【SF×BL】碧の世界線 

SAI

文字の大きさ
上 下
25 / 129
第二章 N+捜査官

1. 捜査一課 

しおりを挟む
「樹、そっちから回って!!」
「了解!」

霧島に短く返事をすると手前の葉っぱの前を右折した。霧島の前を走っていた男が葉先に追い詰められる。

「もう逃げられないわよ」

霧島が一歩足を進める。男は飛び移る先を探すように視線をさ迷わせたが、一番飛び移れそうな場所に樹が立っているのを見てその場で膝をついた。

「13時55分、放火罪で現行犯逮捕」

霧島が腰に巻いてあるバッグから手錠を取り出して「セット」と言うと手錠はすんなり男の腕に嵌った。

 警視庁N+捜査一課、警視庁の3階に位置する。4か月前、田所と話をするために加賀美に連れて来られたこのフロアが今の樹の職場だ。後ろ手に手錠をかけた男を霧島と樹で挟んで連行していると高身長でガタイの良いヤクザ顔の男が廊下に立っていた。

「おぉ、捕まえたか」

「はい、位置情報を元に捜索して向かったら、丁度犯行を行うところだったので現行犯逮捕しました」

「上出来だな」

樹の報告にニヤっと笑ったこの男、小暮悟は樹たちの捜査一課の課長だ。N+能力は嗅覚にあり、犬並みの嗅覚を持つ。苦手な匂いが漂うと小暮の機嫌が悪くなることからこのフロアで働く者は勤務日には納豆を食べないが暗黙の了解になっているのだ。

 樹たちの所属する捜査一課には3つのチームがあり、主に殺人や放火、傷害等生命身体に係る犯罪の捜査を行う。それらのチームを束ねるのが捜査一課長、そして捜査一課から捜査四課まで、全ての捜査課を監督するのが捜査部門の室長である加賀美の仕事だ。

「小暮課長はここで何をしているんですか?」

特に何をするわけでもなく壁に寄り掛かっている小暮に霧島が尋ねた時、小暮の視線が廊下の奥に移動した。奥の部屋、取調室から出てきたのは薬局で樹を人質にとったあのトゲ男だ。その脇には制服姿の警察官とサイバー犯罪課の刑事がついている。

「あの男、青砥が薬局で捕まえた男ですよね? サイバー犯罪課が対応しているんですか?」

「見慣れない武器をネット購入したっていうからな。サイバー犯罪課に協力して貰って出所を洗っているんだ」

続いて部屋から出てきたのは樹のいるAチームの班長、如月竜太郎だ。樹より小さい165センチの身長で34歳には見えない童顔の持ち主。N+能力は眼球にあり、どんなに変装をしても整形をしても如月の目は誤魔化せないという。正に警察官にピッタリの能力だ。如月は警察官にトゲ男を託すと小走りに小暮に駆け寄った。

「どうだった?」

「収穫は無しですね。サイトの管理人から出品者情報を得ることは出来ませんでしたし……。購入時の金銭のやり取りは個人でやることになっているのですが、被疑者は武器を購入はしたが支払いはしていないというのです」

「どういうことだ?」

「購入をしたら翌日に品物が家に届いていたそうです」

「目的は金じゃないってことか。厄介な……」

小暮課長が遠くを見つめてふぅと長い息を吐いた。トゲ男の事件は『新たな武器が開発されて闇で販売されている』として捜査一課、Aチームが中心になって捜査に当たっているが暗礁に乗り上げた感があるのが現状だ。

「何としてでも突き止めますよ。武器を捨てることでこの平和にたどり着いた歴史を思えば、ここで我々が諦めるわけにはいきませんから!」

少年漫画の主人公のように如月が気合の拳を握っていると、室内から山口がぽわんとした顔を覗かせた。

「課長ぅ、事件発生の連絡ですよぅ。有賀町の豪邸で死体ですってぇ」

「ったく……、平和っていっても戦争がないだけで事件は起こるけどな。この事件、担当はAチームな」

「了解! 全員現場に急行!」

如月はピシっとした声を出した後、山口の方を向いてほほ笑んだ。

「山さんは吐いて体内のアルコール濃度を下げてから来て下さいね」


 現場は高級住宅街に相応しい広々とした一戸建てだった。庭には12メートルのプールがあり、プールを囲むように鮮やかな花が咲いている。その向こうにはいくつものテーブルが設置されていて華やかな料理が並んでいた。

「お疲れ様です」

現場にいた警察官に如月が声をかけると警察官の視線が腕に移動し、腕の腕章を確認するとビシッと背筋を伸ばした。捜査官は服装が自由の為、捜査活動においては二の腕部分に腕章をすることが決まりになっているのだ。

「お疲れ様です!」

「これは随分と華やかですね。パーティーでもしていたのですか?」

「はい、今日は被害者の誕生日パーティーが行われていたようです。被害者を発見した当時、パーティーに来ていた人たちは全員1階の部屋で待機してもらっています」

「そう。死体はどこに?」

「死体は二階の寝室に。どうやら着替えをしてくると寝室へ向かったらしくて」

「わかった、ありがとう。山さんと霧島は1階でパーティーの参加者から話を聞いて。アオと樹は遺体の確認をしてから従業員への聞き取りへ」

樹たちは頷くとそれぞれの場所へと向かった。

 樹たちが寝室に着くとベッドの上に仰向けに倒れた女性の死体があった。口の周りに泡のような物がついており、樹の目からも首に引っ掻いた跡が見えた。きっと苦しくてもがいたに違いない。人が死んでいるという空間の独特の空気、見開いた目が樹を見ているような気がして、樹は思わず口元を押さえた。

「大丈夫か?」

青砥が樹を覗き込む。

「大丈夫……です。こんなところで、吐いたりしませんから……そんなことより、これは事件ってことですよね?」

「いや、そうとは限らないな」

青砥がサイドテーブルに置いてあったグラスを見ると、検視をしていた如月が立ち上がった。

「事件か自殺か、解剖して詳しいことを調べましょう」

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

完結・虐げられオメガ側妃なので敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン溺愛王が甘やかしてくれました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

処理中です...