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第2章 軍の任務

第11話 機械仕掛けの番人

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 マティアスは乗り物に乗り込んだ。操縦席にはハンドルとアクセルとブレーキ、そして複数のボタンが設置されている。
 マティアスが試しに一つめのボタンを押してみると、乗り物は急発進し壁を突き破った。
 このボタンはダッシュボタンだったようだ。戦車とは思えない速さに2人は驚く。

「おい、俺を置いていくなよ!」

 ハンニバルは急いでマティアスを追いかける。
 マティアスも慌ててすぐにブレーキを踏み、乗り物を停止させたが、時既に遅く、向こうにいる敵兵達に気付かれてしまった。
 敵兵達は2人を見て激怒している。

「この泥棒どもめ! それは俺たちの乗り物だぞ! とっとと返しやがれ!」

 敵兵達が怒りながら向かってきた。これは乗り物の操縦を試す絶好のチャンスだ。
 マティアスは今度は2つ目のボタンを押してみる。すると乗り物の前方に設置されているガトリング砲から弾丸が発射された。
 マティアスはハンドルで向きを変えつつ、敵兵を次々と撃ち抜いていく。初めての操縦でありながら、その腕はなかなかのものだ。
 次に3つ目のボタンを押すと、ガトリング砲は停止し、今度はガトリング砲の隣に設置されている火炎放射器から炎が噴き出した。
 マティアスは先日戦った放火犯ビリーになりきった気分で敵兵達を"消毒"していく。
 辺りは阿鼻叫喚、思わずビリーと同じ台詞を叫びたくなる気分だ。
 ハンニバルは楽しそうに乗り物を操縦するマティアスを羨ましそうに眺めている。

(なんかすげー面白そうだなぁ……。だがマティアスは戦闘機を運転するのが初めてだから、ここは先輩として譲ってやるぜ)

 ただ、この乗り物には弱点があった。方向展開が遅く、小回りが利かないことだ。
 敵兵達もそれを把握しているのか、乗り物の側面に回り込み、挟み撃ちをしてきた。
 マティアスが操縦席から機関銃で対抗しようとしたその時、ハンニバルが側面に回って来た敵を砲撃で一掃する。

「横の敵は俺に任せろ! そのままダッシュして暴れ回ってやろうぜ!」

 ハンニバルは乗り物に飛び乗り、操縦席の後ろに立ちながらバズーカを構えた。

「そっちの敵は任せた。このマシンはスピードが出るから振り落されるなよ」

 マティアスはダッシュボタンを押して乗り物を突進させ、前方の敵を次々とふっ飛ばしていく。
 乗り物の側面や背後からはハンニバルが砲撃を放つ。
 素早く走り回りながら攻撃する2人に、敵兵達は手も足も出ない状態だった。乗り物で暴走する2人の様子はまるで無法者のようだ。
 しかし、敵をほぼ一掃したと思ったその時、遠くからレーザー光線が乗り物目掛けて発射されてきた。

「危ない! ここから降りるぞ!」

 2人はすぐに乗り物から飛び降りて回避したが、レーザーが直撃した乗り物は電流が流れた後に爆発してしまった。
 
「あーあ……せっかく楽しく暴れ回っていたのによ。もったいねぇことしてくれたな」
「ハンニバル、なんだかヤバそうな奴がやって来たぞ」

 レーザーが放たれた向こうから、両腕と上半身をサイボーグ化した大柄な男が現れた。両腕は巨大で長く、伸縮する構造になっている。

「てめぇら、なかなかやるじゃねえか。俺様は戦いの為に生身の肉体の大半を捨てた男、ヴォルフガング様だ! そうやすやすとここを通れると思うなよ!」

 ヴォルフガングと名乗る男が立っている場所の向こうには地下室へ続く階段があるのが見える。
 もしそこが敵のアジトなら、ヴォルフガングがこの場所を死守するのも納得だ。

「良いことを聞いた。ならば貴様を倒して向こうの拠点も制圧するまでだ」
「お前らはそんなチンケな姿になってまで戦争したいのか? なら望み通りスクラップにしてやるぜ!」
「チンケな姿だとぉ!? 俺様のボディを馬鹿にしやがって! これでも食らえ!」

 ハンニバルの言葉に腹を立てたヴォルフガングが両手のアームを開き、無数の弾丸を発射する。
 通常の弾丸とは違って感電効果があり、マティアスとハンニバルは被弾すると痺れが生じた。
 普通の人間ならかすっただけでもしばらく動けなくなっていたところだが、2人は鍛え抜かれた肉体のおかげですぐに痺れを克服出来た。

「なんだと!? あの弾を食らっても少し怯んだだけとは、伊達にビリーに勝ったわけじゃねぇみたいだな」
「何だ今のは? 静電気かと思ったぜ。そんなショボい攻撃じゃ俺に傷一つ負わせることすら出来ねぇぜ?」

 ハンニバルが挑発すると、ヴォルフガングは上半身から銃口を現し、レーザーを放った。レーザーは長射程で周りの障害物を貫通し破壊していく。
 これはさすがに直撃したら危険だと思ったのか、マティアスはもちろん、ハンニバルも回避行動に入った。

「危ねぇ! さすが戦闘用に強化されたサイボーグってところだな。普通の武器ではあり得ないことをやってきやがる」

 ハンニバルも恐れるほどの威力を持つレーザーだが、レーザー発射中のヴォルフガングはその場から動けない無防備の状態だ。
 その瞬間をマティアスは見逃さず、ヴォルフガングの側面に回った。
 レーザーが発射されているヴォルフガングの上半身の銃口に向けて手榴弾を投げた後、銃で追撃する。
 ヴォルフガングの上半身の銃口が破壊され、これでレーザーを封じることが出来た。
 しかし、その直後ヴォルフガングがマティアスに向かって素早く突進し、腕を伸ばして力強くアッパーを繰り出してきた。
 マティアスはこの距離では回避出来ないと判断し、即座にガード体勢に入るが、攻撃をガードした瞬間に敵の腕から流れる電流で体が痺れてしまう。
 更にヴォルフガングのもう片方の腕から繰り出されるアッパーをまともに食らい、マティアスは宙にふっ飛ばされてしまった。
 宙を舞うマティアスをヴォルフガングはアームから繰り出される弾丸で追撃、その後落下してきたマティアスをアームで掴み、電流を流しながら締め付ける。

「ぐあああああ!!」
「生身の人間の分際で、よくも俺様のボディに傷をつけてくれたなぁ!?」

 抵抗する力も残っておらず悲鳴を上げるマティアスを、ヴォルフガングは徐々に締め付ける力を強め、いたぶり始めた。

「てめぇ、俺の相棒に何しやがる! 待ってろ、マティアス! 今助けてやるからな!」

 ハンニバルは慌ててマティアスの元に駆け寄り、マティアスを締め付けているヴォルフガングの腕を両手で掴んだ。

「邪魔をするな!」

 ヴォルフガングはもう片方の電流を帯びた腕でハンニバルを何度も殴りつける。
 それでもハンニバルは怯まず、マティアスを解放しようと精一杯腕に力を入れた。
 どんなに殴られても屈しないハンニバルにヴォルフガングは戸惑いを見せる。

「くそっ! 何でてめぇはこれだけ殴ってもビクともしねぇんだ!? てめぇ本当に人間なのか!?」
「悪いが俺も改造人間なんでな。てめぇらと違ってサイボーグでは無い、遺伝子操作や薬物投与で肉体強化された方だがな。それから俺は、単純な力勝負では誰にも負けたことが無ぇんだよ!」

 ハンニバルは渾身の力でヴォルフガングの腕を引きちぎった。
 サイボーグのヴォルフガングには痛覚が無いのか、痛みよりも自分の腕を破壊されたショックで悲鳴を上げている。
 引きちぎられた腕からは電流が消え、拘束されていたマティアスも解放された。
 
「助かったよ、ハンニバル。やはりお前は"最高傑作の人間兵器"だな」
「俺にかかればこんな鉄屑は敵ではないぜ!」

 上半身の武器と片腕を破壊されたヴォルフガングに残された攻撃手段は、片腕のアームからの銃撃と物理攻撃しか残っていなかった。
 ヴォルフガングは残された片腕でマティアスにアッパーを仕掛けるが、ハンニバルがそれを受け止める。そしてもう一つの腕もあっさり引きちぎられてしまった。

「あぁ~~!! 俺の自慢のボディパーツが全部無くなっちまったぁぁぁぁ!!」
「マティアス、こいつは俺が押さえつけておくから、やられた分を返してやろうぜ!」

 もはや攻撃手段が無くなり無抵抗になったヴォルフガング。
 ハンニバルがヴォルフガングを仰向けに押し倒すと、マティアスはヴォルフガングの口の中に爆弾を突っ込む。
 ヴォルフガングは喋ることも出来ずに恐怖に怯えていた。

「いくらサイボーグの貴様でも頭部は生身だよな? ハンニバル、今から火をつけるからここから引き下がってくれ」

 マティアスが爆弾に火をつけると、2人はすぐにその場から離れる。
 数秒後、ヴォルフガングは立ち上がることすら出来ないまま頭部から爆発し、木っ端微塵になった。
 辺りには機械の残骸が飛び散っており、血はほとんど流れていなかった。まるで完全に機械だったかのように。

「これで敵の拠点への道が開いたな。だが私はさっきの戦いで少し傷を負い過ぎた。少し休ませてくれ……」
「俺もちょうど休憩したいと思ってたところだ。ここにはもう敵はいないからゆっくり休もうぜ」

 ヴォルフガングが死守していた地下室へ行く前に、2人はしばらくそこで休憩を取ることにした。
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