上 下
14 / 19

14.昼食

しおりを挟む
「ブラッド、先ほどの方は店長さんですか?」
「ああ、そうだな」
「やっぱりブラッドってすごいんですね」
 ブラッド様はゆっくり首を横に振った。

「父が時々連れてきてくれた場所だからな、ここは。その名残だ。私がどうこうという話ではない」
 ブラッド様はそう言ってシェリーを一口飲んだ。
「この店のソーセージが好きなんだ。君にも気に入ってもらえるといいが」
 ブラッド様が私の目を見つめて言った。私はそのオリーブ色の目に吸い込まれそうだと思ってドキドキした。

「サラダでございます」
 ウエイターが私たちそれぞれの前にサラダを置いた。
「いただきます」
「召し上がれ」
 ブラッド様はサラダを口に運ぶ私をじっと見ている。
 私は緊張しながらサラダを味わった。
「美味しい!」
 ブラッド様がにっこりと笑った。

「私もいただこう」
 ブラッド様もサラダを口に運び、シェリーを飲む。
「良いお天気だし、食事は美味しいし、こういうのも良いですね」
「気に入ってもらえてよかった」

 話していると、太くて黒いソーセージと長くて白いソーセージが乗った皿が出された。
「これも美味しそうですね」
「冷めないうちに食べよう」

 ナイフで切るとじゅわりと肉汁がにじんだ。一口食べる。
「!! 香草の香りが爽やかですね! お肉の味がしっかりしていて美味しい! 黒い方が濃厚な味ですね! 白い方は繊細な感じです!」
「そうだろう? どちらもそれぞれの良さがあるだろう?」
 ブラッド様は嬉しそうに頷いた。

 紅茶を飲みながらデザートを食べ、食事が終わった。
「ああ、本当に美味しかった」
「そうだな」
「会計をすませてこよう」
「では、私は先に馬車に戻りますね」

「まて、一人で移動するのは危険だ」
「ブラッドったら、心配し過ぎですよ」
 請求書にサインをするブラッド様を置いて、私は馬車に向かった。
 馬車のすぐ近くに立ってブラッド様を待っていると、若い男性の恰好をした人が近づいてきた。

「……ローラか?」
「はい?」
 私は休に名前を呼ばれて驚いて振り返った。
 若い男はその手にナイフを握っていた。
「ブラッド!!」
 私は叫んだ。ブラッド様が風のような速さで駆け寄ってくる。
「恨むなら、ブラッドを恨め!」
 男は私に向けてナイフを振り上げた。

「やめろ!」
 ブラッド様が男の手をつかんだ。ブラッド様はナイフをむしり取る様に奪い、男を組み伏せた。
「貴様、なぜローラを狙った!?」
 ブラッド様は男が目深にかぶっていた帽子をとり、その顔を見て、愕然とする。

「ベック公爵夫人……!?」
「くっ……。私も……殺せばいい!! 夫のように!!」
 ブラッド様は男性のふりをしていたベック公爵夫人の腕をつかんだまま立たせた。

「そうしよう……。ローラの命を狙うやつは生かしておけない」
 ブラッド様がナイフをつかんだ。私はブラッド様の右腕にしがみついて言った。
「駄目です、ブラッド! 私刑はいけません! 兵士に引き渡しましょう!」
「しかしローラ……」
「私は生きています。怪我もありません。この人を殺せば、ブラッドの手が汚れてしまいます」
「それくらい構わない」
「ブラッド!? それでは……私のためにやめてください!!」

 ブラッド様は渋々ナイフを捨てると、ベック公爵夫人の腕を縛り馬車にのせた。
「……王宮に向かってくれ」
 ブラッド様は馭者にそう言うと、私を馬車にのせ自分も乗った。

 三人で王宮に向かう。会話はない。
「復讐も出来ず、生き延びるなど……」

 ベック公爵夫人の頬に涙が伝っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら

夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。  それは極度の面食いということ。  そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。 「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ! だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」  朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい? 「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」  あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?  それをわたしにつける??  じょ、冗談ですよね──!?!?

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

甘すぎ旦那様の溺愛の理由(※ただし旦那様は、冷酷陛下です!?)

夕立悠理
恋愛
 伯爵令嬢ミレシアは、恐れ多すぎる婚約に震えていた。 父が結んできた婚約の相手は、なんと冷酷と謳われている隣国の皇帝陛下だったのだ。  何かやらかして、殺されてしまう未来しか見えない……。  不安に思いながらも、隣国へ嫁ぐミレシア。  そこで待っていたのは、麗しの冷酷皇帝陛下。  ぞっとするほど美しい顔で、彼はミレシアに言った。 「あなたをずっと待っていました」 「……え?」 「だって、下僕が主を待つのは当然でしょう?」  下僕。誰が、誰の。 「過去も未来も。永久に俺の主はあなただけ」 「!?!?!?!?!?!?」  そういって、本当にミレシアの前では冷酷どころか、甘すぎるふるまいをする皇帝ルクシナード。  果たして、ルクシナードがミレシアを溺愛する理由は――。

【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。

早稲 アカ
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。 宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。 彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。 加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。 果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?

虜囚の王女は言葉が通じぬ元敵国の騎士団長に嫁ぐ

あねもね
恋愛
グランテーレ国の第一王女、クリスタルは公に姿を見せないことで様々な噂が飛び交っていた。 その王女が和平のため、元敵国の騎士団長レイヴァンの元へ嫁ぐことになる。 敗戦国の宿命か、葬列かと見紛うくらいの重々しさの中、民に見守られながら到着した先は、言葉が通じない国だった。 言葉と文化、思いの違いで互いに戸惑いながらも交流を深めていく。

婚姻初日、「好きになることはない」と宣言された公爵家の姫は、英雄騎士の夫を翻弄する~夫は家庭内で私を見つめていますが~

扇 レンナ
恋愛
公爵令嬢のローゼリーンは1年前の戦にて、英雄となった騎士バーグフリートの元に嫁ぐこととなる。それは、彼が褒賞としてローゼリーンを望んだからだ。 公爵令嬢である以上に国王の姪っ子という立場を持つローゼリーンは、母譲りの美貌から『宝石姫』と呼ばれている。 はっきりと言って、全く釣り合わない結婚だ。それでも、王家の血を引く者として、ローゼリーンはバーグフリートの元に嫁ぐことに。 しかし、婚姻初日。晩餐の際に彼が告げたのは、予想もしていない言葉だった。 拗らせストーカータイプの英雄騎士(26)×『宝石姫』と名高い公爵令嬢(21)のすれ違いラブコメ。 ▼掲載先→アルファポリス、小説家になろう、エブリスタ

ヤンデレお兄様から、逃げられません!

夕立悠理
恋愛
──あなたも、私を愛していなかったくせに。 エルシーは、10歳のとき、木から落ちて前世の記憶を思い出した。どうやら、今世のエルシーは家族に全く愛されていないらしい。 それならそれで、魔法も剣もあるのだし、好きに生きよう。それなのに、エルシーが記憶を取り戻してから、義兄のクロードの様子がおかしい……?  ヤンデレな兄×少しだけ活発な妹

処理中です...