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第三章

35. リトルマイン会議

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 ドーリーを発って二日目のことだった。ガルシアを離れ海上を飛獣石で飛んだ私たちは、無人島で夜を明かすことにした。ジェシーさんからもらった野菜とアカントの肉で簡単な夕食を済ませ、明日の準備を整えているとリトルマインから声がした。

「ライファ、レイ、いるか?」
「師匠!?います!」

突然リトルマインから響いた声に返事をしながら慌ててリトルマインを出した。レイを呼んで一緒に座る。

「グショウからの情報がある。グショウと話をしていたのだがお前たちも知っていた方がいいと思ってな。今話せるか?」

「はい、大丈夫です。」
『ライファさん、レイさん、お元気でしたか?』
「グショウ隊長!?これはどういうことですか?」

『リベルダ様がリトルマインを繋いで、みんなで話せるようにしてくれたのですよ。』
「そういうことだ。グショウ、話せ。」

『私は今、ターザニアを滅ぼした犯人を追ってフランシールにいます。ガルシアでライファさんたちと別れた後、犯人のアジトだったと思われる山小屋でフランシールの騎士団と会ったのです。彼らはターザニアを滅ぼしたのはガルシアでその証拠を探しに来たのだと言いました。そして山小屋で犯人がガルシアだと示す証拠が見つかった。私は本当の犯人がガルシアを犯人に仕立てようとしているのだと考えました。』

私とレイはグショウ隊長の話を、息を飲んで聞いていた。とてつもない不安が胸の中に生まれ落ち着かない。

『フランシールはガルシアが次にターゲットにするのは自分たちの国だと思っています。そして、もうじきフランシールがガルシアに攻撃を仕掛けるという情報を手に入れました。』

「なんだと!?」
レイが驚きの声を上げた。

「犯人の目的はなんだ?フランシールを煽り、ガルシアを攻撃させる。となれば、当然ガルシアも仕掛けてくるだろう。」

『えぇ、その通りです。このままでは戦争が起こるでしょう。』
二人の言葉に師匠が話し始めた。

「・・・目的は戦争を起こすことか。単に国を滅ぼしたいだけなら、ターザニアの時のように薬や魔獣を使って直接手を下せばいい。そうせずに、ターザニアを起爆剤に国同士を争わせるつもりか。まるで自分たちで滅びろと言っているかのようだな。」

「そんな・・・何とかして戦争を止める方法はないのですか?師匠っ。」
私の悲痛な声に皆が考え込むように口を閉じた。その時、師匠のリトルマインからグラントさんの声がした。

「私が犯人として捕まるのはどうでしょうか。犯人として捕まれば、国が滅ぼされるかもしれないという不安はなくなるのでは?処刑されてもどうせ死にませんし。」

「それはダメだ。お前のスキルは回数制限があるかもしれないという可能性は拭いきれない。それに、死ななくても何度も何度も処刑されることになる。そんな痛みをお前に背負わせるわけにはいかない。」

「「そうですよ!!」」
私とレイの声が重なる。

『私がターザニア騎士団隊長として名乗り出ます。そこで私が見たままを話しますよ。犯人はターザニアの第三王妃であると。今までは私の存在を犯人が知らないものと思っていたから隠れて動いていたのです。でも、先日、私が犯人を知っているということに犯人が気付いているのだと分かりました。』

「それはどういうことですか?」
レイが聞く。

『先日、私の記憶をリベルダ様に見てもらったのですが、私の記憶に犯人に記憶を操作された跡がありました。そして更に、私の記憶に多分・・・犯人の記憶を植え付けていったのです。リベルダ様も仰っておりましたが、それにはきっと何か意味があるはず。私を現段階で殺すことは無いような気がします。』

「・・・いい案ではあるが、フランシール国王に信用されなければ偽りを密告したとしてお前が裁かれるぞ。誰かに後ろ盾になってもらう必要がある。権力を持ち魔女の薬からも逃れられそうな人物はいるか?」

グショウ隊長の後ろ盾・・・。魔女にも騙されなさそうな・・・。私の頭の中にたった一人思い浮かんだ人物がいた。

「クオン王子はどうでしょうか?クオン王子のあのスキルには魔女も近寄らないかもしれません。」
「オーヴェルの次期国王か。後ろ盾としては出来すぎなくらいだな。どんなスキルなのだ?」

「人の嘘を見抜くことが出来ます。騙そうとしてもそれを見破られてしまうと知ったら、魔女も近寄りがたいのではないでしょうか。」

「なるほどな。犯人がそのスキルを利用する方法がないとは言えないが、面倒ではあるだろう。」

『そうですね。確かにクオン王子に後ろ盾になっていただければ、これほど心強いことはありません。フランシールとオーヴェルは大陸続きにあります。フランシールもオーヴェルの次期国王の声なら無下にすることは出来ないでしょう。』

「クオン王子に会いに行く必要があるな。リアン王女にも協力してもらおう。」

師匠の言葉に皆が返事をした。
そして4日後にオーヴェルの王都へ集合することになった。



その日の夜、明日は早くから移動することにしたため早めに寝ることにした。それぞれ寝床を作って横になったもののなかなか寝付けず、そっと起きあがる。魔獣を寄せ付けない為に炊いた火がパチパチと音とたて、中心部の黄色みがかった赤が外側にいくにつれ黒味を帯びる。少しずつ確実に滅びの方へと歯車が回り始めている。その歯車は巨大すぎて、一度動き始めた歯車を止めることが出来るのだろうかという不安が胸の中に渦巻いていた。もしできなければターザニアの時のようにたくさんの人々が死ぬのだろう。

ターザニア、あの日の人々の死を引き金にして戦争を起こさせようだなんて・・・。無理やり終わらせられた命がこのように利用されることが許せなく、そしてそんなことをする人間がいるのだということが怖いと思った。


小弓にレイが作ってくれた木の弾をセットし、近くにある葉っぱのトンガリの先っぽを狙う。弾は狙い通りの場所へ真っ直ぐに飛んでいきパサッと音を立てた。思いの外、音が大きく響きレイを見るとレイが体を起こしたところだった。

「ごめん、起こしちゃった?」
「ん。葉っぱが揺れる音がしたから何かなと思って。」

外で眠っているのだ。危険を回避するために少しの音でも目が覚めるようなそんな眠り方なのだろう。

「寝付けなくて小弓の練習しちゃった。せっかく寝ていたのに起こしてごめん。」
レイは立ち上がると私の側までやってきて隣に座った。

「今日の話のせい?」
レイが私の顔を覗き込む。

「ん・・・。私たちに戦争を止めることが出来るのかな。もし止められなかったら・・・。」

不安を口に出せば、その不安が急に形を持ったかのように輪郭をはっきりと現し私を覆ってしまうかのようだった。思わずレイの肩をギュッと掴んだ。

「私たちのせいで人が死んでしまうかもしれない。」
「ライファ!」

レイが私の名前をしっかり呼んで、レイの肩を掴んでいた私の手にそっと手を重ねた。

「それは違うよ。たとえ説得できなくて戦争が始まっても、それは私たちのせいではない。仕掛けた人間のせいなんだ。そこは間違っちゃいけない。」

「レイ・・・。」
コポコポと私の中から何かが溢れて、その想いが頬を濡らし落ちた。

「ターザニアの人達の命が戦争を起こすために使われていることが、悔しくて悲しくてたまらない。」
「ライファ・・・。私たちが出来ることを精一杯やろう。私たちだけが止めようとしているわけじゃなくて、リベルダ様もマリア様もグショウ隊長も皆がいるから。」

レイはそう言って私を抱きしめた。

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