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第二章 N+捜査官
25. 不本意な誘惑 ☆
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快楽物質に犯されているというのに樹は完全には自分を明け渡さない。快楽に溺れても、海面に浮上するクジラみたいに樹は僅かな時間だけ自分を取り戻した。そんな樹を見て青砥は自分の中に怒りを見つけた。
こんな状態でも自分を律しようとするなんて、今までどれだけ欲を抑えて生きてきたんだよ。
「いいから。俺が好きでやってる」
半分開いた唇。薄く開いた目、その目の奥に自分が届いているかは分からない。でもこの先の行為をする相手は自分だと知って欲しいと青砥は思った。
「は……やく」
樹の言葉に誘惑されるまま、青砥は樹の唇に自身の唇を重ねた。
室内に樹のくぐもった声が響く。ベッドにうつ伏せになった背中が猫のように反り返っては丸まり、背骨をなぞればまた反り返った。樹のアナルには青砥の指が二本、深々と埋まっている。指にはめたコンドーム越しにも内部の柔らかさが良く分かる。入り口はキュウキュウと締め付けても内部のそれは青砥の指を受け入れ、包み込んでいた。
「あ……はっ」
敏感な樹を必要以上に追い詰めない様に内部からペニスの付け根の辺りを優しく撫でる様に押す。その度に零れる上ずった声、眉間にしわを寄せながら腰を揺らす樹に欲情するなと言うのは無理な話だろう。
このまま自分自身のモノで貫いてしまいたい。何度もその欲に支配されながらも青砥はなんとか踏みとどまっていた。早く薬が抜けて落ち着いて欲しい気持ちと、この痴態をもっと見ていたい気持ちが交錯する。
樹の体を押して、ベッドに仰向けにした。足を開かせてその間に自身の体を挟み、樹の表情が良く見える様にする。快楽に沈むサイクルに入っている樹は、余すことなくその表情を青砥に見せた。
うっとりと細めた樹の目、腰を浮かせてもっともっと強請れば樹の目の前に青砥の顔が近づく。唇を重ねればそれもまた快楽を得られる行為なのだと樹の体は良く知っていた。言葉もなく左腕を青砥の首に回す。
「もっと、して」
与えられる、何度も。
欲しがれば欲しがった分与えられる。
それは樹にとって初めてのことだった。
ぎゅううっと圧縮された体が解放されるような感覚に落ちた。その感覚はとてもゆっくりで、指の一本一本から力が抜け、思考までもが解けていく。
あぁ、自由なんだ。
母親もいない。父親もいない。優愛もいない。喜びと悲しみの輪を潜り抜けたら、何も感じないという言葉が相応しいくらいの虚無があった。
クリアになる思考に飛び込んでくる残像
大黒寺家、フルーツ盛り、リンゴ、相沢製薬、社長室、テーブル、リンゴ。青砥が何か言っている。青砥が何か……。
そこで樹の感覚は途切れた。
やっと寝たか……。
先程までの情事の跡を色濃く残した樹の体に背を向けると、青砥はベッドに腰を下ろしたまま深いため息を吐いた。時間はもうすぐ午前3時、いくら仮眠をして時間をずらしたとはいえ、こんな時間では青砥が寝る時間をオーバーしている。
「まだ眠くないってことは脳が興奮状態だってことだな……」
それもそのはずだ。青砥の指で快楽に身を落とし、あられもなく身を揺らす樹をあれほど見たというのに自身の熱は一度も満たされぬままなのだ。
肝心な時にはいつも青砥を突き放して距離をとる樹が青砥を求めて身を開く姿は、庇護欲をそそられるだけではすまない感情を思い知らされる。薬に犯されていない状態で自分を求めて欲しい、その言葉が想いを伴って浮かび上がった。
いつだったか「必要以上に近づかないで欲しい」と言った樹の臆病な目が思い出される。その後に話した「離れない覚悟があるなら近づいていいってことだよな?」と確認した時の表情までもが鮮明だ。条件が離れないという事ならば、それは物凄く簡単なことだと思った。
「でも、まぁ、一筋縄ではいかないだろうな」
ぐっすり眠る樹の呼吸を確認すると青砥は気だるい体を引きずるようにして浴室へと消えた。
朝は何の断りもなく訪れる。恐ろしいほど冷静に。
いや、断られても困るけど……。
樹は目の前で眠る青砥の横顔を見つめながら硬直していた。確認しなくても自分が裸なのは分かるし、素肌の肩が見えているから青砥も裸かそれに近い格好のはずだ。
「俺……」
記憶は途切れ途切れではあるが、残念なことに何が起こったのかが分かる程度にはある。自分がどんな風に青砥に懇願し、青砥がどうしてくれたのか。
「どんな顔すりゃいいんだよ……」
痴態を思い出しては悶え、青砥の唇を見ては赤面し、樹は青砥が寝ている間に何度もベッドの周りをうろついた。そして散々うろたえた後、事の重大さに血の気が引いた。
油断して犯人を取り逃がした上に薬を飲まされて中毒状態に陥った。恥ずかしいという理由で病院に行くのを拒否し、青砥にあんなことまでさせたのだ。青砥の表情も言葉も覚えてはいないが、相当無理をさせたと思う。
「謝らないと……それに昨日の捜査がどうなったのかも……」
こうしてベッドの上で正座をして青砥が起きるのを待つという暴挙に出た樹は、無事、青砥を驚かせることに成功した。
こんな状態でも自分を律しようとするなんて、今までどれだけ欲を抑えて生きてきたんだよ。
「いいから。俺が好きでやってる」
半分開いた唇。薄く開いた目、その目の奥に自分が届いているかは分からない。でもこの先の行為をする相手は自分だと知って欲しいと青砥は思った。
「は……やく」
樹の言葉に誘惑されるまま、青砥は樹の唇に自身の唇を重ねた。
室内に樹のくぐもった声が響く。ベッドにうつ伏せになった背中が猫のように反り返っては丸まり、背骨をなぞればまた反り返った。樹のアナルには青砥の指が二本、深々と埋まっている。指にはめたコンドーム越しにも内部の柔らかさが良く分かる。入り口はキュウキュウと締め付けても内部のそれは青砥の指を受け入れ、包み込んでいた。
「あ……はっ」
敏感な樹を必要以上に追い詰めない様に内部からペニスの付け根の辺りを優しく撫でる様に押す。その度に零れる上ずった声、眉間にしわを寄せながら腰を揺らす樹に欲情するなと言うのは無理な話だろう。
このまま自分自身のモノで貫いてしまいたい。何度もその欲に支配されながらも青砥はなんとか踏みとどまっていた。早く薬が抜けて落ち着いて欲しい気持ちと、この痴態をもっと見ていたい気持ちが交錯する。
樹の体を押して、ベッドに仰向けにした。足を開かせてその間に自身の体を挟み、樹の表情が良く見える様にする。快楽に沈むサイクルに入っている樹は、余すことなくその表情を青砥に見せた。
うっとりと細めた樹の目、腰を浮かせてもっともっと強請れば樹の目の前に青砥の顔が近づく。唇を重ねればそれもまた快楽を得られる行為なのだと樹の体は良く知っていた。言葉もなく左腕を青砥の首に回す。
「もっと、して」
与えられる、何度も。
欲しがれば欲しがった分与えられる。
それは樹にとって初めてのことだった。
ぎゅううっと圧縮された体が解放されるような感覚に落ちた。その感覚はとてもゆっくりで、指の一本一本から力が抜け、思考までもが解けていく。
あぁ、自由なんだ。
母親もいない。父親もいない。優愛もいない。喜びと悲しみの輪を潜り抜けたら、何も感じないという言葉が相応しいくらいの虚無があった。
クリアになる思考に飛び込んでくる残像
大黒寺家、フルーツ盛り、リンゴ、相沢製薬、社長室、テーブル、リンゴ。青砥が何か言っている。青砥が何か……。
そこで樹の感覚は途切れた。
やっと寝たか……。
先程までの情事の跡を色濃く残した樹の体に背を向けると、青砥はベッドに腰を下ろしたまま深いため息を吐いた。時間はもうすぐ午前3時、いくら仮眠をして時間をずらしたとはいえ、こんな時間では青砥が寝る時間をオーバーしている。
「まだ眠くないってことは脳が興奮状態だってことだな……」
それもそのはずだ。青砥の指で快楽に身を落とし、あられもなく身を揺らす樹をあれほど見たというのに自身の熱は一度も満たされぬままなのだ。
肝心な時にはいつも青砥を突き放して距離をとる樹が青砥を求めて身を開く姿は、庇護欲をそそられるだけではすまない感情を思い知らされる。薬に犯されていない状態で自分を求めて欲しい、その言葉が想いを伴って浮かび上がった。
いつだったか「必要以上に近づかないで欲しい」と言った樹の臆病な目が思い出される。その後に話した「離れない覚悟があるなら近づいていいってことだよな?」と確認した時の表情までもが鮮明だ。条件が離れないという事ならば、それは物凄く簡単なことだと思った。
「でも、まぁ、一筋縄ではいかないだろうな」
ぐっすり眠る樹の呼吸を確認すると青砥は気だるい体を引きずるようにして浴室へと消えた。
朝は何の断りもなく訪れる。恐ろしいほど冷静に。
いや、断られても困るけど……。
樹は目の前で眠る青砥の横顔を見つめながら硬直していた。確認しなくても自分が裸なのは分かるし、素肌の肩が見えているから青砥も裸かそれに近い格好のはずだ。
「俺……」
記憶は途切れ途切れではあるが、残念なことに何が起こったのかが分かる程度にはある。自分がどんな風に青砥に懇願し、青砥がどうしてくれたのか。
「どんな顔すりゃいいんだよ……」
痴態を思い出しては悶え、青砥の唇を見ては赤面し、樹は青砥が寝ている間に何度もベッドの周りをうろついた。そして散々うろたえた後、事の重大さに血の気が引いた。
油断して犯人を取り逃がした上に薬を飲まされて中毒状態に陥った。恥ずかしいという理由で病院に行くのを拒否し、青砥にあんなことまでさせたのだ。青砥の表情も言葉も覚えてはいないが、相当無理をさせたと思う。
「謝らないと……それに昨日の捜査がどうなったのかも……」
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