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第四章 半年後
11. 歯車はゆっくりと確実に回る
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相川が窓の外から視線を戻すとユーリの目が相川を見ていた。この食えない男にどこまで晒すべきか、晒さないべきか。一瞬の相川の思考は夢の言葉によって拭い去られる。
「神ね……」
「神?」
「夢は良くも悪くも純粋なやつだったよ。あいつを知っていたら独裁者だなんて笑っちまう」
ほほ笑む相川の表情は随分と穏やかだ。
「ユーリは自分が能力なしだったらって考えたことはないか?」
「僕はないですね。この能力があることに感謝すらしていますよ」
「そうか。お前は当たりの能力だったんだな」
確かにそうだろうな、とユーリは思った。ユーリの能力は検査の時は今よりもずっと弱く、バレーボールをころころと転がすくらいだったのだ。成長とともに能力は強くなっていったもののその頃には政府の検査を受ける必要もなかった。政府からは完全にノーマークだったのだ。
「俺はこんな能力なんて消えてしまえって何度も思ったよ。でも、この世界をどうにかしたいなんて考えたこともなかったな。あいつに会うまでは」
「それは山里さんの遺志を継ぐってことですか」
「おまえがやるか?」
「僕の手には余りますよ」とユーリが顔を傾けると相川は俯いてクククと声に出して笑った。
「さっき俺にやる気がないって言ったけどその言葉、そっくりそのまま返すぜ」
「……これでも僕も結構考えているんですよ? それよりこんなに僕に話をしていいんですか? 僕が警察の手先という可能性もあるというのに」
「手先なのか?」
「違いますけど」
「なら問題ない。それにもしそうだとしても、その時はそれが神様の意思っていうやつなんだろうよ」
読めない人だな、とユーリは思った。話の節々に山里への想いを感じるものの、遺志を継ぐのかと問えば曖昧になる。世界を変えたいという熱を持って動く先駆者というよりもその眼差しは事の成り行きを見守る者に近いような気がした。
相川の後ろに黒幕がいる、それは確かだな。
ユーリは確信を抱いて店を後にした。
東京都内。中央公園で乱闘騒ぎが発生しているとの通報を受け、樹と青砥は公園に向かっていた。近頃はこういった通報の数が激増しており、捜査課からも応援を出している現状だ。
「結構人が集まっているな」
「20人ってとこですかね」
「樹、拘束帯いくつ持ってきてる?」
「5個です」
「合わせて13個か。それだけあればなんとかなるだろ。どんな能力持っているか分からないから注意しろよ」
「アオさんこそ」
樹の返事を合図に二人は駆け出した。先に到着していた警察官が争っている二人の間に割って入っているがあちこちで争いが怒っているのだから埒が明かない。木の棒やロボットの部品を武器にして振り回している者、能力で腕を強化し殴り続けている者、この世界の街中では見ることのなかった暴力的な光景だ。
青砥はリングを空にかざすと山口特製の破裂音を鳴らした。全員の視線が一斉に青砥に向く。
「今すぐに武器を置いて争いをやめなさい。あなたたちが武器を持つことは法律で禁じられています!」
青砥の声は良く響いていたが武器を置くものは誰もいない。
「置けるかよ! 置いた瞬間、能力ありどもが襲い掛かってくる。あいつら卑怯だからな」
「なんだと! 卑怯なのはお前らじゃないか。武器を持って襲い掛かってきやがって。無能なんかこの世界に必要ねぇんだよ‼」
このやろうと怒号をあげて争いは加速するばかりだ。その様子を見ていた樹は密かに唇に針をくわえた。大抵いつもこのパターンだ。
「これより先、全員拘束する!」
青砥が高らかに宣言した瞬間だった。パァン、と鳴り響いた高い音に二人はとっさに頭を低くした。倒れている女性が一人、周りは何が起こったか分からぬまままだ殴り合っている。
誰かが銃を持っている。誰だ?
樹は人の足元を縫うようにして視線を走らせた。
「樹‼」
青砥の声に導かれ、青砥の視線を追う。3m先、銃を持った男が狙いを定めていた。撃つな! と青砥が叫ぶ。針を吹こうにも樹から男までのラインは人に阻まれ、その隙に銃から発射された弾は人一倍太い腕をした能力者の喉を貫いた。倒れた男の首から血が飛び散る。叫び声が現場を包んだ。
「ひゃほーぅ、大当たりじゃん! 能力ありなんかコイツで全員ぶっ殺してやるよ」
味方として戦っていた者たちでさえもその場を離れようともがく。銃を構えた男が恍惚に顔を歪めた瞬間、男は銃を持ったまま崩れ落ちた。
「そんなことさせねぇよ」
樹はそう呟くと男の首に刺さった針を引き抜くと銃を回収した。
最後の一人を大型パトカーに乗せ終えると、所轄の警察官は青砥たちに頭を下げた。パトカーが無事に飛ぶのを見届け、青砥がポケットからペロンタを取り出して口に含む。
「銃、持っていましたね」
「あぁ、とうとう出てきたな。最近の犯罪件数の増加とともに報告すればこれでようやく上にも火が付くだろうよ」
青砥が如月や小暮と一緒に加賀美の元へ自分の考えを話に行ったのが3日前。その後、情報はすぐに警視総監へと届けられたはずだ。だが戻ってきた回答は「確証はない」の一言だった。
「どう舵を切るんでしょうね」
「さぁな。俺たちは俺たちのやれることをするまでさ」
「神ね……」
「神?」
「夢は良くも悪くも純粋なやつだったよ。あいつを知っていたら独裁者だなんて笑っちまう」
ほほ笑む相川の表情は随分と穏やかだ。
「ユーリは自分が能力なしだったらって考えたことはないか?」
「僕はないですね。この能力があることに感謝すらしていますよ」
「そうか。お前は当たりの能力だったんだな」
確かにそうだろうな、とユーリは思った。ユーリの能力は検査の時は今よりもずっと弱く、バレーボールをころころと転がすくらいだったのだ。成長とともに能力は強くなっていったもののその頃には政府の検査を受ける必要もなかった。政府からは完全にノーマークだったのだ。
「俺はこんな能力なんて消えてしまえって何度も思ったよ。でも、この世界をどうにかしたいなんて考えたこともなかったな。あいつに会うまでは」
「それは山里さんの遺志を継ぐってことですか」
「おまえがやるか?」
「僕の手には余りますよ」とユーリが顔を傾けると相川は俯いてクククと声に出して笑った。
「さっき俺にやる気がないって言ったけどその言葉、そっくりそのまま返すぜ」
「……これでも僕も結構考えているんですよ? それよりこんなに僕に話をしていいんですか? 僕が警察の手先という可能性もあるというのに」
「手先なのか?」
「違いますけど」
「なら問題ない。それにもしそうだとしても、その時はそれが神様の意思っていうやつなんだろうよ」
読めない人だな、とユーリは思った。話の節々に山里への想いを感じるものの、遺志を継ぐのかと問えば曖昧になる。世界を変えたいという熱を持って動く先駆者というよりもその眼差しは事の成り行きを見守る者に近いような気がした。
相川の後ろに黒幕がいる、それは確かだな。
ユーリは確信を抱いて店を後にした。
東京都内。中央公園で乱闘騒ぎが発生しているとの通報を受け、樹と青砥は公園に向かっていた。近頃はこういった通報の数が激増しており、捜査課からも応援を出している現状だ。
「結構人が集まっているな」
「20人ってとこですかね」
「樹、拘束帯いくつ持ってきてる?」
「5個です」
「合わせて13個か。それだけあればなんとかなるだろ。どんな能力持っているか分からないから注意しろよ」
「アオさんこそ」
樹の返事を合図に二人は駆け出した。先に到着していた警察官が争っている二人の間に割って入っているがあちこちで争いが怒っているのだから埒が明かない。木の棒やロボットの部品を武器にして振り回している者、能力で腕を強化し殴り続けている者、この世界の街中では見ることのなかった暴力的な光景だ。
青砥はリングを空にかざすと山口特製の破裂音を鳴らした。全員の視線が一斉に青砥に向く。
「今すぐに武器を置いて争いをやめなさい。あなたたちが武器を持つことは法律で禁じられています!」
青砥の声は良く響いていたが武器を置くものは誰もいない。
「置けるかよ! 置いた瞬間、能力ありどもが襲い掛かってくる。あいつら卑怯だからな」
「なんだと! 卑怯なのはお前らじゃないか。武器を持って襲い掛かってきやがって。無能なんかこの世界に必要ねぇんだよ‼」
このやろうと怒号をあげて争いは加速するばかりだ。その様子を見ていた樹は密かに唇に針をくわえた。大抵いつもこのパターンだ。
「これより先、全員拘束する!」
青砥が高らかに宣言した瞬間だった。パァン、と鳴り響いた高い音に二人はとっさに頭を低くした。倒れている女性が一人、周りは何が起こったか分からぬまままだ殴り合っている。
誰かが銃を持っている。誰だ?
樹は人の足元を縫うようにして視線を走らせた。
「樹‼」
青砥の声に導かれ、青砥の視線を追う。3m先、銃を持った男が狙いを定めていた。撃つな! と青砥が叫ぶ。針を吹こうにも樹から男までのラインは人に阻まれ、その隙に銃から発射された弾は人一倍太い腕をした能力者の喉を貫いた。倒れた男の首から血が飛び散る。叫び声が現場を包んだ。
「ひゃほーぅ、大当たりじゃん! 能力ありなんかコイツで全員ぶっ殺してやるよ」
味方として戦っていた者たちでさえもその場を離れようともがく。銃を構えた男が恍惚に顔を歪めた瞬間、男は銃を持ったまま崩れ落ちた。
「そんなことさせねぇよ」
樹はそう呟くと男の首に刺さった針を引き抜くと銃を回収した。
最後の一人を大型パトカーに乗せ終えると、所轄の警察官は青砥たちに頭を下げた。パトカーが無事に飛ぶのを見届け、青砥がポケットからペロンタを取り出して口に含む。
「銃、持っていましたね」
「あぁ、とうとう出てきたな。最近の犯罪件数の増加とともに報告すればこれでようやく上にも火が付くだろうよ」
青砥が如月や小暮と一緒に加賀美の元へ自分の考えを話に行ったのが3日前。その後、情報はすぐに警視総監へと届けられたはずだ。だが戻ってきた回答は「確証はない」の一言だった。
「どう舵を切るんでしょうね」
「さぁな。俺たちは俺たちのやれることをするまでさ」
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