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24、紅葉狩り

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 秋の深まりを感じ始めた頃、ベティはクライドと紅葉を見に出かけることにした。
「ロージー、昼食の準備をお願いします」
「はい、ベティ様」

 ロージーはサンドウィッチやスコーン、紅茶を用意してバスケットに詰め込んだ。
「ちゃんと、三人分用意して下さいね」
 ベティは笑顔で言った。
「三人分ですか?」

 ロージーは不思議そうな表情で訊ねた。
「ええ。ロージーの分も用意をお願いします」
「……ありがとうございます」

 ロージーは昼食の準備を終えるとベティの着替えを手伝った。
 二人の準備が整った頃、玄関に馬車がやって来た。
「おはようございます、ベティ様、ロージーさん」

「おはようございます、クライド様。今日は楽しみですわね」
 ロージーは口をつぐんだまま、深くお辞儀をした。
「それでは、参りましょうか」
「はい」
 クライドはベティの手を取り、馬車に乗せた。
 ロージーもベティの後について、一緒に馬車に乗った。馬車は秋色の町を抜け、森に向かって走って行った。

 森に着くと、三人は馬車を降りた。
「まあ、綺麗な紅葉ですわね」
 馬車を降りるとベティは木々を見渡して言った。
「そうですね」

 クライドも微笑んでいる。
「足下にお気をつけ下さい。ベティ様。栗が落ちています」
 ロージーはそう言って、ベティの手を取った。

「栗を拾っていきませんこと? 沢山大きな栗が落ちていますわ」
 ベティはウキウキとした口調で言った。
「そうですね。とげには気をつけて下さいね、ベティ様」
 クライドはそう言って、ベティと手をつないだ。

 ロージーは大きなバスケットから、袋を取り出した。
「秋ですから、何か果物やきのこ、栗などを拾うかと思って持ってきました」
「あら、ロージーは気が利くのですね。ありがとう」
 ベティは袋を受け取ると、クライドと栗を拾い始めた。

「ロージーも手伝って下さいませ」
「はい、ベティ様」
 ロージーも栗を拾い、ベティから大きくなった袋を受け取った。

「そろそろ、昼食にしませんか? 栗ももう沢山拾いましたよ」
「そうですね、クライド様。あ、あの辺りが木陰になっていて気持ちよさそうですわ」
 そう言って、ベティは大きな木の下に移動した。
 ロージーは敷布を馬車から取り出し、ベティのそばに広げた。

「ロージー、ありがとう。それでは食事に致しましょう。今日はロージーが焼いて下さったスコーンもありますわ」
「それは良いですね」
 クライドはロージーに微笑みかけた。ロージーは俯いた。

「ところでベティ様、ロージーさん、先日はロージーさんの手を打ってしまって申し訳ありませんでした」
「いいえ。私が悪かったので当然のことだと思っています」
 ロージーはまっすぐにクライドを見つめた。

「ベティ様は優しいけれど、もう少し自分のために怒った方が良いと思います」
 クライドはロージーの注いだ紅茶をのみながら、優しい声で言った。
「まあ、そうですか?」

「ええ、カール様のことと言い、形見のブローチのことと言い、嘘をついてまで相手をかばうことはありません。相手がつけあがるだけです」
 ベティは困って、口をつぐんだ。

「ですが、それが貴方の魅力でもあるのです、ベティ様」
 クライドはそう言って、少し悲しそうな表情で微笑むと、ベティの頬にかかった髪を優しくなで上げた。

「ロージーさん、ベティ様のことをよろしくお願いしますよ。ベティ様は世間知らずなところが有りますから」
「そうですね」
 ロージーが珍しくはっきりと声を出した。

「泥棒のことをかばうなんて、お人好しにもほどがあります」
 クライドはロージーの言葉を聞いて、かるくロージーの頭を撫でた。
「貴方は賢い。そんな風に卑下せずに、素直になれば良いのに」
「せっかく素晴らしい景色を見ているんですから、もう少し楽しい話を致しませんか?」
 ベティはスコーンを手に取って、クライドとロージーに言った。

「そうですわね、たとえば今日拾った栗でお菓子を作る話とか」
 ベティは栗の入った袋を見ながら言った。
「栗のパウンドケーキやマロングラッセを作ったら楽しいと思いますわ。ね、ロージー」

「ベティ様がおっしゃるのなら、私は従います」
 ロージーは感情のこもっていない笑みを浮かべた。
「命令ではありませんよ? お願いです。一緒に楽しんで作りましょう?」
 ベティはロージーに優しく微笑みかけた。

「お菓子が出来たら、クライド様にもお持ち致しますわ」
「それは楽しみです」
 クライドはサンドウィッチを頬張りながら、ベティの瞳をじっと見つめた。
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