【SF×BL】碧の世界線 

SAI

文字の大きさ
上 下
9 / 129
第一章 もう一つの世界

7. 青砥の能力

しおりを挟む
「で、あのペラペラの紙切れ1枚で一体何をするつもりだったんだ?」

 帰りのムカデの中、青砥は真顔でこんなことを聞いてくるものだから樹はムッと口を尖らせていた。

ペラペラの紙とは棘男が樹たちに突っ込んでくる最中、半分パニックになりながら樹が掴んだ物のことである。

コイツ、絶対に面白がってる。

真顔だけど心の中では笑っているはずだ。樹はさらにもう1ミリ、口先を尖らせた。

「俺が犯人から爆弾のスイッチを奪った時、樹は犯人を蹴り上げようとしていただろ。あれは良くないな。万が一上手く蹴られて、犯人がスイッチを手放したとしてもあの態勢で蹴り上げたら樹は先ずバランスを崩すから、スイッチを犯人に奪われる危険性がある。奪われるならまだしも、蹴って落ちた衝撃で爆弾のスイッチが入らないとも限らない」

考えてみれば確かにその通りだ。その通り過ぎてぐぅの根も出ない。それでも樹は今まで出会ったこともない非常事態の最中、皆を救おうと頑張ったのだ。

危険行為だったかもしれないが誰一人怪我人を出すこともなく事件は終息した。

ちょっとくらい労わりの言葉をくれたっていいじゃないか。それにそんなことを言うのなら……。

樹は力の入った目で青砥を見つめた。

「青砥さんこそ、その爆弾は本物か、なんて犯人を刺激するようなことを言ってたじゃないですか。犯人が興奮して棘が出たら俺、多分死んでますけど」

樹はずっと引っ掛かっていたのだ。あの瞬間、青砥は樹の命よりもその他大勢の命を優先したのではないか。まるでお前なんかどうなってもいいと切り捨てられたような気がしていた。

「青砥さん、じゃなくてアオさん、な」と言い直した後、青砥はひと呼吸おいてから話しを続けた。

「死なないよ。あんなふうに体全体を覆うような能力は一度発動したら連続は使えないんだ。最低5分はインターバルが必要になる。体全身を覆うようなN+は一度発動すれば5分は再発しないという研究結果があるんだよ。俺が言葉を発したのは犯人が棘を引っ込めてから約2分後だ。だから少なくともあと3分は大丈夫だった」

「なんだ、そういうことか……」

樹は安心したような声色になり、無意識に口元をほころばせた。切り捨てようとしたわけじゃないという事実が先程まで抱いていたイライラも溶かしていく。

ホッとして緊張状態が抜ければ空腹が訪れ、樹のお腹がぐううううと大きな音を立てて鳴いた。

「14時半か……。昼飯、食べ損ねたな。本当ならどっか寄って昼飯をおごってやれればいいんだけど、悪い……、なんか、もう、限界……で」

青砥はなんとか目を開けていようと頭を振ったりしていたが、すでに目が半分しか開いていない。そのうちガクっと体が傾いて樹に寄り掛かった。

「あ……と、たの、む」

辛うじて青砥の唇がそう紡ぎ、こと切れた。ムカデの横並びシートに座り、青砥の頭は樹の肩にある。

さっきまで嫌味を言ったりダメ出しをしていたよな、その相手に体預けてぐっすり寝るか!? 樹は今の状況を飲み込めないまま呆れた。

呆れたが肩にある温もりが思いのほか温かくて、樹は視線を落としたまま身動き一つしなかった。

……重てぇ。

ムカデがお日さま寮に着くころ、樹は何度も青砥を起こしたが全く起きる気配はない。到着しても青砥は起きず、他のお客さんの視線も気になって何とか青砥を担いでムカデを降りた。

「ったく、どんだけぐっすりなんだよ……」
「げ、アオ、寝てるじゃんっ」

樹の呟きに被さって女性の声がした。樹が顔を上げると前には黒髪ロングの仕事の出来そうな女性がモデルのように立っている。

「コイツ、薬飲んでた?」
「飲んでないと思いますけど」

「マジかよ。あー、運転手さん、行って下さい。次の便にするんで」

ムカデが去ると、女性は青砥の鞄の中を漁り始めた。

「アオここに下ろしていいよ。 君がこの寮の新入り?」

「はい。藤丘樹といいます」
「ふーん、若いね。いくつ?」
「19歳です」

「19かー。若いなー、いやー、イケメンで若いっていいよ。儲かりそう。私、霧島茜。これからぜひ仲良くしてくれ。お、あった」

儲かりそう!? 
なんか変なワードを聞いたような気がする。

樹が不安を抱いたのは一瞬で、霧島は鞄から薬を取り出すと青砥の口をこじ開けて強引に錠剤を投入した。

「大丈夫なんですか? 起こしもせずに飲ませて」

「平気、平気。どうせ起こしたって起きないから」

口の中にちゃんと錠剤が入ったことを確認すると次に霧島は水風船のような物を取り出して上部に付いていたキャップを緩めると液体を青砥の口の中に流した。

「んっ、ごほっ、ゴ」

微妙な音を立てて青砥が水を飲み込む。その様子はまるで水責めをしているかのようで樹は顔を強張らせた。

この人……大丈夫かよ。

「じゃ、後はよろしく」
「よろしくってどうしろと」

「えー、部屋にでも運んでおいてよ。あと1時間は何したって起きないと思うから」

「……こんなに起きなくてこの人、大丈夫なんですか?」

樹が心配そうな声色を出したことで霧島の動きが止まった。

「そうか、君はまだ知らないのか。アオのコレ、N+の副反応みたいなやつで病気とはちょっと違うから大丈夫」

「青砥さんのN+って何なんですか?」

「あー、まぁ、いいか。隠してもないし。アオのN+は脳全体だよ。人より脳の稼働率が高い。たとえばだけど脳を体の筋肉に置き換えてみてよ。普通の人はその行動に適した筋肉を使って他の部分は休んでいるよね?」

「はぁ」
「右手でカップをとれば左手は動かす必要もない」

「そうですね」
「アオの場合はそういう時でもほとんど全部の筋肉が動いている」

「は?」

「つまり、脳の殆どの部分が動きっぱなしなのさ。だからアオは次の行動を予測したり、我々には気が付かない小さな部分にも気が付いたりする。でもそれは同時にすごく疲れる。その疲れを放置すればアオの健康寿命を縮めることになりかねないから、アオにはこうして脳をシャットダウンさせる必要があるんだ」

「そうなんですね。病気とかじゃないんだ」
「安心したか?」
「いや、心配はしてないです」

「くくく、はっきり言うなぁ。じゃ、あとは頼んだよ」

あぁ、でも片手じゃ大変かという霧島の呟きを聞いて樹は少しホッとした。樹より大きい青砥をムカデから降ろすだけでも大変だったのだ。部屋までなど運べる気がしない。

「背負うところまでは手伝ってあげるよ」
「え、運ぶまで手伝ってくれないんですか?」

「うん、だって重いの嫌いだし、もうすぐ次のムカデも来るからな」

よろしくねー、と笑顔で手を振られて樹はそれ以上何も言うことが出来なかった。

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

完結・虐げられオメガ側妃なので敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン溺愛王が甘やかしてくれました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

僕の部下がかわいくて仕方ない

まつも☆きらら
BL
ある日悠太は上司のPCに自分の画像が大量に保存されているのを見つける。上司の田代は悪びれることなく悠太のことが好きだと告白。突然のことに戸惑う悠太だったが、田代以外にも悠太に想いを寄せる男たちが現れ始め、さらに悠太を戸惑わせることに。悠太が選ぶのは果たして誰なのか?

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

処理中です...