【SF×BL】碧の世界線 

SAI

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第三章

13. 5年前 3

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唾を飲み込んだ音が骨を伝って自分の耳に届いた。崩れた壁、ひっくり返った机、血に染まった絨毯。加賀美は夢中で黒ポンチョの間を駆けた。そしてたどり着いた場所で見たのは身が凍るほどの惨場だ。目に止まった知った顔に真っ先に駆け寄った。

「矢田君!! しっかり!!」

声は返って来ない。簡易診察機を取り出すまでもなく見開いた目が言っている。ここにあるのは死だ。数十体もの死体が部屋の中に散らばっていた。その中には黒いポンチョを着た者もいる。

「どうしてっ、どうしてですかっ!!」

叫ばずにはいられなかった。

「新しい国を作るため、ですよ」

若い男が見せしめのように一つの死体を置いた。「総理!」と声が幾つも上がる。

「この男、真っ先に寝返ろうとしたぜ。ほんと、笑っちゃうよな。こんな奴が国の代表なんてさ」

遅かった。彼の言う通りもう始まっていたのだ。ずっと前から、もう。
加賀美は腕のリングを起動させると声を張り上げた。

「本会議場で犯人発見。手の空いたものは直ちに本会議場へ集合。全員、確保する!!」


 加賀美の声が戦いの合図になった。

「ほんとこれ汚くて嫌なんだけど」

山里が口から直径2センチくらいの石のような物を出し加賀美をめがけて投げつける。避けようとしたが背後に仲間がいることに気が付き、仲間を突き飛ばすようにして自身も飛んだ。被ばく範囲内だと思った。身を固くし頭を抱えたが爆弾は思っていたよりも小さく破裂した。まさか、と山里を見る。こほっと咳をした山里が不本意な表情を浮かべた。

爆弾を生成し過ぎて体内に材料がないんだ。それもそうだ、これだけ建物を破壊するほど生成し続けていたのだ。エネルギー不足に陥っても何の不思議もない。

「夢」

細身で一見頼りなさそうな男が山里をかばうように前に立った。その行動は加賀美の考えが当たっていることを示している。

「悟さん、無理はしないで」
「そっちこそ」

悟、と呼ばれた男が自身の人差し指と親指を近づけると二本の指の間に電気が走った。

「放電ですか……」

まとまって倒れている人たちはきっと彼の仕業だろう。黒いポンチョは耐電の役割を果たすのかもしれない。これは人が増えれば増えるほど不利になる。

「加賀美課長っ」
「小暮班長、助かりました。私一人では荷が重くてね」

爆弾と放電に対しこちらは鼻のN+に引力。不利だということに変わりはない。だが捜査官はN+能力だけでなれるものではないのだ。

「短期決戦でいきますよ。彼の能力は放電です、気を付けて!」

悟が手を前にかざす動作をした瞬間、加賀美と小暮は二手に分かれて跳んだ。二人の間にあった机がバチっと張り裂ける音を発したのち微かな煙が上がる。小暮と視線を交わせばお互いに何を考えているのかが分かった。手強い敵に時間を割いている余裕はない。まずは山里夢の確保だ。
 加賀美が悟の向こう側にある机に手をかざすと、机は勢いをつけて山里と悟に向かって飛んできた。正しくは加賀美のもとへと飛んでくるのだがその間に二人がいるのだから二人は避けるしかない。

「夢っ!!」

突然正面に迫ってきた机を見て、悟は咄嗟に山里を自身から突き放した。山里は悟から突き飛ばされる形でよろけ、その体をつかんだのは小暮だ。悟が今度は悔しさを滲ませて山里の名前を呼ぶ。

「能力は素晴らしくてもあなたたちは戦う為の訓練を受けたわけではない。訓練をしたとしても数か月、せいぜい1、2年といったところでしょうか。私たちは10年以上訓練をしているのでね」

「夢を放せ」

悟の手のひらが真っ直ぐ加賀美へと伸ばされる。加賀美は落ち着いていた。

「それは出来ません。私を殺しても変わりませんよ。あなた達が降伏しても刑務所に行くのは免れませんがこれ以上の犠牲を出さずに済みます。あなた達の思いは一つ残らず私が聞きますから、一緒に考えましょう?」

視界の隅で山里が首を振っているのが見えた。

「あんたたちを信用できないんだよ」

 それは一瞬だった。加賀美でさえも動くことがままならなかった、瞬きの一瞬。話をしていた加賀美たちの背後で繰り広げられていた戦い、指を弓のように撓らせた黒ポンチョの男が発した鋭い金属が捜査官によって弾き飛ばされ山里の心臓を貫いたのだ。

「夢!?」

崩れ落ちる山里の体を支える小暮。悟の口から呆然と零れ落ちた名前、背後ではまだ戦いが続いていた。捜査官が貫かれて崩れ、貫いた方も別の捜査官によって倒れた。争いが止まらない。

「リーダー死亡!! 今すぐ争いをやめて降伏せよ!」

加賀美の声に数人の黒ポンチョは戦意を失い、残りは戦い続けた。だがリーダーを失った組織は勢いを失い、その日のうちに全員確保された。


 加賀美の静かな声が浸透するように会議室に響いていた。小暮も田口も山口でさえもそれぞれ思うことがあるのだろう。全員、苦しさを堪えたような表情をしている。

「全員、といいましたが黒いポンチョを着ていた者たち全員を捕まえられたのは1時間だけ。その後3人の脱走が確認されています。その後もリステアの意思を継ぐと表明した人々が各地で暴動を起こし、全国で173人もの人が亡くなりました。負傷者も合わせれば500人では済まないでしょうね」

加賀美は一旦言葉を区切るとグッと目に力を込めた。

「現在も逃亡しているのは相川悟、長田学、遠藤晴彦。そのうちの二人が神崎と繋がっていた、ということになります」

全ての話が終わると樹は映画でも観ていたかのような気分になった、と同時に自分で選べぬまま能力を授かるという事の恐ろしさを理解していなかったと愕然とした。

「リステアがどれだけの勢力を持って何をしようとしているのかを探ると同時に国会議事堂周辺の警備を強化します。総理には私から連絡しましょう」

「田口さんと間壁は神崎とリステアとの関係を探って欲しい。Aチームは相川、長田、遠藤の目撃情報を当たってくれ。3人のうち誰かを見つけることが出来ればそこから現在の繋がりが見えてくるはずだ」

小暮の指示に皆が席を立ちパタパタと部屋を出て行く。そんな中、青砥が小暮に近づいた。

「課長、ちょっとお話が。すみません、できれば加賀美室長にも聞いて頂きたいのですが」


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