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第二章
47. 任務終了と帰宅のリトルマイン
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「ただいまーっ!!」
フォレストに着いたのは15時頃だった。任務中は誰とも連絡をとらなかったので当然ナターシャたちにも帰る日は伝えていない。階段を駆け上がる音が聞こえて顔を出したナターシャさんが花が咲いたみたいに笑顔になった。
「お帰りなさい!!無事で良かった!」
勢いよく抱きしめられた時、ふわっとナターシャさんのいい匂いがして汗臭いであろう自分が恥ずかしくなる。
「ナターシャさん、ちょっと・・・。すごく嬉しいんですけど、私、きっと汗臭いので離れていただけると。」
そんな私の言葉に、後からやってきたガロンが笑った。
「ナターシャ、ライファが困っているぞ。ライファ、お帰り。」
ガロンさんの大きな笑顔に、あぁ、帰ってきたんだなとしみじみ思った。ベルもピョーンと私のポンチョから飛び出して嬉しそうにあちこちの臭いを嗅いでいる。匂いをかぐことで帰ってきたことを噛みしめているかのようだ。
「今晩はライファの帰還パーティーだな。」
「そうね!美味しいものたくさん作りましょ。」
二人の心遣いに嬉しくなる。
「あ、そういえば今度こそお土産を買ってきたんです。あとで厨房お借りしていいですか?一品、作らせてください。」
「あら、嬉しいっ。いいわよね、ガロン。」
「勿論いいぞ。さっぱりしたいだろうからお風呂に入ってゆっくりしてからおいで。」
「はい。ほら、ベルも行くよ!お風呂に入って綺麗にしなくちゃ。」
私は二人に頭を下げると急いでお風呂に向かった。
夜の食堂はいつもより豪華で賑わっていた。ガロンさんは帰還祝いだと言っていつもより豪華な料理を作ってくれ、大皿でドカン、ドカンと用意した。ドリンク代は別で1000オンさえ払えば大皿から好きなものを取って食べ放題にしたらしい。
「勿論、ライファちゃんはお代はいらないわ。お帰りパーティーですものっ。はい、どうぞ。」
ナターシャさんがお皿を渡してくれる。ベルは目を輝かせて山盛りの料理の周りを飛び回り、料理を欲しがるベルに気付いたお客さんがベルに料理を分けてくれていた。
「あ、ライファちゃん、仕事の出張だったんだって?いないとなんだか寂しかったよ。おかえり。」
そう声をかけてくれるのはフォレストの近所に住むおじいさんだ。私がここに住むずっと前からフォレストの常連らしい。
「ありがとうございます。そういっていただけると嬉しいです。」
「おかえり、ライファ。お客さんみんな寂しがっていたよ。ベルのことを聞いてくる人も多くて、ベルったらいつの間にか人気者になっていたみたい。」
キイナがお茶を持ってきてくれた。
「ありがとう。私が居ない時でもお客さんにご飯を分けてもらっていましたもんね。」
そう言いながらベルの方を見れば、ベルはグラントさんにご飯をおねだりしているところだった。
「あ、グラントさん!」
私が名前を呼ぶとグラントさんがこちらへやって来た。
「帰ってきたのか。小弓の調子はどうだ?」
「すごくいいです。この旅でも大活躍でした。」
「そうか。研究室に来た時に持ってくれば、点検しておくぞ。」
「じゃぁ、明日持っていきます。」
「さ、みんなライファちゃんからのお土産料理よ~。」
ふわっとお酒の香りを漂わせたムーアの酒蒸しが大皿に乗ってやってきた。先ほど大量に作っておいたのだ。紫色のそのインパクトに皆がどよめく。
「そんな顔しないで食べてごらんなさい。すっごく美味しいわよ。」
ナターシャさんの言葉におそるおそる料理を口に入れたお客さんたちは口ぐちにその料理を絶賛した。
「キイナちゃん、お酒くれ!この料理にはお酒が合いすぎる!」
そんな声がちらほら上がり、キイナとナターシャさんが忙しそうにお酒を運ぶ。
「この料理、ライファちゃんが作ったんだって?すっかりフォレストの一員だねぇ。とってもおいしいよ。」
先ほど話しかけてくれた常連のおじいさんだ。こんな風に言われるとフォレストの中にちゃんと私の居場所があるんだと嬉しくなる。親しみのある場所でみんなと食べる食事は一段と美味しく、あっという間に時間が過ぎた。 21時になり一緒に食事をしていた人たちを見送ると部屋と戻った。
風呂上り、髪の毛をタオルで拭きながらリトルマインを見る。夕食後から気になってはいたのだ。帰って来てから連絡すると言ってあったのだから連絡してもおかしくはない。ただ、連絡を取らなくなってから約二週間。レイを意識してしまっている今となってはどう接したらいいのか分からず、後回しになっていたのだ。声が聞きたいかと聞かれれば、もちろん聞きたい。会いたいとさえ思う。
「ふぅ。」
なんだか緊張するな。今までと同じように接することができるだろうか。顔を両手で覆うとその両手をグッと顔に押し付け左右に引っ張った。顔が横に伸びて妙に気持ち良い。手の力をパッと緩めて細長くなっていた目をパチッと開けた。
大丈夫、いつもどおり、大丈夫だ。
リトルマインを手に取り、魔力を込める。
「レイ?」
名前を呼ぶも返事がない。時間を見ればもう22時を過ぎていた。確か以前声をかけた時もこんな時間で、レイは寝ようとしていたはずだ。
もう寝たかな。
がっかりしたような気持と少しほっとしたような気持を抱えたままリトルマインを戻しトイレに向かう。戻ってくるとちびレイが机の上を歩いてキョロキョロしていた。
「えぇっ!?」
「あ、ライファおかえり。」
「た、ただいま。どうして?」
咄嗟のことに緊張するのも忘れて声が出ていた。
「リトルマインにライファの魔力が残っていて、話しかけたらつながったみたい。良かったすれ違いにならなくて。」
ちびレイが嬉しそうに笑って私の側に寄ってきた。
「旅、どうだった?」
「うん、考えることも多くて勉強になった、かな。そうそう、色んな種類の香辛料を手に入れたんだ。」
「香辛料?」
「そう。お肉の臭みを消したり、素材に香りや風味をつけるものなんだけど調合料理にも使えそうだなって思ってさ。」
作った調合料理の話しや、食べた料理の話をしているうちに今まで通りに話すことができている自分に気づいてほっとした。久しぶりだったから考えすぎていたのかもしれない。話し始めれば、離れていた時間が埋まる様に言葉が交わされあの期間がなかったかのようになるから不思議だ。
だから安心しすぎてすっかり忘れてしまっていたのだ。
ちびレイが私の腕をトコトコと歩き、肩に乗り私の髪の毛をサラッと避けた。
「ねぇ、ライファ、私がつけた印がなくなっているんだけど、どうして?」
「あ・・・。そうだった。意地悪で消されたんだった。」
「へぇ、意地悪で?それはどういうことかな?」
「どういうと言われても・・・。」
俄かに漂い出した不穏な空気に気が付きながらも、何を答えるべきなのか分からない。
「なんでそんな状況になったの?髪の毛や服で隠れる位置にあったはずなんだけど。」
あぁ、そういうことかと理解した。
「髪の毛を乾かしてもらう機会があってその時にそんなようなことを言って消された。」
「・・・・髪の毛を乾かしてもらった?触らせたの?」
問い詰める様な口調になったレイになんて答えたらいいかわからずに黙り込む。
「ライファは無防備すぎるよ。そいつ、男でしょう?押し倒されたりしたらどうするの?」
「そんなことする人じゃないよ。人間が好きで優しくて、なんだか不器用な人なんだ。」
クオン王子を思い出す。レイよりも不器用な食材のカットとか、弟のことを大切そうに話す姿が鮮やかによみがえってきて自然と笑みが毀れた。
「ライファ、そいつを信用し過ぎ。それとも、そいつのことが好きになったの?押し倒されたかった?」
レイの言葉にカッと頭に血が上った。クオン王子のことを何も知らないくせになんてことを言うのだろう。
「レイがさ、私を側に置きたがるのってスキルのせい?利用価値、あるもんな。」
「何言ってんの?」
今まで聞いたこともないような苛立ちを含んだレイの声にビクッとなる。思わずお互いに黙り込んだ。こんなはずじゃなかった。こんなつもりじゃなかった。この先のレイの言葉を聞くのが怖い。
「ごめん、なんか疲れてるみたいだ。今日はもう寝るね。」
一方的に話すと、そのままリトルマインを切った。
こんなはずじゃなかったのに。
フォレストに着いたのは15時頃だった。任務中は誰とも連絡をとらなかったので当然ナターシャたちにも帰る日は伝えていない。階段を駆け上がる音が聞こえて顔を出したナターシャさんが花が咲いたみたいに笑顔になった。
「お帰りなさい!!無事で良かった!」
勢いよく抱きしめられた時、ふわっとナターシャさんのいい匂いがして汗臭いであろう自分が恥ずかしくなる。
「ナターシャさん、ちょっと・・・。すごく嬉しいんですけど、私、きっと汗臭いので離れていただけると。」
そんな私の言葉に、後からやってきたガロンが笑った。
「ナターシャ、ライファが困っているぞ。ライファ、お帰り。」
ガロンさんの大きな笑顔に、あぁ、帰ってきたんだなとしみじみ思った。ベルもピョーンと私のポンチョから飛び出して嬉しそうにあちこちの臭いを嗅いでいる。匂いをかぐことで帰ってきたことを噛みしめているかのようだ。
「今晩はライファの帰還パーティーだな。」
「そうね!美味しいものたくさん作りましょ。」
二人の心遣いに嬉しくなる。
「あ、そういえば今度こそお土産を買ってきたんです。あとで厨房お借りしていいですか?一品、作らせてください。」
「あら、嬉しいっ。いいわよね、ガロン。」
「勿論いいぞ。さっぱりしたいだろうからお風呂に入ってゆっくりしてからおいで。」
「はい。ほら、ベルも行くよ!お風呂に入って綺麗にしなくちゃ。」
私は二人に頭を下げると急いでお風呂に向かった。
夜の食堂はいつもより豪華で賑わっていた。ガロンさんは帰還祝いだと言っていつもより豪華な料理を作ってくれ、大皿でドカン、ドカンと用意した。ドリンク代は別で1000オンさえ払えば大皿から好きなものを取って食べ放題にしたらしい。
「勿論、ライファちゃんはお代はいらないわ。お帰りパーティーですものっ。はい、どうぞ。」
ナターシャさんがお皿を渡してくれる。ベルは目を輝かせて山盛りの料理の周りを飛び回り、料理を欲しがるベルに気付いたお客さんがベルに料理を分けてくれていた。
「あ、ライファちゃん、仕事の出張だったんだって?いないとなんだか寂しかったよ。おかえり。」
そう声をかけてくれるのはフォレストの近所に住むおじいさんだ。私がここに住むずっと前からフォレストの常連らしい。
「ありがとうございます。そういっていただけると嬉しいです。」
「おかえり、ライファ。お客さんみんな寂しがっていたよ。ベルのことを聞いてくる人も多くて、ベルったらいつの間にか人気者になっていたみたい。」
キイナがお茶を持ってきてくれた。
「ありがとう。私が居ない時でもお客さんにご飯を分けてもらっていましたもんね。」
そう言いながらベルの方を見れば、ベルはグラントさんにご飯をおねだりしているところだった。
「あ、グラントさん!」
私が名前を呼ぶとグラントさんがこちらへやって来た。
「帰ってきたのか。小弓の調子はどうだ?」
「すごくいいです。この旅でも大活躍でした。」
「そうか。研究室に来た時に持ってくれば、点検しておくぞ。」
「じゃぁ、明日持っていきます。」
「さ、みんなライファちゃんからのお土産料理よ~。」
ふわっとお酒の香りを漂わせたムーアの酒蒸しが大皿に乗ってやってきた。先ほど大量に作っておいたのだ。紫色のそのインパクトに皆がどよめく。
「そんな顔しないで食べてごらんなさい。すっごく美味しいわよ。」
ナターシャさんの言葉におそるおそる料理を口に入れたお客さんたちは口ぐちにその料理を絶賛した。
「キイナちゃん、お酒くれ!この料理にはお酒が合いすぎる!」
そんな声がちらほら上がり、キイナとナターシャさんが忙しそうにお酒を運ぶ。
「この料理、ライファちゃんが作ったんだって?すっかりフォレストの一員だねぇ。とってもおいしいよ。」
先ほど話しかけてくれた常連のおじいさんだ。こんな風に言われるとフォレストの中にちゃんと私の居場所があるんだと嬉しくなる。親しみのある場所でみんなと食べる食事は一段と美味しく、あっという間に時間が過ぎた。 21時になり一緒に食事をしていた人たちを見送ると部屋と戻った。
風呂上り、髪の毛をタオルで拭きながらリトルマインを見る。夕食後から気になってはいたのだ。帰って来てから連絡すると言ってあったのだから連絡してもおかしくはない。ただ、連絡を取らなくなってから約二週間。レイを意識してしまっている今となってはどう接したらいいのか分からず、後回しになっていたのだ。声が聞きたいかと聞かれれば、もちろん聞きたい。会いたいとさえ思う。
「ふぅ。」
なんだか緊張するな。今までと同じように接することができるだろうか。顔を両手で覆うとその両手をグッと顔に押し付け左右に引っ張った。顔が横に伸びて妙に気持ち良い。手の力をパッと緩めて細長くなっていた目をパチッと開けた。
大丈夫、いつもどおり、大丈夫だ。
リトルマインを手に取り、魔力を込める。
「レイ?」
名前を呼ぶも返事がない。時間を見ればもう22時を過ぎていた。確か以前声をかけた時もこんな時間で、レイは寝ようとしていたはずだ。
もう寝たかな。
がっかりしたような気持と少しほっとしたような気持を抱えたままリトルマインを戻しトイレに向かう。戻ってくるとちびレイが机の上を歩いてキョロキョロしていた。
「えぇっ!?」
「あ、ライファおかえり。」
「た、ただいま。どうして?」
咄嗟のことに緊張するのも忘れて声が出ていた。
「リトルマインにライファの魔力が残っていて、話しかけたらつながったみたい。良かったすれ違いにならなくて。」
ちびレイが嬉しそうに笑って私の側に寄ってきた。
「旅、どうだった?」
「うん、考えることも多くて勉強になった、かな。そうそう、色んな種類の香辛料を手に入れたんだ。」
「香辛料?」
「そう。お肉の臭みを消したり、素材に香りや風味をつけるものなんだけど調合料理にも使えそうだなって思ってさ。」
作った調合料理の話しや、食べた料理の話をしているうちに今まで通りに話すことができている自分に気づいてほっとした。久しぶりだったから考えすぎていたのかもしれない。話し始めれば、離れていた時間が埋まる様に言葉が交わされあの期間がなかったかのようになるから不思議だ。
だから安心しすぎてすっかり忘れてしまっていたのだ。
ちびレイが私の腕をトコトコと歩き、肩に乗り私の髪の毛をサラッと避けた。
「ねぇ、ライファ、私がつけた印がなくなっているんだけど、どうして?」
「あ・・・。そうだった。意地悪で消されたんだった。」
「へぇ、意地悪で?それはどういうことかな?」
「どういうと言われても・・・。」
俄かに漂い出した不穏な空気に気が付きながらも、何を答えるべきなのか分からない。
「なんでそんな状況になったの?髪の毛や服で隠れる位置にあったはずなんだけど。」
あぁ、そういうことかと理解した。
「髪の毛を乾かしてもらう機会があってその時にそんなようなことを言って消された。」
「・・・・髪の毛を乾かしてもらった?触らせたの?」
問い詰める様な口調になったレイになんて答えたらいいかわからずに黙り込む。
「ライファは無防備すぎるよ。そいつ、男でしょう?押し倒されたりしたらどうするの?」
「そんなことする人じゃないよ。人間が好きで優しくて、なんだか不器用な人なんだ。」
クオン王子を思い出す。レイよりも不器用な食材のカットとか、弟のことを大切そうに話す姿が鮮やかによみがえってきて自然と笑みが毀れた。
「ライファ、そいつを信用し過ぎ。それとも、そいつのことが好きになったの?押し倒されたかった?」
レイの言葉にカッと頭に血が上った。クオン王子のことを何も知らないくせになんてことを言うのだろう。
「レイがさ、私を側に置きたがるのってスキルのせい?利用価値、あるもんな。」
「何言ってんの?」
今まで聞いたこともないような苛立ちを含んだレイの声にビクッとなる。思わずお互いに黙り込んだ。こんなはずじゃなかった。こんなつもりじゃなかった。この先のレイの言葉を聞くのが怖い。
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