【SF×BL】碧の世界線 

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第三章

34. 突然の終幕

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 先ほどまでとは打って変わって畑中が攻めてくる。繰り出される蹴り、足から昇る煙を何度も吹き飛ばすがこうも足を振り回されては埒が明かない。樹は必死だった。心の中でカウントを取りながら、少しでも二人の助けになろうと吹き矢を吹く。二本外し、二本が刺さった。その度に畑中は舌打ちをして樹のもとへ行こうとするが山口とユーリがそれを許さない。

 山口が繰り出した蹴りをガードした畑中の脇腹にユーリの拳が入った。くっと声を上げて畑中が下がる。ユーリが参加したことで先ほどよりもこちらが優勢になってきた。だがまだ勢いが足りない。樹は傍でぐったりしている如月を見た。

「如月さん、大丈夫ですか!?」

早口で声をかけながら如月の肩を叩く。如月は眠に落ちるかのように目を細めており、穏やかな表情とは裏腹に呼吸が浅い。如月の中で何か良くないことが起きているのは明白だった。

急がなくては! 何か方法はっ

 現段階では今で精一杯、そう感じながらも何かないかと体が前のめりになる。背後から肩を叩かれたのはそんな時だった。

「藤丘さん?」

ヤバイ、背後を撮られた恐怖と共に反射的に振り返る。そこに立っていたのはこの状況にはあまりに不釣り合いな爽やかなグリーンのワンピースを着た京子だった。

「なっ、なんでここに!?」
「そんなことはいいから早くこれを!」

京子が差し出したのは飲み薬くらいの小さなカプセルだ。よく見れば京子の顔や手足がサランラップで奇麗に蒔かれたかのようにテカっている。

「口に入れて噛むタイプの毒マスクです」

樹はカプセルを素早く自身の口に入れると如月の口にも放り込んだ。「早く噛んで下さい!!」叫ぶ樹の声にも如月は反応しない。樹は如月の口を強引に開けると歯と歯の間にカプセルを挟んだ。そして、すみませんと頭を押さえながら下あごを強めに叩いた。

 次は、と樹が顔を上げた。丁度下がってきた山口を見て樹が名を呼ぶ。樹の姿を見た山口は一目で状況を理解し樹の手から毒マスクを受け取るとユーリにも渡した。

「これさえ手に入ればこっちのものだな」

山口はそう呟くと大きくゆっくりと息を吸い込んだ。まるで壮大な森の中にいるかのような深呼吸だ。

「早々と片付けましょうか。意志のあるモノを弾くのは結構疲れるんですけどね」

ユーリの手のひらが真っ直ぐ畑中に向かう。ハッという強く呼吸を吐き出す音の直後、畑中の体が弾かれたように後ろに転がった。畑中も何が起こったのかと目を丸くしている。早々と片付けようと言ったユーリの言葉通り、そこからは山口とユーリの圧勝だった。





 時を同じくしてこちらは碧島。両手をあげた青砥、平、河辺の3人は背中に銃を突きつけられたまま建物の脇に並んで座らされていた。他に7人が3人の周りをウロウロしている。空を見上げる者、流行の洋服について雑談している者、ここに武器さえなければ観光に来たグループにしか見えない。

「ねー、ちょっと建物の中見てこようと思うんだけど」

「なんで?」
「どんなんなってんのかなーって」
「ダメだ」
「えーっ! ちょっと覗くくらいいいじゃん、暇なんだもん」

「もうちょっとくらい待てよ」

緊張感のない会話だ。
そもそもここが本当に核廃棄場なのか確認しなくてもいいのか?

 青砥が疑問を抱いた時それは起こった。最初は何かに揺すられたようにブルっと木々が震えた。次に犯人たちが、うわっと声を上げて銃を落としたのだ。何が起こったのかは分からない。青砥達が顔を見合わせ立ち上がろうとしたその時、声が響いた。

「その人たちを離せ」

両脇に仲間を従えたその声の主は釣りでもしていたのかというような服装で明らかに警察官ではない。犯人たちはハッとして落とした銃に手を伸ばしたが生き物のように銃がカタカタと震えている。この調子では構えたところで狙いを定めることは出来ないだろう。

「武器を手にしたって無駄だよ」

クソっ、と呟く声が聞こえた。味方か敵か、いや少なくとも敵ではなさそうだ。武器を使えないと知れば黙って捕まっている理由はない。3人は立ち上がった。

「手伝いますよ」

いつの間にか近くまで来ていた男が歌うように言った。





 時は今よりも1時間ほど遡る。神崎は目の前に座る面会者に微笑んでいた。クリーム色の柔らかな色彩の机の上には京子のリングから表示された離婚届が水平に表示されている。

「そうか、もう僕は必要ないってことかい?」

「えぇ。だってあなたは私の欲しい物を与えてはくれないもの」

いつもの愛くるしい笑顔を捨て去った京子は、神崎が幼き頃に読んだ物語の妖艶な魔女を思わせた。伏せられた目、その目の奥に何が秘められているのかを読み解くように言葉を続ける。

「くくく、そんな表情今まで見たこともなかったよ。まさか君が僕を警察に売るとはね」

「私に興味がなかったものね。一緒に食事をしても出掛けても、いつも表情は変わらない。まるで感情の無いロボットと一緒にいるようだったわ」

仮面を脱ぐと人はこうも変わるのだと笑ってしまいそうだった。今までの京子からは想像もつかなかった言葉の数々だ。
 もともと京子とはお見合いで知り合った。結婚相手は選び放題だった神崎が数いるお見合い相手の中から京子を選んだのは“月並みの幸せで満足しそうな女”だと思ったからだ。奇麗に手入れされた爪、無難な髪型にシンプルで上品な洋服、そのどれもに自分というものを感じさせない。他人の手で飾られた人形のようだった。それ以上を求めることなく受け取るだけ、そう思っていたのに。


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