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第三章
78. 甘い時間
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呆然としているサリア嬢を残してライファを抱きかかえたまま自身の部屋に連れて行った。ベルが心配そうに私の後をついてくる。
「ライファ、大丈夫?ほら、水飲んで。」
ライファはトロンとした目のまま水を飲んだ。
全く、こんな風になるまで飲ませるだなんてロッド様も無茶をさせる。ライファの誕生日、ライファが初めてお酒を飲む時は自分も側にいたかったのにとロッド様を少し恨んだ。少し、だけだったのはライファからの突然のキスが嬉しかったからだ。
「ありがとう、もう平気。」
そう呟くけれど大丈夫なわけはない。お酒で潤んだ目も上気した肌も何一つ変わっていないのだから。
「お酒、飲み過ぎ。」
「ん、少しだけだよ。少しだけ。楽しかったんだぁ~。」
ライファはそう言うと私を見てふにゃっと笑った。そんなライファの姿を見て安心したのかベルはいつものベッドの位置に丸くなってじっとしている。
「あのね、レイより私の方が足りないみたい。レイ不足。」
ベッドの上にちょこんと乗り私を見てヘラヘラと笑う。
「困ったな・・・。」
いつものライファは少し男勝りでシャキッとしている。運動能力も高くて背筋もすっと伸びていて食べ物を前にしていなければ、という条件付きではあるけれど隙があまりないタイプだと思う。そのライファが隙だらけで私のベッドの上にいて、レイ不足だというのだ。しかも、先ほどは人前だというのにあんなに濃厚なキスをしてきたし・・・。
ライファが乗っているベッドの端に腰掛ける。ライファの顔に手を伸ばせば自身から私の手に頬を寄せてきた。
「参った。」
そのままライファに顔を近づけて軽くキスをする。
「もっと。」
強請られるままキスを繰り返しながら、心の中では葛藤していた。このままライファの全てを自分のものにしてしまいたい。誰も触れたことのないところに触れて誰も見たことのない表情をみたい。その衝動を必死に抑える。お酒に酔っ払っている時に触れるなど言語道断だ。
「・・・レイ、婚約するの?」
「え?」
「サリア嬢と婚約するの?」
心許ないような声で少し縋る様な視線を私に向ける。私を掴む腕にも力が入っているのが分かる。
「しないよ。」
「本当?」
「うん、本当だよ。」
夕食後、サリア嬢に誘われて散歩に出た時にサリア嬢にもそのようなことを言われた。と言っても、両親が私との婚約を望んでいるという話だったが。サリア嬢が私に淡い気持ちを抱いていることにはなんとなく気が付いていた。だからこそ早いうちに私の気持ちを伝えた方がサリア嬢を傷つけなくて済むと考えたのだ。
私はいずれ貴族の地位を捨てるつもりだと告げた時のサリア嬢の驚きと困惑の入り混じった表情を思い出す。私の予定ではその後に、サリア嬢の方からこの婚約話は断って欲しいとお願いするつもりだったのだが、突然のライファの登場によりこの有り様だ。
「・・・良かった。」
「くすっ、心配した?」
「うん。」
こんなに素直なライファは初めてだ。いつものライファなら婚約の話題を出しても「レイが決めることだから」とかなんとか言って誤魔化すに違いない。酔っ払うと理性が薄れるとよく聞く。今なら甘い言葉の一つや二つ、言ってくれるかもしれない。ふと悪戯心に火かついた。
「そんなに私のことが好きなの?」
「・・・うん。」
コクンとライファが頷く。その後たどたどしい口調で「好き」と続けた。告白されて以来の言葉に思わず顔が綻んでしまう。胸の奥から暖かさと愛おしさが湧いてくるかのようだ。。
「どれくらい?」
「・・・たくさん。」
ライファがニコッと微笑む。やばい、可愛い。ベッドの上で悶えてしまいそうだ。こうして、ライファが眠ってしまうまで甘いことを言わせ続けたのは秘密だ。
このままライファと一緒に眠りたかったがここはヘイゼル公爵家。そんなわけにもいかず、ライファをライファの部屋に届ける。一応念のためにとノックをするとライファの部屋から出てきたのはルカだった。
「ライファ、寝たの?」
「あぁ。」
「レイの部屋に置いておくわけにはいかないもんね。ベッドはそっちだよ。」
ライファをベッドに横たわらせながら「ルカは何してたんだ?お茶会は終わっただろ?」と聞く。
「うん、あの後わりと直ぐにお開きになったよ。だから後片付けをしながら飲んでた。」
てへっとルカが舌を出す。
「僕。お茶会の最中は飲めなかったからね。普段じゃ滅多にお目にかかれないようなお酒が目の前にあるんだもん。つまみもあるし飲むしかないでしょ。」
ルカは美味いっと言いながらつまみを口にしては酒を飲んだ。
「それにしても、酔っぱらいのライファはすごかったねぇ。皆の目の前でキスするなんてダイタン。」
ルカがそう言いながら私に怪しい視線を向けてくる。
「・・・なっ、何もしてないよ。部屋で介抱していただけだ。」
「そんなこと聞いてないけど。あぁ、明日のライファの反応が楽しみだなぁ。」
「・・・それは・・・確かに。」
「さて、ライファも戻ってきたし食器を厨房へ戻してから僕も部屋に戻るとするか。」
ライファの部屋の前でルカと別れ自分の部屋の戻ろうとした時、白い寝巻きが視界に入った。
「サリア嬢?」
「レイ様・・・。」
「こんな夜分にいかがなされたのですか?もう23時ですよ。」
「その、少し眠れなくて・・・。屋敷の外を散歩するわけにもいかず屋敷内を歩いておりましたの。あの・・・ライファさんは大丈夫ですか?」
「あぁ、先ほどは大変見苦しいところをお見せしました。初めてのお酒で酔っ払ってしまったようで・・・。」
「お酒って怖いですわね・・・。」
サリアの言葉に少しのトゲを感じる。ここでライファを庇う発言をするのも火に油を注ぐようだと思い、軽く微笑むことでやり過ごした。
「先ほど貴族の地位を捨てるつもりだとおっしゃっていたのはライファさんの為ですか?」
「彼女のため・・・というよりも私自身のためです。彼女がいない日々など私には考えられない。」
「それなら、貴族の地位を捨てなくても一緒にいることはできるのではないですか?私なら、私ならそれでもっ。」
「それはいけません、サリア嬢。確かに世の中には愛人として女性を囲いながら貴族として結婚し家を守る人もいます。でも私にはそれは無理です。私は愛する人の全てを独占したい。そして愛する人にも同じように独占されたいのですよ。ですから、このような男との婚約話はサリア嬢の方からお断りください。」
「レイ様・・・。」
「サリア嬢にはこの先、素敵な男性が現れますよ。それこそ、選び放題です。」
私が微笑むとサリア嬢も私に合わせて微笑んでくれた。
「さぁ、そろそろ部屋に戻りましょう。お部屋の近くまで送ります。」
「いえ、こちらで結構です。深夜に一緒にいるところを見られるのはお互いに困りますもの。」
サリア嬢はそう言うと颯爽と引き返して行った。
そして翌朝。
ノックの音に目を覚ますと緊張した面持ちのライファがドアの前に立っていた。
「そ、早朝に申し訳ありません。お時間宜しいでしょうか!!」
「くくっ、どうぞ。くくくく。」
カチンコチンのライファの姿に笑いをこらえることも出来ずに口元を押さえたまま部屋に通す。ライファは私の部屋に入った途端「昨晩はすみませんでしたぁっ!!」と両膝をついて頭を下げた。
「ぶっ、ぷぷ、くくく、あはははは。」
「そ・・・そんなに笑わなくても。いや、でも、笑ってくれるだけいいか・・・あぁっ、レイ、どうしようっ。」
ライファはそう言うと両手で顔を隠した。
「その反応からすると全部覚えているの?」
「・・・うん。師匠が酔っ払った翌日にこうやって悶えている姿を見たことがあったけど、その気持ちが今よく分かる。いっその事、記憶を失えば良かった。」
「それでいいんじゃない?」
「え?」
「飲み過ぎて途中から覚えていないことにすればいいよ。何事もなかったかのように振舞うんだ。」
ライファは救いの言葉を聞いたかのようにハッと顔を上げた。
「記憶があるってことは昨日私に何を言ったか覚えているってことだよね。それをもう一回言ってくれたら私も全面的に協力するよ?」
「昨日言ったこと?」
「ほら、私のことをどう思っているかとか、どれくらい好きかとか聞かせてくれたよね?他にもたくさん。」
「!!!!」
真っ赤になったライファの反応が可愛くて皆が起きるまでの僅かな時間、どうやって虐めようかとつい考えてしまった。
「ライファ、大丈夫?ほら、水飲んで。」
ライファはトロンとした目のまま水を飲んだ。
全く、こんな風になるまで飲ませるだなんてロッド様も無茶をさせる。ライファの誕生日、ライファが初めてお酒を飲む時は自分も側にいたかったのにとロッド様を少し恨んだ。少し、だけだったのはライファからの突然のキスが嬉しかったからだ。
「ありがとう、もう平気。」
そう呟くけれど大丈夫なわけはない。お酒で潤んだ目も上気した肌も何一つ変わっていないのだから。
「お酒、飲み過ぎ。」
「ん、少しだけだよ。少しだけ。楽しかったんだぁ~。」
ライファはそう言うと私を見てふにゃっと笑った。そんなライファの姿を見て安心したのかベルはいつものベッドの位置に丸くなってじっとしている。
「あのね、レイより私の方が足りないみたい。レイ不足。」
ベッドの上にちょこんと乗り私を見てヘラヘラと笑う。
「困ったな・・・。」
いつものライファは少し男勝りでシャキッとしている。運動能力も高くて背筋もすっと伸びていて食べ物を前にしていなければ、という条件付きではあるけれど隙があまりないタイプだと思う。そのライファが隙だらけで私のベッドの上にいて、レイ不足だというのだ。しかも、先ほどは人前だというのにあんなに濃厚なキスをしてきたし・・・。
ライファが乗っているベッドの端に腰掛ける。ライファの顔に手を伸ばせば自身から私の手に頬を寄せてきた。
「参った。」
そのままライファに顔を近づけて軽くキスをする。
「もっと。」
強請られるままキスを繰り返しながら、心の中では葛藤していた。このままライファの全てを自分のものにしてしまいたい。誰も触れたことのないところに触れて誰も見たことのない表情をみたい。その衝動を必死に抑える。お酒に酔っ払っている時に触れるなど言語道断だ。
「・・・レイ、婚約するの?」
「え?」
「サリア嬢と婚約するの?」
心許ないような声で少し縋る様な視線を私に向ける。私を掴む腕にも力が入っているのが分かる。
「しないよ。」
「本当?」
「うん、本当だよ。」
夕食後、サリア嬢に誘われて散歩に出た時にサリア嬢にもそのようなことを言われた。と言っても、両親が私との婚約を望んでいるという話だったが。サリア嬢が私に淡い気持ちを抱いていることにはなんとなく気が付いていた。だからこそ早いうちに私の気持ちを伝えた方がサリア嬢を傷つけなくて済むと考えたのだ。
私はいずれ貴族の地位を捨てるつもりだと告げた時のサリア嬢の驚きと困惑の入り混じった表情を思い出す。私の予定ではその後に、サリア嬢の方からこの婚約話は断って欲しいとお願いするつもりだったのだが、突然のライファの登場によりこの有り様だ。
「・・・良かった。」
「くすっ、心配した?」
「うん。」
こんなに素直なライファは初めてだ。いつものライファなら婚約の話題を出しても「レイが決めることだから」とかなんとか言って誤魔化すに違いない。酔っ払うと理性が薄れるとよく聞く。今なら甘い言葉の一つや二つ、言ってくれるかもしれない。ふと悪戯心に火かついた。
「そんなに私のことが好きなの?」
「・・・うん。」
コクンとライファが頷く。その後たどたどしい口調で「好き」と続けた。告白されて以来の言葉に思わず顔が綻んでしまう。胸の奥から暖かさと愛おしさが湧いてくるかのようだ。。
「どれくらい?」
「・・・たくさん。」
ライファがニコッと微笑む。やばい、可愛い。ベッドの上で悶えてしまいそうだ。こうして、ライファが眠ってしまうまで甘いことを言わせ続けたのは秘密だ。
このままライファと一緒に眠りたかったがここはヘイゼル公爵家。そんなわけにもいかず、ライファをライファの部屋に届ける。一応念のためにとノックをするとライファの部屋から出てきたのはルカだった。
「ライファ、寝たの?」
「あぁ。」
「レイの部屋に置いておくわけにはいかないもんね。ベッドはそっちだよ。」
ライファをベッドに横たわらせながら「ルカは何してたんだ?お茶会は終わっただろ?」と聞く。
「うん、あの後わりと直ぐにお開きになったよ。だから後片付けをしながら飲んでた。」
てへっとルカが舌を出す。
「僕。お茶会の最中は飲めなかったからね。普段じゃ滅多にお目にかかれないようなお酒が目の前にあるんだもん。つまみもあるし飲むしかないでしょ。」
ルカは美味いっと言いながらつまみを口にしては酒を飲んだ。
「それにしても、酔っぱらいのライファはすごかったねぇ。皆の目の前でキスするなんてダイタン。」
ルカがそう言いながら私に怪しい視線を向けてくる。
「・・・なっ、何もしてないよ。部屋で介抱していただけだ。」
「そんなこと聞いてないけど。あぁ、明日のライファの反応が楽しみだなぁ。」
「・・・それは・・・確かに。」
「さて、ライファも戻ってきたし食器を厨房へ戻してから僕も部屋に戻るとするか。」
ライファの部屋の前でルカと別れ自分の部屋の戻ろうとした時、白い寝巻きが視界に入った。
「サリア嬢?」
「レイ様・・・。」
「こんな夜分にいかがなされたのですか?もう23時ですよ。」
「その、少し眠れなくて・・・。屋敷の外を散歩するわけにもいかず屋敷内を歩いておりましたの。あの・・・ライファさんは大丈夫ですか?」
「あぁ、先ほどは大変見苦しいところをお見せしました。初めてのお酒で酔っ払ってしまったようで・・・。」
「お酒って怖いですわね・・・。」
サリアの言葉に少しのトゲを感じる。ここでライファを庇う発言をするのも火に油を注ぐようだと思い、軽く微笑むことでやり過ごした。
「先ほど貴族の地位を捨てるつもりだとおっしゃっていたのはライファさんの為ですか?」
「彼女のため・・・というよりも私自身のためです。彼女がいない日々など私には考えられない。」
「それなら、貴族の地位を捨てなくても一緒にいることはできるのではないですか?私なら、私ならそれでもっ。」
「それはいけません、サリア嬢。確かに世の中には愛人として女性を囲いながら貴族として結婚し家を守る人もいます。でも私にはそれは無理です。私は愛する人の全てを独占したい。そして愛する人にも同じように独占されたいのですよ。ですから、このような男との婚約話はサリア嬢の方からお断りください。」
「レイ様・・・。」
「サリア嬢にはこの先、素敵な男性が現れますよ。それこそ、選び放題です。」
私が微笑むとサリア嬢も私に合わせて微笑んでくれた。
「さぁ、そろそろ部屋に戻りましょう。お部屋の近くまで送ります。」
「いえ、こちらで結構です。深夜に一緒にいるところを見られるのはお互いに困りますもの。」
サリア嬢はそう言うと颯爽と引き返して行った。
そして翌朝。
ノックの音に目を覚ますと緊張した面持ちのライファがドアの前に立っていた。
「そ、早朝に申し訳ありません。お時間宜しいでしょうか!!」
「くくっ、どうぞ。くくくく。」
カチンコチンのライファの姿に笑いをこらえることも出来ずに口元を押さえたまま部屋に通す。ライファは私の部屋に入った途端「昨晩はすみませんでしたぁっ!!」と両膝をついて頭を下げた。
「ぶっ、ぷぷ、くくく、あはははは。」
「そ・・・そんなに笑わなくても。いや、でも、笑ってくれるだけいいか・・・あぁっ、レイ、どうしようっ。」
ライファはそう言うと両手で顔を隠した。
「その反応からすると全部覚えているの?」
「・・・うん。師匠が酔っ払った翌日にこうやって悶えている姿を見たことがあったけど、その気持ちが今よく分かる。いっその事、記憶を失えば良かった。」
「それでいいんじゃない?」
「え?」
「飲み過ぎて途中から覚えていないことにすればいいよ。何事もなかったかのように振舞うんだ。」
ライファは救いの言葉を聞いたかのようにハッと顔を上げた。
「記憶があるってことは昨日私に何を言ったか覚えているってことだよね。それをもう一回言ってくれたら私も全面的に協力するよ?」
「昨日言ったこと?」
「ほら、私のことをどう思っているかとか、どれくらい好きかとか聞かせてくれたよね?他にもたくさん。」
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