63 / 226
第二章
19. ダイガとレイ
しおりを挟む
お土産を渡したいからと師匠にお願いして先生の元へ行く魔法陣を開いてもらう。
「先生―っ。」
パタパタと急ぎ足で調合室の扉を開けると、ゲッソリとした先生がいた。
「あら、ライファ。お帰りなさい。」
「先生、またご飯食べていませんよね?お昼ご飯、作ってきてもいいですか?」
相変わらずな先生の姿に呆れながら申し出る。
「お願いしますわ。もう、お腹が減ってお腹が減って・・・。」
「またか。」
その傍らで師匠もため息をついた。
「レイ、ライファの料理を手伝ってやれ。」
「はい。」
レイと二人、先生の家のキッチンに立つ。
「何作るの?」
「ん~、先生があの調子だしなぁ。お腹に優しいやつにする。具沢山のポタージュとパンとサラダと果物かな。」
「うん、ポタージュが何かは分からないけど、サラダとパンと果物は分かった。野菜、適当に摘んできて切っておくよ。果物も任せといて。」
テキパキ動くレイに驚く。キッチンにある物の位置もよく知っているみたいだ。
「レイ、なんか随分慣れてるね。」
「うん、リベルダ様によく連れてきて貰っていて、料理の準備は私の役割なんだ。」
すっかり慣れちゃったよ、とレイが肩をすくめた。
「手伝うことがあったらなんでも言って。」
「うん、ありがとう。」
私はサワンヤとクロッカを細かく切って鍋に入れ、羊乳凝を入れて軽く炒めた。クロッカの甘さが引き立つように弱火でゆっくり炒める。クロッカがしんなりしていい香りがしてきたら水を入れサワンヤが柔らかくなるまで煮る。
「レイ、サワってある?」
「あるよ。」
レイが手渡してくれたサワを細かく切って、ポン蜜とお酒、ピンパをひとかけら入れて小さな火を入れる。
「レイ、時短魔法陣をお願い。」
レイが飛ばしてくれた時短魔法陣の下でサワがクツクツいい香りを放っていた。
「いい匂いだね。これは何?」
「サワのジャムを作ってるんだ。パンにつけると甘くて美味しいよ。」
「それは楽しみ。」
レイがこちらを向いて微笑む。その笑顔がまたもやデビルレイちっくだ。今日はよくあの笑顔を見るなぁ。もしかしてあの笑顔が通常状態なのか?え、そうなの?バッとレイを見ると、どうしたの?と聞かれた。
「レイ、もしかしてなんか色っぽくなった!?」
その言葉にレイがブッと噴き出した。
「色っぽいってなんだよ。でも、ライファから見て色っぽく見えるってことなら、それはそれでアリだな。」
などと言う。
「そう言えば俺、16歳になったんだよ。ライファとは1歳差になったね。」
レイはそのまま耳元に唇を近づけて「どう?少しは大人っぽくなった?」と聞いてきた。レイの吐く息が耳にかかり、ゾクッとする。耳を手で押さえて少し離れながら、「なった!なった!!」と言うとレイは満足そうに笑った。
「レイ、これをすり潰して。」
私はぶっきらぼうにサワンヤとクロッカが入っている鍋を指さした。レイは、はいはい、と返事をしつつまだ笑っている。むぅ。
サワの鍋をかき混ぜ火を消し、コオリーンを呼び出し冷ましてもらう。その後、レイか潰してくれたサワンヤの鍋に羊乳を入れ、塩と香辛料で味を調えた。一口味見をしてみる。
「うむ、おいしい。」
納得していると、俺にもちょうだい、とレイが口を開けてきた。はい、と口の中にスプーンを入れるとおいしい、と嬉しそうに呟いた。
「ライファとこうして料理をするのも楽しいね。」
その言葉に頷きつつ、上機嫌すぎるレイに少し戸惑っていた。
4人と一匹で食卓を囲む。
「おぉっ。」
「まぁっ。」
魔女二人は嬉しそうに声をあげた。
「食事が華やかだと嬉しいですわね。」
先生はそう言った後、いつものようにひと品ずつ無言で平らげ始めた。
「このスープは初めて飲むぞ。冷たくて濃厚でうまい。これ、もっとあるのか?」
「はい、たくさん作っておきました。先生はすぐ食事をさぼるので、作ってさえ置けばあとはジュリアがなんとかしてくれるかと思って。」
私がそう言うと師匠は、良い生徒を持ったなマリアと言って笑った。
「レイ、午後からマリアの庭に行ってダイガの爪を切ってきてくれ。ライファに回復薬を作ってもらう。」
「はいっ!」
レイが緊張した面持ちで返事をする。
「師匠!私も行きたいです!」
私の発言に師匠と先生が、ん?と顔を見合わせた。
「実は小弓を魔道具にしたのです。ターザニアの魔道具研究室の方に作っていただきました。」
私は新小弓を取り出した。光が当たり銀色に輝いて、綺麗なシルエットである。
「ほう、ちょっと貸してみろ。」
先生は小弓を受け取ると自分の魔力を当てながら何やら調べ始めた。
「なるほど、これは魔力を取り込んで使うようにもできているのか。このボタンを押すと玉が出る仕組みだな。ボタンが3つあるのはなんでだ?」
「右カーブ、左カーブ、直線と軌道が変えられるようになっているのです。」
先生も魔道具を見つめ、これは良い物を作っていただきましたね、と言った。レイも小弓を手にして、これは凄い、と呟いている。
「良い魔道具師と知り合ったな。いいぞ、レイと一緒に行って来い。」
「はい!」
私は一度家に帰ると道具部屋からシューピンを出した。さすがは師匠、魔力は満タンだ。シューピンを巾着に入れると先生の家に戻った。先生の家に戻るとレイが師匠や先生に何か言われ、うんうんと頷いている。その姿は私よりも師匠と弟子といった感じだ。グイッとレイの隣に並ぶと私も師匠と先生の言葉を待った。
師匠は私を見て、はぁ、とため息をつく。
「まぁ、死なない程度にな。大抵のことならなんとか治してやる。」
師匠は呆れ口調でそう言い、それを見ていた先生が笑った。
「くすっ、まるで親鳥と雛のようですわね。せいぜい立派に飛ぶのですよ。」
先生の庭を歩く。レイは緊張しているのか無口だ。私の記憶が正しければ、ここから魔鹿のいる崖にまっすぐ向かえばダイガのテリトリーにぶつかるはずだ。
「レイ、こっちだ。以前ダイガのテリトリーに足を踏み入れたことがあるんだ。」
レイは黙って頷く。
「ライファ、ダイガは怪力なうえに突進力がある。防御結界を張れないライファが近づくのは危険だ。だから離れての援護を頼む。」
「わかった。レイには当てないように頑張る。」
「そ、それは切実に頼む。」
レイは引きつった笑みを浮かべた。
あたり一帯の空気が少し重くなり、大きな木にダイガの爪痕を発見した。私たちは互いに顔を見合わせて、ダイガのテリトリーに足を踏み入れたことを確認する。ベルが私の肩にギュッと爪を食い込ませた。
ガァァァァア
ダイガにしては控えめな鳴き声が響いた。一度目の威嚇だ。私たちはその声に構わず進んだ。
グガァアァアアアアアアアア!!!!
私たちがテリトリーから出ていかないことを察知したダイガが大声をあげる。私はシューピンを取り出すと高く舞った。ベルが私の肩にとまったまま姿を消す。レイは前方からやってくるダイガに備えて姿勢を低く構えた。手は腰の剣に添えてある。
ガァァァアアア!!
レイはダイガの一撃目を剣で受け流した。ダイガは本能の赴くまま両手を振り回す。レイが腕に魔力を宿し防御しているのがわかる。私は小弓でダイガに狙いをつけるもダイガの体は毛だらけ、バチッと見開いた目を狙おうにも首も振り回すので全然狙いが定まらない。
レイはダイガの攻撃をなんとか避け続けてはいるものの、避けるだけで余裕はなさそうだ。何かでダイガの気を逸らさねばレイが危ない。
一発で当てようなんて思わない。まずはダイガの気を逸らす。
私はダイガの目を狙うのをやめ、目標を顔のあたりとお大ざっぱに決めた。とにかくレイに当たらなければいい。私はダイガめがけて眠り玉を発射した。眠り玉は右カーブを描き木に激突した。
あ、やはりいきなり実践はダメだったか。
私は直ぐに次の眠り玉をセットすると直線でダイガを狙う。ダイガが眠り玉に気付かなければ意味がないうえにレイがジャンプして眠り玉に当たっては大変だ。私はダイガとレイの真横に移動し、そこから眠り玉を発射した。発射された眠り玉は狙い通りにダイガの目前を横切り、驚いたダイガの動きが一瞬緩慢になった。その隙を狙いダイガから距離をとったレイが魔法陣をダイガの上空に飛ばす。
レイが手をあげると魔法陣が青白く光り、光の柱を8本円型に落とした。だが、レイの魔方陣の発動よりもダイガの動きの方が早かった、左足を光の柱に捉えられたものの体は魔方陣から逃れることに成功している。このまま一気に畳み込もうとレイが構えた時、ガァアアアアアアアアとレイの背後から声が上がった。ダイガがもう一匹現れたのだ。
一体何匹飼ってるんだ!
「レイっ!」
レイは魔法陣に捕らわれているダイガはそのままに、新たに登場したダイガと戦い始めた。
流石にレイひとりで二匹を相手にするのは無理だ。
私はシューピンの上で前のめりになるとシューピンのスピードを上げ捕らわれのダイガの元へ急いだ。肩にとまっているベルに協力を仰ぐ。ダイガは私を見るなり大きな声をあげ両手を振り回す。
「ライファ!」
制止するようなレイの声が聞こえた。
「こっちは任せて!」
私はそう言うと、ベル!とベルの名を呼んだ。そしてベルが青白く光ったかと思うと、ダイガは攻撃をやめキョロキョロしはじめた。
今だ!
私はダイガがいつ動き出しても大丈夫なように距離をとりつつ、ダイガの目をめがけて眠り玉を発射した。一発で当てることが出来ず、3発使ったことは内緒だ。
ダイガは眠気に抗うように少しの間、動いていたがその動きは緩慢になり小さく鳴くだけになった。
レイを振り返れば、小さな魔法陣をダイガの足に飛ばしたところだった。先ほど、大きな魔法陣でダイガをつかまえることが出来なかったので、小さな魔法陣でピンポイントに捕まえることにしたらしい。
狙いが成功して両足が動かなくなったダイガの後頭部にレイが全身を使って剣を打ち込む。ダイガはガクッとその場に崩れた。
「ベル、ありがとう。」
ベルにお礼を言い、姿を現した私はレイの隣に下りる。
「大丈夫?」
「はぁっ、はぁっ、うん。なんとか。」
レイは肩で息をしつつ、口だけで笑った。その場でドサッと座り込んだレイに、レイ、凄かったね、と言う。
「全然、まだまだだよ。リベルダ様がこの戦いを見ていたらなんと言うか・・・。ライファがいなかったら危なかった。助かったよ。」
「本当にその通りだな。」
魔女降臨、とはこのことだろう。師匠と先生がソヨから飛び降りた。
「見ていたんですか?」
「当たり前だろう。こんなところでうっかり死なれてはたまらんからな。」
私とレイは顔を見合わせてハハハハハ、と笑う。
「レイは魔法陣のスピードと正確性をもっと上げないと死ぬぞ。しかも魔法陣を間違っていただろう。あれでは魔力のわりに正しい魔法陣の半分の力も出ないぞ。それに、超攻撃型の魔獣に同じように真正面からぶつかっていくのも、バカとしか言いようがない。」
おぉ・・・本当にケチョンケチョンに言われておる・・・。
「それから、ライファ、なんだあの射撃の腕は。むしろ、当たったのがまぐれといわんばかりだぞ。あれでは宝の持ち腐れだ。ベルがいなかったら子供のお遊びでしかないぞ。」
「は、はい。」
容赦ない師匠の声に二人とも小さくなる。
「まぁまぁ、怪我もせずに二体を黙らせたことは評価に値しますわ。二人は意外とよいコンビになりそうですわね。さぁ、ダイガの爪を頂いちゃいましょう。」
先生がニコリと笑ったことでその場はお開きになった。
「先生―っ。」
パタパタと急ぎ足で調合室の扉を開けると、ゲッソリとした先生がいた。
「あら、ライファ。お帰りなさい。」
「先生、またご飯食べていませんよね?お昼ご飯、作ってきてもいいですか?」
相変わらずな先生の姿に呆れながら申し出る。
「お願いしますわ。もう、お腹が減ってお腹が減って・・・。」
「またか。」
その傍らで師匠もため息をついた。
「レイ、ライファの料理を手伝ってやれ。」
「はい。」
レイと二人、先生の家のキッチンに立つ。
「何作るの?」
「ん~、先生があの調子だしなぁ。お腹に優しいやつにする。具沢山のポタージュとパンとサラダと果物かな。」
「うん、ポタージュが何かは分からないけど、サラダとパンと果物は分かった。野菜、適当に摘んできて切っておくよ。果物も任せといて。」
テキパキ動くレイに驚く。キッチンにある物の位置もよく知っているみたいだ。
「レイ、なんか随分慣れてるね。」
「うん、リベルダ様によく連れてきて貰っていて、料理の準備は私の役割なんだ。」
すっかり慣れちゃったよ、とレイが肩をすくめた。
「手伝うことがあったらなんでも言って。」
「うん、ありがとう。」
私はサワンヤとクロッカを細かく切って鍋に入れ、羊乳凝を入れて軽く炒めた。クロッカの甘さが引き立つように弱火でゆっくり炒める。クロッカがしんなりしていい香りがしてきたら水を入れサワンヤが柔らかくなるまで煮る。
「レイ、サワってある?」
「あるよ。」
レイが手渡してくれたサワを細かく切って、ポン蜜とお酒、ピンパをひとかけら入れて小さな火を入れる。
「レイ、時短魔法陣をお願い。」
レイが飛ばしてくれた時短魔法陣の下でサワがクツクツいい香りを放っていた。
「いい匂いだね。これは何?」
「サワのジャムを作ってるんだ。パンにつけると甘くて美味しいよ。」
「それは楽しみ。」
レイがこちらを向いて微笑む。その笑顔がまたもやデビルレイちっくだ。今日はよくあの笑顔を見るなぁ。もしかしてあの笑顔が通常状態なのか?え、そうなの?バッとレイを見ると、どうしたの?と聞かれた。
「レイ、もしかしてなんか色っぽくなった!?」
その言葉にレイがブッと噴き出した。
「色っぽいってなんだよ。でも、ライファから見て色っぽく見えるってことなら、それはそれでアリだな。」
などと言う。
「そう言えば俺、16歳になったんだよ。ライファとは1歳差になったね。」
レイはそのまま耳元に唇を近づけて「どう?少しは大人っぽくなった?」と聞いてきた。レイの吐く息が耳にかかり、ゾクッとする。耳を手で押さえて少し離れながら、「なった!なった!!」と言うとレイは満足そうに笑った。
「レイ、これをすり潰して。」
私はぶっきらぼうにサワンヤとクロッカが入っている鍋を指さした。レイは、はいはい、と返事をしつつまだ笑っている。むぅ。
サワの鍋をかき混ぜ火を消し、コオリーンを呼び出し冷ましてもらう。その後、レイか潰してくれたサワンヤの鍋に羊乳を入れ、塩と香辛料で味を調えた。一口味見をしてみる。
「うむ、おいしい。」
納得していると、俺にもちょうだい、とレイが口を開けてきた。はい、と口の中にスプーンを入れるとおいしい、と嬉しそうに呟いた。
「ライファとこうして料理をするのも楽しいね。」
その言葉に頷きつつ、上機嫌すぎるレイに少し戸惑っていた。
4人と一匹で食卓を囲む。
「おぉっ。」
「まぁっ。」
魔女二人は嬉しそうに声をあげた。
「食事が華やかだと嬉しいですわね。」
先生はそう言った後、いつものようにひと品ずつ無言で平らげ始めた。
「このスープは初めて飲むぞ。冷たくて濃厚でうまい。これ、もっとあるのか?」
「はい、たくさん作っておきました。先生はすぐ食事をさぼるので、作ってさえ置けばあとはジュリアがなんとかしてくれるかと思って。」
私がそう言うと師匠は、良い生徒を持ったなマリアと言って笑った。
「レイ、午後からマリアの庭に行ってダイガの爪を切ってきてくれ。ライファに回復薬を作ってもらう。」
「はいっ!」
レイが緊張した面持ちで返事をする。
「師匠!私も行きたいです!」
私の発言に師匠と先生が、ん?と顔を見合わせた。
「実は小弓を魔道具にしたのです。ターザニアの魔道具研究室の方に作っていただきました。」
私は新小弓を取り出した。光が当たり銀色に輝いて、綺麗なシルエットである。
「ほう、ちょっと貸してみろ。」
先生は小弓を受け取ると自分の魔力を当てながら何やら調べ始めた。
「なるほど、これは魔力を取り込んで使うようにもできているのか。このボタンを押すと玉が出る仕組みだな。ボタンが3つあるのはなんでだ?」
「右カーブ、左カーブ、直線と軌道が変えられるようになっているのです。」
先生も魔道具を見つめ、これは良い物を作っていただきましたね、と言った。レイも小弓を手にして、これは凄い、と呟いている。
「良い魔道具師と知り合ったな。いいぞ、レイと一緒に行って来い。」
「はい!」
私は一度家に帰ると道具部屋からシューピンを出した。さすがは師匠、魔力は満タンだ。シューピンを巾着に入れると先生の家に戻った。先生の家に戻るとレイが師匠や先生に何か言われ、うんうんと頷いている。その姿は私よりも師匠と弟子といった感じだ。グイッとレイの隣に並ぶと私も師匠と先生の言葉を待った。
師匠は私を見て、はぁ、とため息をつく。
「まぁ、死なない程度にな。大抵のことならなんとか治してやる。」
師匠は呆れ口調でそう言い、それを見ていた先生が笑った。
「くすっ、まるで親鳥と雛のようですわね。せいぜい立派に飛ぶのですよ。」
先生の庭を歩く。レイは緊張しているのか無口だ。私の記憶が正しければ、ここから魔鹿のいる崖にまっすぐ向かえばダイガのテリトリーにぶつかるはずだ。
「レイ、こっちだ。以前ダイガのテリトリーに足を踏み入れたことがあるんだ。」
レイは黙って頷く。
「ライファ、ダイガは怪力なうえに突進力がある。防御結界を張れないライファが近づくのは危険だ。だから離れての援護を頼む。」
「わかった。レイには当てないように頑張る。」
「そ、それは切実に頼む。」
レイは引きつった笑みを浮かべた。
あたり一帯の空気が少し重くなり、大きな木にダイガの爪痕を発見した。私たちは互いに顔を見合わせて、ダイガのテリトリーに足を踏み入れたことを確認する。ベルが私の肩にギュッと爪を食い込ませた。
ガァァァァア
ダイガにしては控えめな鳴き声が響いた。一度目の威嚇だ。私たちはその声に構わず進んだ。
グガァアァアアアアアアアア!!!!
私たちがテリトリーから出ていかないことを察知したダイガが大声をあげる。私はシューピンを取り出すと高く舞った。ベルが私の肩にとまったまま姿を消す。レイは前方からやってくるダイガに備えて姿勢を低く構えた。手は腰の剣に添えてある。
ガァァァアアア!!
レイはダイガの一撃目を剣で受け流した。ダイガは本能の赴くまま両手を振り回す。レイが腕に魔力を宿し防御しているのがわかる。私は小弓でダイガに狙いをつけるもダイガの体は毛だらけ、バチッと見開いた目を狙おうにも首も振り回すので全然狙いが定まらない。
レイはダイガの攻撃をなんとか避け続けてはいるものの、避けるだけで余裕はなさそうだ。何かでダイガの気を逸らさねばレイが危ない。
一発で当てようなんて思わない。まずはダイガの気を逸らす。
私はダイガの目を狙うのをやめ、目標を顔のあたりとお大ざっぱに決めた。とにかくレイに当たらなければいい。私はダイガめがけて眠り玉を発射した。眠り玉は右カーブを描き木に激突した。
あ、やはりいきなり実践はダメだったか。
私は直ぐに次の眠り玉をセットすると直線でダイガを狙う。ダイガが眠り玉に気付かなければ意味がないうえにレイがジャンプして眠り玉に当たっては大変だ。私はダイガとレイの真横に移動し、そこから眠り玉を発射した。発射された眠り玉は狙い通りにダイガの目前を横切り、驚いたダイガの動きが一瞬緩慢になった。その隙を狙いダイガから距離をとったレイが魔法陣をダイガの上空に飛ばす。
レイが手をあげると魔法陣が青白く光り、光の柱を8本円型に落とした。だが、レイの魔方陣の発動よりもダイガの動きの方が早かった、左足を光の柱に捉えられたものの体は魔方陣から逃れることに成功している。このまま一気に畳み込もうとレイが構えた時、ガァアアアアアアアアとレイの背後から声が上がった。ダイガがもう一匹現れたのだ。
一体何匹飼ってるんだ!
「レイっ!」
レイは魔法陣に捕らわれているダイガはそのままに、新たに登場したダイガと戦い始めた。
流石にレイひとりで二匹を相手にするのは無理だ。
私はシューピンの上で前のめりになるとシューピンのスピードを上げ捕らわれのダイガの元へ急いだ。肩にとまっているベルに協力を仰ぐ。ダイガは私を見るなり大きな声をあげ両手を振り回す。
「ライファ!」
制止するようなレイの声が聞こえた。
「こっちは任せて!」
私はそう言うと、ベル!とベルの名を呼んだ。そしてベルが青白く光ったかと思うと、ダイガは攻撃をやめキョロキョロしはじめた。
今だ!
私はダイガがいつ動き出しても大丈夫なように距離をとりつつ、ダイガの目をめがけて眠り玉を発射した。一発で当てることが出来ず、3発使ったことは内緒だ。
ダイガは眠気に抗うように少しの間、動いていたがその動きは緩慢になり小さく鳴くだけになった。
レイを振り返れば、小さな魔法陣をダイガの足に飛ばしたところだった。先ほど、大きな魔法陣でダイガをつかまえることが出来なかったので、小さな魔法陣でピンポイントに捕まえることにしたらしい。
狙いが成功して両足が動かなくなったダイガの後頭部にレイが全身を使って剣を打ち込む。ダイガはガクッとその場に崩れた。
「ベル、ありがとう。」
ベルにお礼を言い、姿を現した私はレイの隣に下りる。
「大丈夫?」
「はぁっ、はぁっ、うん。なんとか。」
レイは肩で息をしつつ、口だけで笑った。その場でドサッと座り込んだレイに、レイ、凄かったね、と言う。
「全然、まだまだだよ。リベルダ様がこの戦いを見ていたらなんと言うか・・・。ライファがいなかったら危なかった。助かったよ。」
「本当にその通りだな。」
魔女降臨、とはこのことだろう。師匠と先生がソヨから飛び降りた。
「見ていたんですか?」
「当たり前だろう。こんなところでうっかり死なれてはたまらんからな。」
私とレイは顔を見合わせてハハハハハ、と笑う。
「レイは魔法陣のスピードと正確性をもっと上げないと死ぬぞ。しかも魔法陣を間違っていただろう。あれでは魔力のわりに正しい魔法陣の半分の力も出ないぞ。それに、超攻撃型の魔獣に同じように真正面からぶつかっていくのも、バカとしか言いようがない。」
おぉ・・・本当にケチョンケチョンに言われておる・・・。
「それから、ライファ、なんだあの射撃の腕は。むしろ、当たったのがまぐれといわんばかりだぞ。あれでは宝の持ち腐れだ。ベルがいなかったら子供のお遊びでしかないぞ。」
「は、はい。」
容赦ない師匠の声に二人とも小さくなる。
「まぁまぁ、怪我もせずに二体を黙らせたことは評価に値しますわ。二人は意外とよいコンビになりそうですわね。さぁ、ダイガの爪を頂いちゃいましょう。」
先生がニコリと笑ったことでその場はお開きになった。
0
お気に入りに追加
436
あなたにおすすめの小説
【完結】男爵令嬢は冒険者生活を満喫する
影清
ファンタジー
英雄の両親を持つ男爵令嬢のサラは、十歳の頃から冒険者として活動している。優秀な両親、優秀な兄に恥じない娘であろうと努力するサラの前に、たくさんのメイドや護衛に囲まれた侯爵令嬢が現れた。「卒業イベントまでに、立派な冒険者になっておきたいの」。一人でも生きていけるようにだとか、追放なんてごめんだわなど、意味の分からぬことを言う令嬢と関わりたくないサラだが、同じ学園に入学することになって――。
※残酷な描写は予告なく出てきます。
※小説家になろう、アルファポリス、カクヨムに掲載中です。
※106話完結。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる