上 下
6 / 226
第一章

6.ピクニック

しおりを挟む
 午前中のうちに焼いておいたクッキーとお茶をバックの中に入れる。クッキーはもちろん師匠に頼んでブンの木の実の効力を無効化した物だ。お茶は鎮静作用があるハクの花茶と、体力が心なしか回復するキョクの花茶にした。

「なんだかご機嫌だな。」

いそいそと用意をしている私に師匠が声をかける。

「ムフフ、今日は食べ物好きのピクニックなんです。」

何だ?と顔をしかめた師匠に昨日の顛末を教える。

「ほほぅ、ジェンダーソン家の末っ子か。」

顎のあたりに手を置いて師匠がなにやら考えるような仕草をした。口元が緩んでいる気がするが気にしないことにしよう。

 レイ・ジェンダーソン様とはジェーバ・ミーヴァから森へ入る入口で待ち合わせることにした。お茶とクッキーが入ったリュックを背負って待っていると前方からレイ・ジェンダーソン様がやってきた。黒っぽいパンツに襟元に刺繍の入った白いシャツ、黒のジャケットという出で立ちだ。服が騎士団の制服ではないからだろう、昨日よりもくだけた印象だった。

「いい天気でよかったですね。」

私はそう言って空を見上げた。遠くまで青一色の空、風が吹くたびに木の葉が優しく揺れて、穏やかな午後をうたう。私たちは並んで歩き始めた。

「レイ・ジェンダーソン様は、」
「レイでいい。」
「レイ様は今日はお休みなのですか?」
「いや、早朝勤務だったのだ。」
「だから今日は制服ではないんですね。」
「君はいつもそんな恰好をしているのか?」

レイ様がこちらを向いて大きなフードの頭の先をつまむ。町の入り口での待ち合わせということでいつものフードの大きなポンチョを着ていたのだ。

「師匠のいいつけで、町に行くときは魔女の弟子らしく怪しい恰好をしているんです。」
「魔女の弟子!?君は魔女なのか?」

レイ様の目が大きく見開かれている。相当びっくりしたらしい。魔女の弟子っぽく振る舞っていたはずなんだがなぁ。

「魔女ではありませんよ。魔女の弟子です。」
「では、いずれは魔女になるのか?」
「それはないと思います。魔女になるためには高い魔力ランクが必要らしいのですが、私、魔力ランク1ですから。」
「なっ・・・・・。」

レイ様が驚きのあまり絶句している。次の瞬間、

「魔力ランク1のくせにブンの木に挑んでいたのかー!!」という大きな声が響き渡った。


 ジェイスの仕事場に着くとひと仕事終えた様子のジェイスがウキウキ待っていた。

「待ってたよーライファ、あ、騎士様、こんにちは。」

レイ様がおぅ、と声を出した。

「お茶とクッキー、持ってきたよ。」
「もう腹ペコだぜー。」

フラフラと近寄ってきたジェイスに、

「ジェイス。クッキーはお菓子であってご飯ではないぞ。ガツガツ食うなよ。」

と釘をさす。ジェイスは食べ物なら何でも美味いと思う気配がある。食べ物好きのピクニックに参加する者として間違いではないが、間違ってはないが、ちょっと違うのだ。ジェイスは食べ物好きチームの補欠だな。そうだ、補欠にしよう。そう心の中で決めた。

森の開けた場所に布を敷き、お茶の用意をする。

「クッキーに合いそうなハクの花茶とキョクの花茶を用意しました。両方とも微弱ではありますが、ハクの花は鎮静効果が、キョクの花茶は体力回復の効果があります。」

クッキーを並べながら説明する。

「俺はキョクの花茶だな。前にも飲んだことあるけど、ちょっとだけ体が楽になるんだよなー、コレ。」

レイ様は二つの花をマジマジ見ると、青と白の花びらを持つ花を選んだ。ハクの花だ。私は自分用にハクの花を手に取るとそれぞれのカップに花を入れてお茶を注ぐ。キョクの花は黄色、ハクの花は青、それぞれの美味しさがお湯の中に溶けだしてカップの中の花が開いた。

「どうぞ。」

二人の前にカップを置くと、喉が渇いてたのかジェイスがすぐにお茶に口をつけた。

「あつっ、あ、ふぅ~。」

息を吐き出しながらお茶の余韻を楽しんでいる。
レイ様はお茶をほんの少しだけ口に含むと、視線を下にしお茶の味を分解するかのように舌を動かしている。騎士団員だからなのだろうか。まるで毒が含まれていないか確認するような動きだ。そしてほんの少しのお茶を飲み込んだ後、安心したようにもう一口お茶を口にした。

「青空の下でこうしてお茶を飲むっていいもんだな。」

ふぅーっと息を吐き出して、今度はクッキーに手をつける。また少し口に含んでは危険がないか確認しているようだ。

「ブンの木の実の眠りの効果は無効にしてありますので、ご安心ください。」

そういうと、何にも考えずにクッキーを口にいれたジェイスがえっ!?と声を出した。あぁ、平和だ。

「うまい・・・。」

クッキーを大きく口に入れた後、思わず口から毀れたかのようにレイ様が呟いた。その姿に嬉しくなる。

「これは何だ!?この食感、サワンヤの持つ甘さとポン花の持つ甘さ、二種類の甘さをそれぞれちゃんと感じることができる。そしてブンの木の実、この実はこんなに香ばしく、こんな食感になるのか。」

レイ様の言葉に、うんうんと頷く。こんなに理解してくれる人がいるとは・・・。もう、感動の嵐である。レイ様は食べ物好きチームの正式メンバーだ、と強く思った。

そして隣を見ると、声を出すことも忘れ一心不乱にクッキーを食べているジェイスが目に入った。

「・・・ジェイス?」

思わず出た低い声にジェイスがハッと顔を上げると、思い出したかのように「うまいね」と言った。この補欠めっ。

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

私のスローライフはどこに消えた??  神様に異世界に勝手に連れて来られてたけど途中攫われてからがめんどくさっ!

魔悠璃
ファンタジー
タイトル変更しました。 なんか旅のお供が増え・・・。 一人でゆっくりと若返った身体で楽しく暮らそうとしていたのに・・・。 どんどん違う方向へ行っている主人公ユキヤ。 R県R市のR大学病院の個室 ベットの年配の女性はたくさんの管に繋がれて酸素吸入もされている。 ピッピッとなるのは機械音とすすり泣く声 私:[苦しい・・・息が出来ない・・・] 息子A「おふくろ頑張れ・・・」 息子B「おばあちゃん・・・」 息子B嫁「おばあちゃん・・お義母さんっ・・・」 孫3人「いやだぁ~」「おばぁ☆☆☆彡っぐ・・・」「おばあちゃ~ん泣」 ピーーーーー 医師「午後14時23分ご臨終です。」 私:[これでやっと楽になれる・・・。] 私:桐原悠稀椰64歳の生涯が終わってゆっくりと永遠の眠りにつけるはず?だったのに・・・!! なぜか異世界の女神様に召喚されたのに、 なぜか攫われて・・・ 色々な面倒に巻き込まれたり、巻き込んだり 事の発端は・・・お前だ!駄女神めぇ~!!!! R15は保険です。

そんなにホイホイ転生させんじゃねえ!転生者達のチートスキルを奪う旅〜好き勝手する転生者に四苦八苦する私〜

Open
ファンタジー
就活浪人生に片足を突っ込みかけている大学生、本田望結のもとに怪しげなスカウトメールが届く。やけになっていた望結は指定された教会に行ってみると・・・ 神様の世界でも異世界転生が流行っていて沢山問題が発生しているから解決するために異世界に行って転生者の体の一部を回収してこい?しかも給料も発生する? 月給30万円、昇給あり。衣食住、必要経費は全負担、残業代は別途支給。etc...etc... 新卒の私にとって魅力的な待遇に即決したけど・・・ とにかくやりたい放題の転生者。 何度も聞いた「俺なんかやっちゃいました?」       「俺は静かに暮らしたいのに・・・」       「まさか・・・手加減でもしているのか・・・?」       「これぐらい出来て普通じゃないのか・・・」 そんな転生者を担ぎ上げる異世界の住民達。 そして転生者に秒で惚れていく異世界の女性達によって形成されるハーレムの数々。 もういい加減にしてくれ!!! 小説家になろうでも掲載しております

魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡

サクラ近衛将監
ファンタジー
 女神様のミスで事故死したOLの大滝留美は、地球世界での転生が難しいために、神々の伝手により異世界アスレオールに転生し、シルヴィ・デルトンとして生を受けるが、前世の記憶は11歳の成人の儀まで封印され、その儀式の最中に前世の記憶ととともに職業を神から告げられた。  シルヴィの与えられた職業は魔晶石採掘師と魔晶石加工師の二つだったが、シルヴィはその職業を知らなかった。  シルヴィの将来や如何に?  毎週木曜日午後10時に投稿予定です。

美味しい料理で村を再建!アリシャ宿屋はじめます

今野綾
ファンタジー
住んでいた村が襲われ家族も住む場所も失ったアリシャ。助けてくれた村に住むことに決めた。 アリシャはいつの間にか宿っていた力に次第に気づいて…… 表紙 チルヲさん 出てくる料理は架空のものです 造語もあります11/9 参考にしている本 中世ヨーロッパの農村の生活 中世ヨーロッパを生きる 中世ヨーロッパの都市の生活 中世ヨーロッパの暮らし 中世ヨーロッパのレシピ wikipediaなど

遺棄令嬢いけしゃあしゃあと幸せになる☆婚約破棄されたけど私は悪くないので侯爵さまに嫁ぎます!

天田れおぽん
ファンタジー
婚約破棄されましたが私は悪くないので反省しません。いけしゃあしゃあと侯爵家に嫁いで幸せになっちゃいます。  魔法省に勤めるトレーシー・ダウジャン伯爵令嬢は、婿養子の父と義母、義妹と暮らしていたが婚約者を義妹に取られた上に家から追い出されてしまう。  でも優秀な彼女は王城に住み、個性的な人たちに囲まれて楽しく仕事に取り組む。  一方、ダウジャン伯爵家にはトレーシーの親戚が乗り込み、父たち家族は追い出されてしまう。  トレーシーは先輩であるアルバス・メイデン侯爵令息と王族から依頼された仕事をしながら仲を深める。  互いの気持ちに気付いた二人は、幸せを手に入れていく。 。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.  他サイトにも連載中 2023/09/06 少し修正したバージョンと入れ替えながら更新を再開します。  よろしくお願いいたします。m(_ _)m

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

異世界の片隅で引き篭りたい少女。

月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!  見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに 初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、 さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。 生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。 世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。 なのに世界が私を放っておいてくれない。 自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。 それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ! 己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。 ※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。 ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。  

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

処理中です...