1 / 1
1
しおりを挟む
それは突然の事だった。
姉の乗った馬車が事故に合い、姉は帰らぬ人となってしまったのだ。
元気に出掛けて行った姉を見送ったのは1時間前の事。
私達家族は呆然とし、その事実を暫く受け入れる事が出来なかった。
そして、それはもう1人…姉の婚約者だったライバート様も…。
ライバート様は約束の時間になっても訪ねて来ない姉を心配し、我が家まで訪ねて来て訃報を知ったのだ。
姉とライバート様は、卒業後に結婚する予定だった。
マイルス侯爵家には私と姉の姉妹しか生まれなかった。
その為、コイランド侯爵家の三男であるライバート様が婿養子として入る事が決まっていた。
父とコイランド侯爵とは学友で今でも親交があり、物心付いた時から知っていた姉とライバート様は貴族としては珍しい恋愛結婚になる筈だった。
姉の葬儀が終わり、父はライバート様の事を心配した。
姉と結婚し、マイルス侯爵家当主となる為に執務を覚えてきたライバート様。
侯爵家とはいえ爵位を継がない三男が、この歳で貴族令嬢の婚約者を探すのは難しい。
いくら不慮の事故で婚約者を亡くしたとしても、1度は婚約していた身。
父は、ライバート様に、それなりの金額を払うとコイランド侯爵に申し出た。
しかしコイランド侯爵は「娘を亡くしたマイルスから金は受け取る事は出来ない。
落ち着いたらクリスティーナとライバートを婚約させるのはどうだろうか?」と言ったのだ。
父は、少し躊躇ったがライバートを次期当主として教えてきた。性格も申し分ない事から、ライバートが了承すれば…とライバート様に答えを託した。
彼は黙って俯いていた。
「少し考えさせて下さい。カトリーナの部屋をお借りしても良いですか?」
父が了承するとライバート様は姉の部屋へと向かった。
コイランド侯爵夫妻は帰って行き、父は執務室に、母と私は自室へと戻り、姉を想い泣いた。
1時間ほど経った頃、目を赤くしたライバート様が姉の部屋から出て来たと使用人が告げに来た。
私は涙を拭き、応接室へと向かう。
応接室に居る者皆、目を赤くし泣き腫らした顔をしていた。
「マイルス侯爵、私はクリスティーナ嬢との婚約を受け入れます。不束者ですが、これからもご指導宜しくお願い致します」
「ライバート、本当に良いのか?マイルス侯爵家にはカトリーヌとの思い出が多すぎるだろう?」
ライバート様は「大丈夫です」と言って笑ったけれど大丈夫な訳がない。
そんなに簡単に姉への想いを切り替えられる筈がないのだ。
それでも私と婚約するのは、これからの自分が置かれる身を考えてなのか?
まかり間違っても私に気持ちがあるとは思えない。
父はライバート様の返事を受け入れた。
こうして私とライバート様は1ヶ月後に婚約した。
ライバート様は執務の合間に休憩を取ると必ず姉の部屋に行っていた。
きっと姉を想い、心の中で会話をしているのだろう。
その行動を誰も止める事はしなかった。
父は、私達の結婚は私が学園を卒業したからと決めた。
私は来年、入学するので後3年半は結婚する事はない。
それまでに姉への想いから私へと向いてくれる様にと願っているのだ。
もし3年半たってもライバート様の気持ちが姉へのままだったら…父はどうするつもりなのかは聞けない。
私も姉への気持ちがある人と結婚して幸せになれるとは思えない。
マイルス侯爵家としても良い方向にいくとは思えない。
姉が亡くなり半年が過ぎた。
突如父は、姉の部屋を片付けると私達に告げた。
勿論、全てを捨てる訳ではない。
思い出として少し残し、売れる物は売って孤児院に寄付する。
「部屋をこのまま片付けなければ、前に進めない者がいる。皆の為にも片付けないといけない。それはきっとカトリーヌも望んでいる」と父は言った。
その言葉にライバート様は激怒した。
「なぜカトリーヌを追い出す様な事をするのですか!?彼女は、カトリーヌはこの屋敷で、部屋で笑っているのですよ!なぜ彼女を泣かせるのです!侯爵は、カトリーヌが嫌いなのですか!?」
余りの剣幕に私達は驚いたが、きっとライバート様には今も姉の思い出の姿が見えているのだろう。
姉の部屋にいるライバート様は、誰かと会話する様に楽しそうに話して笑っていた。
しかし、その姿を偶然見た父は驚き部屋を片付けると決めたのだ。
私達が思っていた以上にライバート様の心は壊れていたのだ。
父はライバート様に内緒でコイランド侯爵を呼んだ。
それは姉の部屋に居るライバート様を見せる為に…。
コイランド侯爵は、マイルス侯爵家から暴れるライバート様を無理矢理連れて帰ると直ぐに医師に診察させた。
ライバート様の心は姉の死を受け入れる事が出来なかった。
もう少し早く誰かが気が付いていれば…。
私が、ライバート様と寄り添っていれば…。
……いえ、同じだっただろう。
ライバート様の心は姉の死から壊れ始めていたのだ。
私とライバート様の婚約は白紙に戻り、ライバート様は領地で療養する事になった。
領地で暮らすライバート様は今でも姉と楽しそうに会話し笑っているという…。
END
*****
最後まで読んで頂き ありがとうございます。
姉の乗った馬車が事故に合い、姉は帰らぬ人となってしまったのだ。
元気に出掛けて行った姉を見送ったのは1時間前の事。
私達家族は呆然とし、その事実を暫く受け入れる事が出来なかった。
そして、それはもう1人…姉の婚約者だったライバート様も…。
ライバート様は約束の時間になっても訪ねて来ない姉を心配し、我が家まで訪ねて来て訃報を知ったのだ。
姉とライバート様は、卒業後に結婚する予定だった。
マイルス侯爵家には私と姉の姉妹しか生まれなかった。
その為、コイランド侯爵家の三男であるライバート様が婿養子として入る事が決まっていた。
父とコイランド侯爵とは学友で今でも親交があり、物心付いた時から知っていた姉とライバート様は貴族としては珍しい恋愛結婚になる筈だった。
姉の葬儀が終わり、父はライバート様の事を心配した。
姉と結婚し、マイルス侯爵家当主となる為に執務を覚えてきたライバート様。
侯爵家とはいえ爵位を継がない三男が、この歳で貴族令嬢の婚約者を探すのは難しい。
いくら不慮の事故で婚約者を亡くしたとしても、1度は婚約していた身。
父は、ライバート様に、それなりの金額を払うとコイランド侯爵に申し出た。
しかしコイランド侯爵は「娘を亡くしたマイルスから金は受け取る事は出来ない。
落ち着いたらクリスティーナとライバートを婚約させるのはどうだろうか?」と言ったのだ。
父は、少し躊躇ったがライバートを次期当主として教えてきた。性格も申し分ない事から、ライバートが了承すれば…とライバート様に答えを託した。
彼は黙って俯いていた。
「少し考えさせて下さい。カトリーナの部屋をお借りしても良いですか?」
父が了承するとライバート様は姉の部屋へと向かった。
コイランド侯爵夫妻は帰って行き、父は執務室に、母と私は自室へと戻り、姉を想い泣いた。
1時間ほど経った頃、目を赤くしたライバート様が姉の部屋から出て来たと使用人が告げに来た。
私は涙を拭き、応接室へと向かう。
応接室に居る者皆、目を赤くし泣き腫らした顔をしていた。
「マイルス侯爵、私はクリスティーナ嬢との婚約を受け入れます。不束者ですが、これからもご指導宜しくお願い致します」
「ライバート、本当に良いのか?マイルス侯爵家にはカトリーヌとの思い出が多すぎるだろう?」
ライバート様は「大丈夫です」と言って笑ったけれど大丈夫な訳がない。
そんなに簡単に姉への想いを切り替えられる筈がないのだ。
それでも私と婚約するのは、これからの自分が置かれる身を考えてなのか?
まかり間違っても私に気持ちがあるとは思えない。
父はライバート様の返事を受け入れた。
こうして私とライバート様は1ヶ月後に婚約した。
ライバート様は執務の合間に休憩を取ると必ず姉の部屋に行っていた。
きっと姉を想い、心の中で会話をしているのだろう。
その行動を誰も止める事はしなかった。
父は、私達の結婚は私が学園を卒業したからと決めた。
私は来年、入学するので後3年半は結婚する事はない。
それまでに姉への想いから私へと向いてくれる様にと願っているのだ。
もし3年半たってもライバート様の気持ちが姉へのままだったら…父はどうするつもりなのかは聞けない。
私も姉への気持ちがある人と結婚して幸せになれるとは思えない。
マイルス侯爵家としても良い方向にいくとは思えない。
姉が亡くなり半年が過ぎた。
突如父は、姉の部屋を片付けると私達に告げた。
勿論、全てを捨てる訳ではない。
思い出として少し残し、売れる物は売って孤児院に寄付する。
「部屋をこのまま片付けなければ、前に進めない者がいる。皆の為にも片付けないといけない。それはきっとカトリーヌも望んでいる」と父は言った。
その言葉にライバート様は激怒した。
「なぜカトリーヌを追い出す様な事をするのですか!?彼女は、カトリーヌはこの屋敷で、部屋で笑っているのですよ!なぜ彼女を泣かせるのです!侯爵は、カトリーヌが嫌いなのですか!?」
余りの剣幕に私達は驚いたが、きっとライバート様には今も姉の思い出の姿が見えているのだろう。
姉の部屋にいるライバート様は、誰かと会話する様に楽しそうに話して笑っていた。
しかし、その姿を偶然見た父は驚き部屋を片付けると決めたのだ。
私達が思っていた以上にライバート様の心は壊れていたのだ。
父はライバート様に内緒でコイランド侯爵を呼んだ。
それは姉の部屋に居るライバート様を見せる為に…。
コイランド侯爵は、マイルス侯爵家から暴れるライバート様を無理矢理連れて帰ると直ぐに医師に診察させた。
ライバート様の心は姉の死を受け入れる事が出来なかった。
もう少し早く誰かが気が付いていれば…。
私が、ライバート様と寄り添っていれば…。
……いえ、同じだっただろう。
ライバート様の心は姉の死から壊れ始めていたのだ。
私とライバート様の婚約は白紙に戻り、ライバート様は領地で療養する事になった。
領地で暮らすライバート様は今でも姉と楽しそうに会話し笑っているという…。
END
*****
最後まで読んで頂き ありがとうございます。
15
お気に入りに追加
41
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~
水無月 静琉
ファンタジー
神様のミスによって命を落とし、転生した茅野巧。様々なスキルを授かり異世界に送られると、そこは魔物が蠢く危険な森の中だった。タクミはその森で双子と思しき幼い男女の子供を発見し、アレン、エレナと名づけて保護する。格闘術で魔物を楽々倒す二人に驚きながらも、街に辿り着いたタクミは生計を立てるために冒険者ギルドに登録。アレンとエレナの成長を見守りながらの、のんびり冒険者生活がスタート!
***この度アルファポリス様から書籍化しました! 詳しくは近況ボードにて!
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
故郷、甲賀で騒動を起こし、国を追われるようにして出奔した
若き日の滝川一益と滝川義太夫、
尾張に流れ着いた二人は織田信長に会い、織田家の一員として
天下布武の一役を担う。二人をとりまく織田家の人々のそれぞれの思惑が
からみ、紆余曲折しながらも一益がたどり着く先はどこなのか。
一億円の花嫁
藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。
父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。
もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。
「きっと、素晴らしい旅になる」
ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが……
幸か不幸か!?
思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。
※エブリスタさまにて先行更新中
ひねくれ魔女のアンナベッラ、気まぐれで王都で店を開くが絶対にお礼を受け取らない。
糸加
恋愛
昔々、あるところにひねくれ魔女がいました。
魔女の名前はアンナベッラ。
だけど名前で呼ばれるのは最初だけ。
そのうちにみんな、ひねくれ魔女と呼ぶようになりました。
なぜなら。
「魔女アンナベッラ! 邪魔するぞ! 今日こそ、父の形見の指輪を見つけたお礼、受け取ってもらう!」
「うわぁ、また来たカルロさん。店閉めときゃよかった!」
アンナベッラは絶対に対価を受け取らなかったからです。
【完結】地味令嬢の願いが叶う刻
白雨 音
恋愛
男爵令嬢クラリスは、地味で平凡な娘だ。
幼い頃より、両親から溺愛される、美しい姉ディオールと後継ぎである弟フィリップを羨ましく思っていた。
家族から愛されたい、認められたいと努めるも、都合良く使われるだけで、
いつしか、「家を出て愛する人と家庭を持ちたい」と願うようになっていた。
ある夜、伯爵家のパーティに出席する事が認められたが、意地悪な姉に笑い者にされてしまう。
庭でパーティが終わるのを待つクラリスに、思い掛けず、素敵な出会いがあった。
レオナール=ヴェルレーヌ伯爵子息___一目で恋に落ちるも、分不相応と諦めるしか無かった。
だが、一月後、驚く事に彼の方からクラリスに縁談の打診が来た。
喜ぶクラリスだったが、姉は「自分の方が相応しい」と言い出して…
異世界恋愛:短編(全16話) ※魔法要素無し。
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆
本物の恋、見つけましたⅡ ~今の私は地味だけど素敵な彼に夢中です~
日之影ソラ
恋愛
本物の恋を見つけたエミリアは、ゆっくり時間をかけユートと心を通わていく。
そうして念願が叶い、ユートと相思相愛になることが出来た。
ユートからプロポーズされ浮かれるエミリアだったが、二人にはまだまだ超えなくてはならない壁がたくさんある。
身分の違い、生きてきた環境の違い、価値観の違い。
様々な違いを抱えながら、一歩ずつ幸せに向かって前進していく。
何があっても関係ありません!
私とユートの恋は本物だってことを証明してみせます!
『本物の恋、見つけました』の続編です。
二章から読んでも楽しめるようになっています。
兄を溺愛する母に捨てられたので私は家族を捨てる事にします!
ユウ
恋愛
幼い頃から兄を溺愛する母。
自由奔放で独身貴族を貫いていた兄がようやく結婚を決めた。
しかし、兄の結婚で全てが崩壊する事になった。
「今すぐこの邸から出て行ってくれる?遺産相続も放棄して」
「は?」
母の我儘に振り回され同居し世話をして来たのに理不尽な理由で邸から追い出されることになったマリーは自分勝手な母に愛想が尽きた。
「もう縁を切ろう」
「マリー」
家族は夫だけだと思い領地を離れることにしたそんな中。
義母から同居を願い出られることになり、マリー達は義母の元に身を寄せることになった。
対するマリーの母は念願の新生活と思いきや、思ったように進まず新たな嫁はびっくり箱のような人物で生活にも支障が起きた事でマリーを呼び戻そうとするも。
「無理ですわ。王都から領地まで遠すぎます」
都合の良い時だけ利用する母に愛情はない。
「お兄様にお任せします」
実母よりも大事にしてくれる義母と夫を優先しすることにしたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる