【SF×BL】碧の世界線 

SAI

文字の大きさ
上 下
20 / 129
第一章 もう一つの世界

18. 青砥の計画

しおりを挟む
「そうよねぇ、ストーカーなら嫉妬して何か仕掛けてきてもおかしくないのに」

山口が相槌を打つ。安藤の視線がチラッと動いてブレスレットを見た。そしてゆっくりと口を開いた。

「……実は、さっきは言わなかったんですけど3日前に家に手紙が届いていたんです」

樹が調べたところによると、この世界では手紙を送るという事がまず無い。公的文書でさえもブレスレットにメッセージを送るというのが主流で、紙自体が1枚数千円以上するという。

「手紙は珍しいな。なんて書いてあったんだ?」

「君は僕のものってだけ……黙っていてごめんなさい。怖くって、わたし……」

安藤は目に涙を浮かべると膝の上でギュッと握りこぶしを作った。

「そうよね、怖いよね」霧島は安藤の気持ちに寄り添った後、「その手紙は今どこにあるの?」と尋ねた。

「気持ち悪くて捨てちゃいました」

「3日前か……3日前じゃ現物を追うのは難しそうだな」

一瞬目を細めた青砥の表情に気付いてか安藤がすぐに声を上げた。

「でもっ、画像は残してあります。ここにはないけど家に」

 安藤が持っている手紙の画像を霧島たちにも送るという約束をしてお店の前で解散したのが21時40分。やっと寮に帰ることが出来るとホッと息をついたもつかの間、ムカデ乗り場まで歩こうとすると霧島に腕をつかまれた。

「私たちはこっち」

訳も分からないまま樹が連れて来られたのはムカデ乗り場とは反対方向にある木を模した建物だ。看板には駐車場と書いてある。7階の奥、ワインレッド色の車の前で立ち止まると霧島が「乗って」と車を指した。

「お酒飲んでましたけど、大丈夫なんですか?」

樹の言葉に霧島はくぅーっと悔しそうな声を上げ、山口が助手席に乗り込みながら言った。

「私たち、飲み物は全部ノンアルコールだったの。あの場でお酒を飲んでいたのは安藤さんだけよぅ」

「えっ、そうだったんですか?」

「山さんは別に飲まなくでもいいじゃん。私がお酒をどれほど我慢したことかっ。くぅぅぅう」

まだ状況を飲み込めていない樹を乗せて、滑る様に車が移動を始めた。木の皮のような駐車場の壁に沿って走り、虫食いのような穴の前で霧島がスイッチを押す。すると羽ばたくような音と共に車が駐車場を飛び出した。

「これから安藤ちゃんの家に向かうよ」
「……どういうことかちゃんと説明して下さい」


 その頃、青砥と安藤は安藤の家の中にいた。いつもであれば、青砥が先に家の中に入って室内を確認し、何も異常がないことが分ると安藤の家を出て帰宅する。でも今日、青砥は安藤の家に上がり込んでいた。玄関を入ってすぐにある姿見の角度を少し直してから安藤がキッチンに向かう。

「画像探すから、コーヒー飲んで待っててくれる?」
「あぁ、ありがとう」

コーヒーを受け取るとテーブルの上に置いて、お洒落なワンアームソファに座った。安藤の部屋は雑誌から切り取ったかのような大人の女性的な部屋だ。

楕円形の丸テーブル、部屋の隅には観葉植物が置いてあり、白い壁には世界の絶景がプロジェクターによって表示されていた。全て計算されて配置されたような空間は几帳面な安藤らしい。

「どこに置いたんだったかな。あんまり目に付くところには置いておきたくなくて」安藤は引き出しの中を漁りながら「ごめんね、私個人のことなのにN+捜査官の皆さんの力まで借りちゃって」と謝った。

サイドボードの上に置いてある小さなリリーと目を合わせながら青砥は昔を思い出していた。

 安藤と青砥が話すようになったのは高校2年生の頃だ。
当時の青砥は将来の進路に悩んでおり、何かヒントはないかと頻繁に図書館に通っていた。図書館は受付をすれば誰でも侵入できるバーチャル空間にあり、内部にある本の量は膨大だ。

図書委員の安藤はそのバーチャル空間の案内人だったのだ。専門的な本でも、安藤に聞けば何がどこにあるのかを正確に教えてくれる。在学中には何度お世話になったことか。

いつも下を向いて前髪の隙間からじっと見上げてくるクラスの中でも地味な女の子、当時の安藤を説明するとしたらきっと同級生のほとんどはそう言うだろう。だが青砥にとって安藤は頼りになる知識の案内人だった。

 青砥のブレスレットが22時12分を指していた。青砥に残された今日という時間は残り少ない。顔を上げると青砥は安藤の横顔を見つめた。

「もう探さなくてもいいよ。ストーカーって嘘なんだろ?」

安藤は一度手を止めたが、青砥の方を振り返ることもせずにまた手を動かし始めた。

「やだぁ、何言ってるの? そんなわけないじゃない」

「一日に一度ある着信、どこからかかっているのか調べたんだ」

それは青砥の嘘だった。
文明が進んだと同時に政府は沢山の個人情報を持つようになった。誰が今どこにいるのかでさえ政府の回線を使えば容易に特定できる。特定される側が一般人なら、ではあるが。

だが、それを開示してもらうためには警察官としての手続きを踏まねばならず、今回のような個人的な事案に利用することは出来ない。それでも、一瞬表情を硬直させた安藤を見ることが出来れば、それだけで結果は出たも同然だ。

「どうしてこんな嘘を?」
「どうしてって……そんな」

「話したくないならそれでもいい。でももう、こんなことはやめた方が良い。こんなことしても虚しくなるだけだろ?」

「虚しくなるだけですって!? 私のどこが虚しいっていうのよ!!」

声を荒げた安藤を見て、青砥は思わず自分の唇に触れた。不味い言い方をしたのだと自覚した瞬間だった。


しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

叛逆王子は二度目は堅実に生きたい

黒月禊
BL
≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫ 激しく燃え上がる炎が二人を包んでいる 血と煤が互いの惨状と激しさがわかる 視線が交差し最後の瞬間が訪れた 胸に刺さった剣と口から溢れてた夥しい血が 勝敗の結果を表している あぁ、ここまで来たのに死んでしまうのか 自分なりに努力をしてきた 間違いを犯し気づいた時には遅かった だから過去は変えられなくても目的のため それだけの為に生きてきた 視界が霞む中暖かいものが頬に触れた 自分を倒した黒騎士は安堵するわけでもなく 喜ぶでもなくその顔はひどく悲しげで刺された自分より 痛々しかった 思わずその顔に手を添え彼の涙を拭った そこで俺は暗闇にのまれていった 俺の記憶はそこまでだ なぜか気づいたら目の前に 幼い黒騎士に押し倒されていた!? ≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫ ◆そんな感じで始まります。 ゆるく書いてくのでお手柔らかに 宿敵の英雄黒騎士と二度目の人生は平和に堅実に生きたい第二王子の攻防恋愛です ※ファンタジーとBLとシリアスとギャグが等分されております 誤字脱字多いです サイレント修正するのでごめんなさい

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

完結・虐げられオメガ側妃なので敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン溺愛王が甘やかしてくれました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

スイート・スパイシースイート

鈴紐屋 小説:恋川春撒 絵・漫画:せつ
BL
佐藤裕一郎は経営してるカレー屋から自宅への帰り道、店の近くの薬品ラボに勤める研究オタクの竹川琢を不良から助ける。そしたら何か懐かれちまって…? ※大丈夫っ(笑)この小説はBLです。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

処理中です...