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第3章 研究所の陰謀

第27話 バーガー・ロシアンルーレット

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 マティアスとハンニバルが武器を構えると、ムフタール兄弟は2人を恐れることもなく、武器を興味津々に見つめていた。

「凄い武器を持ってんだな! お前ら改造人間だろ? 実は俺達兄弟も同じ改造人間なんだぜ!」

 ムフタール兄弟もアサルトライフルを構え、2人の目の前で素早く動き回ってみせた。身体能力が向上した改造人間だけあって脅威のスピードだ。
 2人はそれぞれガトリング砲と炎のレーザーで薙ぎ払うように攻撃するが、ムフタール兄弟はそれを軽々と回避し続ける。

「ちょこまか動きやがって! 正面から戦えばこんな奴ら楽勝なのによ!」
「どうにかして奴らの動きを止めなければな」

 しばらくその状況が続いた後、ムフタール兄弟が手持ちのアサルトライフルで2人目掛けて連射する。
 案の定、改造人間となったマティアスとハンニバルにはアサルトライフルごときでは傷一つ付かなかった。
 しかし、このままではお互いにダメージを与えられずに時間が過ぎていくだけだ。

「あいつら硬すぎるぜ! こんなポンコツ武器じゃいつまで経っても勝てねぇな!」
「兄貴、ここは一旦攻撃を中断して平和的に解決しようぜ。……ほら、お前らも武器を下ろせ! 戦いは止めてこれから楽しいゲームを始めようぜ!」

 ムフタール兄弟は武器をしまい、2人にも武器を下ろすように要求した。
 2人もこれ以上撃っても弾と時間を消耗するだけだと判断したのか、攻撃の手を止める。

「ゲームだと? 貴様ら、何を企んでいる?」

 マティアスは相手を警戒しながら訊ねた。敵が不意打ちを仕掛けて来てもいつでも反撃出来るように。

「これからお前らには俺達とそれぞれ1対1でゲームで勝負をしてもらう。長い金髪の男は俺に、茶髪のデカい男は弟のファルクについてこい」
「俺達に勝てたらこのハンバーガー工場から身を引いてやるぜ。あと、隙を見て俺達に攻撃しようとしても無駄だからな。お前らのトロい攻撃なぞ簡単に避けられるからよ」

 ムフタール兄弟から突然のゲームの提案が来た。チーム戦では無く個人戦での勝負のようだ。
 マティアスはハサンに、ハンニバルはファルクについて行き、それぞれ別の部屋に案内された。


 マティアスはハサンに連れられて部屋に入ると、そこには中華料理でよく見かける回転式のターンテーブルと席、そしてテーブルの上には6つのハンバーガーが置かれていた。
 アメリカンとしての本能なのか、マティアスは思わずハンバーガーに食欲をそそられる。

「ルールを説明するぜ。2人で交互にテーブルを回し、目の前に止まったハンバーガーを残さず食べるんだ。ただし、この中には1つだけ毒入りハンバーガーが混ざっているぜ。名付けて『バーガー・ロシアンルーレット』だ! 面白そうだろ?」

 ハサンは今回のゲームの説明をした。どちらかが毒入りハンバーガーを引き当てるまでハンバーガーを食べ続けるそうだ。
 今回の勝敗は運任せなので、今までのように力で押し切ることは出来ない。マティアスはそれを承知の上でゲーム開始に承諾した。

「じゃあ、まずはお前からテーブルを回してくれ」

 ハサンの呼びかけでマティアスはテーブルを回した。目の前に止まったのは、トマト、スライスオニオン、レタス、ドレッシングが詰まったベジタブルバーガーだ。
 野菜好きのマティアスにとっては嬉しいものだった。しかし、そのハンバーガーに毒が入っている可能性を考えると、食べることに慎重にならざるを得なかった。
 マティアスは恐る恐るベジタブルバーガーを口にする。このハンバーガーには毒は入っていなかったようだ。
 マティアスはベジタブルバーガーを食べ終わるとほっとした表情を見せた。

「どうだ、美味かっただろ? 生きる喜びを噛み締められて最高だろぉ~?」

 ハサンは煽るような笑顔と口調で言った。今度はハサンがテーブルを回し始める。
 ハサンがテーブルの端を指で突いた後、とても美味しそうな香りがするチキンバーガーがハサンの目の前にピタリと止まった。

「ヒャッホー! 俺の大好きなスパイシーチキンバーガーだぜ! これはうめぇ!」

 ハサンは毒を恐れることも無く笑顔でスパイシーチキンバーガーを平らげた。
 そんなハサンの様子を見てマティアスは不審に思う。

(……おかしいな。下手したら自分が死ぬかも知れないというのに、奴は緊張感のかけらも無いのか。まさか、何か細工でも仕掛けているのか……?)

 マティアスはハサンがテーブルを回した後にテーブルの端を指で突いていたことを思い出す。
 そしてハサンが指で突いた直後、彼の大好物が都合よくピタリと止まったことも不自然に感じていた。
 実はハサンの席のテーブルの端に小型のスイッチが設置されており、このスイッチによってハサンの思い通りにテーブルの回転を止められるようになっているのだ。

(クックック……毒が入ってるのはベーコンチーズバーガーだ! 次、こいつの目の前に止まるようにセットしてやるぜ!)

 ハサンはスイッチの上に指を置きながら笑みを浮かべている。
 マティアスはテーブルを回そうとした直前、立ち上がって瞬時に左手でハサンの片腕を掴んで持ち上げた。
 その後、ハサンを持ち上げた状態でもう片方の手でテーブルを回し始める。

「おい、何をするんだ! 暴力はルール違反だぞ!」

 ハサンは片腕を上に引っ張られた状態で暴れている。これでハサンは不正をすることが出来ない。
 マティアスの目の前には肉厚ビーフバーガーが止まり、彼はハサンを左手で持ち上げたまま右手で肉厚ビーフバーガーを美味しそうに平らげた。

「さぁ、私はもう食べたぞ。次は貴様の番だ」

 マティアスはハサンの手がスイッチに届かない位置に移動し、ハサンにテーブルを回させた。
 テーブルは勢いよく回り、その後ゆっくりスピードを落としていく。
 ハサンの目の前に止まったのは……毒入りベーコンチーズバーガーだった。

(毒入りベーコンチーズバーガーが俺の前に止まっただと!?) 

 ハサンの動揺した表情を見て、マティアスはベーコンチーズバーガーに毒が入っているのだと確信した。
 
「どうした? 目の前に止まったハンバーガーを残さず食べるのがルールじゃないのか? 早く食え」
「……実は俺達はムスリムなんだ。ムスリムは豚肉を食べちゃいけないってルールがある! だからベーコンなんか食べないの!!」

 ムフタール兄弟はムスリムだ。ムスリムにとって豚肉食は宗教的に禁じられているものだ。
 しかし、これはハサンが今回のゲームにベーコンチーズバーガーを採用してしまったのが運の尽き、紛れもなく自業自得である。

「ルールはルールだ。さぁ、ベーコンの旨味をゆっくり味わえ。そして、ハンバーガー工場を乗っ取ったことを死んで詫びろ!」

 マティアスは毒入りベーコンチーズバーガーをハサンの口に無理やり突っ込む。
 ハサンはベーコンチーズバーガーを吐き出そうと必死だったが、マティアスはハサンの口を押えて吐き出させないようにした。

(クソがっ! ムスリムに無理やり豚肉を食わせるなんて、やっぱりアメリカンはロクでなしだぜ! う、うもう……)

 その状況がしばらく続いた後、ついにハサンは毒入りベーコンチーズバーガーを飲み込んでしまう。
 毒は即効性があり、ハサンは全身が痺れてそのまま動かなくなってしまった。
 宗教的に禁じられている豚肉を、自分でゲームに採用して無理やり食べさせられるという屈辱を味わったまま、彼は絶命したのだ。
 マティアスはハサンとのゲームに勝ったが、実は今のマティアスにはハンニバルと同じく、毒への耐性がついている。
 つまり、ロシアンルーレットに慎重になる必要なんて全く無かったのだ。
 マティアスは部屋を出て、先ほどムフタール兄弟と戦った場所でハンニバルを待つことにした。
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