【SF×BL】碧の世界線 

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第四章 半年後

12. 記者会見

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 えー、と絞るような声が映像から聞こえる。捜査課に大きく表示された映像の前で小暮や田口、間壁、Aチームの皆が食い入るように映像を見つめていた。映像の真ん中に映っているのはどう見ても30歳前半にしか見えない容姿のいかにも頭の良さそうな男だ。総理大臣……と山口が呟き、樹は思わず「若っ」と小さな声を零した。

「総理は68歳のはずだ。ある程度の威厳を与えられるよう30代半ばくらいの見てくれにしていると以前話していた」

青砥が画面から目を逸らさずに説明した。
画面の中では丁度総理が手を机の上で組んでおり、堂々とした風格がある。

「ここ数か月でN+能力を持つ者、持たない者との間での争いが頻発している」

総理は真剣な面持ちで言葉を発し「大変悲しく思う」と言葉を続けて少し黙った。

「能力を持つ者、持たない者、どちらの方が優れているということはない。誰しもに得意なこと不得意なことがあり、能力もその延長線上あるものだと考えている。ここでもう一度思い出してほしい。我々が何のために武器を捨てる決断をしたか。誰もがみな、平和を望んでいるはずだ」

総理の言葉は力強い。

「争いは悲しみを生むだけだ。今一度、平和について考えて欲しい」

その場にいたリポーターから次々と声が上がったが、一人のリポーターが発した質問にその場が静まり返った。

「古の武器が使用されたと聞きましたが、それは本当ですか?」

「本当です」

総理の表情に変化はなかった。国民の動揺を示すかのようにリポーターたちが騒ぎ始め、いくつもの声が飛び交う。

「入手ルートは?」
「どれくらい世の中に出回っているんですか?」
「我々はどうやって自分の身を守ればいいのですか‼」

「それに関してはこちらにいる警視総監の佐伯からお話ししましょう」

佐伯、と呼ばれた男は43歳ぐらいの容姿だ。警察の広報ページには48歳と年齢が記されているため、外見の老化治療は行っていないのかもしれないと樹は思った。警視総監は低めの渋い声で皆に落ち着くよう言った。

「捜査中の案件でもありますので、答えられる範囲でお答えします。入手ルートは解明してありますので、そこからこれ以上流通することはないでしょう」

 え、無いの? と樹が目を見張る。それに気が付いたのは田口だ。

「神崎一人で武器を運んでいたとは思えないからな。その辺は今俺と間壁で調べている。仲間になっていた人物が何の目的で仲間になり、今何処と繋がっているか次第になるだろう。武器がこの先も流出するかもしれないなんて、国民が不安になっているこの状況じゃ言えないだろうさ」

確かにその通りだ、樹が頷いている間も映像の中では次々と質問が繰り出されていた。

「事態はいつ収束するんですか!」

「早期の収束を目指して全力で動いています」

警視総監が画面を睨むように見つめ、それを見逃さないとでもいうように画面が警視総監をアップにした。

「国民の皆様にお願いがあります。夜間はなるべく出歩かないこと、武器を持つ者を見かけたらすぐに通報してほしい。警察官がすぐに駆け付けます」

警視総監の言葉をすかさず総理の言葉が追随する。

「日本の平和は我々国民が作り出すものです。武器を持つことの恐ろしさと悲劇をもう一度思い出してほしい」

「武器、武器と言いますが、N+能力こそ武器なのではないですか?」

突然放り込まれた言葉に流石の総理も言葉が詰まった。張り詰めた空気が画面の外にまで漏れ出したのではないかと思うほど捜査課にも緊張感が漂う。


「確かにそういう考え方もあるだろう。だが私はそうは思わない。彼らの能力は体に備わったもの、能力を武器だというのならN+能力のない私のこの拳でさえも武器ということになる」

それは詭弁では、と誰かのつぶやきを総理は鋭い眼光で黙らせた。

「この状態は長くは続かない。用心こそすれ怯える必要もない。能力がない者、能力のあるもの、それぞれがお互いを尊重し助け合う、そんな世の中にしようではないか」

 そう閉じた総理は先ほどとは打って変わって菩薩のような笑みを浮かべた。その表情にピりついていた空気がほどけ、リポーターの中にも表情を明るくした人が居たほどだ。

「どう思う? 青砥」

小暮が青砥に聞くと青砥は渋い顔を浮かべた。

「上手くまとめたなと思います。素直な国民なら総理たちの言葉に従うでしょうね。でも、不満を持っている人たちにとってはこの世界を変えようと行動を起こしている人が居ると知るきっかけになる。会見はまさに諸刃の剣です」

その後の展開は青砥の言った通りになった。東京近郊での争いは少し減少したが地方での争いが増え始めたのだ。




 ドリシア本部。
和信が撮り終えた動画のチェックをしていると奥のドアが開き、「あいつ全然言うこときかなーい」と言いながら京子がやってきた。その後ろには俊足のN+を持つ長田学がゆっくりと歩いている。筋肉隆々の骨太マッチョが車よりも早く移動できるなどと誰が想像できるだろう。

「アイツって沢渡か?」

「そうよ。神崎と組んでたのを知っていたから湖から上がる所を捕まえたのに、私のもとでは働きたくないって言うのよ。研究を続けても良いって言ってるのに、あいつ意外と神崎に忠誠心持ってるみたいなのよね」

「忠誠心、ね。まぁ、方法はいくらでもあるだろ。そんなに急いでもないから、とりあえずは飼っておいたらいい」

 和信が面倒くさそうに言っていると、つけっぱなしにしていたニュースチャンネルから事件のニュースが流れた。

“青森県崎前市で男性が襲われる事件が発生しました。男性は意識があり「やられる前にやってやる」という声を聞いたと証言しております。男性はN+能力を持っており、N+能力の無いチームの仕業とみて捜査をしているとのことです”


「そろそろ動く時が来たかな」

楽しい場所へ行くときのような明るい和信の声が響いた。


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