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第二章

37. 合流

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グショウ隊長からキース様を殺しにきた奴を捕まえたと連絡があったのは明け方近くだった。送られてきた映像には肩までの長さのうねった灰色の髪の毛をした男が頭から血を流してこちらを睨むようにして映っていた。

「知らんな。どこかのゴロツキだろう。」

クオン王子が言う。

「順調に行けば今日の夕方にはこちらに着く予定だ。着いたら連絡するとのことだ。」

続いたクオン王子の言葉に私たちは頷いた。

「それから、ライファ宛にご飯の催促もあったぞ。ジョンとダンがどうしてもって煩いそうだ。頼めるか?」

おぉ、リピーターだ。二人とも私の料理を楽しんでくれていたということだろう。これはすごく嬉しい。

「はい、勿論です!」

私は気合たっぷり返事をした。灼熱の中を来るのだから、冷たくて食べやすいものがいいだろう。道中食べやすいものといえばパンと果物だったに違いない。きっと野菜もあまり口にしていないだろうから野菜たっぷりのサラダ麺はどうだろうか。肉肉しさが足りないなら鳥チャーシューを作ってもいいな。あとで女主人さんに言って厨房をお借りしよう。ここにはスーはあるだろうか。無ければそれも買いに行かなくちゃ。

グショウ隊長たちから到着の連絡が来たのはその日の16時すぎだった。予定よりも早い。リュン様が迎えに行っている間にトトさんと一緒に食事の用意をする。厨房へ入る私の姿を見てベルも付いてきた。きっとつまみ食いを狙っているのだろう。

鳥チャーシューは臭みを取る為に香味野菜の切れ端を入れたタレに鶏肉をつけ、そのまま火にかけること10分。蓋をしたまま時短魔方陣を飛ばしてもらい粗熱が取れるのを待つ。野菜はとにかく刻む。麺のタレはカオの汁で酸味をつけ、ドレッシング風にさっぱり仕上げ、疲労回復効果のある実をすりおろして混ぜる。効果は疲労回復効果2だ。

流石にサラダそうめんだけでは少ないので、焼肉のタレも作る。
この森で採れた新鮮な野菜を素焼きにして焼肉のタレにつけて食べれば立派なおかずになるはずた。

更にもうひとつ、暑い日にはやっぱりアイスクリームでしょうっ!夢で食べたあの味、冷たさはこういう気候でこそ身に染みて美味しく感じる気がしたのだ。みんなの為といよりも、これはもはや自分の為だ。
羊乳、卵、ポン蜜、香りづけにフルーツを原材料としたお酒も用意する。

「何を作るんですか?」

トトさんが不思議そうに覗いてきた。

「ふっふっふっふっ、とても美味しいものですよ。まぁ、見ていてください。」

私の低い笑い声が気になったのか女主人もやってきた。

「私も見学させてもらおうかな。」
「いいですよ。簡単で美味しい、この国にはぴったりのデザートになるはずです!」

私は卵を卵黄と卵白に分け卵白を泡立てた。

「へぇー。」

二人とも、キョトンとした表情で見ている。それもそうだ、卵をかき混ぜることはしてもこうして泡立てるということなどこの世界にはない。

「細かい泡が立っている。」

トトさんが呟いた。

「ここにポン蜜を入れて更に泡立てます。」

グルグルかき混ぜて泡がしっかり立ったところで卵黄を混ぜ、コオリーンに冷やしてもらう。勿論ここでも時短魔法陣を使う。コオリーンを見ていると、高速で首をかくかく左右に動かし、両手で食材を扇ぐような動きをしている。その扇ぐような動きも高速になっている訳だが。本来ならもっと可愛らしくゆっくりとした動作に違いない。今見ている分だと、霊体が乗り移った人形のようでかなり不気味な姿になっている。トトさんを見れば、怯えたような表情で引きつっていた。

1、2分してからコオリーンから卵を受け取り、かき混ぜながら羊乳を入れる。よくかき混ぜたらまたコオリーンに渡し、1、2分して受け取ってまたよくかき混ぜる。それを3回程繰り返す。

「できた!」

完成したアイスクリームを味見だといって二人と一匹に渡せば、二人とも目を見開いて「「美味しいっ!!」と叫んだ。ベルもきゅうううんっといつもより甲高い声で鳴いて手足をじたばたさせている。全身で美味しいと言っているかのようだ。

「でしょう?」
「これは凄い!さっと口の中で溶ける味わい、口の中からなくなった後も冷たさが残って濃厚なのに爽やかだ。」

女主人が感想を饒舌に述べた。興奮したその姿に、私は大いに大満足である。

「このレシピ、貰ってもいいか?この宿の名物にしたい。」

「もちろんです。あ、でも、日が経つとこの食感は無くなっちゃいますので、作った当日で食べきるのがいいと思います。」

「わかった、ありがとう。」

女主人は嬉しそうに微笑み、私はこれで厨房を借りたお礼が出来た気がして嬉しくなった。



カラン

控えめなベルの音が響いて、やっとついたーという声が聞こえる。女主人が出迎えるよりも先にリュン様に連れられたグショウ隊長が現れた。隊長は室内をクルッと見回すと女主人を気にしながら「クオンさんは?」と聞いた。

「グショウ隊長、お疲れ様です。クオン様は部屋にいると思います。」
「私が案内しますよ。」

リュン様がそう言い隊長と共に部屋を出ていった。その後いくつかの足音が階段を上っていくのが聞こえた。

「トト、ちょっといいか?」
暫くして下りてきたクオン王子がトトさんに声をかける。

「はい、なんでしょうか?」
「すまないが部屋に戻ってリュンとキースと一緒に見張りを頼む。ジョンたちに飯を食わせてやりたい。」
「承知しました。」

トトさんが部屋を出て暫くするとグショウ隊長たちが現れた。

「「おおーっ!!!」」

テーブルにはサラダ麺と、たくさんの焼き野菜や焼ききのこが並んでおり、焼肉のタレも小皿に入れて添えてある。料理を見てジョン様とダン様が喜びの声を上げた。グショウ隊長も微笑んでいて少し嬉しそうだ。

「今日は野菜が盛りだくさんだな。」

クオン王子が席につきながら言う。

「はい、私たちと別れてからきっと野菜はあまり食べていないんじゃないかと、野菜尽くしにしてみました。」
「さすがライファさん、よく分かっている。」

ジョン様は早口でそう言うと、もう食べても良いか?と待ちきれない様子で聞いてきた。クオン王子がハッとして私の顔を見たので、」大丈夫だの意味を込めて頷く。王子が食事に箸をつけたのをみると、ジョン様とダン様が待っていましたとばかりに食事にがっつき、グショウ隊長が後を追うように上品に食べ始めた。

「うまい!うまい!」

一口食べるたびにジョン様が叫ぶので、なんだか照れてしまう。

「疲れた体にすっと沁みこんでいきますねぇ」とはグショウ隊長の言葉だ。
「この間食べたものより酸味が強いな。サラダを食べているみたいだが、サラダよりも食べやすい。」

王子もつるつるっと食べながら言う。

「この焼き野菜、タレが絶品だな。」

ダン様は焼肉のタレが気に入ったようだ。

「デザートも用意してあるんですよ。」

ひとしきりお腹がいっぱいになった頃、私は女主人に手伝ってもらいアイスクリームを持ってきた。

「デザートまで・・・。」

感動したようにジョン様が呟いたが、凄かったのはその後の方だった。アイスの美味しさに感動してのマジ泣きである。ポロポロと涙を零しながらアイスを食べるジョンにもはや誰も触れたがらず、突っ込みもせずといった状態だった。ジョン様の反応が強かったせいでみんなの反応が薄まってしまったが、大好評だったのは間違いない。グショウ隊長までもが、ターザニアに戻ってもまた作ってくださいね、と言ってきた程だ。

露骨に残念そうにした王子たちには、女主人にレシピを教えてあるのでここに来れば食べられますよと教えておいた。


女主人が食後のお茶を持ってきてくれた。王子はお茶を受け取ると、すまないがちょっと席を外して欲しいと言い女主人は慣れたことように下がって行った。

「それで王子、今後の予定は?」

「俺の暗殺に関わっていたのはアーバン伯爵の息子であるクラウス、キースの相手であるトーニャ、そしてウエストロン公爵夫人だ。クラウスとトーニャを泳がせてずっと様子を見てはいるが、叔父とアーバン伯爵の関与は証明できなかった。ウエストロン公爵夫人が単独で動いたと考えて良さそうだ。」

「キースの女も関与していたとは。やはりそういうことでしたか。」

グショウ隊長は想定内だという反応をした。ジョン様もダン様も驚いた様子がないところを見ると、みんな薄々感づいてはいたのだろう。

「これから王宮へ戻る。ジョンは騎士団を率いてクラウスとトーニャを逮捕、ウエストロン公爵夫人の元へはオーヴェルの騎士団長を向かわせる。決着は王宮でつける。」

「「「承知しました。」」」

グショウ隊長たちが声をそろえて返事をした。


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