【SF×BL】碧の世界線 

SAI

文字の大きさ
上 下
107 / 129
第三章

33. 如月の作戦

しおりを挟む
 一進一退の攻防が続いている。樹の息で毒霧を追い払っているとはいえ人の息は長くは続かない。結局息を止めて攻撃をし、反撃を反らしながら後退するのを繰り返すことになる。優勢になっても呼吸の為に退くのだから状況は一向に前進する気配がなかった。

「これでは埒があきませんね。このまま時間がかかれば建物内に毒が充満してしまう」

下がるなり如月が呟いた。
 畑中のヤバイ点二つ目は体術に長けているという事だ。賞をとったこともあるという山口と対峙しても同等、もしくはそれ以上にさえ見える。山口の体術が型を基本にした清らかな流れだとすれば畑中の体術は枠をはみ出し、木々をなぎ倒す濁流のようだ。

「山さん、僕が畑中に掴みかかって10秒間動きを止めます。山さんは間髪入れずにきて畑中の意識を奪ってください」

「如月班長、ひとりであいつを止めるんですか?」

「うん、やってみる」
「やってみるって一人じゃ」

山口の視線がユーリを見たのに気が付いて如月は口を開いた。

「難しいのは分かってる。でも民間人を危険の中に放り込むわけにはいかない」

 もともと正義のヒーローに憧れて警察官になった如月はこういうところは頑なだ。だがいくら10秒とはいえ畑中が相手では樹から見ても厳しいと思えた。

「俺も行きます!」
「君が行ったって足手まといになるだけだよ」

食い気味にユーリが言い切る。樹を止めるくせに自分が行くとは言わない。ユーリにしてみれば樹以外はどうなろうが興味がないのだ。

「樹君は援護を頼みます。人が痛みを感じる痛点は四肢の先端にいくほど多くなると言われている。足よりは手がいい。僕たちは5秒息を止めて2秒息を吸う。そのリズムを頭に入れといてください。ウィンクをしたら呼吸を始める合図です。山さんもいいですね?」

如月が畑中を見据えたまま早口で言う。樹と山口は短く返事をした。

「まさかもう終わりとは言わないでくれよ」

畑中がまた一歩前に出る。

「山さん、3で行くよ。1、2、さんっ」

 如月が飛び出していく。如月を迎え撃とうと手を軽く握り自身の胸の辺りで構える畑中、その一時の停止を樹は見逃さなかった。放たれた弾は如月を追い越し、畑中の右手中指の爪の付け根付近に突き刺さった。脊椎反射で畑中の手が何かを払うように動く。構えが崩れた隙に如月が畑中の背後に回り羽交い絞めにした。如月が片目をつぶる。

よし!

誰もがそう思った瞬間だった。
ぐおああああ。苛立だし気な声が廊下に響いた。山口が畑中の間合いに入り横から首に腕をかけたとき畑中が山口を蹴ろうと足を振りあげた。山口は寸でのところで避けたが畑中の首から腕が外れた。

「!!」

如月が目を見開く中、樹は冷静だった。心の中でカウントを取りながら呼吸の合間に吹き矢を放つ。先ほどよりも正確さに欠けるが弾は畑中の手のひらに突き刺さった。畑中はぐっとうめき声をあげ舌打ちをした。先ほどからチマチマと放たれる弾、拘束された体、首を狙う腕、どれもが鬱陶しい。

 畑中は最大限に首を捻り如月に笑みを見せた。そして自身を掴む如月の手に唾を吐きかけた。

「毒を出せるのは足だけだと思っていたか?」

畑中が唇を尖らせたのを見てもう一撃を覚悟した如月を背後から抱きかかえるようにして引き離したのは山口だった。無言のまま畑中と距離をとると如月の手を自身の服で拭った。

「今のはなかなか良かったなぁ。でもこれで一人戦闘不能だ」

何を、と言いかけた山口が如月を見ると如月はどこか虚ろなトロンとした目をしていた。

「時間はあまりないぞ?」

畑中が楽しそうに口角を上げる。山口が額から流れる汗をぬぐいながらユーリを見た。

「私は班長とは違ってあなたにも協力を要請する。急がないとここにいる皆が死ぬことになる」

「でしょうね。皆で死ぬのも悪くない気もしますけど」

ユーリが確認するように樹を見た。勝手に樹が殺されるのは気に食わない。だが樹が生を望まないのであれば自分も一緒にここで終わりにするのもいいのではないかという考えが頭をよぎったのだ。

「だめだ。畑中を拘束したうえで生きてここから出ないと。それ以外はあり得ない」

ずっと死の近くを浮遊するように生きてきた樹とは思えない言葉だった。樹の言葉に口元を緩めた山口が「私も同感だね」と言う。

 ユーリが髪の毛をかき上げ、睨みつけるように前方を見た。その口元には笑みを従えている。

「拘束すればいいんですよね? 畑中の3メートルほど後ろに単独室があります。そこに奴をぶち込みましょう」

「ぶち込むって言ったって」

「ひたすら押すだけだよ。タツキ、呼吸のリズムはさっきと同じで頼みます」

 ユーリは徐に窓の方へ移動するとそこに置いてあった観葉植物の鉢を少しだけ中央にずらした。そして手をかざすと鉢は弾かれたように畑中へ向かって飛び、畑中は鉢を受け流すように避けながら足の裏で押すように蹴った。鉢が壁に当たりガシャンと音をたてる。

「ほう、珍しい能力だな」

面白くなりそうだと言葉を続けて、畑中は顔を歪ませて笑った。


しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

完結・虐げられオメガ側妃なので敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン溺愛王が甘やかしてくれました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

騎士が花嫁

Kyrie
BL
めでたい結婚式。 花婿は俺。 花嫁は敵国の騎士様。 どうなる、俺? * 他サイトにも掲載。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

処理中です...