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第三章
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「コチラヲドウゾ。サービスデゴザイマス」
スラっとしたロボットが滑らかな動きでテーブルに飲み物を置いた。深い緑色の液体にキラキラと光を放つ小さな実が浮かんでいる。温かな湯気が立ち上がるお茶を飲んだ京子は、ふぅと小さく息を吐いた。
「すみません、こちらまで足を運んで頂いて……」
「いえ、国民の話を聞くのも捜査官の役割ですから」
急かしたい気持ちを抑えるようにして樹がお茶を口に含むと、光りの実は樹の口にほんのりとした甘さを残したまま胃を温めた。
「それで、その、俺たちをここに誘った理由は……」
恐る恐る本題を口にすると京子は視線をお茶に落とした。口を開きかけてはまた閉じる。そんな様子を見ていた青砥が珍しく微笑んだ。
「ひとりで抱えるのは重いですよね。俺たちに話してみませんか? 一緒に考えましょう」
「うっ、うぅっ、わたし、わたしっ」
涙腺が決壊したかのように京子は泣きだした。
「祐一郎さんのことが、う、うぅっ、大好きなんです。ほんとうにっ、ほんとうにっ……だから、これからっ、話すことは、きっと、私の思い違いかなんかでっ」
「うん」
「だから、だからこれもっ」
京子が腕のリングを操作すると空中に表示されたのは何かの設計図だ。乗り物の様に見える図形には数字や複雑な計算式が書かれている。
「よくある乗り物の設計図ですよね!? 変な物じゃないですよね!?」
「これは……」
樹には良く分からずに青砥を見ると、青砥は眉間に皺を寄せて真剣に設計図を見ていた。
「……よくある設計図ではないですね。この辺にある計算は複雑すぎて俺にも良く分かりませんが」
でも、と青砥は話を続けた。
「俺たちに見せたいのはこれだけじゃないですよね? 見たところ京子さんはこの設計図に対する知識はそれほどない。これを見つけただけなら京子さんはこんなにも不安にならないし、俺たちに話そうとは思わなかったはずです」
「……」
視線を逸らしてぎゅっと握りしめる仕草をしてから京子はもう一つのデータを表示してみせた。
「実はこれも一緒にありました。最初は何のデータか分からなかったんですけど……」
「内藤哲也、川口ゆめ、川崎瑠璃!? これって……」
「あぁ、爆弾事件の犯人の名前が含まれている」
「ぐっ、偶然ですよね!?」
京子の繕った笑顔に樹は微笑み返すことが出来なかったが、青砥がゆっくりと優しい声で話し掛けた。
「このデータはどこで手に入れたのですか?」
「わが家には主人の書斎があるんです。祐一郎さんは昔から紙が好きでして……先日、書斎の窓を閉めようと思ったら机の上にこれが……。嫌な予感がして私、思わず自分のブレスレットに記録を……」
京子はそう言った後、なんてことを、と呟いて両手で顔を覆った。
「こんなもの、撮らなきゃ良かった……」
捜査本部はにわかに活気づいていた。京子から受け取った証拠の裏付け捜査をすればするほど神崎が犯人であるという確たる証拠になる。
「この乗り物は常識を超えた過度な重力にも耐えられるようになっている。なるほど、この先端部分で時空を広げるのか……くそっ、こんな方法がっ」
「田口さん、どの目線でその設計図を見てるんですか」
隣で一緒に設計図を見ていた間壁が呆れた表情をした。
「そりゃあ捜査官としてだよ。うん、間違いない。これは時空マシーンの設計図の一部だ。樹、そっちはどうだ?」
「このリストには捕まった爆弾犯が全員載っています。他の人物に連絡を取っていますが、連絡が取れた人たちは皆、爆弾を持っていました」
樹の言葉に頷いてから青砥が続けた。
「彼女が持って来たのは爆弾を届けた人のリストってことですね。山さんと茜さんが今、爆弾を回収しに行ってます」
「さすがにこれでは神崎も言い逃れ出来まい」
田口がニヤリと笑いながら如月を見る。如月がしっかりと頷いた。
「逮捕状を請求してきます!」
11月5日。小暮を先頭に如月、田口、間壁、Aチームの面々が霞ヶ山の湖上空に揃った。隠れる必要もない堂々とした登場だ。青砥と目が合うと樹は大丈夫だの意味を込めて頷いた。
「全車降下っ」
小暮の声で全車が降下を始めた。目指すは樹たちが不時着した神崎の研究所だ。エアーカーテンの気流に負けないようにハンドルを上昇気味に操作し、スムーズに研究所に降り立った。
「一体何事ですか! ここは関係者以外立ち入り禁止ですよ!! あなたたちは先日の……」
「先日はどうも。車をわざわざ捜査課まで持ってきていただきまして」
田口はほほ笑んだが勇ましい女性は表情を強張らせたままだ。
「今日は何用ですの?」
「神崎さんはどちらに?」
「神崎は今、ここにはおりません」
それはおかしいですねぇ、と如月がとぼけた表情で田口に並ぶ。
「我々は神崎さんがここにいるという確信を持って来ているのですが。たとえ匿ったとしても、逮捕状が出ている今、捕まるのは時間の問題でしょうね」
「そう言われましてもいないものはどうしようもありません」
勇ましい女性がぴしゃりと言い切り、双方がにらみ合う。その空気を切り裂くようにドアが開いた。
「深水さん、もういいですよ」
スラっとしたロボットが滑らかな動きでテーブルに飲み物を置いた。深い緑色の液体にキラキラと光を放つ小さな実が浮かんでいる。温かな湯気が立ち上がるお茶を飲んだ京子は、ふぅと小さく息を吐いた。
「すみません、こちらまで足を運んで頂いて……」
「いえ、国民の話を聞くのも捜査官の役割ですから」
急かしたい気持ちを抑えるようにして樹がお茶を口に含むと、光りの実は樹の口にほんのりとした甘さを残したまま胃を温めた。
「それで、その、俺たちをここに誘った理由は……」
恐る恐る本題を口にすると京子は視線をお茶に落とした。口を開きかけてはまた閉じる。そんな様子を見ていた青砥が珍しく微笑んだ。
「ひとりで抱えるのは重いですよね。俺たちに話してみませんか? 一緒に考えましょう」
「うっ、うぅっ、わたし、わたしっ」
涙腺が決壊したかのように京子は泣きだした。
「祐一郎さんのことが、う、うぅっ、大好きなんです。ほんとうにっ、ほんとうにっ……だから、これからっ、話すことは、きっと、私の思い違いかなんかでっ」
「うん」
「だから、だからこれもっ」
京子が腕のリングを操作すると空中に表示されたのは何かの設計図だ。乗り物の様に見える図形には数字や複雑な計算式が書かれている。
「よくある乗り物の設計図ですよね!? 変な物じゃないですよね!?」
「これは……」
樹には良く分からずに青砥を見ると、青砥は眉間に皺を寄せて真剣に設計図を見ていた。
「……よくある設計図ではないですね。この辺にある計算は複雑すぎて俺にも良く分かりませんが」
でも、と青砥は話を続けた。
「俺たちに見せたいのはこれだけじゃないですよね? 見たところ京子さんはこの設計図に対する知識はそれほどない。これを見つけただけなら京子さんはこんなにも不安にならないし、俺たちに話そうとは思わなかったはずです」
「……」
視線を逸らしてぎゅっと握りしめる仕草をしてから京子はもう一つのデータを表示してみせた。
「実はこれも一緒にありました。最初は何のデータか分からなかったんですけど……」
「内藤哲也、川口ゆめ、川崎瑠璃!? これって……」
「あぁ、爆弾事件の犯人の名前が含まれている」
「ぐっ、偶然ですよね!?」
京子の繕った笑顔に樹は微笑み返すことが出来なかったが、青砥がゆっくりと優しい声で話し掛けた。
「このデータはどこで手に入れたのですか?」
「わが家には主人の書斎があるんです。祐一郎さんは昔から紙が好きでして……先日、書斎の窓を閉めようと思ったら机の上にこれが……。嫌な予感がして私、思わず自分のブレスレットに記録を……」
京子はそう言った後、なんてことを、と呟いて両手で顔を覆った。
「こんなもの、撮らなきゃ良かった……」
捜査本部はにわかに活気づいていた。京子から受け取った証拠の裏付け捜査をすればするほど神崎が犯人であるという確たる証拠になる。
「この乗り物は常識を超えた過度な重力にも耐えられるようになっている。なるほど、この先端部分で時空を広げるのか……くそっ、こんな方法がっ」
「田口さん、どの目線でその設計図を見てるんですか」
隣で一緒に設計図を見ていた間壁が呆れた表情をした。
「そりゃあ捜査官としてだよ。うん、間違いない。これは時空マシーンの設計図の一部だ。樹、そっちはどうだ?」
「このリストには捕まった爆弾犯が全員載っています。他の人物に連絡を取っていますが、連絡が取れた人たちは皆、爆弾を持っていました」
樹の言葉に頷いてから青砥が続けた。
「彼女が持って来たのは爆弾を届けた人のリストってことですね。山さんと茜さんが今、爆弾を回収しに行ってます」
「さすがにこれでは神崎も言い逃れ出来まい」
田口がニヤリと笑いながら如月を見る。如月がしっかりと頷いた。
「逮捕状を請求してきます!」
11月5日。小暮を先頭に如月、田口、間壁、Aチームの面々が霞ヶ山の湖上空に揃った。隠れる必要もない堂々とした登場だ。青砥と目が合うと樹は大丈夫だの意味を込めて頷いた。
「全車降下っ」
小暮の声で全車が降下を始めた。目指すは樹たちが不時着した神崎の研究所だ。エアーカーテンの気流に負けないようにハンドルを上昇気味に操作し、スムーズに研究所に降り立った。
「一体何事ですか! ここは関係者以外立ち入り禁止ですよ!! あなたたちは先日の……」
「先日はどうも。車をわざわざ捜査課まで持ってきていただきまして」
田口はほほ笑んだが勇ましい女性は表情を強張らせたままだ。
「今日は何用ですの?」
「神崎さんはどちらに?」
「神崎は今、ここにはおりません」
それはおかしいですねぇ、と如月がとぼけた表情で田口に並ぶ。
「我々は神崎さんがここにいるという確信を持って来ているのですが。たとえ匿ったとしても、逮捕状が出ている今、捕まるのは時間の問題でしょうね」
「そう言われましてもいないものはどうしようもありません」
勇ましい女性がぴしゃりと言い切り、双方がにらみ合う。その空気を切り裂くようにドアが開いた。
「深水さん、もういいですよ」
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