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第二章 N+捜査官
27. 異変?
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相沢富市から見張りが外れて2日、未だにDの気配はない。樹と青砥は山口と合流して相沢の家と会社の中間地点にホテルを取り、泊まり込んで夜通しDの出現に備えていた。
「はぁ、代り映えのない点を見つめるのも退屈よねぇ」
「何もじっと見てなくても。いつものルートから外れたらアラームが鳴るようになっているんですよね?」
「そうなのよぅ。でも、なんか気になっちゃってね」
樹がクリームパンを食べながら山口が表示した位置情報を覗いていると、報告書を作っていた青砥が顔を上げた。
「樹、口元にクリームがついてる」
「え、あ、ははは」
少し恥ずかしい気持ちになりながら口元を指で拭って、クリームを口に運ぶと青砥がすっと下を向いた。指がこめかみを押している。昨日あたりから見せる様になった青砥のその仕草が樹は気になっていた。
またストレス感じてんのかな……。
「そういえば、相沢製薬の悪事は証拠が揃ったのぉ?」
「オーナーは知らないの一点張りですね」
「オーナーが知らないってあり得るものなのかしら…… だって自分の店で薬が売られていて、逮捕者も結構出てるでしょう?」
アタックナイトの一件で逮捕されたエリカの供述により現時点で7人の逮捕者が出ている。更にその逮捕者たちの供述によりもっと逮捕者は増えるだろうと予想された。
「アオさんはどう思います?」
「知らなかったっていうのは嘘かもな」
「嘘? それじゃ、オーナーもDに狙われる危険性がありますよね。相沢より先にDが現れる可能性があるんじゃ……」
「いや、現時点ではまだ大丈夫だと思う。オーナーはただ知っていただけだから」
「知っていて放置したってことですか?」
「あぁ。オーナーからしてみれば客数が増えて売り上げが増えればそれでいいってことだろ。聴取の際の言葉の節々にそんなものを感じた」
「罪には問えないけど限りなく黒よねぇ。それにしても私たち、本当に相沢から離れて良かったのかしら」
「俺も気になっていました。いくら位置情報で居場所を確認できるからと言って、相沢が毎日家と職場の往復だけとは限らないんじゃ……」
樹と山口が顔を見合わせる。
「100%とは言わないけど、高確率で相沢はどこへも行かないと思いますよ。相沢の行動を制限するために、林が死亡した情報を大々的に放送したので。社長という立場から出社はしないといけないと思いますが、外に危険があれば家の中に引きこもりたいというのが一般的でしょうね。国外への渡航は捜査協力の名のもとに制限してますし」
「だから相沢がいつものルートを外れた時にアラームが鳴る様にしてあるのか……」
「Dはじっくり相手をいたぶるから人が沢山いる状況で犯行に及ぶことはない。つまり、自宅と会社のルートから外れた時、もしくはいつもと違う行動をとった時が相沢がDと接触したってことだと思う」
そう言うと青砥は報告書の画面を閉じて立ちあがった。
「すみません、俺、仮眠してくるんで」
「あら、もうそんな時間? 樹君も一緒に仮眠して来たら? 夜は長いわよ~」
ホテルの部屋は隣接する2部屋を取っており、その一つを仮眠室として使用しているのだ。山口の有難い言葉に、そうしようかなと言いながら樹はぐぐっと体を反らせた。
「悪いけど、一人で寝たいんだ。1時間きっかりで起きてくるから、樹はその後でいい?」
「いいですけど……大丈夫ですか? どっか体調が悪いとか」
「いや、そういうんじゃないから大丈夫。悪いな」
青砥はこめかみを押さえて少し眉間に皺をよせたまま部屋を出て行った。
「アオ君、体調悪いのかしら。一緒に寝るって言っても同じベッドってわけでもないし、樹君とは同じ部屋で暮らした仲なのにねぇ」
「ですよね……」
樹は青砥が出て行ったドアを見つめた。体調不良ではないという青砥の言葉を信じるとすればやっぱりあの夜のせいだろうか。昨日までは普通に接してくれていたような気がするのに。
こめかみを押さえる癖、すっと反らされる視線、仮眠室共同使用の拒否……。考えれば考えるほど、青砥の自分への接し方が不自然な気がした。薬のせいとはいえあれだけのことをしたのだ、日を置いてからやっぱり無理となってもおかしくはない。
ドツボにハマりそうな考えから抜け出すかのように樹はブレスレットの検索画面を出した。そういえば気になっていたことがあったのを思い出したのだ。
アタックナイトでの事件の夜、薬の影響か一瞬フラッシュ映像のようにいくつもの映像が脳内に浮かんだ。その中にあったリンゴ。今思えば、青砥がリンゴを知らないことがおかしいような気がした。
リンゴは実がなるまで4~5年かかる。水耕栽培で育てることが出来るならばもっと流通して青砥が知らないという事はなさそうだし、樹のいた世界のように土で育てているのであれば多分かなりの高級品になるはずだ。高級品なら高級品として有名なのではないかと思ったのだ。
「山さん、リンゴって知ってます?」
「リンゴ?」
「はい、赤くて丸い果物なんですけど」
「ん~、私は知らないねぇ。何? 今回の事件にかかわること?」
「いや、そんなに大したことではないんですけどなんとなく気になって」
「果物について調べたいのなら、日本農林組合のHPを見るといいわよ。新種も既存種も載っているはずだから」
相沢富市にいつもと違う動きがあったのはその日の夜のことだった。
「はぁ、代り映えのない点を見つめるのも退屈よねぇ」
「何もじっと見てなくても。いつものルートから外れたらアラームが鳴るようになっているんですよね?」
「そうなのよぅ。でも、なんか気になっちゃってね」
樹がクリームパンを食べながら山口が表示した位置情報を覗いていると、報告書を作っていた青砥が顔を上げた。
「樹、口元にクリームがついてる」
「え、あ、ははは」
少し恥ずかしい気持ちになりながら口元を指で拭って、クリームを口に運ぶと青砥がすっと下を向いた。指がこめかみを押している。昨日あたりから見せる様になった青砥のその仕草が樹は気になっていた。
またストレス感じてんのかな……。
「そういえば、相沢製薬の悪事は証拠が揃ったのぉ?」
「オーナーは知らないの一点張りですね」
「オーナーが知らないってあり得るものなのかしら…… だって自分の店で薬が売られていて、逮捕者も結構出てるでしょう?」
アタックナイトの一件で逮捕されたエリカの供述により現時点で7人の逮捕者が出ている。更にその逮捕者たちの供述によりもっと逮捕者は増えるだろうと予想された。
「アオさんはどう思います?」
「知らなかったっていうのは嘘かもな」
「嘘? それじゃ、オーナーもDに狙われる危険性がありますよね。相沢より先にDが現れる可能性があるんじゃ……」
「いや、現時点ではまだ大丈夫だと思う。オーナーはただ知っていただけだから」
「知っていて放置したってことですか?」
「あぁ。オーナーからしてみれば客数が増えて売り上げが増えればそれでいいってことだろ。聴取の際の言葉の節々にそんなものを感じた」
「罪には問えないけど限りなく黒よねぇ。それにしても私たち、本当に相沢から離れて良かったのかしら」
「俺も気になっていました。いくら位置情報で居場所を確認できるからと言って、相沢が毎日家と職場の往復だけとは限らないんじゃ……」
樹と山口が顔を見合わせる。
「100%とは言わないけど、高確率で相沢はどこへも行かないと思いますよ。相沢の行動を制限するために、林が死亡した情報を大々的に放送したので。社長という立場から出社はしないといけないと思いますが、外に危険があれば家の中に引きこもりたいというのが一般的でしょうね。国外への渡航は捜査協力の名のもとに制限してますし」
「だから相沢がいつものルートを外れた時にアラームが鳴る様にしてあるのか……」
「Dはじっくり相手をいたぶるから人が沢山いる状況で犯行に及ぶことはない。つまり、自宅と会社のルートから外れた時、もしくはいつもと違う行動をとった時が相沢がDと接触したってことだと思う」
そう言うと青砥は報告書の画面を閉じて立ちあがった。
「すみません、俺、仮眠してくるんで」
「あら、もうそんな時間? 樹君も一緒に仮眠して来たら? 夜は長いわよ~」
ホテルの部屋は隣接する2部屋を取っており、その一つを仮眠室として使用しているのだ。山口の有難い言葉に、そうしようかなと言いながら樹はぐぐっと体を反らせた。
「悪いけど、一人で寝たいんだ。1時間きっかりで起きてくるから、樹はその後でいい?」
「いいですけど……大丈夫ですか? どっか体調が悪いとか」
「いや、そういうんじゃないから大丈夫。悪いな」
青砥はこめかみを押さえて少し眉間に皺をよせたまま部屋を出て行った。
「アオ君、体調悪いのかしら。一緒に寝るって言っても同じベッドってわけでもないし、樹君とは同じ部屋で暮らした仲なのにねぇ」
「ですよね……」
樹は青砥が出て行ったドアを見つめた。体調不良ではないという青砥の言葉を信じるとすればやっぱりあの夜のせいだろうか。昨日までは普通に接してくれていたような気がするのに。
こめかみを押さえる癖、すっと反らされる視線、仮眠室共同使用の拒否……。考えれば考えるほど、青砥の自分への接し方が不自然な気がした。薬のせいとはいえあれだけのことをしたのだ、日を置いてからやっぱり無理となってもおかしくはない。
ドツボにハマりそうな考えから抜け出すかのように樹はブレスレットの検索画面を出した。そういえば気になっていたことがあったのを思い出したのだ。
アタックナイトでの事件の夜、薬の影響か一瞬フラッシュ映像のようにいくつもの映像が脳内に浮かんだ。その中にあったリンゴ。今思えば、青砥がリンゴを知らないことがおかしいような気がした。
リンゴは実がなるまで4~5年かかる。水耕栽培で育てることが出来るならばもっと流通して青砥が知らないという事はなさそうだし、樹のいた世界のように土で育てているのであれば多分かなりの高級品になるはずだ。高級品なら高級品として有名なのではないかと思ったのだ。
「山さん、リンゴって知ってます?」
「リンゴ?」
「はい、赤くて丸い果物なんですけど」
「ん~、私は知らないねぇ。何? 今回の事件にかかわること?」
「いや、そんなに大したことではないんですけどなんとなく気になって」
「果物について調べたいのなら、日本農林組合のHPを見るといいわよ。新種も既存種も載っているはずだから」
相沢富市にいつもと違う動きがあったのはその日の夜のことだった。
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