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第一章

27.  レイとのお出かけとパーティーのお誘い

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朝。日差しがカーテンから差し込み、鳥の鳴き声が聞こえる。美しい朝だ。
「ししょ~うっ!!」
私はご機嫌に師匠を揺り起す。昨日のパーティーでのアレン王子とのやり取りを報告し、なんとしてでもターザニア行きの許可を取らねばならぬ。
師匠は昨晩も私が寝るまで帰ってくることはなく、パーティー後の初めて会うのが今だ。なうっ!

「師匠~、師匠~、起きてくださいよ~。師匠が起きてこないから師匠のぶんのご飯を部屋まで持ってきましたよ。」

「・・・それはいただこう。」

ごそごそと布団から手が出てきた。

「ちゃんと起きないとだめです。お行儀が悪いですよ。」
「お前はいつから私の母親になったんだ?」

師匠がしぶしぶ起きてきた。私は師匠のご飯をテーブルにセットし、師匠を待つ。師匠が席に着いたのを見て、話し始めた。

「師匠!!私、ターザニアに勉強にいきたいです!!」
「ターザニア、か。」

師匠が微妙な顔をした。

「ターザニアの研究室で調合と料理を合わせた研究をしている方がいると聞いたのです。ぜひ、私も学んでみたいっ」

私は精一杯やる気を伝えた。

「ずっと考えていたんです。美味しい物が食べたくて、夢で見たレシピを再現したくて今まで来ました。でも、自分のスキルを知り、このスキルを生かせないかと考えていたんです。そしたら、昨日のパーティーでアレン王子にお会いして、研究のことを聞きました。私はぜひ見てみたい。ターザニアが私の人生のターニングポイントになる気がするのです。」

私は昨日の出来事を話し、師匠は目を閉じて何かを考えているようだった。

「お前の気持ちはよくわかった。少し考える時間をくれ。」

師匠がらしくない真剣な表情をするから、それ以上は聞くことが出来なかった。


コンコンコン

「ライファ、いる?」

師匠との話が終わったとき、ノックがしてレイの声が聞こえた。

「そろそろ出かけようと思うんだけど、準備できた?」

朝食の時に今日は仕事が休みだから街を案内するよ、と言ってくれたのだ。準備など、いつものポンチョを着ればできあがりだ。私はポンチョを掴むと師匠に声をかけた。

「ちょっと出かけてきます!」

今日のレイは黒いパンツに白いシンプルなシャツ、ふくらはぎまである灰色の長い羽織ものを着ている。騎士団の服の時よりも少し大人びて見えるのはやはり黒という色のせいだろうか。

「さぁ、行こう。」

最初に行ったのは祭りの中心部だ。大きな噴水のある公園エリアになっていて、食材屋さんや食べ物屋さん、魔道具屋さんや骨とう品屋さんまで、幅広く色々なお店が並んでいる。この日のために地方から商品を持って売りにくる人たちもいて、珍しい品物もあるのだ。

「おぉ~、これはテンション上がるな!」

私は公園エリアを眺めウキウキしていた。これが王都の賑わいか!

「あ、レイ、とりあえず、アレが食べたい!」

私が指さしたのはユーリスアに到着した日に馬車から見たトローリ売りだ。伸びる飴とやらを食べてみたかったのだ。レイがトローリ売りのおじさんに目で合図して手を上げるとおじさんがゆらりと下がってきた。

「ご注文は?」
「トローリ飴をひとつ。」
「レイは食べないの?」
「私は小さい頃、たくさん食べたからね。」

レイはそういうと飴を一つ受け取り、さらっと代金を払ってくれた。

「あ、レイ待って、お金払うよ。」
「いいよ。兄さんのこともあるし、今日は全部私のおごり。はい、どうぞ。」
「いや、それは・・・。」
「ターザニアに行くならお金は少しでも貯めておいた方がいいだろ?」
「た・・・たしかに。」

お金のこと全然考えてなかった。

「その顔は、お金のこと全然考えてなかっただろ?」
「うぅ・・・はははは。おー、染み渡る甘さ。」

誤魔化すように飴を口に入れた。あまい。フルーツの味をひたすら甘くして飴状にした如何にも子供が喜びそうな味だった。前歯であむっと噛めば、なるほど、よく伸びる。飴をみょーんと伸ばし食べながら街を歩いた。



「あ、レイちょっと待って。」

公園の一角に魔木や魔花を販売しているお店があった。お店の前を小さくちょこちょこ歩く木がいる。

「これ、ザンイーだ。」
「ライファ、知ってるの?」

「うん、実家にいるんだ。物心ついたときにはいて、当時から40cmくらいのままなんだけど、そうか。最初はこんなに小さいんだな。」

手のひらに乗るほどで、10cmないくらい。

「そうなんですよ。ザンイーは大きくなっても40cmくらいなので、家の中で育てるには人気の魔木なんですよ。」

店主の30代くらいの女性が声をかけてきた。

「家の中をちょこちょこ歩く姿は可愛いぞ。秋になると赤い実をわけてくれるんだ。」
「へぇ~、魔木を育てるのも面白そうだな。」

回りを見渡すと、隣に良い香りのする木があった。紫色の実をつけている。この間、ヴァンスとレイと食事に出かけたときに見たあの実だ。

「これは何ていう名前の木ですか?」

お姉さんに聞きながら実に手を伸ばしたとき

「あっ!」

というお姉さんの声とグイッと体が引かれるのが同時だった。魔木の枝が鞭のように撓って私に巻き付こうとしたのだ。振り向けばレイが私の体を抱えるようにして立っていた。

「あぁ、良かった。巻き付かれると離すように説得するのがちょっと厄介なんですよ。その名もマキマキの木という
のですが、気に入ると何にでも巻き付いてしまって。」

ふぅっと息を吐いたレイの息遣いを感じる。

「ありがとう、助かった。」
「ん。」

思っていたよりもずっとしっかりしたレイの体つきに少し驚く。それに。

「なんか、レイっていい匂いがする。」

ちょっと安心するような、なんだろう、これ。思わずレイに鼻を近づけると、グイッと体を離された。

「ら、ライファ、それはちょっと。」

顔が真っ赤になっている。あれ、不味ったかな。

「レイ、顔が赤い。」
「ライファ、うるさい。」

レイが右腕で顔を隠したけれど、見えている耳が赤くて、笑ったらまた怒られた。


「お昼、行きたいお店があるんだ。スィーツ屋さんらしいんだけど、ランチもやっているって聞いたから。」

レイはそういうと道を走っている馬車を止めて行先を告げた。先に乗り込むと、手を差し出してくれる。レイの手を掴んで馬車に乗り込んだ。

「なんていう名前の店?」
「【スィートホーム】って名前だよ。」

「スィートホーム!昨日のパーティーでどこかの貴族が噂してた!今、人気のお店だって。おぉー、人気のお店に行けるなんて都会人になった気分だ!」

どんな料理がでてくるんだろう、そう思うと楽しみで仕方がなかった。

馬車が到着したのは街の外れにある石造りの建物だった。様々な種類の石を使った壁は木の実をふんだんに使ったお菓子のような見た目で、見るからに美味しそうだ。入口にはツタが巻き付けられた看板があって、スィートホームと書いてある。お店に入るとレイが名前を言い、店員がお待ちしておりました、と言った。どうやら予約をしてくれていたらしい。
窓際のテーブル席に案内された。一枚の木でつくられたテーブルは木の木目が鮮やかで美しい。

「これがメニュー。」

レイがメニューを見せてくれた。

「レイは・・・」何にするの?と聞こうとしたところで、こういう場所ではちゃんとした言葉遣いにするべきだと思い、言い直した。

「レイ様はどんなお料理にしますか?」

レイは急に変わった言葉遣いに残念そうな顔をしながらも、普通に答える。

「そうだな。このおススメにしようかな。どれにしようか悩んだときは、おススメにすることにしている。お店のおススメなら間違いないだろうと思って。」

確かに!

「私もおススメメニューにします。」
「かしこまりました。他にご注文はありますか?」
「あ、食後にこのマキマキの実のゼリーを二つ頼む。」
「かしこまりました。」

店員が去っていく。

「マキマキの木の実、ずっと気になっていただろう?兄さんと食事に行ったあの日から。」
「・・・やはり気づいていたんですね・・・。」

あの時の笑いはそういうことか・・・。でも、そういうところをちゃんと覚えているだなんて、レイは記憶力がいい。



「お待たせしました。」

暫くして、店員が料理を運んできた。一つの大きなお皿に、お魚、肉、ご飯、サラダ、焼き野菜がちょこちょこっと乗っている。野菜の形がお花だったり、お魚の皮をパリッと焼くための火が添えられていたりと、見ていても楽しくなるような料理だ。いかにも女性が好きそうな盛り付け方だが、レイも目を輝かせている。

「「いただきます!」」

一口食べれば、その美味しさは瞭然だった。素材の味を決して邪魔せず、味付け自体はシンプル。そういえばここへ向かう途中、いくつかの畑をみた。この近くの畑で採れた野菜なのかもしれない。

「うまい。これ、すごく良い素材を使っている。」

レイの言葉に頷く。

「素材が良いと、シンプルな味付けでこんないも美味しいんですね。人気の理由がわかりました。」

一口、一口味わって食べる。レイも同じような食べ方をしている。

「あ、ライファ、この赤いやつ食べてみて。この赤いやつのあとに、こっちの緑の野菜を食べるとすごく美味しい。」

「どれどれ?」

レイが言ったように食べてみる。

「おいしいっ。赤いのが少し酸味があるからか緑の野菜の甘さが引き立ちます。」
「でしょ?」

レイが得意げな表情をしている。食べ物の価値観というか、食べ物の好みが合う人と食事をするのは楽しいが倍になる。レイとの食事はすごく楽しい。

食事が終わると、マキマキの木の実のゼリーが運ばれてきた。透明のプルプルの中にある紫は宝石のように綺麗だ。一口食べる。つるんとした喉ごし、フルーツを噛めばこれが水分たっぷりでジューシー。これは、夢で食べたあの果物によく似ている。夢の中のあれ、皮がピンク色でむくと白くなる。そうだ、確かモモと言っていた。夢中で食べているとレイの手が伸びてきた。

「ライファ、鼻の頭のことにゼリーがついてる」

あっと自分で拭く前に、レイの手にあるナプキンによって拭われた。
いい歳こいて恥ずかしい。顔にゼリーをつけて食べた上に、年下の男の子に拭いて貰うだなんて。

「ライファ、顔が赤くなってる。」

言われてレイの顔を見ると意地悪な顔で笑っていた。さっきの仕返しに違いない。そう思いつつ、男の子、ではないな、と自分の心の声を訂正した。



「あら、レイ様?偶然ですね。」

不意に横から声がして顔を向けると昨日王宮のパーティーで会ったあの少女が立っていた。

「レベッカ?」

レイの声ににこやかに少女は笑う。

「今日はお客様に王都をご案内しているのかしら。レイ様もお忙しいでしょうに、お優しのいですね。」

これはもしかして、嫌味というものではなかろうかと思いつつも、「レイ様には感謝しております」と答える。感謝しているのは本当のことだ。

「そうだ、レイ様。明日、我が家でささやかながらパーティーを開きますの。本当はレイ様をご招待したかったのですが来客があると残念がっておられましたでしょう?」

レイが何か言おうとするが構わずレベッカ様は続ける。

「よろしければ明日のパーティー、ライファさんいらっしゃいませんか?そうすればレイ様もパーティーにいらっしゃることが出来ますでしょう?」

レイは困ったように私を見た。レイが行きたがっているというのなら私の答えは一つだろう。

「レイ様、私のことはお気になさらず行ってきてください。私は家で大人しくしていますから大丈夫ですよ。」
「いや、そういうわけには・・・。」

「ね、レイ様はお優しいからこう言ってしまうのよ。ライファさん、遠慮なさらずに。ライファさんも来てくださるでしょう?」

レベッカ様は私の手を握ってお願い、と言う。ここまでされて断るすべは私にはなかった。

「レベッカ様さえ宜しければ。」
「まぁ、よかった!後ほど、招待状をお送りしますわね!それでは、明日。」

と言い残して去って行った。

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