【SF×BL】碧の世界線 

SAI

文字の大きさ
上 下
36 / 129
第二章 N+捜査官

12. 高級料理

しおりを挟む
西城家の所有するサボテン型のビルの最上階は、花をモチーフにした展望レストランになっておりフロア全体がゆっくりと回転することで全方向の景色を見ることが出来た。

「あの俺たち、こんな格好なんですけど大丈夫ですかね?」

ドレスアップした人が多い中、高級服でもない普段着の樹たちは目立つ。不安になって樹が京子に聞くと、京子は朗らかに笑った。

「全然大丈夫ですよ。今日は身内の集まりのようなものですから」

 住む世界が違うということはこういうことか……。

政治家に有名GYUBER、大手配信会社であるTTの女優さん、この世界のことを未だあまり知らない樹でさえ知っている顔がある。その面々を身内と言えるとは西城家の社交界での地位は相当なものなのだろう。

どうぞこちらへ、とギャルソンに案内されるまま席に移動する。蓮の花を思わせる花びらの先端に座ると、空を朱に染め上げた太陽がビルの向こう側に沈んでいくところだった。

「こちらは当店からのサービスでございます。どうぞ飲みながらメニューをお決め下さい」

ゴールドに輝く飲み物を全員に配ったギャルソンがにこやかに告げたが、こんな高級店で何をどのように注文するのか樹に分かるわけがない。結局全メニューを青砥と同じものにすることにして乗り切った。

「今日、本当は大黒寺さんもお招きしていたのです。食を大事にする方だったからきっと喜んでくださるだろうと思って……」

京子はガラス越しに遠くのテーブルを見つめ、それから視線を自身のテーブルへと戻した。

「あんなに仲が宜しかったのに、どうして綾乃さんはあのようなことをしたのでしょうか」

はっきりと殺人とは口にせず、あのようなこと、と言うところが京子らしい。ニュースで配信されている内容なら構わないだろうと青砥が口を開いた。

「娘さんを幼くして亡くした綾乃さんには大黒寺さんの「長く生き過ぎた」という言葉が許せなかったのだそうです」

「きっと本心ではなかったのに……」
「だから……だと思います。本心ではないから余計に辛かった」

樹の言葉に京子は頷きながらも「そんなことをするようには見えなかったのに」と呟いた。その言葉を拾ったのは祐一郎だ。

「人間は色々な顔を持っていますからね。綾乃さんは激しい怒りの顔を隠していたのでしょう」

「あら、祐一郎さん、祐一郎さんも私に隠している顔があるのですか?」

「さぁ、どうでしょうか。京子さんはミステリアスな男と分かりやすい男はどちらが好みですか?」

「ん~……分かりやす過ぎても退屈かも」

「それなら私は隠している顔があるということにしましょう」

神崎に微笑まれた京子は、まぁ、と頬を染めた。

 食事はどれも見事な盛り付けだったが味は正直に言えば普通だった。生野菜に塩をかけたもの、根菜のソテー、ドライフルーツもポタージュスープも樹にしてみれば珍しくもなんともない。だが周りの反応を見る限り、どれも高級食材のようだった。

やっぱ、土に関係しているんだろうな。

「すみません。私、失礼して父に顔を見せてきます。来たよって知らせておかないと後でうるさくって」

肩をすくめた京子がワタワタと席を立つと、その様子を見ていた神崎が微笑んだ。

「すみません、騒がしくて」
「そんなことないです! 明るくて素敵な方ですね、素直というか……」

女性を褒めたことの無い樹が一生懸命に言葉を探していると、神崎がくくっと声を押し殺して笑う。

「いや、失礼。藤丘さんも分かりやすい人ですね」
「え?」

食事、そんなに美味しくなかったのでしょう? と神崎に囁かれ、樹は思わず表情を失った。

俺、顔に出てた!?

顔面蒼白とはこのことだ。そんな樹を見て、神崎は可笑しくてたまらないというように体をくの字に曲げた。

「今度何か美味しいものをご馳走しますよ、美味しいものを食べたらどんな表情をするのか見てみ
たい」

「そっ、そんな、普通ですよっ」

樹が慌てていると、青砥の視線が遠くの京子を捉え、続いて神崎も京子を見た。京子が30代くらいの男性に話し掛けられている。清潔感のある短髪に垂れ長の目、丸めがねに水玉模様のピンクスーツとかなり目立つ格好だ。

「相沢製薬の相沢富市社長……」
「ご存じでしたか?」

神崎の言葉に青砥が頷く。

「相沢製薬の4代目社長ですよね。2代目、3代目で落ち込んだ業績を立て直したとニュースで特集されていましたから」

「そうでしたか。なかなかの食わせ者ですよ、彼は。でも隠すのが下手だ」

どれ、姫を救出してきますかね、と神崎が席を立つ。青砥と二人きりになったテーブルで樹はようやく息が出来たような気がした。

「俺、そんなに顔に出てました?」
「ん、まぁ、つまらなそうではあった、かな。期待外れだったか?」

青砥にまで言われて、樹は恥ずかしさのあまり両手で顔を覆った。
高級料理はもうたくさんだ……。


 翌朝は綺麗な碧色の空だった。昨夜桂木から送られてきた書類をチェックし、食堂へ向かおうというタイミングでブレスレットが赤く振動した。赤の振動、すなわち仕事の着信だ。

「都内、新緑公園で男性の遺体発見。殺人の線が濃厚とのこと。急行せよ」

「了解、すぐに向かいます」

ロボットの音声に応えると樹は屋上へと向かった。


しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

完結・虐げられオメガ側妃なので敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン溺愛王が甘やかしてくれました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

寡黙な男はモテるのだ!……多分

しょうわな人
ファンタジー
俺の名前は磯貝澄也(いそがいとうや)。年齢は四十五歳で、ある会社で課長職についていた。 俺は子供の頃から人と喋るのが苦手で、大人になってからもそれは変わることが無かった。 そんな俺が何故か課長という役職についているのは、部下になってくれた若者たちがとても優秀だったからだと今でも思っている。 俺の手振り、目線で俺が何をどうすれば良いかと察してくれる優秀な部下たち。俺が居なくなってもきっと会社に多大な貢献をしてくれている事だろう。 そして今の俺は目の前に神と自称する存在と対話している。と言ってももっぱら喋っているのは自称神の方なのだが……

処理中です...