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15.告白と告白
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寮に着いたのは19時半を過ぎた頃だった。
食堂でご飯を食べていると、タカ!?という素っ頓狂な声がして顔をあげた。
「今帰ってきたの?」
「あ、うん」
「朝帰りを通り越して夜帰りじゃん。大学にも来てないみたいだったからちょっと心配した」
早瀬は少し笑いながら軽く言う。
「心配かけてごめん」
「いやいや、謝られるほどのことでは。タカにしては珍しかったからさ、こういうの」
返事に困って白米を口に入れると早瀬が急に真面目な顔をした。
「あのさ、余計なお世話だろうけど、佐倉のこと嫌わないでやってね」
急に出てきた佐倉の名前に驚いて早瀬を見ると早瀬は気まずそうな顔をして僕を見ていた。
「佐倉となんかあったのかなって。あいつ最近妙に落ち込んでて。佐倉って性別とか関係なく恋愛感情を持つ奴でさ。タカには彼女がいるみたいだし、無理にあいつの気持ちに答えようなんてしなくていいんだけど、でも、あいつなりに本気だと思うんだよね」
最初は佐倉との関係がバレたのかと思ったがそういうわけではないらしい。
「え?」
「え?」
お互いに顔を見合わせると早瀬があれ?という表情をして頬を掻いた。
「佐倉に告白されてこう、なんかこじれてるわけでは・・・」
「告白?」
「あーっ!!違うの?え、あ、今の聞かなかったことにしてくれない?」
早瀬がテーブルに突っ伏したまま、自分の頭を抱えた。
「それって佐倉が僕のことを好きだってこと?それはないんじゃない?」
「そんなことはない。幼馴染の俺の目は間違っていない。何かとタカを目で追ってるし、タカがいることに気が付くのはいつも佐倉の方が早かったりするし。タカが好きなお菓子、いつもあいつ持ってるよ」
「僕、貰ったことないけど」
「恥ずかしくて渡せないんだと思う」
「恥ずかしいとか・・噓でしょ」
あの佐倉が僕に対して恥ずかしいなんて感情を抱くはずがない。
「嘘じゃな・・・あー、ヤバイ。だから全部忘れて」
早瀬は再びテーブルの上に突っ伏した。
その日の夜、ベッドに寝そべりながら佐倉のことを考えていた。
佐倉が僕のことを好きだって?
そんな、まさか・・・。
初めての時はどうだっただろうか。簡単に僕に手を出して、面白いから時々手伝ってやると言った。
「好きな相手にする行動じゃないよな。うん」
そうだそうだと頷いて目を閉じるも、浮かび上がるのは情事の最中、僕を見る佐倉の目だ。
「俺としようよ、俺と」佐倉の声がリピートする。
もし、万が一、佐倉が僕を好きだとしたら僕はとんでもなく酷いことをしていたのではないだろうか。佐倉に早瀬を重ね、それを隠すこともなくあまつさえ早瀬の名前を呼んだ。好きな相手にそんなことをされたら僕なら・・・。
「しんどすぎて吐きそうだ・・・」
その日は別の意味で寝苦しい夜だった。
翌日。授業を終えた僕は早瀬に聞いた佐倉のマンションに向かっていた。
「今日に限ってなんで大学休むんだよ・・・」
「50メートル先ノ交差点ヲ右折シテクダサイ。目的地ハ右側デス」
携帯のナビに頼りまくって到着したのは20階建ての高層マンションだ。
噂には聞いてたけど、凄・・・。
見上げたビルの高さに気が遠くなりながらもマンションの入り口で部屋番号を押した。なかなか応答がないので立て続けに5回押す。これは早瀬からの助言だ。
「はいはい。え・・・あ、渉?」
「ここ開けて」
「あ、うん。そのまま上がってきて」
僕が部屋のインターホンを鳴らすと直ぐにドアが開いて佐倉が顔を出した。
「どうしてここに?」
「早瀬に教えてもらった。入っていい?」
「あぁ、うん。ちょっと散らかってるけど」
部屋には音楽系の雑誌が確かに散らばってはいたが、散らかっているという程ではない。ふかふかのソファに一枚板のテーブル、白いレースのカーテンに白い壁。まるでモデルハウスだ。
「その辺に適当に座って。あ、お茶でも飲む?」
返事をするより早く佐倉はキッチンへ移動し、お茶を淹れている。いつもよりもずっとぎこちない行動だ。佐倉を追いかけるようにして僕もキッチンへ移動した。
「佐倉って僕のことが好きなの?」
「えっ、あっ、熱っ」
動揺している佐倉の隣に立ち、佐倉の代わりにケトルのお湯をカップに注いだ。それから佐倉を見上げる。
「ぷっ、顔、真っ赤なんだけど」
「見るなよ・・・」
佐倉は自分のお茶を持つと逃げるようにリビングへと戻った。僕はそのままキッチンにいて、ふうふうと息を吐きながらお茶を半分飲んだ。渇いていた喉がゆっくりと潤っていく。一息ついてからリビングに行くと、なぜか佐倉がソファに正座していた。
「悪かった。ほんとに。早瀬に見られたんだろ?俺が首につけたやつ。渉の気持ちも考えずに・・・。ほんと、ごめん」
「もういいよ。確かに怒ってたけど、もういいんだ」
不意に佐倉が僕から目を反らした。
「俺、渉のことが好きなんだ。あんなことをしといて今更だけど」
「いつから?」
「二度目に体を合わせた時にはもう好きになってた」
「そんなに前から・・・」
「早瀬のことが好きなのは痛いくらい知ってたから、あんな風にしか渉に触れることが出来なくて。それでも俺、嬉しかったよ。痛いけど、それ以上に嬉しかったんだ」
佐倉が今度は僕を見た。
「もう触れたりしないから、渉の視界に入るのくらいは許してよ」
「それは困る」
佐倉がくしゃっと顔を歪めたのを見て僕は慌てて言葉を付けたした。
「早瀬のことは好きだけど、僕に触れるのは早瀬じゃなくて佐倉がいいらしい」
佐倉は言葉の意味を理解できていないようでそのままフリーズした。
「だから、僕も佐倉のことが好きみたいだって言った!!」
吐き捨てるように叫ぶと佐倉は一度お茶を飲んで、それから僕に手を伸ばした。
「触ってもいいですか」
「どうぞ」
不機嫌な表情は恥ずかしさを胡麻化すためだ。佐倉が手を広げて僕の体を抱きしめる。包み込む。ふんわりと僕を包んでいた腕が少しずつ強さを増し、ぎゅうううっとなったので僕は佐倉の顔をグイッと手で遠ざけた。
「痛い」
怒りに満ちた言葉にも佐倉は笑う。笑って僕の頬に手を触れた。
「夢みたいだ」
「じゃあ、夢なんだろ」
佐倉の胸倉をつかんで唇を奪うと唇を離した瞬間に奪われた。
佐倉の匂い・・・。佐倉の触れ方だ。
食堂でご飯を食べていると、タカ!?という素っ頓狂な声がして顔をあげた。
「今帰ってきたの?」
「あ、うん」
「朝帰りを通り越して夜帰りじゃん。大学にも来てないみたいだったからちょっと心配した」
早瀬は少し笑いながら軽く言う。
「心配かけてごめん」
「いやいや、謝られるほどのことでは。タカにしては珍しかったからさ、こういうの」
返事に困って白米を口に入れると早瀬が急に真面目な顔をした。
「あのさ、余計なお世話だろうけど、佐倉のこと嫌わないでやってね」
急に出てきた佐倉の名前に驚いて早瀬を見ると早瀬は気まずそうな顔をして僕を見ていた。
「佐倉となんかあったのかなって。あいつ最近妙に落ち込んでて。佐倉って性別とか関係なく恋愛感情を持つ奴でさ。タカには彼女がいるみたいだし、無理にあいつの気持ちに答えようなんてしなくていいんだけど、でも、あいつなりに本気だと思うんだよね」
最初は佐倉との関係がバレたのかと思ったがそういうわけではないらしい。
「え?」
「え?」
お互いに顔を見合わせると早瀬があれ?という表情をして頬を掻いた。
「佐倉に告白されてこう、なんかこじれてるわけでは・・・」
「告白?」
「あーっ!!違うの?え、あ、今の聞かなかったことにしてくれない?」
早瀬がテーブルに突っ伏したまま、自分の頭を抱えた。
「それって佐倉が僕のことを好きだってこと?それはないんじゃない?」
「そんなことはない。幼馴染の俺の目は間違っていない。何かとタカを目で追ってるし、タカがいることに気が付くのはいつも佐倉の方が早かったりするし。タカが好きなお菓子、いつもあいつ持ってるよ」
「僕、貰ったことないけど」
「恥ずかしくて渡せないんだと思う」
「恥ずかしいとか・・噓でしょ」
あの佐倉が僕に対して恥ずかしいなんて感情を抱くはずがない。
「嘘じゃな・・・あー、ヤバイ。だから全部忘れて」
早瀬は再びテーブルの上に突っ伏した。
その日の夜、ベッドに寝そべりながら佐倉のことを考えていた。
佐倉が僕のことを好きだって?
そんな、まさか・・・。
初めての時はどうだっただろうか。簡単に僕に手を出して、面白いから時々手伝ってやると言った。
「好きな相手にする行動じゃないよな。うん」
そうだそうだと頷いて目を閉じるも、浮かび上がるのは情事の最中、僕を見る佐倉の目だ。
「俺としようよ、俺と」佐倉の声がリピートする。
もし、万が一、佐倉が僕を好きだとしたら僕はとんでもなく酷いことをしていたのではないだろうか。佐倉に早瀬を重ね、それを隠すこともなくあまつさえ早瀬の名前を呼んだ。好きな相手にそんなことをされたら僕なら・・・。
「しんどすぎて吐きそうだ・・・」
その日は別の意味で寝苦しい夜だった。
翌日。授業を終えた僕は早瀬に聞いた佐倉のマンションに向かっていた。
「今日に限ってなんで大学休むんだよ・・・」
「50メートル先ノ交差点ヲ右折シテクダサイ。目的地ハ右側デス」
携帯のナビに頼りまくって到着したのは20階建ての高層マンションだ。
噂には聞いてたけど、凄・・・。
見上げたビルの高さに気が遠くなりながらもマンションの入り口で部屋番号を押した。なかなか応答がないので立て続けに5回押す。これは早瀬からの助言だ。
「はいはい。え・・・あ、渉?」
「ここ開けて」
「あ、うん。そのまま上がってきて」
僕が部屋のインターホンを鳴らすと直ぐにドアが開いて佐倉が顔を出した。
「どうしてここに?」
「早瀬に教えてもらった。入っていい?」
「あぁ、うん。ちょっと散らかってるけど」
部屋には音楽系の雑誌が確かに散らばってはいたが、散らかっているという程ではない。ふかふかのソファに一枚板のテーブル、白いレースのカーテンに白い壁。まるでモデルハウスだ。
「その辺に適当に座って。あ、お茶でも飲む?」
返事をするより早く佐倉はキッチンへ移動し、お茶を淹れている。いつもよりもずっとぎこちない行動だ。佐倉を追いかけるようにして僕もキッチンへ移動した。
「佐倉って僕のことが好きなの?」
「えっ、あっ、熱っ」
動揺している佐倉の隣に立ち、佐倉の代わりにケトルのお湯をカップに注いだ。それから佐倉を見上げる。
「ぷっ、顔、真っ赤なんだけど」
「見るなよ・・・」
佐倉は自分のお茶を持つと逃げるようにリビングへと戻った。僕はそのままキッチンにいて、ふうふうと息を吐きながらお茶を半分飲んだ。渇いていた喉がゆっくりと潤っていく。一息ついてからリビングに行くと、なぜか佐倉がソファに正座していた。
「悪かった。ほんとに。早瀬に見られたんだろ?俺が首につけたやつ。渉の気持ちも考えずに・・・。ほんと、ごめん」
「もういいよ。確かに怒ってたけど、もういいんだ」
不意に佐倉が僕から目を反らした。
「俺、渉のことが好きなんだ。あんなことをしといて今更だけど」
「いつから?」
「二度目に体を合わせた時にはもう好きになってた」
「そんなに前から・・・」
「早瀬のことが好きなのは痛いくらい知ってたから、あんな風にしか渉に触れることが出来なくて。それでも俺、嬉しかったよ。痛いけど、それ以上に嬉しかったんだ」
佐倉が今度は僕を見た。
「もう触れたりしないから、渉の視界に入るのくらいは許してよ」
「それは困る」
佐倉がくしゃっと顔を歪めたのを見て僕は慌てて言葉を付けたした。
「早瀬のことは好きだけど、僕に触れるのは早瀬じゃなくて佐倉がいいらしい」
佐倉は言葉の意味を理解できていないようでそのままフリーズした。
「だから、僕も佐倉のことが好きみたいだって言った!!」
吐き捨てるように叫ぶと佐倉は一度お茶を飲んで、それから僕に手を伸ばした。
「触ってもいいですか」
「どうぞ」
不機嫌な表情は恥ずかしさを胡麻化すためだ。佐倉が手を広げて僕の体を抱きしめる。包み込む。ふんわりと僕を包んでいた腕が少しずつ強さを増し、ぎゅうううっとなったので僕は佐倉の顔をグイッと手で遠ざけた。
「痛い」
怒りに満ちた言葉にも佐倉は笑う。笑って僕の頬に手を触れた。
「夢みたいだ」
「じゃあ、夢なんだろ」
佐倉の胸倉をつかんで唇を奪うと唇を離した瞬間に奪われた。
佐倉の匂い・・・。佐倉の触れ方だ。
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