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第二章 N+捜査官
1. 捜査一課
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「樹、そっちから回って!!」
「了解!」
霧島に短く返事をすると手前の葉っぱの前を右折した。霧島の前を走っていた男が葉先に追い詰められる。
「もう逃げられないわよ」
霧島が一歩足を進める。男は飛び移る先を探すように視線をさ迷わせたが、一番飛び移れそうな場所に樹が立っているのを見てその場で膝をついた。
「13時55分、放火罪で現行犯逮捕」
霧島が腰に巻いてあるバッグから手錠を取り出して「セット」と言うと手錠はすんなり男の腕に嵌った。
警視庁N+捜査一課、警視庁の3階に位置する。4か月前、田所と話をするために加賀美に連れて来られたこのフロアが今の樹の職場だ。後ろ手に手錠をかけた男を霧島と樹で挟んで連行していると高身長でガタイの良いヤクザ顔の男が廊下に立っていた。
「おぉ、捕まえたか」
「はい、位置情報を元に捜索して向かったら、丁度犯行を行うところだったので現行犯逮捕しました」
「上出来だな」
樹の報告にニヤっと笑ったこの男、小暮悟は樹たちの捜査一課の課長だ。N+能力は嗅覚にあり、犬並みの嗅覚を持つ。苦手な匂いが漂うと小暮の機嫌が悪くなることからこのフロアで働く者は勤務日には納豆を食べないが暗黙の了解になっているのだ。
樹たちの所属する捜査一課には3つのチームがあり、主に殺人や放火、傷害等生命身体に係る犯罪の捜査を行う。それらのチームを束ねるのが捜査一課長、そして捜査一課から捜査四課まで、全ての捜査課を監督するのが捜査部門の室長である加賀美の仕事だ。
「小暮課長はここで何をしているんですか?」
特に何をするわけでもなく壁に寄り掛かっている小暮に霧島が尋ねた時、小暮の視線が廊下の奥に移動した。奥の部屋、取調室から出てきたのは薬局で樹を人質にとったあのトゲ男だ。その脇には制服姿の警察官とサイバー犯罪課の刑事がついている。
「あの男、青砥が薬局で捕まえた男ですよね? サイバー犯罪課が対応しているんですか?」
「見慣れない武器をネット購入したっていうからな。サイバー犯罪課に協力して貰って出所を洗っているんだ」
続いて部屋から出てきたのは樹のいるAチームの班長、如月竜太郎だ。樹より小さい165センチの身長で34歳には見えない童顔の持ち主。N+能力は眼球にあり、どんなに変装をしても整形をしても如月の目は誤魔化せないという。正に警察官にピッタリの能力だ。如月は警察官にトゲ男を託すと小走りに小暮に駆け寄った。
「どうだった?」
「収穫は無しですね。サイトの管理人から出品者情報を得ることは出来ませんでしたし……。購入時の金銭のやり取りは個人でやることになっているのですが、被疑者は武器を購入はしたが支払いはしていないというのです」
「どういうことだ?」
「購入をしたら翌日に品物が家に届いていたそうです」
「目的は金じゃないってことか。厄介な……」
小暮課長が遠くを見つめてふぅと長い息を吐いた。トゲ男の事件は『新たな武器が開発されて闇で販売されている』として捜査一課、Aチームが中心になって捜査に当たっているが暗礁に乗り上げた感があるのが現状だ。
「何としてでも突き止めますよ。武器を捨てることでこの平和にたどり着いた歴史を思えば、ここで我々が諦めるわけにはいきませんから!」
少年漫画の主人公のように如月が気合の拳を握っていると、室内から山口がぽわんとした顔を覗かせた。
「課長ぅ、事件発生の連絡ですよぅ。有賀町の豪邸で死体ですってぇ」
「ったく……、平和っていっても戦争がないだけで事件は起こるけどな。この事件、担当はAチームな」
「了解! 全員現場に急行!」
如月はピシっとした声を出した後、山口の方を向いてほほ笑んだ。
「山さんは吐いて体内のアルコール濃度を下げてから来て下さいね」
現場は高級住宅街に相応しい広々とした一戸建てだった。庭には12メートルのプールがあり、プールを囲むように鮮やかな花が咲いている。その向こうにはいくつものテーブルが設置されていて華やかな料理が並んでいた。
「お疲れ様です」
現場にいた警察官に如月が声をかけると警察官の視線が腕に移動し、腕の腕章を確認するとビシッと背筋を伸ばした。捜査官は服装が自由の為、捜査活動においては二の腕部分に腕章をすることが決まりになっているのだ。
「お疲れ様です!」
「これは随分と華やかですね。パーティーでもしていたのですか?」
「はい、今日は被害者の誕生日パーティーが行われていたようです。被害者を発見した当時、パーティーに来ていた人たちは全員1階の部屋で待機してもらっています」
「そう。死体はどこに?」
「死体は二階の寝室に。どうやら着替えをしてくると寝室へ向かったらしくて」
「わかった、ありがとう。山さんと霧島は1階でパーティーの参加者から話を聞いて。アオと樹は遺体の確認をしてから従業員への聞き取りへ」
樹たちは頷くとそれぞれの場所へと向かった。
樹たちが寝室に着くとベッドの上に仰向けに倒れた女性の死体があった。口の周りに泡のような物がついており、樹の目からも首に引っ掻いた跡が見えた。きっと苦しくてもがいたに違いない。人が死んでいるという空間の独特の空気、見開いた目が樹を見ているような気がして、樹は思わず口元を押さえた。
「大丈夫か?」
青砥が樹を覗き込む。
「大丈夫……です。こんなところで、吐いたりしませんから……そんなことより、これは事件ってことですよね?」
「いや、そうとは限らないな」
青砥がサイドテーブルに置いてあったグラスを見ると、検視をしていた如月が立ち上がった。
「事件か自殺か、解剖して詳しいことを調べましょう」
「了解!」
霧島に短く返事をすると手前の葉っぱの前を右折した。霧島の前を走っていた男が葉先に追い詰められる。
「もう逃げられないわよ」
霧島が一歩足を進める。男は飛び移る先を探すように視線をさ迷わせたが、一番飛び移れそうな場所に樹が立っているのを見てその場で膝をついた。
「13時55分、放火罪で現行犯逮捕」
霧島が腰に巻いてあるバッグから手錠を取り出して「セット」と言うと手錠はすんなり男の腕に嵌った。
警視庁N+捜査一課、警視庁の3階に位置する。4か月前、田所と話をするために加賀美に連れて来られたこのフロアが今の樹の職場だ。後ろ手に手錠をかけた男を霧島と樹で挟んで連行していると高身長でガタイの良いヤクザ顔の男が廊下に立っていた。
「おぉ、捕まえたか」
「はい、位置情報を元に捜索して向かったら、丁度犯行を行うところだったので現行犯逮捕しました」
「上出来だな」
樹の報告にニヤっと笑ったこの男、小暮悟は樹たちの捜査一課の課長だ。N+能力は嗅覚にあり、犬並みの嗅覚を持つ。苦手な匂いが漂うと小暮の機嫌が悪くなることからこのフロアで働く者は勤務日には納豆を食べないが暗黙の了解になっているのだ。
樹たちの所属する捜査一課には3つのチームがあり、主に殺人や放火、傷害等生命身体に係る犯罪の捜査を行う。それらのチームを束ねるのが捜査一課長、そして捜査一課から捜査四課まで、全ての捜査課を監督するのが捜査部門の室長である加賀美の仕事だ。
「小暮課長はここで何をしているんですか?」
特に何をするわけでもなく壁に寄り掛かっている小暮に霧島が尋ねた時、小暮の視線が廊下の奥に移動した。奥の部屋、取調室から出てきたのは薬局で樹を人質にとったあのトゲ男だ。その脇には制服姿の警察官とサイバー犯罪課の刑事がついている。
「あの男、青砥が薬局で捕まえた男ですよね? サイバー犯罪課が対応しているんですか?」
「見慣れない武器をネット購入したっていうからな。サイバー犯罪課に協力して貰って出所を洗っているんだ」
続いて部屋から出てきたのは樹のいるAチームの班長、如月竜太郎だ。樹より小さい165センチの身長で34歳には見えない童顔の持ち主。N+能力は眼球にあり、どんなに変装をしても整形をしても如月の目は誤魔化せないという。正に警察官にピッタリの能力だ。如月は警察官にトゲ男を託すと小走りに小暮に駆け寄った。
「どうだった?」
「収穫は無しですね。サイトの管理人から出品者情報を得ることは出来ませんでしたし……。購入時の金銭のやり取りは個人でやることになっているのですが、被疑者は武器を購入はしたが支払いはしていないというのです」
「どういうことだ?」
「購入をしたら翌日に品物が家に届いていたそうです」
「目的は金じゃないってことか。厄介な……」
小暮課長が遠くを見つめてふぅと長い息を吐いた。トゲ男の事件は『新たな武器が開発されて闇で販売されている』として捜査一課、Aチームが中心になって捜査に当たっているが暗礁に乗り上げた感があるのが現状だ。
「何としてでも突き止めますよ。武器を捨てることでこの平和にたどり着いた歴史を思えば、ここで我々が諦めるわけにはいきませんから!」
少年漫画の主人公のように如月が気合の拳を握っていると、室内から山口がぽわんとした顔を覗かせた。
「課長ぅ、事件発生の連絡ですよぅ。有賀町の豪邸で死体ですってぇ」
「ったく……、平和っていっても戦争がないだけで事件は起こるけどな。この事件、担当はAチームな」
「了解! 全員現場に急行!」
如月はピシっとした声を出した後、山口の方を向いてほほ笑んだ。
「山さんは吐いて体内のアルコール濃度を下げてから来て下さいね」
現場は高級住宅街に相応しい広々とした一戸建てだった。庭には12メートルのプールがあり、プールを囲むように鮮やかな花が咲いている。その向こうにはいくつものテーブルが設置されていて華やかな料理が並んでいた。
「お疲れ様です」
現場にいた警察官に如月が声をかけると警察官の視線が腕に移動し、腕の腕章を確認するとビシッと背筋を伸ばした。捜査官は服装が自由の為、捜査活動においては二の腕部分に腕章をすることが決まりになっているのだ。
「お疲れ様です!」
「これは随分と華やかですね。パーティーでもしていたのですか?」
「はい、今日は被害者の誕生日パーティーが行われていたようです。被害者を発見した当時、パーティーに来ていた人たちは全員1階の部屋で待機してもらっています」
「そう。死体はどこに?」
「死体は二階の寝室に。どうやら着替えをしてくると寝室へ向かったらしくて」
「わかった、ありがとう。山さんと霧島は1階でパーティーの参加者から話を聞いて。アオと樹は遺体の確認をしてから従業員への聞き取りへ」
樹たちは頷くとそれぞれの場所へと向かった。
樹たちが寝室に着くとベッドの上に仰向けに倒れた女性の死体があった。口の周りに泡のような物がついており、樹の目からも首に引っ掻いた跡が見えた。きっと苦しくてもがいたに違いない。人が死んでいるという空間の独特の空気、見開いた目が樹を見ているような気がして、樹は思わず口元を押さえた。
「大丈夫か?」
青砥が樹を覗き込む。
「大丈夫……です。こんなところで、吐いたりしませんから……そんなことより、これは事件ってことですよね?」
「いや、そうとは限らないな」
青砥がサイドテーブルに置いてあったグラスを見ると、検視をしていた如月が立ち上がった。
「事件か自殺か、解剖して詳しいことを調べましょう」
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