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第四章

37. 終幕

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「さぁ、帰りますわよ。」

ローザがその形跡さえ残さずに燃え尽きた後、ニコラウスさんの案内で魔獣の子供たちを始末すると先生が爽やかに言った。戦いの後とは思えない程明るい声だ。

「ライファも一緒に帰ろう。」

レイの手が思いの外しっかりと私の腕を掴み、私は戸惑って視線を彷徨わせてニコラウスさんを見た。

「あの約束は無効だと言ったでしょう?罪人の私に構わずに君は帰ったらいい。」
「ニコラウスさんはどうなるのですか?」

私の問いにニコラウスさんは分からないというように肩を竦め、代わりにリアン王女が答えをくれた。

「このまま無罪放免とはいかないでしょうね。ターザニアが滅んでしまった今、ここで裁くことは出来ません。
父・・・いや、ユーリスア国王の元へ連れて行きます。そこでどうなるかはユーリスア国王の判断です。」

「そうですか・・・。」
「なんて顔をしてるの?一度は死んだ命、罪人である私の命がどう使われようと私は構わない。」

ニコラウスさんの手が私の頭に向かって伸ばされた瞬間、レイの手が私を引っ張り、それを見たニコラウスさんがクスクスと笑った。

「君は自分のいるべき場所へ帰りなさい。」



 魔力で両手を拘束したニコラウスさんをリアン王女が連れ、ターザニアの船着き場へと移動した。比較的きれいな船の船内にはウニョウによって拘束されたレベッカがいる。ジョン様とグショウ隊長が船内に入り、魔力で拘束し直したレベッカを連れて降りてきた。

「レイ様!!助けに来て下さったのですね!」

レイが自分を助けに来たと疑わないレベッカがレイに駆け寄ろうとするも、グショウ隊長の拘束に阻まれてレイには近づけない。

「いい加減に離しなさい!私を誰だと思っているのですか。アーガルド侯爵家の長女、レベッカ・アーガルドです。この私を犯罪者のように扱うなど。」

レベッカはそう言ってようやくレイの隣にいる私に気が付いたようだった。その視線がレイが掴んでいる私の腕へと注がれると、レベッカは鬼の形相で怒りはじめた。

「拘束しなくてはいけないのはあの女の方ですわ。平民の分際で貴族であるこの私に攻撃してきたのです。あぁ、本当に怖かった。殺されるところでしたのよ!レイ様、婚約者の私を早く助けてください。そしてその女を早く捕まえて!」

レベッカの叫び声にレイは分かり易くため息をつくと一歩前に出た。

「君がローザの協力者であることは疑いようもない。ターザニアを滅ぼす手伝いをし、私に惚れ薬を飲ませ、更にはこの世界をも滅ぼそうとした。弁明の余地はないし、同情すべき点も無い。君はこのままユーリスアにて裁判にかけられる。君とはもう二度と会う事は無いだろう。」

「そんな・・・。私はあなたの婚約者です!!」

「婚約者だと?薬のせいではあるとはいえ君とそんな話をしたことすら後悔している。消してしまいたいほどに・・・。両親が婚約を許さなかったことに心の底から感謝している。」

レイはそう言うとグショウ隊長とジョン様を見た。

「すみませんが護送をお願いしても宜しいですか?本来ならば私がユーリスアの騎士団として連行しなければいけな
いことは理解しているのですが一秒でもその顔を見ていたくない。」

「御心情、お察しします。」

ジョン様の返事にレイはすみませんと頭を下げ、レベッカに背を向けた。

「レイ様!!」
レベッカが悲痛な声を上げる。

「もう私の名を呼ぶな。」

振り向くこともせずに吐き捨てるように言ったレイの声が怒りに震えていた。










 あれから5日。
魔女の家は賑やかな日常を取り戻していた。

「ライファ、パンはもっとある?」
「うん、まだあるよ。」
「じゃあ、持って来よーっと。」

ルカがキッチンへ向かうと入れ替わるようにグラントさんが顔を出した。

「ライファ、食事を少し分けて貰ってもいいか?マリア様は研究に夢中でこちらまで来る気はなさそうだ。」
「勿論。」
「助かる。」

グラントさんがキッチンに消えると、今度は欠伸をかみ殺したリアン王女がリビングに現れた。リアン王女はあの日以来宮殿を出てここで暮らしている。

「また夜更かしですか?」
「えぇ、リベルダ様のお話はとても面白く興味深いことばかりで、ついつい明け方まで。」

そう言って微笑むリアン王女は寝不足でもこの家にいるのが不思議なほどの気品だ。

「ではきっと師匠は昼まで起きてきませんね。」
「ふふ、そうかもしれませんね。」
「リアン王女、こちらをどうぞ。」

パンを取りに行っていたルカがリアン王女のパンも一緒に持って来てくれた。

「ありがとう、ルカ。でも、もう王女ではないからリアンでいいわ。」
「え?呼び捨てにしてもいいってこと、ですか?」
「えぇ、だってルカの方が年上だもの。」
「うわー、なんか凄いっ。」

何やら感激しているルカを他所に私は気になっていたことを聞くことにした。

「ニコラウスさんはどうなったか分かりますか?」

「えぇ、幽閉することに決まったわ。ニコラウスの様子を見てまた犯罪を起こす可能性は低いと判断したの。危険性がないとなれば、ニコラウスを処刑するよりもあの調合の知識をユーリスアの為に利用することにしたのでしょう。」

「そうですか。」
「ほっとした?」

「・・・そうですね。ニコラウスさんには簡単に死んで欲しくはないです。自分が何をしたのか、その罪を見つめて生きて欲しい。」

「・・・そうね。」
「あのレベッカとかいう子はどうなったの?」

「彼女の裁判はこれからよ。生かしておいたところで国に何のメリットもない。自国へ刃を向けた者への処罰は厳しいわ。処刑は免れないでしょうね。それどころか、アーガルド家自体、貴族ではいられないでしょう。」

「ふーん、まぁ、そうだよね。」

自分で質問しておきながらルカはさして興味無さそうに軽く頷いたが、私は処刑という言葉の重さにゾクリとなった。そんな私の様子を気にしてかリアン王女が話題を変える。

「ルカ、グショウの様子はどう?」

「えぇ、もうだいぶ良いみたいですよ。昨日、こっそりトレーニングをして肋骨のヒビを酷くしてマリア様に叱られていましたが。復活したらまた朝早くにトレーニングだと起こされるのかなぁ。」

うんざりした様子のルカの声に思わず吹き出す。

「あ、でも、傷が治ったらオーヴェルに行くのかも。毎日、毎日、ジョンからのチョンピーが飛んできていて迷惑そうにはしているけど、ちゃんと返信している辺り・・・ねぇ。ぷぷっ。」

「えぇっ、どういうこと?」

ルカの言葉にリアン王女が目を大きくして尋ねた。勘の良いリアン王女のことだ。二人についても感じることがあるのだろう。ルカが何も言わなくてもリアン王女は微笑んで「グショウが幸せならそれでいいわ」と続けた。

「で、ライファはどうなの?」
「どうって何が?」
「レイだよ。レイ。何か話した?」
「いや、特には。レイは直ぐに騎士団の元へ行ったし、そんな時間無かったよ。」

ターザニアでレベッカを拘束した後、空間移動魔法陣を使ってユーリスアに戻った。レイはレベッカとニコラウスを連れて騎士団の元へと急ぎ、それ以来会ってない。ゆっくり話す機会など皆無だった。

「チョンピーは?チョンピーくらい来ただろ。いや、リトルマインか。」
「それも無い。」
「はぁ?嘘だろ?ったくレイは何やってるんだか。あ、ライファから連絡してみれば?」

「連絡してみれば?って連絡して何を話すんだよ・・・。」
「何をって。話すことはたくさんあるだろ?」

「まぁまぁ、二人のことは二人に任せるべきよ。何が大切か分かれば何を話さなければいけないか、おのずと分かるものよ。」

「それもそうか・・・。」

リアン王女に言われあっさりと引いてくれたことに少しホッとしていた。ルカの言動を聞く限り、やはりレイの記憶は戻っていると考えて間違いないだろう。

何が大切か・・・か

そしてその日の夜、レイから連絡が来た。


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