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35、プレゼント

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 ベティは翌日、約束の時間になるとロージーを連れてクライドの屋敷に馬車で向かった。
 馬車の中でベティはロージーに包みを一つ渡すと言った。
「ロージー、こちらは貴方へのプレゼントです」

「ベティ様? ありがとうございます、でも頂く理由がありません」
「私がプレゼントしたいだけですわ。気に入って下さると良いのですけれど」
 ロージーは不思議そうな顔をしてベティにお礼を言うと、馬車の席に包みを置いた。

「さあ、ベティ様。クライド様のお屋敷に着きますよ」
「そうですわね。ロージー」
 馬車がクライドの屋敷の前に付いた。

「荷物を忘れずに持ってきて下さいね、ロージー」
「はい、ベティ様」
 ロージーは二つの包みを持って馬車を降りた。

「こんにちは」
「これはベティ様。お待ちしておりました」
 門の前に立ってベティを待っていたのはメイド長だった。
「それでは、中にお入り下さい」

「ロージー。荷物を持って下さいな」
「はい、分かりました。ベティ様」
 ベティとロージーはメイド長の後について、応接室に移動した。

「こんにちは、ベティ様。今日はどのようなご用件でしょうか?」
「こんにちは、クライド様。本日はプレゼントをお持ちしたんです」
 ベティはそう言うと、ロージーに大きな包みをクライドに渡すように言った。

「これは?」
 クライドが受け取った大きな包みは想っていたより軽く、ふかふかしている。
「開けてみて下さいませ」
 ベティの言葉を受けて、クライドが包みを開けると中から出てきたのは深い青色のマフラーだった。

「これは立派なマフラーですね。格子模様が綺麗です」
 クライドは青いマフラーを首に巻いてみた。
「温かいです。良い毛糸を使っていますね」
「お気に召しましたか?」

「はい」
「良かった」
 ベティは、ホッと息をついてにっこりと笑った。

「ロージー、先ほどの包みを開けて見て下さいませ」
「はい、ベティ様」
 ロージーはもう一つの小さな包みを開けると、茶色のウサギのマフラーが出てきた。
「これは可愛らしいですね」
 クライドは笑った。

「はい、ロージー。これは貴方のマフラーです。つけてみて下さいな」
「……ありがとうございます」
 ロージーは気まずい表情でそれを首にかけた。
「ベティ様、ありがたいのですがクライド様と私がお揃いのマフラーというのは恐れ多いのでは?」

「あら、デザインが違いますし色も違いますわ。お揃いではありませんよ?」
 ベティの台詞を聞いて、クライドが苦笑して訊ねた。
「それで、ベティ様のマフラーは何処にあるんですか?」

「あら。私、自分の分は作っておりませんわ。うっかりしておりました」
「……ベティ様らしいですね」
 クライドはベティの手を取って、微笑むとちょっと待つように言った。

「実は先日、素敵な首飾りを見つけたんです。ベティ様の瞳と同じ緑のトルマリンです」
 執事が丁寧に運んできた首飾りは、明るい緑色のトルマリンがワンポイントになっているシンプルな物だった。

「お礼というわけではありませんが、どうぞお受け取り下さい」
 クライドはそう言って、ベティの首元にトルマリンのペンダントをかけた。
「まあ、何て素敵なペンダント! 綺麗ですね。でも、こんな高価な物いただくわけには参りません」
「いいえ。ベティ様に似合うと思って買ったのですから、是非使って下さい」
 クライドはにっこりと微笑んだ。

「先日の観劇のお礼にと思ってマフラーをお作りしたのに、また頂いてしまいましたわ」
 ベティは困った顔のままクライドを見つめた。
「それでは、こんどはベティ様の行きたい場所に連れて行って下さい」
「……わかりましたわ」
 ベティはクライドの頬にキスをすると、貰ったペンダントを付けたまま帰路についた。

「クライド様、青いマフラーがよく似合っていらっしゃいましたよ」
 ロージーは馬車の中でウサギのマフラーを外しながら言った。
「それなら良かったのですが。反対にプレゼントをいただくことになるとは思いませんでしたわ」
 ベティは指先でペンダントを撫でると、ため息をついた。

「クライド様をお連れする場所って何処が良いかしら」
 ベティは目を閉じて、静かに悩んでいた。
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