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2.ブラッド様の愛が重すぎる

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「ローラ、ブラッド様から食事会に呼ばれたぞ。家族でいらしてください、とのことだ」
 お父様が夕食の時、私に言った。
「婚約前の顔合わせですね」
「ああ、そうだ」

 話を聞いていたお母さまが声を上げた。
「ローラにドレスを買ってあげないといけないわね。食事会はいつの予定ですか、あなた?」
「二週間後の週末だ」

 二週間後。

 ブラッド様に、ブラッド様の家族に、私は気に入ってもらえるかしら?
 緊張で食事の味がしなくなった。
「まあ、そんなに気構えすることはないよ。ブラッド様は厳しいけれど、優しい方だから」
「分かりました、お父様」

 私は食事を終えると、部屋に戻りブラッド様の肖像画を取り出した。
「……どんな声で話すのかしら?」
 しばらく肖像画のブラッド様を見つめていたが、だんだん眠くなった。肖像画をしまってベッドに入る。
 食事会が上手くいきますように、と願って私は目を閉じた。

 食事会の日は、曇り空だった。

 私達の乗った馬車がブラッド様の邸宅の門に着くと、門が開きブラッド様が出迎えてくれた。馬車を降りるとブラッド様が私を見つめている。
「ローラ! ……いや、ローラ嬢。よく来てくださいました」
「ブラッド様?」

 ブラッド様は私の手を取って指先に口づけをした。そして、熱っぽい目で私を見つめたまま、私の手を握り「さあ、こちらへ」と言って食堂へと案内してくれた。つないだ手はずっと離さずに。……え? あいさつの後って、手を離さないものだったかしら? 私はなんだか恥ずかしくなって手を引っ込めると、ブラッド様はとても悲しそうな目で私を見つめた。

「ローラ嬢、ずいぶん美しくなられた。もちろん、あの頃も美しかったが」
「あの頃?」
「私が騎士見習だったころです」
「え? ああ! やっぱりあの時の!」
「そうです! ……これが運命と言わずにして、なにを運命と呼べばいいのでしょうね」
 ブラッド様の目に光るものが見えた気がした。

 やっぱり、あのときの若者が今は騎士団長になったのね。
「良かった」
 私はおもわず声に出してしまった。
「ローラ嬢も婚約相手が私で良かったと?」
 目を丸くするブラッド様を見て、私ははにかむように笑った。そういうつもりで言ったわけじゃないんだけど、否定することでもないので私は小さく頷いた。騎士団長なんていうから、もっと怖い人かと思っていたけど、少しイメージとは違うみたい。

その一方で、見上げるほどの高い身長にがっしりとした体つきや鋭い視線は、さすが騎士団長だと思った。黒い髪に褐色の肌と、緑色の目の対比がとても美しい。ブラッド様に見とれていると、こほん、と咳払いが聞こえた。

「ブラッド、私達にも挨拶をさせてくれないか?」
 ブラッド様の後ろに立っていた男性が会話に加わった。ブラッド様のお父様かしら?
「結婚を避けていたあなたが、こんなに喜ぶとは思っていなかったわ」
 ブラッド様のお母様らしきかたも話しかけてくれた。

「皆さま、ようこそいらっしゃいました。私はダリル・アビントンです。ブラッドの父です」
「おまねきありがとうございます。アダム・アクトンです。こちらは妻のチェルシーと娘のローラです」
 母が左足を引きお辞儀をした。私もそれに倣う。

「はじめまして。よろしくお願いいたします」
「よろしくお願いいたします」
「よろしくお願いします。さあ、お食事にいたしましょう」

 父たちがダリル子爵のあとに続いて歩く。私もついて行こうとしたら、ブラッド様が歩み寄ってきて腕を出してくれた。
「一緒に行きましょう」
「……はい」
私は緊張しながらも、その腕に手を置いた。

食堂に着くと、ブラッド様は自分の隣に私を連れていき、椅子を引いて座らせた。

 あれ? 会食の席順って家同士で固まって向かい合うんじゃなかったかしら?
 疑問に思いながらも座って周りを見てみる。あ、やっぱりお父様とお母様は向かい側に並んで座っている。不思議に思ってブラッド様を見つめると、甘い笑顔で私の目を見て頷いた。

え? 疑問に思う私が変なのかしら?

 ブラッド様の右隣には、ブラッド様のご両親が座っている。やっぱり三人同士で向かい合った方が自然な気がするんだけど……。
「ブラッド様、私も向こう側に座ったほうが良いのではないでしょうか?」
「私の隣は……嫌か?」
 そういう話ではないのだけれど、世界が終わりそうな顔で見つめられると何も言えない。

「……いえ、そんなことはありません」
「そうか。良かった」
 緊張が解けたらしい。ブラッド様の笑顔が眩しかった。私が隣に座っているだけで、こんなにうれしそうな顔をするの? え? 私、挨拶以外に何かしたかしたかしら?

「ブラッド、ローラ様が困っていますよ」
 ブラッド様のお母様が見かねて注意してくださった。
「困っているのか?」

 再び悲しそうな切なそうな表情で、ブラッド様は私の両手を握りしめると、じっと私の目を見つめた。「だから、そのしぐさが私を困らせているの」と言うわけにもいかず、私はこう答えることしかできない。

「いいえ、ちっとも困っていません」
 パッとブラッド様の表情が明るくなる。大きな体に似合わない可愛らしさに私の顔が赤らんだ。

「良かった。君が困っているなら、私はなんでもする」
 本当に何でもしそうで怖い。
「……ブラッド様、大げさですよ」
 私は笑ってごまかした。
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