなころを知っているせいか、あるいはその両方か。彼はずっと私のことを小さな女の子だと思っている節がある。
 中学生の頃からそれは薄々感じていたけれど、さすがに成人して八年経った今、そんな扱いをされるのは不本意だ。
 けれどここで不機嫌になったり言い返したりする方がよほど子どもっぽい。どうにかして私はもう大人なのだと彼に教えたかった。

「そうなの。この四月に在外公館勤務から日本の本省に異動になったばかりよ。ニュージーランドとアメリカにそれぞれ三年ずついたわ」

 へえ、と感心したように相づちを打つ彼に、私は気を取り直す。

「お兄ちゃんは? 弁護士になったんでしょう? どんな仕事をしているの?」

 彼の実家は三代続く法律事務所で、現在は彼の父親が二代目所長を務めている。彼自身も後を継ぐつもりで大学へ入ったはずだ。

 その後無事に弁護士資格を取得したところまでは家族伝手に聞いて知っていたが、私も入省して忙しくなり詳しい内容までは聞いていない。
 弁護士にはそれぞれ得意としている分野があるそうなので、単純に彼がどんな案件を取り扱っているのか気になった。

「言える範囲で構わないけど」
「そうだな。ざっくり言うと、顧問弁護士として受け持っている企業の、法的コンサルや海外企業との業務提携の手助け、かな」
「海外企業と……ってことはもしかして、外国の弁護士資格も持ってるの?」
「ああ。うちの事務所は海外の弁護士資格取得に力を入れているからな。俺は主にEUとアジア圏担当だ」
「じゃあここにも仕事で?」

 だとしたら仕事の邪魔をしてしまったということだ。申し訳なさが募る。

「いや、来たのは仕事がらみだけど、思ったよりも早く済んだからそのまま休暇を取ってのんびりしていたところだよ」
「そうだったんだ――あ、ここよ、私の部屋。送ってくれてありがとう」

 ドアを背に、彼に向かって頭を下げる。「じゃあ」と背を向けようとしたとき。

「じゃあまた五十分後に来るから」
「え?」
「俺もホテルとの話に同席する」
「でも」

 せっかくの休暇に半分仕事のようなことをさせるなんて申し訳なさすぎる。いくら幼なじみだからといっても、彼の仕事領域にずかずか踏み込むわけにはいかない。親しき仲〝こそ〟礼儀あり、なのだ。

「ひとりで大丈夫だから」
「どうせ証拠動画の提出が必要になる。一度に済ませた方が楽だろう」

 結局のところ私も彼と一緒の方が心強く、不本意だけど「お願いします」と頭を下げた。

 それから五十分後。部屋のドアから〝コン、ココン、コン、コン〟と独特なリズムのノックが聞こえてきた。

「はーい!」

 駆け寄ってロックを外し、ドアを開ける。立っていたのは予想通りの人だった。

「圭吾お兄ちゃん、どうぞ」

 ドアを大きく開いて中へ招き入れる。
 約束の時間ギリギリのところで、荷物の片付けまでなんとか終えることができた。一時間足らずで、シャワーからの身支度、そして部屋まで整えた自分を褒めてやりたい。

「ちゃんと確認してドアを開けたのか?」
「えっと、合図でお兄ちゃんだってわかったわよ?」
「こら。たとえそうでもきちんと確認しないとだめだろう。女性ひとりなんだ、用心に用心を重ねるくらいでちょうどいい」

 ちょっと過保護すぎやしないだろうか。他人と区別がつくようにとノックの仕方まで決めたのは彼なのに。

 反論したかったが、どうしてこうなったかを思い返せばうなずくほかない。「気をつけます」と言ったところで、呼び出し音が聞こえてきた。
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