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第三章
1. ガルシア上陸
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ガルシアはユーリスアの北西に位置し、一年の殆どが真冬の気候である。飛獣石に乗って魔女の家から直線距離で最短に位置する町、スーチを目指すことにした。飛獣石のスピードにレイのコートがはためく。今日のレイは私服だ。いつもの騎士団の服装では目立つということと平民に気兼ねなく話してもらえるようにと平民に近い服装をしている。黒くて伸縮性のある細身のパンツと平民用のコートを羽織ってはいるものの、振る舞いもオーラも平民のものではないということは、だだ漏れだろうと思う。
ガルシアに近付くにつれ空気の温度が下がり、鼻と口の中が冷たくなる。それでも私のコートの中、胸の部分で眠っているベルとレイに抱えられている部分があたたかく、耐えられないような寒さではなかった。
「寒くないか?」
「私は大丈夫。レイは?」
レイの方が私よりも風に当たっている範囲が広い。心配して聞くと、ライファがあったかいから大丈夫と声が返ってきた。そう言われると密着している部分を意識してしまい、なんとなく落ち着かない気持ちになる。そんな自分を叱咤する。ふわっとした気持ちを抱いている場合ではないのだ。こうしている間にもあの薬を飲まされている生き物がいるかもしれない。ターザニアを忘れるな、と自分に言い聞かせた。
魔女の家からスーチまでは船と馬車を使って6日はかかる。
飛獣石では10時間。レイが師匠から聞いた飛び方では5時間ほどで着く。海の上を飛ぶので途中で休憩出来ないことも考え、通常飛びと魔力を使って飛ぶ方法を交えて7時間かけてスーチに到着した。
飛獣石から下りればそこは一面雪景色。一歩進むたびにググッとググッと雪が鳴る。吐く息の白さがここは異国なのだと実感させた。
「レイ、魔力は大丈夫?」
「ん、残りは3分の1くらいかな。町だし危険も少ないだろうからこのまま休んで回復させたい。疲れたし。」
「そうだな。もうすぐ日も暮れるし、宿を探して少し休もう。」
「うん。今日はここで情報を仕入れるのがいいだろうな。チョッキ―の実がどんなだかも分からないし。何より、生息地を知らないと移動のしようもない。」
レイの言葉に私も頷いた。
その日の夕方、私たちは素泊まりで一泊4500オンという破格の宿に泊まることにした。ダブルの部屋で4500オンは有り難い価格だ。この辺は暖房代がかかるということもあり、一泊ダブルの部屋で6000オンが相場だ。
安全面とコストを考えて選んだダブルの部屋、ベッド二つがかろうじて並ぶ小さな部屋で奥に火の石を並べた暖炉があった。この火の石は石でありながらも生きていて、時々お湯で練り込んだ土を食べさせる必要がある。
「16時か。夕方までにはもう少し時間があるな。少し眠ってもいい?」
部屋の片隅に荷物を置くとレイはベッドに倒れ込んだ。
「うん。その間に何か調べておくよ。」
そう言って部屋を出ようとする私の腕をレイが掴んだ。
「ひとりで行っちゃダメ。ここにいて。でないと安心して眠れない。」
「この建物の外には出ないよ。この宿の人にチョッキ―について聞いてくるだけ。」
私を掴むレイの手をそっと外すようにレイの手に空いている方の手をかける。すると、レイが私を掴む力がギュッと強くなった。
「自分の知らないところでライファが危険な目に合うのは、もう耐えられない。」
レイは小さな声で、でもはっきりと言い切った。そういえばこんなレイの表情を見るのは二度目だ。ユーリスアで誘拐された時と、今回と。レイの気持ちが理解できると同時に、こんなに心配をかけていたのだと痛感した。
「わかった。レイが起きるまでここにいるよ。」
「約束だよ。」
レイはそう言うと安心したように眠りに落ちていった。
夕方、ちらちら雪が降る中を二人で歩く。
「情報を得るとなったら酒場だろうな。」
レイの言葉に食事の気配を感じたベルがキュンキュンと喜びの声を上げた。酒場は22時までであればお酒を飲めない年頃でも出入りできるところが多い。猟師や旅人が多いと言われるお店を選んでそこで食事取ることにした。
直径15センチ程の丸太で作られた建物の扉を開けると暖かな空気が顔の表面を覆った。暖かい空気が逃げないようにと急いで店内に入る。
「いらっしゃい!」
エプロンをつけた30代後半の元気なおじさんの声が響いた。
「空いているところに適当に座ってくれ!」
カウンターに席が7つ、その他に6人掛けのテーブル席が6つあり、店内の半分以上の席が埋まっていた。きっとこれから忙しくなっていくのだろう。私たちはカウンターの席に座った。ウエイターが水を持ってきてくれる。
「魚の香草焼き定食と、ライファは何にする?」
メニューを見るとレイが頼んだのはこのお店のおススメ料理のようだ。私は・・・とメニューを見るとガルシア名物の文字があった。
「じゃあ、私はこのガルシア名物、さかなのカリットプーをお願いします。」
「ガルシア名物を注文するってことは、お客さんたちは旅人かい?」
いらっしゃいと声をかけてくれたおじさんがカウンターから声をかけてくれた。きっとこのお店の主人だろう。
「えぇ。実はチョッキ―の実というものを探していて。」
主人の質問にレイが答える。
「チョッキ―の実?聞いたことないなぁ。ガルシアにあるのかい?」
「えぇ、シュトーという魔獣の背中にあるらしいのですが・・・。」
「シュトー・・・なんか聞いたことあるなぁ。たしか、ガルシアの西の方にそんなのがいるって言っていたような・・・。」
主人は思わず手を止めて頭を傾けてなんとか思い出そうとしているようだった。
「シュトーならコバトウの森にいるよ。見つけるのは大変だし、捕まえるのはもっと大変だけどねー。」
私の隣に座っていた商人風の男がこちらを向いて微笑んだ。歳は20代半ばといったところだろうか。聞けば先日までコバトウにいたのだという。それでも、日に焼けた肌の色をしていることから、オーヴェル出身なのかもしれないと思った。
「シュトーってどんな魔獣なのですか?」
私の問いに、君たちどんな魔獣かも知らないで探していたの?とビックリした表情をした。
「んー、じゃぁ、彼女、僕と飲み比べをしようよ。そしたら詳しく教えてあげる。このまま飲んでいるのもつまらないなと思っていたところなんだ。ただし、君は女性だから僕の半分の量で一杯ってカウントしてあげる。僕、女の子が酔っ払っている姿を見るのって好きなんだよねー。なんか、色っぽいじゃん。」
その提案にレイがムッとした表情をする。
「ダメだよ、ライファ。ライファはまだ、未成年でしょ。」
「え?そうなの?」
「12月9日が誕生日なので、あと二か月弱でお酒を飲める歳になるんですけどね。」
「あと少しじゃん!それくらいのフライング大丈夫だよ!初めてお酒を飲む瞬間に立ち会えるなんて僕は嬉しいなぁ。」
お酒か。実は師匠のお酒を何度か舐めたことはある。料理に使うための味見程度でちゃんと飲んだことは無いが、二日酔いになって苦しんでおきながらも毎回嬉しそうにお酒を飲む師匠を見ていて、ものすごく興味はあったのだ。飲みすぎたら痛い思いをすると知っておきながらもお酒を飲むってことは、お酒にはそれだけの魅力があるということなのだろう。
二か月早いくらい、まぁ、いいか。
これも情報の為だ、と情報と言う上手い言い訳を建前に目の前に置かれたお酒用のグラスを手に取る。
「お、いく?」
サラッとした黒に近い茶色の髪の毛の間から好奇心旺盛な目が私を見つめている。よし、まずは一口だけ、そう思いながらグラスに口をつけようとした時、サッとそのグラスが目の前から消えた。
「だーめ!」
グラスは案の定、レイの手の中だ。
「おじさん、そうやってのせても駄目だよ。コバトウの森にいるって教えてもらっただけでも十分なんだ。姿かたちはコバトウで聞けば分かるだろうし。」
商人はおじさんという言葉に軽くショックを受けたように目を細めつつ、「君の弟はしっかりしているねぇ」と言った。
「おとうと・・・・。」
今度はレイが目を細めている。
「髪の毛の色が違う姉弟も珍しくはないからねぇ。そうでしょう?」
とい言う商人の言葉に説明するのも面倒だからと、そうですね、と返すとレイが更に目を細めた。チーン、と音がしそうな表情だ。
「まぁ、いいや。ここで情報を教えないと僕、なんか悪者みたいじゃん。」
商人はそう笑うとシュトーの情報を教えてくれる。
「シュトーはコバトウの森の温泉付近にいるよ。寒いところでしか生きられないくせに、温泉が好きなんだよ。変な生き物だよね。大きさは5センチくらいで丸くてとにかくすばしっこい。食辛抱だっていう噂だ。以上が僕の知っている情報。」
「ありがとうございます。」
私がお礼を言うと、息を吹き返したレイもありがとうございますとお礼を言った。
外に出ると吹雪になっていた。新しく積もった雪を風がさらって舞い上げる。視界を塞ぐ雪にレイからはぐれないようにとレイのコートの端っこを持った。この雪の中ではとても話せる状況ではない。とにかく急いで宿に戻った。玄関で雪を払っていると宿の主人が、外は寒かっただろう?と声をかけてくれる。
「風邪をひかないうちにお風呂であたたまったらえぇ。男湯は一階、女湯は二階にあるでよ。」
「そうだね、レイ、お風呂にしようか。」
「うん。」
一旦部屋に戻り、服の中で眠っているベルを私のベッドに置いた。
「ライファ、荷物をここにまとめて。」
レイに言われ巾着やリュックをレイの行った場所へ持っていくと、レイは荷物に手をかざし呪文を唱えた。
「簡単な結界。万が一ってこともあるからね。誰かが干渉すれば分かるし魔力を使用する者がいれば跳ねかえる様にもなっているんだ。」
「・・・凄っ。」
私では魔力が空からになるどころかお風呂に入って上がってくるまでの間の結界を保つことさえ不可能だというのに。こうしてレイの魔力の大きさを感じるたびに、レイは上流貴族なのだなとしみじみと感じた。
ガルシアに近付くにつれ空気の温度が下がり、鼻と口の中が冷たくなる。それでも私のコートの中、胸の部分で眠っているベルとレイに抱えられている部分があたたかく、耐えられないような寒さではなかった。
「寒くないか?」
「私は大丈夫。レイは?」
レイの方が私よりも風に当たっている範囲が広い。心配して聞くと、ライファがあったかいから大丈夫と声が返ってきた。そう言われると密着している部分を意識してしまい、なんとなく落ち着かない気持ちになる。そんな自分を叱咤する。ふわっとした気持ちを抱いている場合ではないのだ。こうしている間にもあの薬を飲まされている生き物がいるかもしれない。ターザニアを忘れるな、と自分に言い聞かせた。
魔女の家からスーチまでは船と馬車を使って6日はかかる。
飛獣石では10時間。レイが師匠から聞いた飛び方では5時間ほどで着く。海の上を飛ぶので途中で休憩出来ないことも考え、通常飛びと魔力を使って飛ぶ方法を交えて7時間かけてスーチに到着した。
飛獣石から下りればそこは一面雪景色。一歩進むたびにググッとググッと雪が鳴る。吐く息の白さがここは異国なのだと実感させた。
「レイ、魔力は大丈夫?」
「ん、残りは3分の1くらいかな。町だし危険も少ないだろうからこのまま休んで回復させたい。疲れたし。」
「そうだな。もうすぐ日も暮れるし、宿を探して少し休もう。」
「うん。今日はここで情報を仕入れるのがいいだろうな。チョッキ―の実がどんなだかも分からないし。何より、生息地を知らないと移動のしようもない。」
レイの言葉に私も頷いた。
その日の夕方、私たちは素泊まりで一泊4500オンという破格の宿に泊まることにした。ダブルの部屋で4500オンは有り難い価格だ。この辺は暖房代がかかるということもあり、一泊ダブルの部屋で6000オンが相場だ。
安全面とコストを考えて選んだダブルの部屋、ベッド二つがかろうじて並ぶ小さな部屋で奥に火の石を並べた暖炉があった。この火の石は石でありながらも生きていて、時々お湯で練り込んだ土を食べさせる必要がある。
「16時か。夕方までにはもう少し時間があるな。少し眠ってもいい?」
部屋の片隅に荷物を置くとレイはベッドに倒れ込んだ。
「うん。その間に何か調べておくよ。」
そう言って部屋を出ようとする私の腕をレイが掴んだ。
「ひとりで行っちゃダメ。ここにいて。でないと安心して眠れない。」
「この建物の外には出ないよ。この宿の人にチョッキ―について聞いてくるだけ。」
私を掴むレイの手をそっと外すようにレイの手に空いている方の手をかける。すると、レイが私を掴む力がギュッと強くなった。
「自分の知らないところでライファが危険な目に合うのは、もう耐えられない。」
レイは小さな声で、でもはっきりと言い切った。そういえばこんなレイの表情を見るのは二度目だ。ユーリスアで誘拐された時と、今回と。レイの気持ちが理解できると同時に、こんなに心配をかけていたのだと痛感した。
「わかった。レイが起きるまでここにいるよ。」
「約束だよ。」
レイはそう言うと安心したように眠りに落ちていった。
夕方、ちらちら雪が降る中を二人で歩く。
「情報を得るとなったら酒場だろうな。」
レイの言葉に食事の気配を感じたベルがキュンキュンと喜びの声を上げた。酒場は22時までであればお酒を飲めない年頃でも出入りできるところが多い。猟師や旅人が多いと言われるお店を選んでそこで食事取ることにした。
直径15センチ程の丸太で作られた建物の扉を開けると暖かな空気が顔の表面を覆った。暖かい空気が逃げないようにと急いで店内に入る。
「いらっしゃい!」
エプロンをつけた30代後半の元気なおじさんの声が響いた。
「空いているところに適当に座ってくれ!」
カウンターに席が7つ、その他に6人掛けのテーブル席が6つあり、店内の半分以上の席が埋まっていた。きっとこれから忙しくなっていくのだろう。私たちはカウンターの席に座った。ウエイターが水を持ってきてくれる。
「魚の香草焼き定食と、ライファは何にする?」
メニューを見るとレイが頼んだのはこのお店のおススメ料理のようだ。私は・・・とメニューを見るとガルシア名物の文字があった。
「じゃあ、私はこのガルシア名物、さかなのカリットプーをお願いします。」
「ガルシア名物を注文するってことは、お客さんたちは旅人かい?」
いらっしゃいと声をかけてくれたおじさんがカウンターから声をかけてくれた。きっとこのお店の主人だろう。
「えぇ。実はチョッキ―の実というものを探していて。」
主人の質問にレイが答える。
「チョッキ―の実?聞いたことないなぁ。ガルシアにあるのかい?」
「えぇ、シュトーという魔獣の背中にあるらしいのですが・・・。」
「シュトー・・・なんか聞いたことあるなぁ。たしか、ガルシアの西の方にそんなのがいるって言っていたような・・・。」
主人は思わず手を止めて頭を傾けてなんとか思い出そうとしているようだった。
「シュトーならコバトウの森にいるよ。見つけるのは大変だし、捕まえるのはもっと大変だけどねー。」
私の隣に座っていた商人風の男がこちらを向いて微笑んだ。歳は20代半ばといったところだろうか。聞けば先日までコバトウにいたのだという。それでも、日に焼けた肌の色をしていることから、オーヴェル出身なのかもしれないと思った。
「シュトーってどんな魔獣なのですか?」
私の問いに、君たちどんな魔獣かも知らないで探していたの?とビックリした表情をした。
「んー、じゃぁ、彼女、僕と飲み比べをしようよ。そしたら詳しく教えてあげる。このまま飲んでいるのもつまらないなと思っていたところなんだ。ただし、君は女性だから僕の半分の量で一杯ってカウントしてあげる。僕、女の子が酔っ払っている姿を見るのって好きなんだよねー。なんか、色っぽいじゃん。」
その提案にレイがムッとした表情をする。
「ダメだよ、ライファ。ライファはまだ、未成年でしょ。」
「え?そうなの?」
「12月9日が誕生日なので、あと二か月弱でお酒を飲める歳になるんですけどね。」
「あと少しじゃん!それくらいのフライング大丈夫だよ!初めてお酒を飲む瞬間に立ち会えるなんて僕は嬉しいなぁ。」
お酒か。実は師匠のお酒を何度か舐めたことはある。料理に使うための味見程度でちゃんと飲んだことは無いが、二日酔いになって苦しんでおきながらも毎回嬉しそうにお酒を飲む師匠を見ていて、ものすごく興味はあったのだ。飲みすぎたら痛い思いをすると知っておきながらもお酒を飲むってことは、お酒にはそれだけの魅力があるということなのだろう。
二か月早いくらい、まぁ、いいか。
これも情報の為だ、と情報と言う上手い言い訳を建前に目の前に置かれたお酒用のグラスを手に取る。
「お、いく?」
サラッとした黒に近い茶色の髪の毛の間から好奇心旺盛な目が私を見つめている。よし、まずは一口だけ、そう思いながらグラスに口をつけようとした時、サッとそのグラスが目の前から消えた。
「だーめ!」
グラスは案の定、レイの手の中だ。
「おじさん、そうやってのせても駄目だよ。コバトウの森にいるって教えてもらっただけでも十分なんだ。姿かたちはコバトウで聞けば分かるだろうし。」
商人はおじさんという言葉に軽くショックを受けたように目を細めつつ、「君の弟はしっかりしているねぇ」と言った。
「おとうと・・・・。」
今度はレイが目を細めている。
「髪の毛の色が違う姉弟も珍しくはないからねぇ。そうでしょう?」
とい言う商人の言葉に説明するのも面倒だからと、そうですね、と返すとレイが更に目を細めた。チーン、と音がしそうな表情だ。
「まぁ、いいや。ここで情報を教えないと僕、なんか悪者みたいじゃん。」
商人はそう笑うとシュトーの情報を教えてくれる。
「シュトーはコバトウの森の温泉付近にいるよ。寒いところでしか生きられないくせに、温泉が好きなんだよ。変な生き物だよね。大きさは5センチくらいで丸くてとにかくすばしっこい。食辛抱だっていう噂だ。以上が僕の知っている情報。」
「ありがとうございます。」
私がお礼を言うと、息を吹き返したレイもありがとうございますとお礼を言った。
外に出ると吹雪になっていた。新しく積もった雪を風がさらって舞い上げる。視界を塞ぐ雪にレイからはぐれないようにとレイのコートの端っこを持った。この雪の中ではとても話せる状況ではない。とにかく急いで宿に戻った。玄関で雪を払っていると宿の主人が、外は寒かっただろう?と声をかけてくれる。
「風邪をひかないうちにお風呂であたたまったらえぇ。男湯は一階、女湯は二階にあるでよ。」
「そうだね、レイ、お風呂にしようか。」
「うん。」
一旦部屋に戻り、服の中で眠っているベルを私のベッドに置いた。
「ライファ、荷物をここにまとめて。」
レイに言われ巾着やリュックをレイの行った場所へ持っていくと、レイは荷物に手をかざし呪文を唱えた。
「簡単な結界。万が一ってこともあるからね。誰かが干渉すれば分かるし魔力を使用する者がいれば跳ねかえる様にもなっているんだ。」
「・・・凄っ。」
私では魔力が空からになるどころかお風呂に入って上がってくるまでの間の結界を保つことさえ不可能だというのに。こうしてレイの魔力の大きさを感じるたびに、レイは上流貴族なのだなとしみじみと感じた。
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