【SF×BL】碧の世界線 

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第三章

2. 時空移動の仕組み

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 湖の周りは腰辺りまで届く草が生い茂っており、3人は草をかき分けるようにして歩いた。空の高い所をゆく鳥たちがもうすぐ陽が沈むと鳴いている。草をかき分けるのにうんざりしてきた頃、間壁が口を開いた。

「田口さん、そもそも彼らはどうやって時空を移動しているんですか?」

「それ、僕も聞きたいです。小暮課長はその辺のところ詳しく説明してくれないですし、僕自身、そっち方面の知識には乏しくて」

小暮はそうだろうな、と笑うと田口は「何から説明すればいいのやら……」と呟いて考えるような仕草を見せた。

「お前たちは、時間ってものは過去、現在、未来と一定の速さで流れていると思っているだろ?」

「まぁ、そうですね」
「違うんですか?」

「実際は早く動く程時間の流れは遅くなり、空間は縮む。重力も同様だ」

頭にクエスチョンマークを浮かべたような二人の表情を見て田口はぽりぽりと頭を掻いた。

「つまり速度と重力で時間の進み方は変わるってことだ。強い重力の中では時間の進み方が遅くなるという事が長年の研究で分かっている。考え方としてはこうだ。全てを吸い込むブラックホールと排出するホワイトホール、それを強い重力が存在するトンネルで繋いでやれば移動時間がかからずにどこへでも移動することが出来る」

元研究者というだけあってこの手の話は田口の心をワクワクさせるらしい。まるで子供の様に目を輝かせ始めた田口のテンションを下げるかのように間壁が言葉を発した。

「でもこの研究は中止されたんですよね。時空マシーンはどこまで完成していたんですか?」

「ブラックホールと簡単に言ったがな、ブラックホールを作り出すためには大きな恒星を圧縮しなきゃならない。どれだけ圧縮すればいいかというと地球であれば半径約1センチまでと言われている」

「1センチですか!?」

「そもそも地球をそこまで圧縮することは出来ないんだが、ものの例えというやつだ。とにかくそれくらい圧縮しないとブラックホールは出来ない。仮に人間が通ろうとすれば土星くらいの質量のものを圧縮しないと無理だろうな」

そこまで話すと田口は言葉を切って遠くの空を見た。まるでその先にある宇宙を見るかのような眼差しだ。

「研究は極小のブラックホールを作るところまでは完成していた。だがブラックホールはなかなか安定せず、すぐに蒸発してしまう。何とかブラックホールを安定させようというところで研究が中止になった。俺が知っているのはそこまでだ」

「その研究を続けていた人がいるってことですよね。続けて、完成させた」

如月の言葉は風の隙間を縫い、重大な発表の様に3人の間に響いた。その途端に田口の目は輝きを失い、何かを諦めたような表情になったと思ったら二人に背中を向けた。

「完成させた、か……」
「ちょっと田口さん。背中を向けたりして……拗ねないでくださいよ!」

「拗ねてなんかないっ」

勢いよく振り返った田口の唇が若干とがっていたことに如月は気が付いたが、そこは見ないふりをした。

「元研究者とはいえやっぱり悔しいんですねぇ」
「……間壁、お前ってやつは」

「元研究者にお聞きしたいんですけど研究を完成させるためにはどんな設備が必要だと思いますか?」

「設備?」

「えぇ。勝手なイメージですけど膨大な加速を必要とするなら滑走路的な長い敷地が必要とか、なんかそういう目印になるようなものがあれば見つけやすいのかなと」

「設備か……」

田口がそう呟いた時だった。数羽の鳥が一斉に飛び立ち、思わず全員の視線が鳥たちを追いかけた。鳥は湖の上空を横切るようにして飛び、5メートルほど過ぎたあたりで一羽が忽然と姿を消した。

「!?」

3人が顔を見合わせる。

「今、鳥が一羽消えなかったか?」

消え……ました、と半ば呆然と答えながら間壁が近くにあった細身の木を蹴ると驚いた鳥たちが一斉に飛び立った。そのうちの何羽かが沼の上空を飛び、先ほどの様に5メートル地点で姿を消した。

「間違いない、あそこに何かある」
「エアーカーテンかなんかに景色を投影して何かを見えなくしているのでしょうか?」

「そんなところだろうな。人に見せたくない何かがあそこにある」

「しっ、誰か来る」

間壁の言葉で3人は素早く身を低くした。先ほどまで鬱陶しかった腰までの草たちがこんなときは有難い。

3人から60メートルほど離れた場所をこちらに向かって男が3人歩いてくる。細身の頼りなさそうな男を先頭に軽そうなチャラ男と黒髪短髪の体育会系の男が続き、間壁たちから3メートルのところで立ち止まって湖の方を向いた。

「相変わらず分かりづらい」
「確かこの辺に……あ、あった」

草の中にしゃがみ込んだ体育会系の男が手を挙げるとそれを合図に二人も草の中に消えた。その様子を見ていた間壁と田口が視線を合わせる。

「今のって……」
「あぁ、多分あそこが入り口だな」
「ですね」

身をひそめたまま前進しようとした間壁の腕を田口が掴んだ。

「おい、まさか行くつもりじゃないだろうな!?」

「せっかくここまで来たんですし、何か確実なものを持って帰りたいじゃないですか」

「ばか、中がどんなだか全く分からないんだ。行った先で待ち伏せされていたらどうするんだよ、なぁ、如月」

返事をしない如月を不審に思った間壁と田口が振り返ると、如月は怪訝な表情をして口元に手を当てていた。

「如月さん?」
「今の3人、どっかで見たような気が……」


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