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16少女クララ

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裏公演の為に団の小ホールを使う。
自分専用の楽屋の鏡前で化粧を直していると葛西が入って来た。体調はどうかと問われても、別にと答えるしかない。早く出て行ってというところだ。
「校長先生に許可取ってるんですか?この会場」と鏡越しに一瞥を投げて葛西に訊いた。
「まあね。今頃クルーズ船でのんびりしてるんじゃないか。地中海周るんだとさ。当分休暇だって。気にすることない」
「はあ」
矢張りというのかーーーー西園寺校長だってこの『裏公演』を黙認しているのだ。何かしらのメリットが転がり込んでくるに違いない。
「聞きました。葛西先生と鞠で組んで踊るって。知らなかったわ。直ぐ三組後に私たちの出番で大丈夫なんですか?」
問題ないと鼻先で笑った。
バカにしたわけない。でも順番が逆の方が良かったと正直思う。
相手役が疲れが残って技に切れがなくなったら冗談じゃない。もう四十手前だし。日頃のバーレッスンも中途だし。
「それよか女性ダンサーには驚かされるな。二十過ぎがまるで『少女』に変身だな」と、こちらを上から下まで舐める眼つき。ゾットする。
「メイクもあるけど。演じないと。当たり前です。変身するなんて。ドロッセルマイヤーのメイクいいですね。先生の真っ黒な内面がそのまま出てるわ。きゃっ!」
もう少しで葛西の手が私の縦ロールにした髪に触れるような動きを見せたので思わず飛びのいた。

そこへ大きな籠を持ったスタッフがノックも無しに入って来た
「冷たいレモネードです。それとお腹に少し入れてください」ピンク色の瓶と
セロファンに包まれたハムとチーズ、レタスのサンドイッチを背後のテーブルに置く。
その子と入れ違いに葛西は出て行ってくれた。
「毎年こんなもの配ってるの?」
「はい。パンは残す人が殆どですがスポンサーからの差し入れなんで」
「そう。ご苦労様。あなたもバレエやってるのね?」
「え?」
「だって。足がターンアウトしてるし。姿勢がバレエのそれだわ」
「いいえ。子供の頃に少しだけ齧って止めました。雑用係です」
「そう。勿体ないわね。スタイルいいのに」
少女は真っ赤になって、それじゃと頭を深くさげて出て行った。

出番はまだまだ。でもここで固形物を食べたらバレリーナじゃないわとレモネードのキャップを外してちょっと飲んだ。
うう。
外国製?なんか添加物の味って感じ。防腐剤?ワインも国産の方が美味しい。本物の高級ワインは飲んだことないし。


楽屋にある小さなモニター画面でステージの様子が分かる。

地味なペザントねえ。
この晴れ舞台で衣装も田舎くさい村娘のバリエーション踊ってるわ。
まあ。味があるかな。テクニックも。ずっとポアントで崩れないし。地面に足ついている感があまりない。身体の引き上げができている。
同じ村娘ならジゼルにすればいいのに。
ゆったりとした椅子にもたれピンクのレモネードを飲みながら批評する。
ふうん。結構いい線いってるわこの子。

次は樹里だ。

舞台袖にいたら気が散るだろうしここで見守ることにした。

うん?
遅いな。
何かあった?

場内に棄権しますのアナウンスが流れて驚く。
怪我でもしたのかしら。病気?
ああ。
でも今は他の人のこと構ってられない。
その日のコンディション総てはダンサーの責任なのだ。

急遽プログラムが変更になった。
鞠と葛西のパ・ドゥ・ドウが始まる。
もう舞台袖に行っていよう。
ウォームアップのバーもストレッチも十分だ。

ミネラルウォーターやタオル。アイシングスプレーなど細々した荷物をエナメルのトートバックに詰め込む。
トウシューズを履いた足にナイロンで中はもこもこの靴を履く。トウシューズのままで廊下は歩けない。
まさに出ようとした時、モニターからつんざくような悲鳴が上がった。

何!?

ーーーー落ちた!!
ーーーーなんで!どうして!!
ーーーー救急車呼んで!!
うそよぉ。うそ!

廊下を急いだ。
すれ違った青い顔のスタッフをつかまえる。
「何があったの?」
「奈落ですよ。空きっぱなし、事故です。故意に開けたのかも。誰かが。あり得ないこんなの」
「落ちたのね?誰?」
「葛西先生と下村さんですわ」

驚きは直ぐに去って自分の不運を考えた。
どうしよう!

騒然とした裏門から救急車は入って来て担架に乗せられた鞠の姿が見えた。
アイボリーに金糸のチュチュを着たままぐったりと仰向けている。
口もとにプラスチックの酸素マスクをつけてた。
額から血が流れて顔面は蒼白だった。

だらりと意思のない人形みたいだ。
もう死んでいるようなーーーまさかーー裏公演で鞠に仕返ししてやるわと猫のように眼を光らせていた樹里の顔が浮かんで消えた。




兎に角、西園寺翔を探した。

向こうもそうだった。
「どうしたらいいの?今までの練習が全部流れたわ。今日はもう公演は打ち切りね」
「そんな事させない。最期の大トリは君だ。なんとしても舞台にあがってもらうよ。セリは直した。心配ないから。既定のクララと王子のパ・ドゥ・ドウはどうかい?
それなら一度合わせるくらいで出来るよ。あと三十分は間が空くから。ここのバックヤードで振りをなぞろう。なんとかなる!泣いても何も変わらないよ」

翔の熱心な言葉をすっかり信じてしまった。
私だって今夜こそはと気負っていた。

いくら振りをなぞってシンプルなリフトだけに構成を変えたとはいえ殆どぶっつけ本番。
これまでで一番緊張した。

そう。
無我夢中で踊った。
始めのポーズからおかしいと気づいた。
自分の躰が自分のものでないような変な感覚。
難しいアチチュード・ターンをトリプルで決めて続け様に連続のフェッテ。
嫌だわ。
信じられない。
熱い。
躰の芯が熱い。
あそこが疼く。
何で!?
必死で技を追いかけるのが精一杯。
あ。音に乗れなかった!
また!
緊張が最高潮になってオカシクなってしまったんだわ。
もう今すぐにでも自分で慰めるか誰かに弄ってもらいたい。
いやらしいにも程がある。
女の性欲なんて、
髪には大きな水色のリボンをして膨らんだシゴ袖のシュミーズドレスのクララには一番遠い世界だ。
どうしよう。

いよいよくるみ割り人形から王子に変身した翔と手をとって踊りだす。
もう手を触られるのもダメ!
王子の手がクララの白く細い腕を絶妙に愛撫する。
ーーーーダメよ!翔!
翔はあろうことか、左手は太腿、右手は玲於奈の股間を掴んでリフトした。
ーーーーうっ、んん!
やだ。やだ。
自分で解かる。
ファンデーションも衣装のズロースも濡れた蜜が染みになっている。
翔の手にも付いたはずだわ。
極度の緊張で本当に変態になったのかしら?マゾとか?
余計な事を考えるから、音を取るのがやっとで技がいまいちになる。


頭がくらくらして眩暈ーーーーーあとは無の世界。
途中で倒れてしまった。
『床に手を着いたら負けよ!』ママの怒号を聞いた気がした。


音楽が続いている。
花のワルツ?

え?!
「きゃあああっ!いやああ」
逃れようとしても躰が重たくて動かない。縛られているわけでもない。動けない。
その私の膝を立てた両脚を広げた股間に翔の頭があった。
そ、そこはーーーいやっ
うそ。
翔の舌が花芯を口に含んで吸い上げたり舌に転がしたりする。それと同時に指は花襞の奥に入れたり出したりを繰り返す。
「だめええーーーなに。なにしてるの?いやあああ。そんなところーーーやめてええ」
それも一番弱いところを狙って。
襞を広げてそこを唇できつく吸われると更に声が大きくなってしまう。
弾ける快感に自分が知らず知らず腰をくねらせているのに気づかなかった。
「可愛いクララ。君はもう大人だね」
翔の口が相変わらず秘所を責めつづけるが両手が伸びてきて衣装の上から胸を掴んだ。
あっ!
もうそれだけで乳首がコリコリに尖っているのが判った。
めくるめく快感の渦にのまれて翔の愛撫を拒めない。声を挙げるのが精一杯でどうしても体は動かないのだ。
ーーーーもしかして。あの時のレモネードに何か入ってたの??
もう遅い。
そこまで思考が回って来てはじめてここはどこかしらと思った。ベッドの上であることは確かだ。
翔の部屋?
それともどこかのホテルかしら。
でもそれならなんでまだ衣装を着たままなの?

突然それまで聞こえていなかった、わっという歓声が玲於奈の耳に飛び込んできた。
大きな拍手喝采。

うそ。
舞台?
余りの衝撃に一気に悦楽の世界は消し飛んだ。

玲於奈は舞台上に設置されたロココ調のベッドの上だったのだ。
彼女の痴態を何もかも観客は観ていた。

「酷い!!やめて!やめてっ!!」玲於奈は怒鳴った。股間から顔をあげた翔は愛液で濡らした唇を歪ませにっこり微笑んで見せた。
信じられない。
「は、早く幕を、幕を降ろして頂戴、翔」
「それはもう少し待ってくれないか?ここには沢山の君のファンがいるんだ。ファンサービスをしなくてはね」
「何?それ?!」

翔が視界から消えると知らない男たちが現れた。
舞台にいた燕尾服達だ。
ーーーーまさかーーーーー

玲於奈のつんざく悲鳴は直ぐに消えた。その大きく開けた唇には昂った男の肉棒が押し込まれた。
思わず噛んでしまう。バシンと頬を叩かれる。
「馬鹿!噛む奴がいるか」
恐怖で体が急に冷えてゆく。
逃れられない。
ほんの少し藻掻くのが精一杯。
あっというまに細い脚は八の字に広げられ更に高々と上に持ち上げられる。
濡れて膨らんだ秘所がそのまま男の目の前と玲於奈の視界に入る位置で止まった。
「すっかり用意はいいな」
「ああ。すっかりほぐれてる」
ベルトを外してズボンを脱いだ赤ら顔の中年男がにやりと笑った。
「やめて!おねがい。ゆるして」
自分の肉棒を自分の手でしごきながら「そんな事言われたら増々固く大きくなったぜ」
ずぶずぶと玲於奈の襞奥へ猛ったモノが挿入され根本まで呑み込んだ。
次の瞬間には激しい抜き差しが始まった。

いやいやと泣き叫ぶクララを
男たちは次々代る代る犯し続けた。

足首を左右に180度以上開く事も出来た。
前後にも。
柔らかいバレリーナの躰で様々な体位を試し愉しむ男達の感嘆の声が飛び交った。



東雲の空。
モーニングムーンに点々と黒い蝙蝠が飛んで行った。

どんなにされても抵抗する気力も無くなった玲於奈の唇は乾き涎が伝った。
水色のリボンだけが大きく揺れていた。

白濁にまみれた玲於奈は大勢のパトロンを得た。

日も高くなって、
思いを遂げて満足した客達は帰っていった。
よろよろと起き上がった玲於奈はズタズタの衣装を着ていた。
指先でスカートを摘んで広げた。男達の体液にまみれて臭い。
お洗濯しなくちゃ……

ふと視線を感じて目をあげると樹里が少し離れた暗がりに立っていた。
「なんで泣いてるの?樹里」
駆け寄って玲於奈をぎゅっと抱きしめる。
「あなた!」
「どうして踊らなかったの?」
「もうここは辞めるのよ。実家に帰る。決めたの。バレエの道は諦める」
「そんなーーー」
「最期、鞠にしっぺ返し出来てもう満足」
「そう。あのね。携帯持ってる?」
「ええ」
ハンドバックからスマホを取り出した。
「あ。あああ。あれ?番号わかんないや」
樹里は涙を指で拭いながら「そりゃ。普通憶えてないでしょ。自分の携帯にあるでしょ」
「ここで待ってて。あんたボロ雑巾みたいだから。休んで。バックは楽屋?舞台袖?」
「うん。楽屋かな」
踵を返そうとした樹里を玲於奈は引き留めた。
「待って。ここに一人にしないで」
「うん。一緒に行こうか?」

肩を貸して玲於奈を楽屋まで連れて来たものの楽屋は綺麗に掃除されていて荷物は廊下に並んでいた。
お守りのピンクのウサギも廊下に転んでいた。
「酷いね。ほら。バックにあったよ。スマホ」

樹里の耳にも届いていた。
何回かけても玲於奈の電話先は『現在使われておりません』と機械音を繰り返すだけだ。
あれ?あれれ?
「変だな。ママ。喜ぶと思って。知らせなくちゃでしょ?
レオちゃん、もう、お金持ちになったからママきっと迎えに来るんだもんね」

たどたどしい子供子供した喋り方の玲於奈は本当にクララほどの少女に返った様子だった。
樹里はその場にへたり込んで両手で顔を覆って泣いた。


  おわり

















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