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第二章

60. ヴァンス様への返事

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その後レイが騎士団へと戻り、師匠がジェンダーソン侯爵と話をしている間に私はヴァンス様と話をする時間を貰った。旅からいつ戻ってこられるか分からないし、元気に帰って来られるという保証もない。だからこそ、旅に出る前にちゃんと返事をしておかなくてはと思ったのだ。時間は午前10時。仕事を終えたヴァンス様はちょうど就寝前といった時間だ。

「すみません、こんな時間に。ヴァンス様はそろそろ寝るお時間ですよね?」

以前、ジェンダーソン家にお世話になった時に散歩した森を今日も歩いている。

「確かにそろそろ寝る時間ではあるけれど、まだ平気だよ。ライファちゃんのお誘いならいつでも大歓迎しちゃう。」

ヴァンス様の笑顔に胸が痛くなる。

「ヴァンス様、この間のお返事なのですが・・・。」
「うん。」

私はヴァンス様をしっかりと見つめた。真っ直ぐに思いを伝えてくれたヴァンス様にだからこそ、私も真っ直ぐに向き合いたい。

「私はヴァンス様の愛人にはなれません。」

私がそうはっきりと伝えるとヴァンス様はふぅっと息を吐いて空を見上げた。それからゆっくりと私の顔を見て、そうだろうと思った、と言った。

「ヴァンス様が私のことをよく考えて、包み隠さずに出来ることと出来ないことを伝えて下さったこと、とても嬉しかったです。」

私は素直に感謝を伝える。

「ライファちゃん、レイのこと好きでしょう?」

ヴァンス様の言葉にグッと言葉が詰まった。クオン王子には聞かないでほしいと言った言葉。でも、真っ直ぐに気持ちを伝えてくれたヴァンス様には誤魔化せないと思った。

「はい。」
頷きながら肯定の返事をする。

「レイのどこが好きなの?あいつ、女心なんてこれっぽっちも分かってないし、ガキもいいところだよ?」
ヴァンス様の言いように少し笑う。

「一緒に食べるご飯が美味しくて楽しいから・・・ですかね。それと、レイ様には触りたいなって思うんです。」
「触れたいって・・・ライファちゃんって案外エロい。」
「えぇっ!?どうしてそんな解釈になるんですか!」
「それ以外の解釈なんてないでしょう?」

ヴァンス様がケラケラと笑う。

「その言葉、レイに言ってみなよ。面白いものが見られると思うよ。」

ヴァンス様はそう言ってもう一度笑った。ヴァンス様が笑い終わるのを待って、私は真剣な顔をした。

「ヴァンス様、私にお守りを下さってありがとうございます。このお守りがなかったら私は今、ここにいることが出来ませんでした。感謝しております。」

私はそう言って跪いた。

「ライファちゃん、そう改まらないでよ。遠くに行っちゃうみたいじゃん。」
その言葉に私は立ち上がった。

「きっとこの後知ることになると思うので、私の口から伝えますね。私、旅に出ます。薬材を探してターザニアを滅ぼした犯人に対抗する薬を作る為に。レイ様が私の旅について来て下さいます。」

「そうか、そういうことか。だからリベルダ様が今日、うちに来たのか。」
ヴァンス様はそっと私の腕をとり、ブレスレットを外した。

「これは少しの間預かるよ。直してレイに託す。」
「ヴァンス様・・・。」

「恐縮しなくてもいいよ、君を守ることは、レイを守ることにもなるから。私の弟をよろしく頼む。」
「はい。」

私はしっかりと頷いた。


それから旅立ちまでの2日間はあっという間だった。街に行って防御力の高い洋服を購入したり、新しいナイフも買った。グラントさんに小弓のメンテナンスをお願いし、自宅で師匠に手伝ってもらいながらランク8の回復薬とウニョウ玉と眠り玉を作った。

荷物をまとめ両親にも会いに行く。詳しい理由は話さず、色々な食材に出会いたいから旅に出ると伝えた。
お父さんは相変わらず旅に出ていて不在だったが、お母さんは私を抱きしめると仕方ないわねというように笑った。

「あなたの人生だもの、あなたの好きに生きなさい。ただし、死んじゃ駄目よ。」

止めることもせずにいつも私のやりたいことを尊重してくれる母に感謝した。




そして旅立ちの当日。レイと一緒に先生の話を聞く。

「手に入れて欲しいのは、ガルシアにしかないと言われるチョッキ―の実です。チョッキ―の実はガルシアの森に生
息するシュトーの背中に生える木の実と言われています。シュトーはガルシアの気候でしか生きられません。効果は沸騰効果8です。」

「沸騰効果ですか?」

「えぇ、効力も高いですし、一般的には使い道のない薬材なのですがあの小瓶の薬が強力な催眠効果を生むのもだとしたら、肉体的な目覚めが必要になると思ったのです。体の奥底までの完全なる目覚め。そのためにチョッキ―の実が必要なのです。単体で体に使ったら全身の血が沸騰して死んでしまいますので、他のものと組み合わせつつ、になりますけどね。」

「ガルシアのどのあたりに生息しているのですか?」
レイが先生に聞いてみたが、今まで使おうと思わなかった薬材なので分からないとのことだった。

「先生でも分からないこともあるんですね。」
「そりゃあそうだろう。魔女にだって知らないこともある。」

先生と話していると家の奥から師匠とグラントさんがやってきた。

「これを持っていけ。」

手渡されたのは肩から掛けられるようになっている小さなバッグだ。大きさはハードカバーの本が二冊くらい入る大きさである。

「このバックは空間魔法を使ってこっちのバックと中の空間がつながっている。」
先生はそう言って、同じようなバッグを私たちに見せた。

「薬材を手に入れたらこのバッグに入れればこっちで受け取ることが出来る。」
「いちいち帰ってこなくてもいいので、便利でしょう?」

魔女二人の言葉に私たちは頷いた。

「私たちにプレゼントしたいものがあったら、それを入れてもいいのですよ。」
先生がふふふと笑う。

「ガルシアは酒が美味いというからな。つまみなんかもきっと美味しいだろうな。」
「師匠、先生、観光に行くわけではないのですけど。」

私は師匠たちの呑気な言葉に呆れた。

「俺からはこれを。」
グラントさんが持ってきたのは私がずっと使っていたシューピンだ。

「魔力の伝導率をあげて、今までよりも少ない魔力で動かすことが出来るように改良してある。それと・・・」
グラントさんが少し言いづらそうに先生を見た。

「販売するわけではありませんし、いいですわよ。一つくらいそういうものがあっても。ね?」
先生が師匠に同意を求める。

「まぁ、な。」

「小弓と同じようにザシャーの魔木から魔力を供給出来るようにもした。届け出はしていないから人には言わないようにな。」

さっきの視線はそういうことか。グラントさんは真面目とか、誠実と言う言葉がよく似合う。そういう意味ではヴァンスとは真逆の性格をしている。非公認というのはグラントさん的には心地悪いのだろう。

「ありがとうございます。すごく助かります。」
私の言葉にグラントさんは真顔のまま頷いた。

「まぁ、気をつけていって来い。必要な薬材が分かったら連絡する。ライファ、根詰めるなよ。」
「はい。」

「レイ、回復薬がなくなったら補充してやるが魔力をほいほい消費するなよ。あの回復薬は作る側の魔力もごっそり持っていくから作るのがしんどいんだ。ライファなら気にせずに作れるんだがな。」

「が・・がんばります。」
レイの自信無さげな声に師匠が、はぁ、とため息をついた。

「まぁまぁ、リベルダ。そのくらいにしておきなさいな。二人とも宜しくお願いしますね。私は早急にあの薬を解析してみせますわ。」


こうして私とレイの薬材を求める旅が始まった。

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