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第三章

68. ルカの真実

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キュン
脱衣所からベルが顔を出した。ライファが露天風呂に行ったよと知らせに来てくれたらしい。脱衣所で服を脱ぎ、びしょ濡れになった服を袋に入れる。リューゼンが私を包んだシャボン玉のような丸は本当に魔力を通さなければ割れないようで、ぐぐっと丸を手で押すと割れることもなく手だけを丸の外に出すことが出来る。

「・・・この丸、便利だな。」
「レイ、先に行くよ。」
「ルカ、前隠さないの?」

タオルを持つこともせず真っ裸で浴室の扉を開けようとしているルカに声をかけた。

「うん、男同士だし見られてもいいだろ。お風呂では開放的になりたいのっ。」

さすが旅人・・・。男同士とはいえさすがに真っ裸は恥ずかしい。腰にタオルを巻いていると、浴室から叫び声がした。

「ルカ!?」

慌てて浴室のドアを開けようとすると、待て!と叫ばれる。だが叫ばれても遅い。ルカに何かあったかと思った私は勢いよくドアを開けた。

「ラ、ライファ!?」
目の前には体にタオルを巻いたライファと、前を手で押さえてしゃがみ込んでいるルカがいた。

「タオル巻いてたら一緒でもいいじゃん、と思って。」
笑顔のライファに呆れて言葉が出ない。

「レイ、悪いけどタオル持ってきてくんない?さずがに僕も真っ裸というわけには・・・ね。」
「その必要はない。」
「へっ?」
「ライファはあっち。今すぐあっち!!」

ビシッと露天風呂の方を指さす。

「えー、ルカとレイが楽しく一緒に入るっていうのに私だけ別ってつまらないじゃん。」
「ベルがいるだろ!」
「ベルとはいつも一緒に入ってるもん。」
「とにかく、ライファはあっち!!」

ライファに向かって魔力で壁を作ると、その壁でグイグイとライファを露天風呂の方へ押し出していく。

「えぇー、仲間に入れてよー。」

ライファが魔力の壁にぴったりくっついた姿を見て、顔が赤くなりそうだ。魔力の壁は透明だ。その壁にこちらを向いたまま押され、抵抗を見せるライファは当然のことながら壁にピタッとくっつく状態になる。そうなるとどうしても自然と目がいってしまうのは男としてどうしようもないことだと思う。壁に押し付けられる胸って・・・。

「ルカ、むこう向いてて。」
「はいはい。レイも苦労するねぇ。ぷぷぷ。」

私は魔力に任せてライファを露天風呂に追い出すと、こちら側に入って来られないようにドアに結界を張った。むぅーっという声が聞こえるが気にしない。だいたい、ライファの基準はどうなっているのだ!?
二人でベッドに入っていた時はあんなに恥ずかしがっていたのに。露出度的には今の方が高いだろうが!

「はぁ・・・。」

「くくくく、普通は反応が逆だと思うんだけどね。まさかライファの方がノリノリでレイが拒否だなんて。うける。レイ、顔赤くなってるし。」

「うるさい。」
ルカに言われ、火照った顔を冷ますように冷たい水で顔を洗う。

「オニーサンとしては二人の恋愛を微笑ましく見ているのだよ。」
「誰がオニーサンだよ。」
「レイって何歳?」
「16。」
「僕、二十歳。ね、人生の先輩でしょ。オニーサン。」

ルカはからかうような口調でご機嫌だ。

「はいはい。オニーサンね。」
「レイはさ、レイファとのことこの先どうするつもりなの?」
「どうしたんだよ、急に。」
「いや、なんとなくさ。ライファにちゃんと伝えているのかなって思って。」
「一緒にいたいと思ってるよ。ライファにもそう伝えてある。」

言葉にすると急に恥ずかしくなって、口元を隠すように湯に深く浸かった。

「それはどういう立場で一緒にいようって言ったの?」
「え?どういう意味?」
「ライファは平民だよ。貴族にずっと一緒にって言われたら、愛人としてだと思うだろうね。」

「そんな・・・。ライファ以外とどうこうなりたいなんて思ってないよ。だけど、さ、別の道を選ぶには準備が必要だから。」

「そう。いや、レイがちゃんと先のことも考えているのか気になっただけだから。考えているのならいいんだ。」
ルカがニコッと笑う。
「そういうルカこそどうなんだよ。人生の先輩は誰かいい人はいないわけ?」

「僕?僕は・・・女の子はみんな好きっ。」
「人にばっかり喋らせといて、これだから大人はずるい。」
「ケケケケケ。」

ルカはふざけたように笑ったあと、真剣な声になった。

「実は探している人がいるんだ。ハンター仲間でねー。後先考えずに無茶なことばっかりするからよく怪我してたなー。」

「連絡取れないの?旅の途中でそれらしい人を見かけたら声かけるよ。」
「ありがとう。」
「どこに行くとか言ってなかった?」
「・・・ターザニアに。」
「ターザニアだって!?それっていつ!いつだ?」

突然のことに思わず立ち上がった。

「ターザニアが滅ぶ前日にターザニアに着いたと連絡があった。」
「ルカ・・・。」
「そんな顔するなよ。一つの国が誰一人生き残ることなく滅びるなんてあると思うか?」
「・・・続きはお風呂を上がってからにしよう。」
「続きってなんだよ。」

ルカが困ったように笑った。ルカの探し人が本当にターザニアにいたのなら生きてはいないだろう。あの時、生存者はいないかとリベルダ様と一緒に魔力を使って国全体を探した。そうして見つけたのがライファとグラントだけだったのだ。生きていると思い探し続けるのがルカにとって幸せなのか、死を受け入れる方が幸せなのか私には判断がつかない。ただ、あの日ターザニアで何が起こったのか、ルカが知りたいというのなら話すべきなのではないかと思った。




コンコン

「はい。」
「ライファです。」
「どうぞ。」

ライファは私の部屋に入るなり、部屋に漂う重い空気を察したようだった。少し不安げな表情をして訪ねた。

「どうした?なんかあった?」

「ライファ、ルカには探している人がいて、その人はターザニアが滅ぶ前日にターザニアに入国したことが分かっている。」

ターザニアを口にした瞬間、ライファの表情がこわばった。

「嫌だなぁ、ライファまでそんな顔しないでよ。無鉄砲なとこがあって怪我もよくしていたけど、悪運は強い子なんだ。だからどっかで生きているかもしれないし。」

「ルカはあの日ターザニアで何が起こったか知りたいと思う?あの日のターザニアがどんなふうだったか・・・。」

ライファは少し上目づかいになりながら挑むかのように拳を小さく握っていた。あの日のことを話すことはライファにとっては未だに恐怖でしかないのだ。

「なにそれ?まるであの日にターザニアにいたみたいな言い方して。」
「その通りだ・・・。あの日、私はターザニアにいた。」
「まさか・・・。」

そう呟いた後ルカがハッと顔を上げた。

「教えてくれ。ターザニアで何があったのか。彼女が生きている可能性はあるのか。」
ルカの縋る様な目にライファが頷き、重い口を開いた。

「あの日私は、フォレストという宿屋にいた。」

ライファは絞り出すような声で、ゆっくり語っていく。時々ギュッと目を閉じるライファの姿が痛みを堪えているかのようで、ライファの隣に行くとその手を握った。ルカは表情を変えることなくライファの話をじっと聞いている。夜が明けた後に見た国、どうして自分は生き残ったのか、ようやくライファがターザニアに起こったことを話し終えた時、ルカがライファを見た。

「ライファは彼女が生きていると思うか?」
それは静かな問いかけだった。ライファは一瞬迷うように視線を彷徨わせたが、心を決めたように首を振った。

「ターザニアのどこかに身を隠して、偶然生き残る可能性は・・・。」

「ルカ、ターザニアが滅んだ直後、私もターザニアに行ったんだ。ライファのお守りが発動したのを受けて直ぐにターザニアに向かったから、ターザニアに一番早く上陸したのは私だ。もう一人、私よりも凄い魔力を持つ者と共に生存者はいないか国中をくまなく探した。僅かな魔力の反応でもあればと。」

ルカは私の顔を見て、そしてその後に続く言葉を察したようだった。

「そうか・・・。すまないが一人にしてもらってもいいか。部屋に戻って少し、休みたい。」
「あぁ。」

立ち上がって部屋を出ていくルカの手をライファが握った。

「ルカ。」
ルカはライファに心配させまいと思ったのか、曖昧に笑ったまま部屋を出ていった。


そして夕食前。自室から出てきたルカはいつも通りのルカに見えた。まさかルカの探し人がターザニアのあの事件に巻き込まれていたとは思わなかった。ターザニアに住んでいなくても、一時ターザニアに来てあの事件に巻き込まれた人、ターザニアで大切な人を亡くした人がどれ程いるのかと想像すると、水の中に深く潜った時のような息苦しさと恐さを感じる。その日はそのまま過ぎ去り、ルカもレイも私もターザニアのことを口にすることは無かった。


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