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第三章

49. 合流

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「君が飛ばしているチョンピーだけど、チョンピーはレイの元へ飛んでいこうとしていると思うんだ。異空間にいてもチョンピーにはレイがどこにいるかがわかる。レイの魔力を一番強く感じる場所に飛んでいっているのだと思う。魔力を一番強く感じられるところ、つまりそこが異空間への壁が一番薄いところ、もしくは穴かなんかが開いているんじゃないかな。」

「それはつまり、レイの魔力を感じるところに飛んで行ってはいるけど、異空間から出ることが出来ずに私の元へ戻ってきているということですか?」

「そう、居場所が全然わからないのであればチョンピーはどこへも行かないと思う。レイの気配を感じるからこそ飛んでいくんだ。」

「それじゃあ、常にチョンピーを追って行けば元の世界にもどれるかもしれない?」
「そういうことになるね。ただし、チョンピーの後を追って行くことができればだけど。」
「はっ!それって・・・不可能じゃないですか!!」

チョンピーの最高速度はおよそ時速1200キロ。音速に等しいといわれている。そんなもの追えるわけがない。目で追うのでさえ無理なのだ。せいぜいスピードが上がる前、飛び立った直後のチョンピーを見るのがやっとだ。元の世界に帰れると一気に浮上した心が粉々に打ち砕かれた気分だ。がっくりと項垂れる。

「そんなに落ち込まないでください。チョンピーが放った場所から近くに飛ぶときはスピードも上がらないでしょうし、方向は分かりますよ。運試しのようですけどね。」

ニコラウスさんの言葉に顔を上げた。

「そうですよね。今まで何も思いつかなかったのに、今はひとつ方法が見つかった。それだけでも元の世界に一歩近づいた気がします!」

私が気合を入れるとニコラウスさんがくすくすと笑った。

その時から暇さえあればチョンピーを飛ばした。魔力が足りなくなればニコラウスさんに隠れて回復薬で回復させ、すぐに追いかけられるようにとチョンピーも用意した。

「頑張るねぇ。」

その声のする方を見ると、草の上で横になっているニコラウスさんがいた。幽玄の木が見つかってからというもの、ニコラウスさんは昼寝をするか薬材を並べてニヤニヤするかのどちらかだ。

「ニコラウスさんもチョンピーを飛ばしてくださいよ。」

「私がチョンピーを飛ばしてもレベッカは私を探したりはしないよ。むしろ私から連絡が来たことを隠すんじゃないかな。彼女にとってはレイと二人でいられる今が最前だろうから。」

「・・・そんなにレベッカ様はレイ様のことが好きなのですか?」
「好きなんて生易しいものじゃないと思うよ。」
「それって・・・。」

「まぁ、私も恋愛感情というものはよく分からないのでね、これ以上何にも言いようはないのだけれど。ほら、話しなんかしていていいの?早く戻りたいんでしょ。」

ニコラウスさんの言葉に背中を押されるようにまたチョンピーを飛ばし始めた。



異空間に来て3日目。
後を追えない猛スピードのチョンピーが私の元へ戻っては飛んでいき、それを3回繰り返したところで戻ってきた。なんとか追いかけたもののまたもや見失い、そうこうしているうちにチョンピーは私の元から離れなくなった。

「また失敗か・・・。」

ニコラウスさんから元の世界に帰る方法を教えてもらってから何度もチョンピーを飛ばし、チョンピーが私の元へ戻って動かなくなったときはレイの魔力を見失った時なのだと想像がついた。戻ってきてもレイの魔力を感じるとチョンピーはまた飛んでいくからだ。もしかしたらレイの魔力は点滅しているのかもしれない。だからチョンピーは行ったり来たりを繰り返すのだ。そして完全に止まってしまうと、そのすぐ後にチョンピーを飛ばしても反応がないことが多い。

「また失敗したの?頑張るねぇ。」

異空間3日目になるとニコラウスさんは魔力の持つ葉っぱや木を持ってきてはなにやら調合を始めた。その効力が何なのかが分からないまま調合することは危険なので、葉っぱの効力をお湯に移し、それを草に垂らしたり魚に与えたりしてどんな効力を持っているかを調べているらしい。今のところニコラウスさんが集めた葉っぱや枝の効力は、眠り効果1やジャンピング効果2、鎮静効果1など危険な効果のものではないことをスキルで確認済みなので、ニコラウスさんが効力を調べているのを遠巻きに眺めている。

「ニコラウスさんは帰りたくはないのですか?」

私に助言はしてくれるものの、帰る為の行動を全然起こさないニコラウスさんが不思議でたまらない。

「そうだな、帰ってもいいし、帰らなくてもいい。神の意思にでも任せようと思ってね。ここでの生活は案外悪くない。ここで私と一緒に暮らすかい?」

「冗談はやめてください。」

ため息交じりに返事をするとニコラウスさんは面白そうにくすくすと笑った。何はともあれニコラウスさんが全力で協力してくれることはなさそうだ。私はニコラウスさんから少し離れるとシューピンを足元に置いて、またチョンピーを飛ばした。チョンピーはふわっと浮くと私から3mも離れていない場所に立っている木の枝の間を通るとまた引き返しては同じことをくり返す。

「ニコラウスさん、空間の壁が薄くなっているところを見つけました!」
私はチョンピーが何度も挑戦している場所の下で空間が空くのを待機する。

「ベル!おいで!!ニコラウスさんも早くこっちに来てください!」

私の叫び声に急いで私のポンチョの中におさまったベルに対し、ニコラウスさんは急いでいるのかいないのか分からないような動作身の回りのものを集めて私の元へ来た。するとチョンピーがにゅうっと空間に突き刺さり、突き進むかのように身をよじった後消えた。

「ここだ!」

叫んだはいいが、シューピンがやっと通り抜けられただけのスペースだ。自身が通れる気がせず、どうすればいいのかと空間を見つめていると、突然静電気のような小さな稲妻が走った。
直後、裂け目からレイが降ってきたのだ。

「レイっ!!」

喜びと驚きのあまりに声を上げる。レイは可憐に着地すると私を抱きしめた。

「良かった、会えた・・・。」

レイの声、体温、匂いに、なるべく見ないようにしていた不安が溶けて消えていくのを感じる。ベルが窮屈そうにうぎゅううっと鳴いて服の中から飛び出した。

「見つけてくれてありがとう。」
レイは少し離れると私の顔を見た。

「どこも怪我してない?大丈夫?」
「うん、大丈夫。」

「再会を喜んでいるところ悪いんだけど、私もいるからね。」

忘れ去られていたニコラウスさんが声を上げたことでレイがニコラウスさんを見た。

「ニコラウスさんもお怪我は無いですか?」
「とってつけられたように言われてもねぇ。まぁ、怪我は無いけど。」

ニコラウスさんの言葉にレイがばつの悪そうな顔をした。



「どうやってここに来たの?」

「ライファの魔力をずっと探していたんだ。そしたらライファの魔力が点滅するところを見つけて、そこに円錐型にした私の魔力を差し込んだ。そしたらチョンピーが出てきて、ライファがいることが確認できたから更に穴を広げて飛び込んだ。上手くいって良かったよ。」

「レイさんの魔力は凄いですね。流石とでもいうべきか。そう言えばレベッカ様は?」
「・・・置いてきてしまいました。空間の裂け目に急いで飛び込まなくては消えてしまうと思ったので。」
「まぁ、そうですよね。あんなお子様のお守りをしていたら逃してしまいますからね。」
「ニコラウスさん、その言い方!」

私がニコラウスさんの言い方を咎めると、ニコラウスさんは本人がいないところでくらいいいじゃん、とツーンとした。

「ニコラウスさんも結構子供っぽいところありますよ。その、ツーンとした感じとか。」
「私の場合、時と場を弁えているからいいんだ。」
「・・・随分仲良くなったんだね。」

私とニコラウスさんのやり取りを見ていたレイが呆然とした表情で呟いた。

「そうかな。それよりレイ、どうやって帰る?」
「来た時と同様に今度はレベッカの魔力を探すよ。彼女の魔力は強いから見つけやすいと思う。」


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