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第二章

43. 親任式のパーティー

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「ライファ様、失礼いたしますね。」

侍女は一応念のためというように断りを入れつつ、ぎゅーっ、ぎゅーっとコルセットを締められる。デジャヴ・・・。これはいかんっ!

「すみません、少し緩めにしておいてもらえますか?」
「あら、ぎゅーっと締めた方がウエストが引き締まって素敵に見えますよ?」

私はコホンっと咳払いをしたあと、勇気をもって囁いた。

「わたし、食べるのが大好きなのです。」

目を丸くしつつ、そんなお願いは初めてですわ、と笑って侍女がコルセットを緩めてくれた。

「ライファ様にはその魔力の方がおられますもの。殿方の視線など必要ないですわね。」

レイの魔力のことを言われドキッとする。そんなにあからさまなのだろうか。

「あの、あなたにも私が魔力を身に着けていることが分かるのですか?」

「えぇ、二種類の魔力が混ざっているように感じるので、どなたかの魔力を身につけているのだろうと。高い魔力であることは分かりますが、どれほどのランクの方のモノなのかまではわかりかねます。」

「そうなのですね。」

王宮の侍女になる人はだいたい魔力ランクが3~4だという。つまり魔力ランク3~4あれば私についている魔力がわかるということだ。私もキヨもわからないから魔力ランク1ではよくわからない。魔力ランク2だとどうなのだろう。やはり分かるのだろうか。私が考え事をしているうちに侍女が化粧を施してゆく。顔の表面を優しい魔力がふわふわと触り、少しくすぐったい。

「はい、出来ましたよ。」

侍女は一歩引いて私の全体を眺めると、ほうっと息を吐いた。

「思ったとおり。ライファ様は元が美しいから化粧もシンプルで大丈夫ですね。同じ女性として羨ましい。」

こんな風に褒められるといつもなんて答えてよいのか分からなくなる。とりあえず、ありがとうございます、とだけ言った。

「魔力を身に着けているから大丈夫だとは思いますけど、だからこそ強引な愛人交渉をしてくる方もいないとは言えませんから気を付けてくださいね。」

「どういう意味ですか?」

「愛人になることに抵抗がない方だと思われるのですよ。条件次第では他の方に乗り換える女性もおりますから。あ、私は愛人、いいと思いますよ。それも生きていく術ですから。」

侍女はそういうと退室していった。クオン王子といい、侍女の発言といい、他人の魔力を身に着けるということは愛人であるということの証明になるようだ。きっと同等、もしくは多少の差の魔力ランクの者が身に着けているのならば単に恋人や婚約者から貰ったもの認識されるのだろう。でも私のように、身に着けている魔力と自身の魔力の差が大きいと愛人ということになるのだ。

「レイの愛人・・・か。」

自嘲ぎみに呟いた。


「ベル、今日はパーティーで食べ物がたくさんあるけど、落ち着いて行動するように。」

ベルにビシッと釘をさし、グショウ隊長たちと合流する。トトさんがビシッとスーツを着こなし、そして髪の毛が生えていた。

「トトさん、それもしかして・・・。」
「実はのびケーキを一つ持ってきていたのです。クロッカさんが旅には出会いが~なんて言うから・・・。」

語尾はもにょもにょと口ごもりながらもトトさんが言った。

「トトさん、すごく素敵です。」
「ライファさんもお綺麗ですよ。」

二人で褒め合っているとリュン様が近づいてきて、わぁっと声をあげた。

「トトさんにも驚きましたけど、ライファさん、本当にお綺麗です。」
「美人で料理の腕もいいときたら、引く手あまただな。」

ダン様もリュン様もグショウ隊長もスーツ姿がビシッときまっている。

「みなさん、貴族みたい。」

いつもの雰囲気とは違い出来る男風のかっこいい姿にほうっとなりながら呟くと、「最初から貴族ですよ」と冷静な声が返ってきた。

「さぁ、行きますよ。」



会場に近付くと心地よい生音楽が聞こえてきた。会場の入り口には大きな花が飾られ、足元の絨毯も大胆な刺繍が施された如何にも高級そうな品だ。
会場へ入ればすでにパーティーは始まっており、私たちよりも少し高い段のところに華やかな人だかりが見えた。その中心にいるのは勿論クオン王子だ。

「主役は大忙しですねぇ。」

グショウ隊長が感心したように言う。

「さて、私たちは国王様にご挨拶にいきますよ。こちらに来てからまともにご挨拶をしておりませんからね。私たちと話をする時間があるのかは疑問ですが挨拶をしようと試みることが大切なのです。お酒も食事もその後ですよ。」

「はいっ!」

グショウ隊長の言葉にリュン様とダン様が勢いよく返事をした。グショウ隊長、なんだか引率の先生みたいだ。
私たちは国王の側近の近づき、国王に挨拶をさせてほしい旨を伝える。その言葉は直ぐに国王に伝えられ、国王が近くにいたクオン王子を呼び戻した。

「この度は素晴らしい親任式でございました。クオン王子のお言葉も見事で、他国に住む私でもこの国の今まで以上の繁栄を確信いたしました。」

グショウ隊長がすらすらと述べる。すごい・・・。私は何を話したらいいのかも、どんな口調で話すべきかの自身も持てずに黙って微笑んでいることにした。

「うむ。クオン王子をオーヴェルまで護衛くださったこと、感謝している。」

国王はそう言うとクオン王子を見た。

「私が今日無事にここに立つことが出来たのは皆のお蔭だと思っている。礼を言う。」

「恐縮です。」
「「恐縮です。」」

二人の言葉を聞いて頭を下げたグショウ王子に倣って私たちも頭をさげた。挨拶も終わり、料理たちのもとへと行こうとした時クオン王子に呼び止められた。

「私と踊ってはいただけないだろうか?」

ダンスの申し込みである。次期国王でありこのパーティーの主役であるクオン王子の誘いを断ることなどできないだろう。一応グショウ隊長に助けを求める様な視線を向けたが、黙って首を振られた。おとなしく、誘いを受けろということらしい。

「大変光栄でございます。」

引きつらずに上手に笑えただろうか。



クオン王子にエスコートされながらダンスフロアへ移動する。

「ク、クオン王子、お誘いを受けておいてなんですが、わたし踊れません。」

焦って口にすれば「だろうと思っていた」との返事と笑い声がした。

「あまりにも綺麗だったからつい、な。」
「・・・クオン王子ってなんか、女性を口説くのに慣れていませんか?」
「そんなことはないぞ。黙っていても女は寄ってくるからな。」

あぁ、そうでしたか。そうでしょうよ。とにかく女性の扱いは慣れているということだ。

「俺にしがみついていればいい。」

とにかく王子の足を踏まないように足元にだけ注意し、他は王子に促されるまま体を動かした。

「明日はゆっくり話す時間などはないだろうから、これが最後か。」
「みんな、クオン王子と食事をすることはもうないか、と寂しがっていましたよ。」

「また食事をしたいものだな。」
「王子が私たちを招待してくださいよ。私たちからはなかなか誘えません。」
「そうだな。」

曲が終盤にさしかかり、ゆったりとした曲調になる。

「あの約束、忘れるなよ。」
「居場所がなくなったら俺を幸せにしに来いってやつですか?」
「そうだ。」
「そうですね、それもいいかもしれません。」

私の返事に満足そうに頷いたところで音楽が終わった。丁寧にお辞儀をするとたくさんの拍手に迎えられる。これだけの人にあの酷い踊りを見られていたかを思うと、恥ずかしくて溶けてしまいそうだ。駆け足でみんなのもとへ戻ると、お酒を手にしたグショウ隊長が「ライファさんはダンスの練習をした方がいいですね」と容赦なく言った。

「私もそう思います・・・。」

トホホという表情を浮かべている私に向かって「完璧な王子にくっついている高級な布のようだったぞ」とダン様も容赦ない。おおぅ、そんなに酷かったか・・・。

「よし、気分を変えてご飯、取ってきます!」

取って、というよりも獲ってきます!と心のなかで意気込みを呟き、私は戦場へと急いだ。




 料理は昨夜いただいたものよりも種類も多く、華やかな食事だ。大きなお皿に取りやすさも考えられた料理がドーンと盛り付けてある。野菜、お肉、魚、果物、オーヴェルの食材は色鮮やかなものが多い。特に果物と魚はマリンブルーやショッキングピンクなど食べ物か?というような色をしていたりする。

とにかく、食べたことのないものは片端からいく!そのためにコルセットも緩めにしてもらったのだ。

真っ青な色の果物を恐る恐る口に運ぶ。国王のパーティーだもの、マズイものなどないだろうがこの色味は食べるのには勇気がいる。一口大にカットされている果物を思い切って食べると、夢食材でいうスイカのような味だった。

「おいしい。この国にはぴったりの果物だ。」

思わず独り言を言ってしまったが幸い周りには聞こえていないようだ。わたしはその調子で次々と食べ物を口に入れた。次に手にしたのは紫色のプリっとした物体だ。焼いてあるようだが、これは何だろう。しいて言えば、ナマコのような外見なのだ。そのまま口に入れてみる。クニクニした食感、磯臭さで海の生き物だということがわかる。これは・・・この味覚は貝だ!

とたんに脳裏にホンビノス貝の酒蒸しがイメージでひろがった。お酒にバター、トンビャを少し垂らして酒蒸しにし
たら美味しいに違いない。これは・・・今度こそナターシャさんとガロンさんに持って帰りたい。
この食材の名前を聞こうとキョロキョロしていると声をかけられた。

「どうしたの?」

20代後半のいい男風のチャラ男だ。いい男風というのは、いい男ではないだろうオーラがほのかに出ているからだ。見た目は清潔感もあり、オールバックにまとめた髪の毛も清潔感があるが、妙な笑い方をする。かといえ、ただどうしたのかと聞かれただけなので、素直に返事をする。

「この紫の食べものの名前を知りたくて。」

「あぁ、これね。オーヴェルではよくある食材なのだけど、それを知らないってことはこの国の子じゃないの?」

「はい、他国から来ました。」
「見ない子だなと思った。ねぇ、君、愛人なんだろう?見たところ君の魔力は強くない。」

これが・・・侍女の言っていたアレか。

「君の今の奴よりもいい条件を出すよ。僕とどう?」

思っていた言葉に思わずため息が出た。師匠ならこういう時、どうするのだろう。魔女の弟子たるものサラッとあしらえなくてどうする!と声が聞こえてくる気がした。師匠なら・・・。
私は男の肩に手をかけ背伸びをして耳元に少しだけ近づいた。視線は流すように下に向ける。

「わたくし、立派な方じゃないと満足できませんの。お許しください。」

よし!今のはまるで師匠のようだ!
男がポカンとしているうちに立ち去ろうと一歩足を進めると目の前に口元を押さえ笑いをこらえているグショウ隊長がいた。

「まさかあなたがあんなに過激なことを言えるとは・・・ぷぷっ。」
「たっ、隊長っ!」

私は隊長の腕を掴んでグイグイ歩く。

「聞こえたのですか?」

真っ赤な顔して聞く。

「隊長なので声は聞こえなくても口元を読むことはできるのですよ。」

ぐおーっ、恥ずかしい。慣れないことなどするのではなかった!

「一応、あなたの救出に向かったのですが面白い物が見ることができました。」
「た、隊長、先ほどのことは忘れてください。」
「それは・・・できませんね。」

グショウ隊長はにっこりと眩しい笑みを浮かべた。



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