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第三章

21. 怪しい生活

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「そこの君、レイラと言ったかな。君は少し魔力が強いようだね。」

ドーンテール伯爵はそう言うと執事に合図し、何かを持って来させた。執事が持ってきた箱には石の腕輪が二つ。

「これを嵌めなさい。セキュリティの問題でね、魔力が高い人物はこれを嵌めるのが我が屋敷の決まりなのだよ。いや、なに、屋敷を出る時には外してあげるから心配しなくてもいい。」

「失礼いたします。」
執事はそう言うとレイの手首に腕輪を嵌めた。

そうか、こうして力では逆らえないようにしているのか。ここまでして力を抑えるということはつまりそれだけ逆らわれるようなことをしているということになる。

「食事でもいかがかな?」

伯爵が合図をするとササッと執事たちが動き、私たちも壁際に寄る様に促された。すると、床から大きなテーブルと椅子が現れ、そこは瞬く間にダイニングへと変化した。テーブルがセットされれば次々と料理が運ばれてくる。部屋に美味しそうな香りが漂った。

「なんだか申し訳ございません。こんなに素敵なお料理までごちそうになってしまって。」
「いいのですよ。美しい女性にはそれだけの価値がある。」

なんと返事をしたら良いかわからずに、微笑むことでやりすごした。

「そういえばこの町には導きの草と言う珍しい魔草があるときいたのですが伯爵様は御存じで?」

レイがお肉を突き刺しながらニコリと微笑む。少し太い声に男だとバレやしないかとひやひやしている私を他所にレイの態度は堂々としたもので、伯爵も何も不審に思っていないようだった。

「あぁ、勿論知っているよ。私はこの辺一帯を治めているからね。でも残念ながら絶滅してしまったんだ。」
「そうですか、それは残念です。」
「伯爵様ほどのお方でしたら、一株くらいコレクションしてはおりませんの?」

何とか探りを入れようと食い下がってみる。

「私も村人の為に絶滅する前になんとか保護を、と思ったのだけれどね。あの手の魔草は本当に難しいのだよ。私も土壌を整えるには随分 苦労した。・・・いや、失敗してしまったのだがね。はははは。」

伯爵は誤魔化すかのように声高に笑った。

何としてでも隠し通すつもりらしい。だが、今の発言でこの屋敷内に導きの葉があるのだということは分かった。当初の予定の通り、伯爵を眠り玉で眠らせてから屋敷内を捜索するのが良さそうだ。だからと言って、突然ここで眠らせては大騒ぎになってしまう。ここは伯爵と私たち二人きりになる環境を作るのが妥当だろう。

「ごちそうさまでした。とても素敵なお食事でしたわ。」
「えぇ、本当に美味しかったです。そろそろデザートを頂きたいですわ。」

レイがすっと目を細めて視線を流しながら、ふぅとため息をついた。その姿に伯爵も私も目が釘づけになる。

「ここには素敵な女性が多いですねぇ、伯爵様。こんなにたくさんの綺麗な女性に見つめられての食事など体が熱くなるようでしたわ。」

な、なななななな。
思いがけぬレイの言葉に目を見開いていると、伯爵が興奮したように目を輝かせた。

「レイラ・・・其方はもしや・・・。」
「えぇ、伯爵様と思いは同じ・・・。」

二人の会話についていくことが出来ずに、二人の表情を交互に見ていると、突然伯爵が笑い出した。

「これは良い。傑作じゃ!シャンティ、こちらに来なさい。」
シャンティと呼ばれた女性が恐る恐る伯爵の横に並ぶ。伯爵は立ち上がるとシャンティさんの顎をそっと撫でた。

「どうだ、美しい娘であろう。デザートにいかがかな。私が其の方達をしかと見届けよう。」

デザート!?女性がデザート?
あ、あぁー!!
その瞬間、ようやく理解した。この男、女性同士がそういうことをしているのを見るという趣味があるのか!

同時にレイが他の女性にさわるなんて嫌だという思いが体を走った。たとえそれが誰かを助ける為であったとしても、いやだ。

「伯爵様、そんなことよりも私たちがどんな風に旅をしているのか、気になりませんか?」

私はレイが他の女性に触れるのが嫌だという思いに背中を押され、少し開いた胸元の布を触りながらレイへと近づいた。レイの首に手を伸ばし、身をかがめたレイの唇すれすれのところに舌を這わせ、伯爵の目を見る。その目が欲情に染まっていることを確認してから、レイの首元をはだけさせると伯爵に見えるようにレイの鎖骨の辺りに舌をあててから吸い付いた。以前のレイを思い出しながら強く吸って、ゆっくりと唇を離す。ゴクッと伯爵が息を飲む音が聞こえた。レイの鎖骨には印の花が咲き、少し赤らんだレイの表情が更に色っぽさを増している。

「ここから先は、この場所ではお見せできませんわ。」
私の言葉にハッと我にかえった伯爵は、欲情に震える声でいいだろう、と言った。

「この続きは私の寝室で。シャンティ、お前も来なさい。よーく勉強させてもらうのだ。」
その言葉を聞いて私は、ふぅっと安堵のため息をついた。



伯爵の寝室には向かい合うように大きなベッドが二つ置かれていた。
ひとつは中央にあり、天蓋もなくよく見えるように置いてある。まるでステージのようだ。その向かいにある壁際のベッドは天蓋もあり華やかな彫刻も施されている。

なんて悪趣味な部屋だ。

ゲッソリする気持ちを抑えながら平静を装う。
伯爵は壁際のベッドにソファのようにドカッと座ると、執事が小さなテーブルを用意し、お酒を置いて部屋を出ていった。

「さぁ、存分に睦み合いなさい。」
伯爵は欲望を隠すことなくいやらしい笑みを浮かべた。

「その前に、マッサージでもしましょう。夜は長いですからそんなに急がないでくださいな。」

レイは含みのある笑顔を伯爵に向けながら伯爵に近付き、失礼します、と言うとその大きな体をうつ伏せに寝かせた。そして私をみて頷いた。私は巾着から小弓を取り出すと伯爵の首に発射した。

「何をっ!?」
声を出そうとしたシャンティさんの口をレイが抑える。

「大丈夫、眠らせただけだから。」
その言葉に安心したのかシャンティさんが少しだけ警戒を緩めたのを見て、レイがシャンティさんの口から手を離した。

「・・・男の人!?」
驚きの表情を見せたシャンティさんにレイが恥ずかしそうに頷く。私はそんな二人に近付くとシャンティさんに尋ねた。

「シャンティさん、導きの葉がどこにあるのか知っていますか?」
「導きの葉!?あなたたちもしかして・・・。」
「はい、導きの葉を村に返してもらおうと思っています。皆さんも家に帰られるように。」

シャンティさんは潤んだ目で私を真っ直ぐに見つめた。

「正確な場所は私にも分からないの。伯爵はいつも一人で部屋を出ていって、葉を持って帰ってくるから。でももしかしたらっていう場所はあるわ。前に伯爵が庭の真ん中にある噴水の前で何かをしていて、その後に姿が消えたの。きっとあの辺りに何かあるのだと思う。」

「確かになにかありそうだな。」
レイの呟きに頷いた。

「シャンティさん、私たちは導きの葉を探してきます。シャンティさんはここにいて、私たちも部屋にいるように振舞ってもらえますか?伯爵は3時間は寝ていると思うので。」

「わかりました。お二人ともお気をつけて。それと、ありがとう。」
「お礼を言うのはまだ早いですよ。」
私がそういうと、赤い目をしたシャンティさんが少し笑った。

「レイ、行こう。」
「ちょっと待って。これ、鬱陶しくって。」

レイはそう言うと手首にしっかり嵌められた左手の腕輪を右手で触った。目を伏せて何か呟いたかと思えば腕輪にひびが入りそのままパラパラと崩れた。

「これって魔力を抑えるためのものなんじゃ・・・。」
「うん、そうなんだけど私の魔力は抑えられないらしい。」

レイはくすっと笑うと同じ要領で右手の腕輪も外した。
お、おう。粉々になった腕輪を見つめながらつくづくレイが味方で良かったと思った。

「レイ様、あなたは・・・。」
「内緒にしててね。」

レイが口の前に人差し指を立てて微笑むとシャンティさんは顔を真っ赤にしてコクコクと頷いた。




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