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森 希々花はいつも二番手***
森 希々花はいつも二番手(4)***
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それなのに、なんでこんなことになってしまったの!?
“セフレ”なんて、“二番手”よりもっとたちが悪いっちゃけど…!
「何を考えてるんだ?」
彼が下からあたしの顔をのぞき込んできた。至近距離で見る綺麗なアーモンドアイに、うっとりと酔いしれそうになる。
ダメっ希々花、見惚れとぉ思われるったい…!
あたしは骨ばった肩に乗せていた両手を彼の首に回して抱き着くと、すぐ目の前にある耳に唇を寄せた。
「べつに、なぁんも?」
甘えた声を出し、ねだるように腰を前後に揺らす。
あたしの欲しいものなんて分かっているくせに、彼はまだそれをくれない。
「本命のヤツのことか?」
「本命……」
「本番の明日は、そいつにやるんだろ? チョコを」
“明日”って……さっき自分で『もう今日か』って言ったくせに。
わざわざ日付が変わるのを待って、“今日”チョコを渡したのに、そんなことにも気付いてもらえない。
それはきっとあたしが“二番手以下”だから。
「そんなぁん……、課長にはぁ、どうでもええことやないんですかぁ?」
「まあな。俺にはおまえの賭けを邪魔するつもりはない。最初からそういう約束だろ?」
「………」
あたしが黙ると、彼は小さな四角い包みを破いて、中から取り出したものを猛る自身に被せ、あたしを背中からベッドに押し倒した。
限りなく漆黒に近い瞳に灯る情欲の火。
真上からあたしを射抜く瞳に釘付けになった。
「俺は、おまえが賭けに勝つまでの“つなぎ”。ちゃんと分かってる――だけどな、森」
「っ……、」
入ってくる質量に思わず詰めた息は、浅いところで抜き差しをくり返されているうちにゆるみ、吐息に変わり始める。そうして吐息が喘ぎに変わろうとしたとき――。
「だからと言って、踏み台にされるのはごめんだ」
「ふみ……っ、あぁ……っ、」
踏み台のつもりなんてない――そう言いかけたあたしの声は、一気に最奥まで埋め込まれたせいで嬌声に変わった。
責め立てるように激しく揺さぶられ、快感に思考が奪われる。今日こそは言おうと思っていたことがあったはずなのに――。
彼はこの一年で、あたしの悦いところをすっかり把握済み。無慈悲なほど容赦なく、あたしをそこに向かって追い詰めていく。
「……まあいい。お互いに分かったうえでの“今”だからな」
あたしに、というより自分に言い聞かせるみたいに呟いた彼は、いっそう激しくあたしを揺さぶりだした。
あたしだけじゃなく、彼もそこに向かって昇り出す。
決して実を結ぶことのない目的地に向かって走るあたしたちは、それ以降は無駄口をきくことなく、悦楽だけを追いかけて行った。
昇ったのか堕ちたのか、それすらも分からない享楽の果て――。
ぐったりとベッドに横たわるあたしの首の下には、太くて逞しい腕が差し込まれていた。
彼が普段からつけている香水は、甘すぎず上品な香りのホワイトムスクだけど、ラストノートが消えかけて、彼自身の匂いのほうが強くなる“今”が一番好き。
汗をかいて上気した肌から立ちのぼるその香りを、彼にバレないようこっそり鼻から吸い込んだ。
「――で、何が欲しいんだ?」
腕枕の手であたしの頭をゆっくりと撫でながら、彼が訊いてきた。
「お返し狙いなら最初から素直にそう言えばいいんだ。何か欲しいものがあるんだろ?」
――あなたが欲しい。
その言葉と痛む胸をこらえて、ぷぅっと頬を膨らませてみせる。
「それを聞くのはぁ、ブスイってもんですぅ」
安易に答えなんてあげない。せめてホワイトデーのお返しくらい、あたしのことを考えて悩んでほしい。
そうやってあなたが選んでくれたものなら、あたしには飴玉ひとつだって宝物になるのに。
頬を膨らませたままじっとりと見上げると、彼は「ははっ、無粋で悪いな」と楽しげに笑った。
くっ、悔しかぁ~! なんねそれ、その笑顔!腹黒ヘタレのくせばしよって…!
そんな無邪気な笑顔を見せられたら、文句を言うことなんて出来なくなるじゃない。
さっきまでの仄暗い気持ちが、一気にギュンと上を向いた。
だけど――。
「ところで、静川はどうだった? また今年もこのイベントはスルーだったのか?」
彼が訊ねたその言葉に、あたしの気持ちは真っ逆さま。上空千メートルから地上に落下――どころか、そのまま地下千メートルくらいまでのめり込みそう。
そ、そんなこと……自分で訊けばよかろうもんっ!
そう言いたいのをグッと堪えて、「静さんはぁ相変わらずですぅ」と軽く返しておく。
なにが悲しくて、恋敵の情報なんて教えないといけないのだろう。
今となってはそう思うけれど、仕方ない。
だってそれが、あたしと彼の間に結ばれた“協定”なのだから――。
“セフレ”なんて、“二番手”よりもっとたちが悪いっちゃけど…!
「何を考えてるんだ?」
彼が下からあたしの顔をのぞき込んできた。至近距離で見る綺麗なアーモンドアイに、うっとりと酔いしれそうになる。
ダメっ希々花、見惚れとぉ思われるったい…!
あたしは骨ばった肩に乗せていた両手を彼の首に回して抱き着くと、すぐ目の前にある耳に唇を寄せた。
「べつに、なぁんも?」
甘えた声を出し、ねだるように腰を前後に揺らす。
あたしの欲しいものなんて分かっているくせに、彼はまだそれをくれない。
「本命のヤツのことか?」
「本命……」
「本番の明日は、そいつにやるんだろ? チョコを」
“明日”って……さっき自分で『もう今日か』って言ったくせに。
わざわざ日付が変わるのを待って、“今日”チョコを渡したのに、そんなことにも気付いてもらえない。
それはきっとあたしが“二番手以下”だから。
「そんなぁん……、課長にはぁ、どうでもええことやないんですかぁ?」
「まあな。俺にはおまえの賭けを邪魔するつもりはない。最初からそういう約束だろ?」
「………」
あたしが黙ると、彼は小さな四角い包みを破いて、中から取り出したものを猛る自身に被せ、あたしを背中からベッドに押し倒した。
限りなく漆黒に近い瞳に灯る情欲の火。
真上からあたしを射抜く瞳に釘付けになった。
「俺は、おまえが賭けに勝つまでの“つなぎ”。ちゃんと分かってる――だけどな、森」
「っ……、」
入ってくる質量に思わず詰めた息は、浅いところで抜き差しをくり返されているうちにゆるみ、吐息に変わり始める。そうして吐息が喘ぎに変わろうとしたとき――。
「だからと言って、踏み台にされるのはごめんだ」
「ふみ……っ、あぁ……っ、」
踏み台のつもりなんてない――そう言いかけたあたしの声は、一気に最奥まで埋め込まれたせいで嬌声に変わった。
責め立てるように激しく揺さぶられ、快感に思考が奪われる。今日こそは言おうと思っていたことがあったはずなのに――。
彼はこの一年で、あたしの悦いところをすっかり把握済み。無慈悲なほど容赦なく、あたしをそこに向かって追い詰めていく。
「……まあいい。お互いに分かったうえでの“今”だからな」
あたしに、というより自分に言い聞かせるみたいに呟いた彼は、いっそう激しくあたしを揺さぶりだした。
あたしだけじゃなく、彼もそこに向かって昇り出す。
決して実を結ぶことのない目的地に向かって走るあたしたちは、それ以降は無駄口をきくことなく、悦楽だけを追いかけて行った。
昇ったのか堕ちたのか、それすらも分からない享楽の果て――。
ぐったりとベッドに横たわるあたしの首の下には、太くて逞しい腕が差し込まれていた。
彼が普段からつけている香水は、甘すぎず上品な香りのホワイトムスクだけど、ラストノートが消えかけて、彼自身の匂いのほうが強くなる“今”が一番好き。
汗をかいて上気した肌から立ちのぼるその香りを、彼にバレないようこっそり鼻から吸い込んだ。
「――で、何が欲しいんだ?」
腕枕の手であたしの頭をゆっくりと撫でながら、彼が訊いてきた。
「お返し狙いなら最初から素直にそう言えばいいんだ。何か欲しいものがあるんだろ?」
――あなたが欲しい。
その言葉と痛む胸をこらえて、ぷぅっと頬を膨らませてみせる。
「それを聞くのはぁ、ブスイってもんですぅ」
安易に答えなんてあげない。せめてホワイトデーのお返しくらい、あたしのことを考えて悩んでほしい。
そうやってあなたが選んでくれたものなら、あたしには飴玉ひとつだって宝物になるのに。
頬を膨らませたままじっとりと見上げると、彼は「ははっ、無粋で悪いな」と楽しげに笑った。
くっ、悔しかぁ~! なんねそれ、その笑顔!腹黒ヘタレのくせばしよって…!
そんな無邪気な笑顔を見せられたら、文句を言うことなんて出来なくなるじゃない。
さっきまでの仄暗い気持ちが、一気にギュンと上を向いた。
だけど――。
「ところで、静川はどうだった? また今年もこのイベントはスルーだったのか?」
彼が訊ねたその言葉に、あたしの気持ちは真っ逆さま。上空千メートルから地上に落下――どころか、そのまま地下千メートルくらいまでのめり込みそう。
そ、そんなこと……自分で訊けばよかろうもんっ!
そう言いたいのをグッと堪えて、「静さんはぁ相変わらずですぅ」と軽く返しておく。
なにが悲しくて、恋敵の情報なんて教えないといけないのだろう。
今となってはそう思うけれど、仕方ない。
だってそれが、あたしと彼の間に結ばれた“協定”なのだから――。
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