上 下
22 / 23

人間界

しおりを挟む
「みのり様、ちょっとお待ちください」
みのりが王宮を出て少しすると兵士が駆け寄ってきた。
「なんでしょうか?」
「魔王様が直接お話があるとのことで」
みのりは慌てた。
「どんな要件でしょうか?」
「さあ、私はただみのり様を連れてくるよう言われただけですので」
兵士は申し訳なさそうにみのりにそう言うと、みのりはきびすを返した。

王宮はやはり大きい。
一人で入るのは気が引ける。
兵士の案内についていくと、魔王の部屋に再び通された。

「みのり、帰り際に悪かったな」
「いいえ、魔王様」
「レミのことなんだが、少々みのりになつきすぎではないか?」
「そう言われましても、私は特に何もしておりません」
魔王の娘に手を出すなんて、おかっなくてたまらない。
魔王は笑いながらグラスを傾けた。

「レミはみのりと結婚したいと言ってるぞ」
「はい?」
思わず声が裏返る。
「まだレミは若い。結婚の意味がわかっていない」
みのりも頷いた。レミはまだ子供だ。
「みのりは人間界に戻りたいか?」
「はい、戻りたいです」
「レミが一度人間界を見てみたいと言っていてな」
「はい」

魔王がため息をもらす。
「レミは言うことを聞かないのだ、わるいが一日人間界を案内してやってくれないか」
「え、人間界に帰れるんですか?」
「一日だけだ」
「はい」
みのりはそう返事をすると微妙な表情を浮かべた。人間界からみたら極上のゴスロリ美少女をつれて観光することになる。ちょっと緊張する。でも、自分の店の状態も気になる。
何より、魔王の依頼を断ることなど出来ない。みのりは覚悟を決めた。

「それでは明日、レミお嬢様を人間界にご案内します」
「そうか、それでは明日また王宮に来るように」
みのりと魔王はそれだけ話すと、みのりはまた王宮を後にした。

「レミと人間界の見学か。ドキドキするな」
みのりは家へ帰ると、明日の用意をした。
ジーンズにTシャツ。ゴスロリとは合わないけどしょうがない。
「明日は大変だぞ」
みのりはベッドに入ると一人で呟いた。

翌朝、みのりはジーパンにTシャツ姿になると王宮に向かった。
王宮に着くと、そこにはいつもより抑えめの服装をしたレミといつも通りの魔王がいた。
「みのり、人間界に連れて行ってくれるんでしょ?」
レミは目を輝かせている。
みのりは頷いた。
「ああ、だけど人間界は危ないところでもあるから、僕の言うことはきちんと聞いてね」
レミは大きく頷いた。
「魔王様、レミ様をお連れしますが、よろしいでしょうか」
「レミが言うのだから仕方がない」
魔王は渋々と言った表情でみのりに言った。

魔王は宮殿の広間に移動すると、魔方陣を書いた。
魔方陣が青く光ると、魔王はみのりに言った。
「さあ、その魔方陣に入るが良い。人間界につくはずだ」
「わかりました」
みのりはレミの手を取ると魔方陣の中に入った。
すると、魔方陣はまばゆい光を放って、みのりたちの姿が消えた。
「無事かえってくるんだぞ」
魔王は心配そうに見送った。

みのりは、見慣れた工房の前にいた。
それはみのりの人間界のお店だった。
「みのりさん、どうしてたんですか!」
工房から一人の男性が飛び出してきた。
髪は刈り込んでおり、清潔感のある職人さんだった。

「川島さん、お店は大丈夫でしたか?」
「はい、なんとか。みのりさんが居なくなって半月、大変でしたよ」
川島はそう答えると、みのりの後ろで小さくなっている少女を見つけた。
「あれ、その子は?」

「レミさんという、親戚の子だ。東京を今日案内することになっている」
「そうなんですか? お店に戻ったんじゃないんですね」
「川島さん、私は諸事情でしばらくお店に出られなくなったんです。後のことは川島さんに任せても大丈夫ですか?」
「みのりさんがそう言うのなら、なにか深い事情があるんですね」
「川島さん初めまして、レミと申します」
レミはみのりと川島の会話が終わると、挨拶をした。
あまりの可愛さに川島は見惚れている。

「それじゃ、車に気をつけてレミさん」
「はい」
レミはそう答えるとみのりと手をつないで歩き始めた。

「車って、色々走ってるのね。いっぱい走っててちょっと怖いわ」
「じゃあ、公園にいこうか」
みのりはレミを大きな公園に連れて行った。
そこは売店や大きな池とアヒルのボートなど、ちょっとしたデートコースだった。

「私、あれ食べてみたい」
レミがそう言ったのは、カップルたちが食べているクレープだった。
「レミは何が食べたい?」
「チョコレートはみのりに作ってもらえるからそれ以外がいいな」
「それじゃ、イチゴと生クリームなんかはどうだい?」
「それにするわ」

レミはクレープの作り方を不思議そうに眺めている。
「あっという間に丸くなるのね。魔法みたい」
そう言いながら生地が薄くもっちりと焼けていくのを楽しそうに見ていた。
みのりはクルミとキャラメルのクレープを頼んだ。
「一口ちょうだい」
レミが言う。
みのりはまだ囓っていないクレープをレミに渡す。
「美味しい。クルミってサクサクしてて香ばしいのね」
レミは上機嫌だ。
「イチゴは甘酸っぱいのね。赤い色が可愛いわ」
レミはほっぺに生クリームをつけたまま、イチゴのクレープを一生懸命食べている。

「次はあれにのってみたい」
やはりアヒルのボートに目をつけた。
みのりは少し恥ずかしかったが、レミの注文に従った。
アヒルのボートは思ったより安定していて、池からの風も気持ちよかった。
「みのり、人間界って楽しいのね」
「そう言ってもらえれば嬉しいね」
みのりはそう言いながらアヒルの足こぎボートをこいだ。

ボートから降りるとお昼になっていた。
みのりはお昼はどうしようかと悩んでいると、レミが言った。
「私、ラーメンってものが食べてみたいの。本で一度読んだわ」
みのりは、レミがどんな本を読んだのか疑問を持った。

が、評判の高い近くの通りのラーメン屋さんに並ぶことにした。
「お嬢ちゃん可愛いね」
しらないおじさんがレミに声をかける。
「ありがとう」
レミがお辞儀をするとみのりが割って入った。
「前、空いてますよ」
みのりはレミの可愛さに改めて危機感を覚えていた。

ラーメンは美味しかった。煮干し味のだし汁がレミの気に入ったらしい。
「もっとたべたいけどお腹がパンパン」
レミは名残惜しそうにお店を出た。
「みのり、人間界は美味しいものがいっぱいあるのね」
「ああ、そうだね」
みのりは満足げなレミをみて、頭を軽くなでた。

そこで、足下が輝いた。
魔方陣だ。
魔界に帰る時間だと言うことだ。
レミは残念そうに言った。
「もっと遊びたかったのに」
「また来ればいいよ」
レミとみのりは人間界から姿を消した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

私は何人とヤれば解放されるんですか?

ヘロディア
恋愛
初恋の人を探して貴族に仕えることを選んだ主人公。しかし、彼女に与えられた仕事とは、貴族たちの夜中の相手だった…

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

処理中です...