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第三章
3. 仕方ない
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セント中央捜査本部、極秘会議室。捜査本部の建物の中でも特にセキュリティを強化している部屋で会議は行われていた。壁に表示された捜査官向けニュースが壁島にある核廃棄場の警備の交代を告げている。
「もうそんな時期か」
小暮が呟いた。
「半年に一度交代しますからね。あの島に近づく者は僅かばかりの漁業関係者だけですので、暇との戦いが一番大変だと聞いたことがありますよ」
小暮がふん、と鼻を鳴らした。
小暮の隣に如月、その二人を囲むようにAチームと間壁、田口が座っている。全員が着席すると如月が霞ヶ山で見たものの話をした。
「霞ヶ山か……」
如月の報告に小暮が呟き、全員が空中に表示された地図を見た。
「はい、この湖の中に何らかの建物があると確信しました。建物の一部が水面から大きく飛び出しているのだと思われます。周囲はエアーカーテンで目隠しされており、中を伺い見ることは出来ませんでした」
「山に防犯対策がされていなくても、建物周辺にはしている可能性は高い。引き返して正解だったな」
小暮はそう言ってから「しかし」と言葉を続けた。
「時空マシーンを制作しているという決定的な証拠が欲しい。相手は国内でトップを争う企業の社長で政治家にも顔が利く。疑惑だけでは弱い」
「証拠……あの時、乗り込んでいれば何かしら掴めたかもしれないのに」
「間壁、さっき小暮課長も言ってただろ。引き返して正解なんだよ」
「何かよい方法は……」
そう言葉を零した如月が視線をさ迷わせた時だった。じっと聞いていた青砥が「あの……」と声を発した。
「中に入れば何かしらの証拠は見つかるんですか?」
「あそこで作っているのだとすれば見つかるはずだ。重力をコントロールする装置や、この世界には無い物質、とにかく何か……」
「それなら施設に乗り込みましょう」
「乗り込むったってこんなんじゃ捜索令状は出ないぞ」
間壁が目を細めて青砥を見る。その眼差しは規則を破るつもりじゃないよな?と無言の圧力をかけているかのようだ。
「規則は破りませんよ。破らないけど、不時着したなら仕方ないですよね?」
「はぁ?」
「上空をパトロールしていたら機材の故障で湖に不時着した。そしたらたまたま施設があった。エアーカーテンで目隠しされているんですし、湖だと思って着陸したって言えばいいんじゃないですか」
「そりゃあいいっ! 故障で不時着するんなら仕方ねぇよなぁ」
小暮がニヤリと口元を歪めた。
上空70メートル、捜査課にある一番古い車の後部座席で樹は「くそっ……」と声を漏らした。隣には鼻息荒く目を輝かせた田口、運転席にはいつもと変わらず無表情な青砥が乗っている。
「万が一本当に墜落しても、樹のN+があれば衝撃を弱めることが出来るからな」
青砥にこう言われては高所から落ちるのが怖いなどと言えるはずもない。ましてや怖いと言ったことで神崎の首をとる為の一歩とも言えるこの捜査から外されるのは嫌だ。樹は震える膝を撫でつけながら田口を恨めし気に見つめた。
「これから墜落するっていうのに田口さんはなんで楽しそうなんですかっ」
「墜落って大げさな。ちょっと不時着するだけで墜落するわけじゃないさ」
「でも本当に故障させるんですよね!?」
「一応なー。故障もしてないのに不時着しましたなんて言えないからな」
田口がニヤニヤしながら車内の電気系統に触れ「この線を半分くらいいっとくか」と呟いていると青砥のブレスレットが光った。
「はい」
「アオ? 霧島だけど近くのホテルに陣取ったわ。山の入り口付近までくれば私がそっちの音声を拾えるから。大丈夫だとは思うけど携帯しているカメラが壊れてヤバイ時はそこまで走って」
「わかりました」
「何かあったら山さんと直ぐに駆けつけるから、とにかく気を付けてね」
「はい。田口さん! あと3分で目的地に着きます!」
「了解」
車内に田口の声が響いて樹はシートに体を固定させた。車は音を立てることも無くよろよろとした飛行を始め、高度を下げながら湖の上空に侵入した。代り映えの無い景色が一変したのは湖の上空を5メートル程進んだ時だった。何かに押し付けられるようにして車がガクっと沈み、大きくバランスを崩した。
「ヤバい、落ちる」
全くヤバそうに感じない冷静な青砥の声。
「樹、吐けっ」
それを言うなら吹けだろうと心の中で突っ込みつつ田口に渡された筒を受け取った。ここに思いっきり息を吹けば息は車の下に周り、瞬間的な浮力が発生する仕組みだ。樹の息で落下の勢いが弱まったものの鉄の塊が落下すればそれ相応の衝撃はある。研究所を振動させるような大きな音を立てて車は落下した。
「うおっ、い、ててててて。腰打った」
「田口さん大丈夫ですか?」
「あぁ、なんとか。エアーカーテンの風にやられたのか。想定していたよりも落下が激しかったがこれで真実味は増す」
やっぱ墜落じゃん、と呟いた樹の言葉は田口の「すげぇな」の声にかき消された。目の前に現れたのはパイプが複雑に絡み合った細長い建物だ。何らかの装置の様にも見える。
「こりゃあ、どう見たってロケットの発射装置じゃねぇか。発射装置を持つには政府からの許可が必要、そして神崎グループはその許可を持っていないはずだ」
「これで1つ、か。人が駆けつける前にもっと証拠を」
青砥が二人を急かそうとした時、誰? という声が施設内に響いた。
「チッ、もう来やがった」
「何をしているのですか? ここは神崎グループ所有の建物で関係者以外の入出は認められていない場所です」
立ちはだかった勇ましい美女に樹は口先だけの「すみません」を伝えた。女性のきつい視線が樹を捉える。
「車が故障して湖に着陸しようとしたのですがなぜかこんなことに……」
樹は2メートル先に落ちている壊れた車を指さした。その間も田口はキョロキョロと辺りを見回しており、青砥は一人離れたところに立っている。
「身分証を提示して下さい。3人ともです」
「それは……」
「樹、素直に従おう。どうせ全部記録されているだろうし」
「もうそんな時期か」
小暮が呟いた。
「半年に一度交代しますからね。あの島に近づく者は僅かばかりの漁業関係者だけですので、暇との戦いが一番大変だと聞いたことがありますよ」
小暮がふん、と鼻を鳴らした。
小暮の隣に如月、その二人を囲むようにAチームと間壁、田口が座っている。全員が着席すると如月が霞ヶ山で見たものの話をした。
「霞ヶ山か……」
如月の報告に小暮が呟き、全員が空中に表示された地図を見た。
「はい、この湖の中に何らかの建物があると確信しました。建物の一部が水面から大きく飛び出しているのだと思われます。周囲はエアーカーテンで目隠しされており、中を伺い見ることは出来ませんでした」
「山に防犯対策がされていなくても、建物周辺にはしている可能性は高い。引き返して正解だったな」
小暮はそう言ってから「しかし」と言葉を続けた。
「時空マシーンを制作しているという決定的な証拠が欲しい。相手は国内でトップを争う企業の社長で政治家にも顔が利く。疑惑だけでは弱い」
「証拠……あの時、乗り込んでいれば何かしら掴めたかもしれないのに」
「間壁、さっき小暮課長も言ってただろ。引き返して正解なんだよ」
「何かよい方法は……」
そう言葉を零した如月が視線をさ迷わせた時だった。じっと聞いていた青砥が「あの……」と声を発した。
「中に入れば何かしらの証拠は見つかるんですか?」
「あそこで作っているのだとすれば見つかるはずだ。重力をコントロールする装置や、この世界には無い物質、とにかく何か……」
「それなら施設に乗り込みましょう」
「乗り込むったってこんなんじゃ捜索令状は出ないぞ」
間壁が目を細めて青砥を見る。その眼差しは規則を破るつもりじゃないよな?と無言の圧力をかけているかのようだ。
「規則は破りませんよ。破らないけど、不時着したなら仕方ないですよね?」
「はぁ?」
「上空をパトロールしていたら機材の故障で湖に不時着した。そしたらたまたま施設があった。エアーカーテンで目隠しされているんですし、湖だと思って着陸したって言えばいいんじゃないですか」
「そりゃあいいっ! 故障で不時着するんなら仕方ねぇよなぁ」
小暮がニヤリと口元を歪めた。
上空70メートル、捜査課にある一番古い車の後部座席で樹は「くそっ……」と声を漏らした。隣には鼻息荒く目を輝かせた田口、運転席にはいつもと変わらず無表情な青砥が乗っている。
「万が一本当に墜落しても、樹のN+があれば衝撃を弱めることが出来るからな」
青砥にこう言われては高所から落ちるのが怖いなどと言えるはずもない。ましてや怖いと言ったことで神崎の首をとる為の一歩とも言えるこの捜査から外されるのは嫌だ。樹は震える膝を撫でつけながら田口を恨めし気に見つめた。
「これから墜落するっていうのに田口さんはなんで楽しそうなんですかっ」
「墜落って大げさな。ちょっと不時着するだけで墜落するわけじゃないさ」
「でも本当に故障させるんですよね!?」
「一応なー。故障もしてないのに不時着しましたなんて言えないからな」
田口がニヤニヤしながら車内の電気系統に触れ「この線を半分くらいいっとくか」と呟いていると青砥のブレスレットが光った。
「はい」
「アオ? 霧島だけど近くのホテルに陣取ったわ。山の入り口付近までくれば私がそっちの音声を拾えるから。大丈夫だとは思うけど携帯しているカメラが壊れてヤバイ時はそこまで走って」
「わかりました」
「何かあったら山さんと直ぐに駆けつけるから、とにかく気を付けてね」
「はい。田口さん! あと3分で目的地に着きます!」
「了解」
車内に田口の声が響いて樹はシートに体を固定させた。車は音を立てることも無くよろよろとした飛行を始め、高度を下げながら湖の上空に侵入した。代り映えの無い景色が一変したのは湖の上空を5メートル程進んだ時だった。何かに押し付けられるようにして車がガクっと沈み、大きくバランスを崩した。
「ヤバい、落ちる」
全くヤバそうに感じない冷静な青砥の声。
「樹、吐けっ」
それを言うなら吹けだろうと心の中で突っ込みつつ田口に渡された筒を受け取った。ここに思いっきり息を吹けば息は車の下に周り、瞬間的な浮力が発生する仕組みだ。樹の息で落下の勢いが弱まったものの鉄の塊が落下すればそれ相応の衝撃はある。研究所を振動させるような大きな音を立てて車は落下した。
「うおっ、い、ててててて。腰打った」
「田口さん大丈夫ですか?」
「あぁ、なんとか。エアーカーテンの風にやられたのか。想定していたよりも落下が激しかったがこれで真実味は増す」
やっぱ墜落じゃん、と呟いた樹の言葉は田口の「すげぇな」の声にかき消された。目の前に現れたのはパイプが複雑に絡み合った細長い建物だ。何らかの装置の様にも見える。
「こりゃあ、どう見たってロケットの発射装置じゃねぇか。発射装置を持つには政府からの許可が必要、そして神崎グループはその許可を持っていないはずだ」
「これで1つ、か。人が駆けつける前にもっと証拠を」
青砥が二人を急かそうとした時、誰? という声が施設内に響いた。
「チッ、もう来やがった」
「何をしているのですか? ここは神崎グループ所有の建物で関係者以外の入出は認められていない場所です」
立ちはだかった勇ましい美女に樹は口先だけの「すみません」を伝えた。女性のきつい視線が樹を捉える。
「車が故障して湖に着陸しようとしたのですがなぜかこんなことに……」
樹は2メートル先に落ちている壊れた車を指さした。その間も田口はキョロキョロと辺りを見回しており、青砥は一人離れたところに立っている。
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「それは……」
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