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第三章

40. 薬材を購入する

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ゴードン薬材は老舗の薬材屋、という感じだった。店内のインテリアは落ち着いた暗いブラウンで統一され、年代ものの棚ではあるもののよく掃除されているようで艶やかな光を帯びていた。薬材の臭いがする・・・。薬材の臭いが籠った空間は家の調合室を思わせて懐かしい気持ちにさせられる。薬材は透明な瓶に入って綺麗に並べられており、瓶の手前には植物名・魔獣名、そして効果、効力が書かれてあった。

「あ、これブンの木の実だ。珍しいな、葉っぱの方が効力が高いのに。」
「くす、こういうお店が近くにあればあの時、無茶しなくてすんだのにね。」
「それはそうだけど。ブンの木に挑むのも結構楽しかったなー。」

「もぅ、ほどほどにしてね。」
「ムラサキ花【デトックス効果 4】だって。毒を排出させる効果は持っていた方がいいかも。」
「そうだね。少し買っていこう。」

それと・・・。私は店内を見回して、お目当ての効果のものを発見した。

「レイ、これ、これは持っておきたい。」

私の手にあるのはテンレンカの実だ。扱ったことは無いがこの効力【成長効果2】に惹かれたのだ。成長効果は上手くいけば薬の効力を引き上げる効果がある。もっと効力が高いものだとあまりに高価になってしまうので、ほどほどなものを選んだ。それでも、100gで5000オンもする。注意書きには【火の効果をもつ薬材とは相性が合わない。】とだけ書かれていた。

「あ、こっちは、【BIG効果3】だって。体が大きくなるのかな。大きな魔獣と戦う時に良さそう。」
「確かに体が大きい方が戦いやすいこともあるだろうけど・・・。興味があるの?」
「うん、面白そう。」

「ライファはすっかり調合師だね。騎士団の調合師も色々な薬材をコレクションしたがるよ。兄さんが面倒な仕事を頼むときは珍しい薬材をお土産ににすれば喜んで了承するから扱いが楽だと言っていた。」

「扱いが楽って・・・。」
さすがはヴァンス様だな・・・。ははは。

「あ、この花【空腹効果】って書いてあるよ。ライファにぴったりじゃない?これがあれば美味しいものがたくさん食べられるよ。」

「ほっ、本当だ!食べ放題じゃん。」
「はっはっはっは、食いしん坊さんには人気の薬材だが、食べたぶんはしっかり太るから気をつけねばいかんぞ。」

背後から声がして振り返ると、私と同じ視線の位置にゴードン・キーがいた。

「ゴードンさん!?」

「さっき、私の話に最初に手を叩いてくれたお嬢ちゃんじゃろ?薬材も買っていってくれるなんてありがとうさん。」

ゴードンさんが嬉しそうに話しかけてくる。

「いえ、お話、参考になりました。」

「それは良かった。最近じゃワシが嘘を言っていると疑う者も多くてのう。まぁ、内容が内容じゃから仕方ない部分もあるが・・・。だが、あの話は全部本当じゃ。」

「幽玄の木はゴードンさんの目の前で現れたのですか?それとも、目を開けたらいたのですか?」
レイの言葉にゴードンさんは、目を開けたらいたのじゃ、と答えた。

「ガチョパールの森にはゴードンさんが幽玄の木を見たという場所はあるのですか?その後、行ったことは?」
「その後、何度かあの場所を探しに行ったのだが、とうとう見つけられんかった。」

「そうですか。ガチョパールの東の崖の下まで分かっていれば見つけられそうですけど、見つけられないなんて不思議な場所ですね。」

「本当に、夢のような体験じゃったよ。さぁ、レジが空いたな。私がお会計しよう。」
ゴードンさんはそう言うと、薬材の値段を少し安くしてくれた。



「これは長期戦になるかもしれないな。」
森の入り口に立ったレイが周りを見て呟いた。森の入り口にはたくさんの観光客、いや、幽玄の木めあての人達がいた。

「うん、これだけの人が探しても15年前にゴードンさんが見つけたっきりなのなら、幽玄の木に出会うのは本当に奇跡に近いよ。」

「見つけるまでは森生活か。」
「食材はある程度あるし、キノコとか食べられそうなものがあったら収穫しながら探そう。」

「そうだね。これだけの人がいるということは魔獣への遭遇率は低いのかもな。ライファのいう通り、キノコや木の実など食べられそうなものは採りながら行こう。肉は期待できそうにないかな。とりあえず、ゴートンさんの言っていた森の東の崖を見に行くか。」

レイと並んで森の中を歩くが、私たちの他にも数十人が同じ方向へ歩いていく。きっと彼らもゴートンの話を聞いた人たちなのだろう。こんなに人が歩いていれば、崖までの道のりで迷うことはまずないだろう。ベルは穏やかな気候の中での森ということで嬉しそうだ。私たちを見失わないようにと気をつけながらも、あっちの木、こっちの枝とあ
ちこちの自然に触れている。

どうも薬材を採りに行く気がしない。この感じ、まるでハイキングのようだ・・・。

「まるで観光名所めぐりみたい・・・。」
「ほんとだね。この人の列にいる限り、幽玄の木に会える気がしない。」

森のあちこちで布を敷いてお茶をしている人々を横目にどんどん歩いて行くと、少し先に皆が横一列に並んで何かを覗き込んでいるのが見えた。

「あそこが崖らしいね。」
レイが笑いながら言う。

「本当に分かりやすい・・・。」

私たちも皆と同じように下を覗いてみたが、よくある崖下で崖の下にはジャンプすれば飛び越えられそうな程の細い川が流れているだけだった。

「ゴードンさんが言っていた明るい光で満たされた森、ではないことは確かだな。」
「ねぇレイ、崖から落ちた衝撃で記憶が混乱した可能性は無いかな。」
「無くはないだろうね。でも、まぁ現段階ではここには現れなさそうだなってことは言えると思う。」

「私もそう思う。」
「森の奥を目指してみようか。あまり人が来ないところに現れそうな気がする。勝手なイメージだけど。」
「レイも勘で動いたりするんだね。」
「そりゃあ、この場合、よく分からないことだらけだしね。情報が少なすぎる。」

それから私たちは森の奥へ奥へと進んだ。奥へ行くと森の緑は濃くなり、あんなにたくさんいた観光客風の探索者たちはいなくなった。

「ライファ、川沿いを行こう。水は何かと必要だし、川には魚もいるからね。」

レイの言うとおりに川沿いを拠点にしながら幽玄の木を探す。目覚めてから日が沈むまで食事の時間以外は森を歩き続けた。そんな日が10日間続きさすがに私たちも焦り始めていた。

「今日も見つからなかった・・・。」

「そう簡単に見つかるわけがないと分かっていてもいつまでこの日々続くのだろうと思ってしまう・・・。はぁ。」
珍しくレイが弱音を吐いてため息をついた。

「もう一度ゴードンさんの話を分析してみよう。もしかしたら何かヒントがあるかもしれない。」

「あぁ、でも見つけたところの下りは、『崖から足を踏み外して落ちたら明るい光で満たされた森だった』だよ。ヒントも何も・・・。」

「そうだよね。突然、森が現れてそこに幽玄の木がいたって感じだもんなぁ。」
「・・・突然森が現れた!?幽玄の木じゃなく森が現れたと仮定する・・・。」

レイが呟いて何かを考えるような仕草を見せてからハッと顔を上げた。

「ライファ、もしかしたら別空間なのかも。」
「別空間!?」
「次元の歪みみたいなところから、ゴードンさんは偶然別空間に行ったのかもしれない。」
「5年に1度、歪んだ空間が現れるってこと?」

「どうかな。もしかしたら5年に1度ってのも誰かが勝手に決めたものかもしれないし。でも、ここに隣接する空間があってそこには幽玄の木がいる。たまたまゴードンさんは空間の歪みに落ち、幽玄の木に出会った。そう考えればゴードンさんのふわっとした説明も辻褄が合う気がする。私の考えた通りなら空間の歪みに落ちたことよりも戻ってこられたことの方が奇跡だと思うよ。」

レイは嬉しそうに微笑んだ。

「一歩前進したような気がする。明日は魔力を使って空間の歪みを探してみるよ。その歪みから別空間に行くことが出来れば、幽玄の木に会える。」

レイの中で確信に近い物があるのだろう。その声は先ほどの気弱な声とは違い、自信に満ち溢れた声だった。




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